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札幌高等裁判所 昭和38年(ネ)258号 判決 1966年9月30日

控訴人 小野正雄

被控訴人 国

訴訟代理人 山本和敏 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

附帯控訴に基づき原判決を次の通り変更する。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金一八万九〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年二月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

この判決は主文第三項に限り仮に執行することができる。

事  実 <省略>

理由

一、滞納者が建設業者であつて、昭和三二年八月八日控訴人と本件請負契約を結び、右請負工事の引渡を終えたことは当事者間に争いがない。

二、ところで、被控訴人は右工事は完成したうえ引渡したと主張するのに対し、控訴人は本件請負契約に基づく工事は当初約定の二階造作部分、玄関、階段の付替工事部分が全く施工されていないから工事未完成である旨争い、被控訴人はこれに対し、更に右二階造作部分は当初から約定工事範囲に含まれていなかつたし、玄関、階段の付替工事は着工後控訴人の指示によつて設計変更となり取止めになつたから工事は完成した旨主張するので、以下本件請負契約の当初約定の工事範囲、着工後の設計変更の有無、工事の完成時期について順次判断する。

(一)  当初の請負契約における工事範囲について

<証拠省略>を綜合すれば、本件請負契約の当初の工事範囲は(イ)浴場脱衣場の増改築、(ロ)右脱衣場二階部分の建上げ、(ハ)旧住宅玄関階段の付替え及び模様替えであつて(ロ)の二階内部造作工事は控訴人の資金調達の関係から工事範囲に含まれていなかつたことが認められる。

尤も、成立に争いのない乙第五号証(浴場増築、模様替工事仕様書及び仕上表)、乙第七号証(設計図)によれば右二階部分の造作も工事範囲に含まれる様な記載があり、且つ前顕乙第一号証には本件請負工事について「別添の工事仕様書及び仕上表による工事の請負契約を締結する」旨記載されているので、これと右乙第五号証とを対照すれば、その表題からみて乙第五号証は乙第一号の添付書類である様な観を呈するが、次の各事実、すなわち(イ)右乙第一号証と乙第五号証とは同一様式の縦けい紙でありながら乙第一号証はコクヨ二五三、乙第五号証はコクヨ二四三で製造メーカーの規格番号を異にしていることからみて別個の機会に作成されたものとみられること、(ロ)畳建具工事が本件請負契約の内容となつていないことは当審及び原審における控訴人本人の供述により明らかであるに拘らず、乙第五号証には右畳建具工事が工事内容に表示されていること、(ハ)右控訴人の供述により銀行融資をうける便宜のため架空工事を含んで記載されているものと認められる北洋相互銀行から取寄せの工事見積書(乙第六号証の五、六)と乙第五号証を対比すると両者は全く符合し格別の差異が認められないこと等の事実に照すと、右乙第五号証は原審証人高橋由男、戸羽与作の証言の通り控訴人の銀行融資の便宜をはかるために二階造作、畳建具工事等の架空工事を水増しして作成されたもので、乙第一号証の添付書類として作成されたものではないと認められ、又乙第七号証は当審証人高橋由男、戸羽与作の証言によれば本件請負契約締結前の昭和三二年六月一八日に作成された設計図であつて、これに基づき前顕乙第六号証の五、六(見積書)が作成されたことが認められるから、乙第七号証は乙第六号証の五、六の基礎資料となつたにすぎないと解すべく、右乙第六号証の五、六が水増しした架空工事を含むもので乙第一号証の添付書類として作成されたものでないことは前段認定の通りである以上、その基礎資料となつた乙第七号証も亦乙第一号証の添付書類として作成されたものというをえない。以上の次第で右乙号各証はいずれも前段認定をくつがえすに足りるものではなく、前段認定に反する控訴人本人尋問の結果(原審第一、二回、当審第一回)は前掲各証言に照らし信用できない。なお、原審証人真木忠勝、当審証人浅沼武の証言中には二階内部造作、玄関部分に工事の手残りがある旨の供述があるが、右は前記乙第五号証又は第七号証と対比して手残りがあるとされたものであり、同号証が本件請負契約の内容となつていないことは前段説示の通りであるから、何ら右認定を左右するに足るものではない。又原審証人松谷修、中屋辰夫の証言中、二階、玄関部分の未完成をいう部分はいずれも控訴人からの伝聞であつて、控訴人の供述が措信し難い以上、右伝聞の証言は採るを得ず、当審証人阿部愛子の証言中、二階、玄関部分に手残りがあるとの部分は、明確な根拠を欠き採用し難い。

