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札幌高等裁判所 昭和52年(ラ)20号 決定 1977年6月28日

抗告人(原審債権者)

中央信用組合

右代表者

藤井實

右代理人

林信一

相手方(原審債務者)

安中良子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告状」及び「準備書面(第一)」記載のとおりである。

二よつて、審案するに、

(一)  先ず、<証拠>を総合すると、次の事実が一応疎明される。

1  抗告人は、昭和四七年三月二四日、件外坂崎昭三(以下「坂崎」という。)との間において、坂崎が抗告人から手形貸付、手形割引、証書貸付等を受け、これによつて生じた債務の履行を遅滞したときは年18.25パーセントの遅延損害金を支払うこと等を内容とする信用組合取引契約を締結するとともに、坂崎が右信用組合取引契約に基づいて抗告人に負担する債務のすべてを担保するため、坂崎所有の別紙物件目録(一)、(二)記載の不動産(以下、「本件不動産」という。)について、元本極度額六〇〇万円、利息年12.5パーセント以内、損害金年18.25パーセントとする根抵当権設定契約を締結し、札幌法務局月寒出張所昭和四七年四月二二日受付第二一一五九号をもつて、右根抵当権設定契約を原因とする根抵当権設定登記を経由した。なお、抗告人と坂崎との間の右根抵当権設定契約においては、坂崎は、債権者たる抗告人の承諾を受けなければ、右担保物件たる本件不動産の現形、現状を変更したり、または第三者のために権利を設定し、もしくは譲渡することができない旨の特約(以下、「本件現状変更禁止特約」という。)が付せられていた。

2  抗告人は、昭和四八年五月一八日、坂崎との間において、昭和四七年三月二四日付根抵当権設定契約により、本件不動産につき設定した根抵当権の元本極度額を一〇〇〇万円に変更する旨の契約を締結し、札幌法務局月寒出張所昭和四八年六月二八日受付第四二二八三号をもつて根抵当権変更登記を経由し、かつ、昭和五〇年三月二一日、坂崎との間において、昭和四七年三月二四日付根抵当権設定契約により、本件不動産につき設定した根抵当権の元本極度額(昭和四八年五月一八日一〇〇〇万円に変更)を一五〇〇万円に変更する旨の契約を締結し、札幌法務局月寒出張所昭和五〇年三月二六日受付第一六三〇四号をもつて根抵当権変更登記を経由した。

3  抗告人は、坂崎に対し、前記の信用組合取引契約に基づいて、次のとおりの手形貸付をした。

(イ) 昭和五一年五月三一日 一〇〇万円

弁済期 昭和五一年一一月三〇日

(ロ) 昭和五一年七月六日 一〇〇万円

弁済期 昭和五一年一二月二一日

(ハ) 昭和五一年七月六日 一〇〇万円

弁済期 昭和五一年一二月二五日

(ニ) 昭和五一年九月三〇日 二〇〇万円

弁済期 昭和五一年一二月二四日

(ホ) 昭和五一年九月三〇日 四四〇万円

弁済期 昭和五一年一二月二四日

(ヘ) 昭和五一年一一月五日 二〇〇万円

弁済期 昭和五二年一月二五日

(ト) 昭和五一年一一月五日 三九〇万円

弁済期 昭和五二年一月二五日

以上合計一五三〇万円

4  ところで、建設請負業を営んでいた坂崎は、昭和五一年一二月二七日銀行取引停止処分を受けて倒産したが、昭和五二年二月一〇日開催の債権者会議において、次のとおりの決議がなされた。

(イ) 坂崎は、一切の権限を件外安中建設株式会社外四名の債権者代表委員に移譲する。

(ロ) 坂崎は、今後安中建設株式会社により経理、工事等の確実な指導下により営業をさせる。

(ハ) 債権は、一応一〇年間の据置きとともに一一年目に債権額の五〇パーセント支払いを目標とする。

5  ところが、坂崎は、昭和五二年三月一〇日、本件不動産を相手方に譲渡し、札幌法務局月寒出張所昭和五二年三月二四日受付第一四九四〇号をもつて所有権移転登記を経由した。そして、相手方は、昭和五二年三月三一日札幌市の建築主事から建築確認を受け、同年四月二六日頃、「真安中建設株式会社名義で件外上山工務店との間で請負契約を締結したので、上山工務店は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「本件(一)の土地」という。)の地上に木造モルタル塗亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅、床面積一、二階とも一四坪二棟(以下「本件建物」という。)を建築中である。

