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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14136号 判決 1990年10月25日

原告 株式会社第一勧銀ハウジング・センター

右代表者代表取締役 後藤寛

右訴訟代理人弁護士 尾﨑昭夫

額田洋一

川上泰三

右訴訟復代理人弁護士 新保義隆

被告 廣田豊

坂井正士

右訴訟代理人弁護士 森本紘章

右被告両名補助参加人 小郷建設株式会社

右代表者代表取締役 小郷利夫

右被告両名補助参加人 株式会社東京企画

右代表者代表取締役 小郷栄子

右補助参加人両名訴訟代理人弁護士 小山晴樹

渡辺実

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

一  原告の主張するところによれば、原告の被告廣田に対する貸金返還請求権が昭和五九年八月七日に弁済期が到来しているところ、本件訴えが平成元年一〇月二五日に提起されていること及び被告らが消滅時効を援用したことは当裁判所に顕著である。

そして、弁論の全趣旨によれば原告が本件金銭消費貸借契約当時住宅ローン貸付を業とする株式会社であつたことが認められるから、右貸金請求請求権は、商行為により生じたものとして、時効の中断が認められない限り、その余の点について判断するまでもなく、その権利を行使することのできる時(昭和五九年八月八日)から五年の経過により時効消滅しているものと言わざるを得ない。

二  原告は、時効中断の主張をしているので、この点について、以下判断する。

1  原告の被告廣田に対する貸金返還債務につき訴外会社が連帯保証をしていること、補助参加人所有不動産に右保証債務等を被担保債権とする根抵当権設定登記がされていたところ、原告が昭和五九年一〇月三〇日右不動産について競売の申立てをしたことは当事者間に争いがない。

2  右競売申立てが民法一五四条所定の「差押」に解釈上該当することは明らかであり、右差押えの通知が債務者たる訴外会社に通知されれば(民事執行法一八八条、四五条二項参照)、同人に対する関係で時効中断の効力が生じることも当然である(民法一五五条)。しかし、本件貸付債務の主債務者たる被告廣田及びその連帯保証人たる被告坂井には差押えの通知はなされないから、被告らとの関係で、前記競売申立てが「差押」に当たるものと解することはできない。

3  ところで、民法は、本件貸付債務の連帯保証人たる訴外会社に対する「履行ノ請求」が主債務者たる被告廣田にも効力を有する旨定めているから(四五八条、四三四条)、前記競売による差押えの通知が同条に定める「履行ノ請求」に該当すると解することはできるとすれば、主債務者たる被告廣田に対しても履行の請求をしたことになると解することができる。そして、差押えの通知は、債務名義に係る債務又は被担保債務を任意弁済しないときは、差押えの実行をする旨の意思が表されているから、本件貸付債務の連帯保証人たる訴外会社に対する履行の催告としての面があることは否定できない。

しかし、時効中断としての「催告」は、所定の期間内に裁判上の請求、差押え、仮差押え等の時効中断事由となる措置を採らない限り中断の効力を生じないものと定められているところ、原告が被告廣田に対してそのような措置を採つたことを認めることのできる証拠はない。したがつて、催告による時効中断があつたと認めることはできない。原告は、競売事件が継続している限り催告が継続している旨主張する如くであるが、民法は、「請求」、「催告」、「差押え」を別の法概念として使用しており、「差押え」を「催告」ないし「請求」と同視することはできない。

確かに、本件では、競売の実行により本件貸付債務の連帯保証人たる訴外会社に対して時効中断の効力が生じているのに主債務者たる被告廣田に対して時効中断の効力が生じないことは均衡を失する点も否定できないが、民法は、主債務者の債務と連帯保証人の債務とが独立して時効になることを前提として定めているところ(四五七条一項、四五七条、四三九条)、連帯保証人に対する履行の請求は主債務者に対する時効の中断の効力を有するものの、それ以外の時効中断は効力を否定する趣旨であると解すべきであるので、原告の主張は理由がない。

4  してみると、原告の被告廣田に対する請求権について、時効中断があつたと認めることができないので、右請求権は時効により消滅したものと認めるほかない。

そして、被告廣田に対する請求が時効により消滅する以上、連帯保証人である被告坂井に対する請求も時効により消滅したものと認めるほかない。

三  よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告らに対する請求は理由がないのでこれを棄却する

(裁判官 田中康久)

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