(二)  設計変更の有無について

当審証人戸羽与作、当審及び原審証人高橋由男の証言によると控訴人は右工事着工後旧住宅部分八畳の間を通らなければ便所に行けないとの理由で設計変更を求め、滞納者の現場責任者高橋由男に指示して玄関、階段の付替工事を取り止める代りに脱衣場二階と旧住宅を結ぶ渡り廊下を作らせ、それに伴い屋根の水はけが悪くなつたとしてその部分の附設工事と浴場の湯気抜き工事を追加施行させたこと、右設計変更による工事費用は変更前の見積費用と大体同じであつたことが認められる。

控訴人は当審において(第一回)右設計変更は指示もしないのに滞納者側で勝手に渡り廊下等を作り玄関の付替工事を放置した旨供述するが、右供述は前掲各証言及び次の各事実、すなわち(イ)請負人が注文主の意向を確かめることなく無断で設計変更するが如きは稀有の事例であつて通常ありえないこと、(ロ)当審証人高橋由男の証言によつて認められる通り控訴人は几帳面な人で本件工事中現場に付ききりの様にしていろいろと指示していたにも拘らず右渡り廊下の設置等につき異議を述べた形跡がないこと、(ハ)滞納者から債権譲渡を受けた訴外玉置こと松谷修に対し昭和三四年七月三一日右工事残代金の内金一〇万円を支払つていることに照し措信し難く他に前段認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  而して滞納者が控訴人に対し右請負工事による増改築部分を引き渡したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一一号証、官署作成部分の成立は当事者間に争いがなくその余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一二号証の一、控訴人名下の印影が控訴人の印顆により顕出されたものであることは当事者間に争いがないことにより控訴人関係部分は真正に成立したと推認すべき甲第一二号証の二、四及び当審証人戸羽与作の証言を綜合すれば、右浴場(登記の表題は店舗)の本件増改築による表示変更登記申請は昭和三二年一一月一五日付でなされて同日受付けられていること、同月二五日受付第七二八号をもつて右建物につき債権者中小企業金融公庫のために債権額金一三〇万円の抵当権設定登記がなされていることが認められるから、右各認定事実及び争いなき事実を綜合すると本件請負契約に基く増改築工事は遅くとも右抵当権設定登記がなされた頃迄には完成していたものと推認するのを相当とすべく、当審及び原審における控訴人の供述中工事未完成をいう部分は右説示したところに照し信用できず、当審証人浅沼実、阿部愛子、原審証人真木忠勝、松谷修、中屋辰夫の証言中同じく工事未完成をいう部分は前掲二(一)末尾説示の理由により採るをえず、当審証人中川末吉の証言中、玄関部分の残工事は来春施行するよう滞納者代表者から聞いていたとの部分は、当審及び原審証人戸羽与作の証言に照らしたやすく措信し難い。

又前記脱衣場二階建上げ工事の上棟祭に使用された棟札であることは当事者間に争いがなく、当審証人高橋由男の証言によつても裏面の日時の記載が右上棟祭執行の日である昭和三二年一〇月一八日と一致すると認められる検乙第一号証の存在及び控訴人方脱衣場二階の写真であることは当事者間に争いのない乙第一一号証の一ないし七も前段認定と矛盾するものではなく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、当審証人戸羽与作の証言によると右工事引渡後控訴人から浴場二階の湯気抜き工事が不良であるとして手直しの請求があつたことが認められるが、右手直し工事請求は請負工事完成後のかし補修請求と認むべきであるから前段認定に影響を及ぼすものではない。

(四)  控訴人はこの点につき更に、滞納者が(イ)昭和三二年一一月一一日控訴人から本件請負工事残代金三〇万円の支払を受けながら直ちに返還したこと、(ロ)同年一二月一四日控訴人と額面金五〇万円の約束手形を交換して決済したことを挙げて、滞納者は本件工事を完成しておらず、従つて控訴人に対し工事残代金債権を有していなかつたと主張する。

しかし右(イ)の点については、滞納者が昭和三二年一一月一一日控訴人から金三〇万円の入金をうけたことは当事者間に争いがないが、右三〇万円が直ちに全額返還されたとの点については、これに添う控訴人本人の供述(当審第二回)は当審<証拠省略>に照らし措信し難く、却つて右各証拠を綜合すれば、右入金をうけた金三〇万円のうち、工事残代金の内金として入金されたのは金二〇万円だけで残額の金一〇万円は控訴人と滞納者代表者戸羽与作との話合いにより工事代金とは別に一時預つたにすぎないもので同月一三日控訴人に払戻しの手続をとり、滞納者の帳簿にもその旨記帳されたことが認められるから、右入金三〇万円のうち金一〇万円が返還されたことは本件工事代金の返還でないことは明らかであつて、右事実は本件請負工事の未完成を推定するに足りない。