(二)  そこで、右事実関係に基づき、抗告人の本件仮処分についての被保全権利の存否について判断する。

1  先ず、抗告人は、坂崎との間の前記根抵当権設定契約においては担保物件たる本件不動産について現状変更禁止の特約が付されていたところ、相手方は、坂崎が倒産後その財産を管理するため、本件不動産の占有使用をはじめ、坂崎の債務整理のため、坂崎に代つて本件(一)の土地上に本件建物を建築しているのであるから、相手方を契約当事者と同視し、右特約に基づき相手方の本件建物の建築工事続行の禁止を求める権利を有すると主張する。

そして、前判示の事実によれば、抗告人と坂崎との間の前記根抵当権設定契約においては抗告人主張のごとき特約が付せられていたことは明らかであるが、<証拠>によれば、坂崎が倒産した後、坂崎に対する一般債権者全員がその債務のうちの五〇〇万円の代物弁済として本件不動産の所有権を取得し、その所有名義を、債権者全員の協議により債権者代表委員のうちのまるしん安中建設株式会社こと安中肇こと後藤富滋男の内妻である相手方として登記したものであることが窺われるから、相手方を根抵当権設定契約者である坂崎と法律上同一視すべきものとは認め難く、他に相手方が坂崎に代つて本件建物の建築工事をしているものと認めるに足りる疎明資料はない。よつて、抗告人の右主張は理由がない。

2  次に、抗告人は、相手方は昭和五二年四月六日抗告人組合の職員奥田文仁に対し、本件建物の建築工事は基礎工事をもつて中止する旨を約し、かつ、相手方が抗告人を相手方として申立した債務弁済猶予調停事件の第一回調停期日(昭和五二年四月二七日)においても本件建物の建築工事を中止する旨を確約したものであるから、右特約に基づいて相手方の本件建物の建築工事続行の禁止を求める権利を有する旨主張する。

しかしながら、甲第五、同第一四号証の記載内容中、抗告人の右主張のそう部分は、当審における相手方審尋の結果に照らしてたやすく措信し難く、他に抗告人主張の右事実を認めるに足りる疎明資料はない。

したがつて、抗告人の右主張も失当であつて採用に由ない。

(三)  次に、抗告人は、本件建物の建築工事が完成すると、本件(一)の土地の価格が著しく低下し、かつ換価が困難となるから、本件仮処分は許容されるべきである旨主張する。この主張には物権としての本件根抵当権に基づく妨害排除請求権としての本件建物の建築工事続行禁止の請求権の主張が含まれているものと解される。

よつて案ずるに、元来(根)抵当権は(根)抵当権設定者の所有する物件の交換価値が優先弁済を受ける権利であつて、該物件の通常の用法に従つた利用に制限・干渉し得る権利を有しないものであることは当然であるから、抵当物件たる土地上に抵当権設定者ないし第三取得者が建物を建築することを禁止することはできない。また、成程抗告人主張のごとく地上建物の存在しない土地と建物のある土地とではその交換価値あるいは換価について差異の生ずることも予想し得るところであるが、前記根抵当権の担保としての本件(一)の土地上に本件建物が建築されることによつてその交換価値が著しく減少して被担保債権の弁済に不足を来しあるいは換価が困難となると認めるに足りる疎明資料はない。のみならず、仮に、前記根抵当権の担保物件としての本件(一)の土地につき所有権第三取得者たる相手方が右抵当地に本件建物を建築したとしても、抗告人は、民法三八九条の準用ないし類推適用によつて、本件(一)の土地とともに建物を競売に付し、本件(一)の土地の代価から優先して弁済を受け得る余地もあり得るものといわざるを得ないから、本件(一)の土地上に本件建物が建築されることによつて本件(一)の土地の価格が著しく低下するとか換価が著しく困難になるとか即断することはできないものと考えられる。

そうだとすると、根抵当権者である抗告人が未だ根抵当権の目的たる本件(一)の土地に対して権利の実行としての競売手続に着手しておらず、従つて右土地について未だ差押の効力の生じていない現段階においては、抗告人は、相手方に対して、本件根抵当権に基づく妨害排除請求権として、本件建物の建築工事続行の差止を求める権利を有するものとは認め難い。

(四)  してみると、抗告人の本件仮処分申請は、本件建物の建築工事の続行を禁止する権利につきその存在の疎明なきものといわざるを得ない。

(五)  全疎明資料によるも、抗告人に保証を立てさせたうえ、抗告人の本件仮処分申請を許容するのを相当とするような特別の事情があるものとは認められない。

三よつて、抗告人の本件仮処分申請は理由がないとして却下を免れないものであり、これと同旨の原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、民訴法四一四条、三八四条一項に則りこれを棄却することとし、抗告費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(官崎富哉 塩崎勤 村田達生)

抗告の趣旨<省略>

準備書面(第一)<省略>

物件目録<省略>

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