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札幌高等裁判所 昭和49年(行コ)2号 判決 1976年1月13日

控訴人 有限会社光楽園旅館

被控訴人 帯広税務署長

訴訟代理人 成田信子 林茂保 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日までの事業年度の法人税につき、昭和四四年六月二八日付でした更正処分中税額五万〇四〇〇円を越える部分、及び同日付でした過少申告加算税賦課処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上・法律上の主張は、次のとおりである。

一  控訴人の請求の原因

1  控訴人が昭和四三年一月三一日、昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日までの事業年度(以下「本件係争年度」という)分の法人税につき、課税標準たる所得金額一八万〇五四七円、法人税額五万〇四〇〇円として確定申告したところ、被控訴人は昭和四四年六月二八日付で、課税標準たる所得金額四六一万六二七七円、法人税額一五五万一七〇〇円とする更正処分、並びに過少申告加算税七万五〇〇〇円とする加算税賦課処分をした。

2  しかしながら右の更正処分には、控訴人の申告額を越える部分につき課税標準たる所得額を過大に評価した違法があり、これに基づく右加算税賦課処分も違法であるから、それらの取消を求める。

二  被控訴人の答弁及び主張

1  控訴人主張の請求原因1の事実は認め、2は争う。

2  本件係争年度において、控訴人にはその申告にかかる所得のほか、これに加算すべき次の所得があつたので、被控訴人は本件更正処分並びに加算税賦課処分を行なつた。

益金        五、六二一、四三六円

建物譲渡収入   一、二一四、三〇〇円

借地権譲渡収入  四、二二五、八〇〇円

雑収入        一八一、三三六円

損金        一、一八五、七〇六円

建物譲渡収入原価 一、一八五、七〇六円

差引所得金額    四、四三五、七三〇円

3  右のうち建物譲渡収入、借地権譲渡収入を認定した理由は、次のとおりである。

(一)  控訴人は、昭和三七年一一月三〇日その代表取締役である金沢清利、同人の妻、右両名間の未成年の子二名の計四名(以下「清利ほか三名」という)から、同人らの共有にかかる帯広市西三条南九丁目二番地の三所在の宅地一六五・二八平方メートル(以下「本件土地」という)を建物所有の目的で賃借し、その地上に家屋番号同番二一、木造亜鉛メツキ銅板葺二階建店舗、床面積一階一四二・七一平方メートル、二階一四九・九八平方メートルの建物(以下「本件建物」という)を所有していた。

(二)  昭和四二年六月二〇日、控訴人は本件建物を、清利ほか三名は本件土地を、訴外太洋電気株式会社に対し一括して代金二〇〇〇万円で売り渡した。

(三)  ところで本件土地付近一帯は借地権の取得または譲渡の対価として権利金を授受する取引慣行が行なわれている地域であるから、借地権に一定の経済的価値があると認められるところ、前記売買において控訴人の有していた借地権が移転しなかつたとみるべき特段の事情がないから、控訴人は本件建物の譲渡とともに借地権をも対価をえて譲渡したものと認められる。

(四)  しかして、まず、本件建物の価格は金一二一万四三〇〇円と評価される。次に本件借地権の割合は更地価格の二五パーセントとみるのを相当とするから、その価格は次の計算により一応金四六九万六四〇〇円と算定されるが、本件の具体的事情を考慮してこれを減額し、金四二二万五八〇〇円と評価した。

{2,000,000円(一括売買代金)-1,214,300円(建物価格)}×(25/100)= 4,696,400円

(五)  ところで、控訴人は本件係争年度の確定申告に際し本件取引によつてえたものを全く計上しなかつたばかりか、翌年度の確定申告に際し本件建物の譲渡収入として金一二一万四三〇〇円を益金に計上したのみであつた。かかる控訴人の会計処理によれば、結局のところ控訴人は本件一括売買代金中右一二一万四三〇〇円のみを収受し、その余は清利ほか三名が収受したことになるところ、後者には控訴人が取得すべき借地権価格相当の金四二二万五八〇〇円が含まれているのであるから、控訴人は清利ほか三名に右借地権価格相当の経済的利益を与えたこととなる。しかして、控訴人は法人税法第一三二条第一項第一号にいう内国法人である同族会社であり、控訴人のなしたかかる行為・計算をそのまま容認すると、控訴人の法人税の負担を不当に減少させる結果になるので、被控訴人は同法条に則り控訴人の所得金額の計算上右借地権の対価相当額を借地権譲渡収入とし、本件係争年度の益金として申告されていなかつた本件建物譲渡収入とともに益金の額に加算して、本件更正処分をした。

(六)  仮に、控訴人が本件借地権を賃貸人たる清利ほか三名に無償で返還したため、一括売買代金から借地権価格相当分を収受しなかつたものとすれば、控訴人の右借地権無償返還行為は、控訴人が借地権という資産を清利ほか三名に無償で譲渡したことになるから、同法第二二条第二項によりその価格を益金に算入すべきものとなり、前記更正処分の結論にかわりはないことになる。