又(ロ)の点については、裏書部分を除くその余の部分の成立は当事者間に争いがなく、裏書部分は<証拠省略>によれば、滞納者と控訴人は昭和三二年一二月一四日交互に額面金五〇万円、支払期日昭和三三年一月一〇日とした約束手形を交換し(控訴人が滞納者宛に振出した分が乙第八号証の一、滞納者が控訴人宛に振出した分が同号証の二)、右各手形がそれぞれ決済されたことが認められるが、同証言によれば、右約束手形交換の趣旨は当時資金ぐりに苦しんでいた滞納者代表者から控訴人に対し、工事残代金を支払わないならせめて融通手形でもくれと申込み、昭和三二年一二月一四日右のように融通手形を交換したと認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はなく、滞納者代表者が本件請負工事残代金の取立に苦慮していたことは訴外松谷修に右工事残代金債権を譲渡したこと等弁論の全趣旨により明らかであり、早急に右代金の支払をうけうる見込が立たない以上、次善の策として融通手形の交換を求めることもあながち不自然とも考えられないし、見返り手形を振出した以上これを決済することは当然であるから、右融通手形交換、決済の事実は何ら本件請負工事の未完成を推測させる資料となるものではない。

以上の通りであつて、本件請負工事は完成したものと認めるべきであるから、滞納者は控訴人に対し右工事代金残額であることについて当事者間に争いのない金二八万九、〇〇〇円の工事残代金債権を有するのというべきである。

三、次に<証拠省略>によると、被控訴人は滞納者に対し昭和三六年八月三日現在において別表記載の通り金三二万三、二四〇円の租税債権を有していたことが認められ、被控訴人が右租税債権徴収のため、同日前段認定の金二八万九、〇〇〇円の工事残代金債権を差押え、同年九月二日右差押通知が控訴人に送達されたこと、右差押前、滞納者が訴外松谷(通称玉置)修に対し右金二八万九、〇〇〇円の工事残代金債権を譲渡し、滞納者から控訴人に対し内容証明郵便によつてその旨の通知がなされたことは当事者間に争いがない。

(一)  ところで、右債権譲渡につき、被控訴人は取立目的のための債権譲渡であり、且つもつぱら取立権能のみの授与にすぎないと主張するのに対し、控訴人はこれを否認し、仮りに取立目的のための債権譲渡であつたとしても信託的譲渡であると争うので考えるに、<証拠省略>を綜合すると、滞納者代表者戸羽与作は控訴人に対し本件工事残代金債権の支払を請求したけれども、支払を受けえないので自ら取立てることを断念し、知人鈴木政治の紹介で昭和三四年三月末ないし四月初め頃、当時行政書士をするかたわら、時に他人の債権の取立などもしていた前記松谷修に右債権の取立を依頼した。そこで同人が控訴人と交渉したが依然として支払を受けえなかつたので、取立の便宜上松谷の希望によつて前示のように債権譲渡の方式をとつたものであるが、右はあくまでも取立の便宜に出たものであつて戸羽としては松谷に右債権を譲つたつもりはなく、又同人に対して債務を負担してもおらず、従つて債務の担保或は弁済の目的で譲渡したものでもなかつたこと、その際戸羽は松谷に対して礼はするからということで単に取立を依頼したのみで債権全額を取立てて貰いたいとも、多少は減額しても取立てて貰いたいとも取立の条件については格別言及しなかつたことが認められる。右認定に反する<証拠省略>は前掲各証言に徴し措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実からすると前示債権譲渡が取立のための債権譲渡であることは明らかであり、このような取立目的のための債権譲渡が取立権能のみの授与であるとみるべきか、債権の信託的譲渡であるとみるべきかについては議論の分れるところであるが、本件債権譲渡は前段認定の事実すなわち譲渡人である滞納者の意見が取立権能のみの授与というにあつて債権の譲渡と考えていないこと、もつぱら譲渡人の利益のためにのみなされていることから考えて単なる取立権能のみの授与にすぎないと認めるのを相当とする。

(二)  そして前示債権譲渡の後、昭和三四年七月頃右松谷修と控訴人との間で本件工事残代金債権二八万九、〇〇〇円について、内金一〇万円を支払えば足りる旨の合意が成立し、同月三一日控訴人が右金一〇万円を支払つたことは当事者間に争いがないが、右合意の性質が和解であると、支払を約した金一〇万円を控除した残額金一八万九、〇〇〇円についての債務の免除であるとにかかわりなく、前示のように単なる取立授権の受権者であるにすぎない松谷にはその権限がなかつたことは明らかである。

