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札幌高等裁判所函館支部 昭和30年(ラ)9号 決定 1956年5月08日

抗告人 佐藤フコ 佐藤健策 佐藤麗子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、「抗告人麗子は、須藤重太郎、内山力蔵の媒酌で、昭和三〇年二月七日三上健一郎と婚約し、同日結婚式を挙げて同棲したところ、同年三月一八日同人は、後記の事情により婚約を解消する旨の意思を表明し、抗告人麗子を実家に立ち帰らしめたが、三上健一郎の右婚約破棄は理由がないので、抗告人麗子は、昭和三〇年六月六日三上健一郎とその両親である三上長健およびヨシを共同被告として、青森地方裁判所弘前支部に慰藉料ならびに抗告人麗子が持参した調度品の引渡を求める旨の訴を提起したところ、三上健一郎は、抗告人麗子とその母佐藤フコ、兄健策および須藤重太郎を共同被告として、昭和三〇年六月二八日函館地方裁判所に三上健一郎が該婚約を破棄せざるを得なかつたのは、抗告人らが、抗告人麗子をその妹洋子であるように偽つて婚約した事情に因るものであつて、その責任は、かえつて抗告人らにあるものとして損害賠償請求の訴を提起した。しかし三上健一郎提起の訴訟は、もつぱら抗告人麗子が提起した訴訟の追行をけん制する目的に出たものであつて、抗告人麗子ならびに三上健一郎の両請求は、けん連し、抗告人麗子が提起した訴訟の裁判は、当然三上健一郎が提起した訴訟の裁判に影響をおよぼさざるを得ない関係にあるのであるから、その裁判が、二途に出ずることを防ぐ趣旨からいつても、また抗告人麗子が提起した訴訟は、既に立証の段階にはいつているのであつて、訴訟経済の点からいつても三上健一郎提起の訴訟は、控告人麗子が提起した訴訟の第一審判決あるまで中止するのが相当と考えたので、これを理由に函館地方裁判所に対して三上健一郎が提起した訴訟手続の中止を求める旨の申立をなしたところ、同裁判所は、抗告人らの申立事由は、民事訴訟法第二二一条所定の訴訟手続を続行すること能わざる事由に該当しないものとして、該申立を却下した。しかし同条は裁判所が、裁量によつて中止を命じ得る場合を例示的に規定したものであつて、右所定の中止事由に該当しない場合でも、裁判所は、訴訟手続を停止することを相当とする事由があると認めたときは、申立により又は職権をもつて訴訟手続の中止を命じ得るものと解すべきである。かりに右は理由がないとしても、裁判所は、一般に自由裁量により訴訟手続の中止を命じ得るものと解すべきであつて、抗告人らの該申立を単に同条所定の中止事由に該当しないという理由で却下したのは失当であるから、その取消を求めるため本抗告におよんだ。」というにある。

思うに、民事訴訟法第二二一条は、裁判所が、当事者に不定期間の故障に因り訴訟手続を続行することができない事由があると認めたときは、中止を命じ得ることを定めたものであつて、具体的にその中止の必要があるかどうかは、裁判所の裁量に任されていることはいうまでもないが、一般に、自由裁量による訴訟手続の中止を命じ得ることを定めたものではない。しかして同条所定の不定期間の故障とは、当事者が、一身上の事由によつて事実上訴訟を追行し得ない場合をいうものであるから、抗告人ら申立の事由が、これに該当しないことは明らかであつて、同条に関する限り抗告人らの本件申立は、もとより理由がない。

もつとも裁判所は、同条所定のほかに一般に他の行政、民事および刑事事件の結果が先決問題となつているような場合には、その事件の完結を待つため、弁論の延期又は期日を続行することができるのはいうまでもないが、そのような場合には、むしろ正面から訴訟手続の中止を命じた方が、訴訟進行の繁雑を避け得る場合もあるので、右事由があると認めるときは、訴訟指揮上自由裁量によつて訴訟手続の中止を命じ得るものと解するのが相当である。しかして民事訴訟法第二二一条による訴訟手続の中止は、もつぱら当事者の一身上の故障に因るものであるから、当事者にも中止の申立権があると解すべきであるが、一般に自由裁量によつて中止ができると解するのは、主として裁判所の事件処理上の考慮に基くものであるから、当該事件について中止の必要があるかどうかは、いつに、裁判所の訴訟指揮に任されるべきものと考える。したがつて、当事者には、一般の自由裁量による訴訟手続の中止を求める申立権はないと解する。されば、当事者が、他に先決問題その他訴訟の進行を停止することを相当とする事由のあることを理由として訴訟手続の中止を求めたとすれば、その申立は、単に、職権の発動を促す意味を有するに止まり、裁判所は、もともとこれに対して裁判をなすことを要しないものであるから、かりに裁判所が、その申立を却下する裁判をしたとしても、当事者は、右裁判に対して不服を申立てることはできないというべきである。結局原審が、抗告人らの申立を却下したのは相当であるから民事訴訟法第四一四条、第三八四条により主文のとおり決定した。

(裁判長判事 西田賢次郎 判事 水野正男 判事 安久津武人)

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