4  次に益金として前記雑収入を認定した理由は、次のとおりである。

控訴人が本来受領すべき建物譲渡代金一二一万四三〇〇円、借地権対価相当額四二二万五、八〇〇円の合計金五四四万〇一〇〇円は、現実には金沢清利個人が受領している。このことは控訴人が右金員を右清利に無償で貸しつけたことにほかならないところ、控訴人の右行為をそのまま容認すると、控訴人の法人税の負担を不当に減少させる結果になるので、前同様法人税法第一三二条に則り、通常取得すべき利息を利率年一〇パーセント、期間三箇月とし、次の計算により金一八万一三三六円と算定し、これを雑収入の計上洩れとし益金に計上した。

544万0,100円(貸付金額)×(4/12)(期間)×(10/100)(利率)= 18万1,336円

5  次に損金としての建物譲渡収入原価は、控訴人の提出した翌年度の確定申告書添付計算書に基づき算出した。

三  前項の被控訴人の主張に対する控訴人の答弁及び主張

1  前項の2ないし4の控訴人の主張事実については、本件係争年度において控訴人主張の所得につき確定申告がないこと、控訴人が昭和三七年一一月三〇日清利ほか三名から、同人らの共有にかかる本件土地を建物所有の目的で賃借し、その地上に本件建物を所有していたこと、昭和四二年六月二〇日、控訴人が本件建物を、清利ほか三名が本件土地を、訴外太洋電気株式会社に対し一括して代金二〇〇〇万円で売り渡したこと、これによる控訴人の建物譲渡収入の額が控訴人主張のとおりであること、控訴人が右益金を本件係争年度の確定申告に際して計上せず、翌年度の申告に際してこれを計上したこと、控訴人が法人税法第一三二条第一項第一号にいう内国法人である同族会社であること、清利が金五四四万〇一〇〇円を受領していることを認め、その余を争う。

2  被控訴人が、本件係争年度の控訴人の所得に借地権譲渡収入を計上したことは、次の理由によつて違法である。

(一)  本件土地の賃貸借契約は、控訴人の帳簿処理の便宜のため控訴人と清利ほか三名とが通謀してなした虚偽の意思表示であるから、無効であり、したがつてかかる無効の借地権を課税の対象とすることは違法である。

(二)  仮にそうでないとしても、右賃貸借契約は、その賃料を清利ほか三名の生活費にあてるために締結されたものであるが、生活費である以上父母である清利及びその妻の費消する分が未成年の子二名の費消する分より多額であろうこと経験則上明らかであるから、親権者である清利及びその妻と未成年の子二名との利害が相反する場合に該当し、未成年の子二名の意思表示は家庭裁判所によつて選任される特別代理人によつてなされねばならないのにかかわらず、父母である清利及びその妻が代つてこれをなしているので、本件賃貸借契約は無効であり、したがつてかかる無効の借地権を課税の対象とすることは違法である。

(三)  借地上の建物が譲渡されたときは借地権も譲渡されたものとして借地権譲渡により得べかりし収入を課税の対象とすることは、税法上明文の規定を欠いているから、租税法律主義に違背するし、本件においては、借地権価格の評価にあたり賃貸借の期間、賃料額、権利金授受の有無、建物の現況等の具体的事情を斟酌していないが、かかる社撰な評価に基づく課税は、国税通則法第一条にいう国税に関する法律関係明確化の目的、税務行政の公正な運営の目的等に反している。それゆえ、本件借地権譲渡収入に対する課税は違法である。

(四)  本件更正処分の根拠となつた法人税法第一三二条は、課税処分を、具体的にでなく、包括的・一般的・白地的に行政機関である税務署長に委任したものであるから、憲法第八四条に違反し、無効である。

四  前項の控訴人の主張に対する被控訴人の答弁

1  土地賃貸借契約が通謀虚偽表示であるとの主張は否認する。

2  右契約の締結が清利及びその妻と未成年の子二名との間において利益相反行為に該当する旨の主張も否認する。仮に利益相反行為に該当するとしても、未成年の子二名の持分に関する部分に限つて賃貸借契約が無効であるにすぎず、清利及びその妻の持分に関する部分は有効で、控訴人は本件土地の全部につき使用収益が可能であり、かつ、現実に使用収益していたのであるから、実質課税の原則からみて控訴人が賃借権を有していたものとしてなした本件更正処分は、違法ではない。

3  借地上の建物が譲渡された場合借地権も譲渡されたとみる考え方は租税法律主義に反する旨の主張は争う。営利会社は営業活動の過程で無限の法律行為を行なうものであり、したがつて課税の対象となる法律行為を個別具体的に税法に規定することは不可能であり、実際的でもない。租税法律主義といえどもそこまで要求しているのではない。そして法人税法第二二条でいう益金の額に算入すべきものとされる「資産の譲渡」に該当するか否かは、個々の法律行為の経済的実態をとらえて判断されることになるが、それも税法それ自体のみでは明らかでなく、私法上の観点から評価されねばならないものである。本件借地権が法人税法第二条により固定資産であることは明らかであり、これが控訴人から他へ移転された以上資産の譲渡に該当することは明白である。また、本件借地権の評価は、実例及び精通者の意見を徴して作成した昭和四二年分相続税評価基準によつたものであつて、権利金・敷金の有無、期間の長短、賃料の高低等の諸条件は特段に考慮すべき要因に当らないから、本件借地権の価格算定は適法妥当である。

4  法人税法第一三二条が憲法第八四条に違反する旨の主張は争う。

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人主張の請求原因1の事実、並びに本件係争年度において控訴人に被控訴人主張の額の建物譲渡収入があり、これを控訴人が右年度の確定申告に際し益金として計上していなかつたことは、当事者間に争いがない。

二  当裁判所も本件係争年度において控訴人には被控訴人主張の額の借地権譲渡収入があり、このように解することはなんら租税法律主義に反するものではないと判断する。その理由は、原判決の理由説示一ないし三項記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人が本件係争年度の確定申告に際し本件取引によつてえたものを全く計上しなかつたばかりか、翌年度の確定申告に際して建物譲渡収入として金一二一万四三〇〇円を益金に計上したのみであることは、当事者間に争いがなく、かかる控訴人の会計処理によれば、控訴人は本件一括売買代金中右金員のみを収受し、その余は清利ほか三名が収受したことになるところ、後者には控訴人が取得すべき借地権価格相当の金四六九万六四〇〇円が含まれているのであるから、控訴人は清利ほか三名に右借地権価格相当の経済的利益を与えたこととなる。そして控訴人が法人税法第一三二条第一項第一号にいう内国法人である同族会社であることは当事者間に争いがないから、被控訴人が、控訴人のなした右の如き行為・計算をそのまま容認すると、控訴人の法人税の負担を不当に減少させることになるとして、右法条に則り、控訴人の所得金額の計算上右借地権の対価相当額を借地権譲渡収入とし、本件係争年度において申告のない建物譲渡収入とともに益金の額に加算して、本件更正処分をしたことは違法であるといわなければならない。

控訴人は、右法人税法第一三二条は憲法第八四条に違反すると主張する。よつて検討するのに、法人税法第一三二条は「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるとき」同族会社等の行為計算を否認しうる権限を税務署長に付与しているのであるが、右行為計算否認の規定が、納税者の選択した行為計算が実在し私法上有効なものであつても、いわゆる租税負担公平の原則の見地からこれを否定し、通常あるべき姿を想定し、その想定された別の法律関係に税法を適用しようとするものであることにかんがみれば、右の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かは、もつぱら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定すべきものと解される。一般に、かかる場合の判定基準は、法律上できる限り具体的、個別的、一義的に規定しておくことが望ましいのではあるが、複雑多岐にして激しく変遷する経済事象に対処しうるような規定を設けることは極めて困難であるから、法人税法が前記程度の規定をおいたにとどまることもやむをえないところであつて、これをもつて、いわゆる租税法律主義を宣明し、租税を創設し改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、納税の手続は、すべて法律に基づいて定められなければならない旨規定する憲法第八四条に違反するものということはできない。

三  次に本件一括売買代金二〇〇〇万円中建物譲渡代金一二一万四三〇〇円、既に認定の借地権対価相当額四二二万五八〇〇円の合計金五四四万〇一〇〇円を、清利個人が受領していることは当事者間に争いがなく、右五四四万〇一〇〇円は本来控訴人が受領すべきものであることは、既に認定したところから明らかである。そうすると、控訴人は右金員を清利に無償で貸しつけたものというべきであり、控訴人の右行為をそのまま容認すると、控訴人の法人税の負担を不当に減少させる結果になることは明らかである。そして、利息を年一〇パーセント、期間を三箇月として通常取得すべき利息を計算することは、格別不当とは思われないから、被控訴人がその主張の如き計算により控訴人に金一八万一三三六円の雑収入があつたものとし、法人税法第一三二条によりこれを益金に算入したことは適法である。

四  さらに控訴人が損金としての建物譲渡収入原価を金一一八万五七〇〇円と算定したことについては、控訴人はその当否を明らかに争わないから、建物収入原価が金一一八万五七〇〇円である事実を自白したものとみなす。それゆえ、これを損金としたことにかしはない。

五  以上のとおりであるから本件更正処分にはなんらのかしがないというべきところ、更正にかかる法人税額一五五万一七〇〇円から確定申告による納付税額五万〇四〇〇円を控除した金一五〇万一三〇〇円に対する国税通則法第六五条所定の一〇〇分の五の割合の過少申告加算税は、金七万五〇〇〇円(端数切捨)となるから、本件加算税の算定にかしはない。

六  以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は理由がなく、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 神田鉱三 落合戚 山田博)

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