(三)  これに対し、控訴人は仮りに前示債権譲渡が取立権能のみの授与であつたとしても、右債権譲渡が通常の債権譲渡通知によつてなされ、債務者がその目的を知らなかつた場合には譲渡人は信義則上通常の債権譲渡と同一の責任を負うべきである旨主張するので按ずるに、滞納者から控訴人に対し前示債権譲渡通知がなされていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三号証によると、右譲渡通知書の文言は通常の債権譲渡の趣旨であつて、取立授権のための譲渡である趣旨は何ら記載されていないことが認められる。

このように通常の債権譲渡通知がいわば仮装的になされた場合には、債務者(控訴人)においてこれを通常の債権譲渡であると信ずることは無理からぬところであり、従つてかく信ずるについて過失がないというべきであるから、譲渡人は債務者が右債権譲渡は取立権能のみの授与にすぎないとの事実を認識していたことを立証しない限り通常の債権譲渡と同一の責任を負い、債務者は譲渡人に対し取立授権の受権者がした債権の処分行為等が有効である旨の主張をすることができるものと解すべきである。

そこで、控訴人が右の趣旨において善意であるか否かについて考えるに、(イ)債権譲渡の方式をとる以前にも松谷が控訴人方に取立に赴き交渉していることは前段認定の通りであり、(ロ)当審証人阿部愛子、原審証人鈴木政治、松谷修の各証言によれば、松谷は代書人をなすかたわら他人から債権を譲り受け支払命令を申請したりして債権取立をしており、本件債権譲渡に際しても債権譲渡人たる滞納者(その代表者戸羽与作)との間で控訴人と訴訟することまで話し合つていたことが認められ(ハ)当審における控訴人本人の供述(第一回)によれば、松谷は代書人になる以前は厚岸町役場に勤務していたことがあり、控訴人は厚岸町町議会議員であつたところから相互に交際があり、控訴人も松谷の職業、債権取立をなしていることを知つていたことが認められ、(ニ)原審証人中屋辰夫の証言によれば、松谷と控訴人との間を仲介していた中屋辰夫(控訴人の義弟)も松谷が控訴人から受取つた金一〇万円は滞納者に渡される金であると思つていたというのであるから、右(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各事実からすれば、控訴人も右金一〇万円が滞納者に渡るべき性質のものであることを認識していたと推認することができるというべきである。

のみならず、(ホ)原審証人松谷修、戸羽与作、鈴木政治の証言によれば、松谷は控訴人から本件工事残代金を一五万円に減額して貰いたいとの申出を受けこれを一蹴しながら、その僅か後にさしたる根拠もなく自ら金一〇万円の支払を受ければ残額は打切る旨の申入をなしていることが認められ、(ヘ)当審における控訴人本人の供述(第一回)によれば、控訴人は前示債権差押後国税徴収官が控訴人方に事実調査に赴いた際、故意に右債権譲渡及び松谷との間で本件工事残代金債権の内金一〇万円支払つていることを秘匿していたことが認められるが、右松谷の態度は同人が本件工事残代金債権の譲渡をうけていたとすれば甚だ不自然であり、控訴人の態度も松谷との間で金一〇万円を支払つて解決ずみであると信じていたとすれば理解に苦しむところであつて、右(イ)ないし(ヘ)の各事実からすれば、控訴人は松谷が本件債権譲渡においては取立権能のみを授与されたにすぎないことを了知していたと認めるのを相当とする。「松谷は滞納者から通常の債権譲渡をうけていたと思つていた」との控訴人本人の供述(当審及び原審各一回)は右説示したところに照らしたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はないから、控訴人の右主張は採るをえない。

(四)  控訴人は更に、代理行為又は表見代理行為の主張をなすが、滞納者から松谷への前示債権譲渡が単なる取立権能のみの授与にすぎないことは前段説示の通りであつて、(控訴人の援用する原審証人戸羽与作、鈴木政治、松谷修の証書は、滞納者代表者戸羽与作が松谷修に本件工事残代金債権につき取立権能を授与した趣旨に解すべきもので、同人に和解権限を含めて代理権を与えた趣旨に解すべきものではない。)右のような取立授権者には譲受債権についての和解、契約解除等の処分権限の認められないことは明らかであるから、代理行為の主張はこの点において排斥を免がれず、控訴人が同人が単なる取立権能のみの授権者であることを認識していたと認むべきことは前段認定の通りであるから表見代理の主張も亦排斥を免かれない。

四、控訴人は最後に消滅時効の抗弁を主張するのに対し、被控訴人は時効中断の再抗弁を主張するので考えるに、<証拠省略>を綜合すれば、滞納者は昭和三四年三月八日控訴人から本件請負工事残代金の内入として金三、〇〇〇円の支払をうけ、その前後に更に金五、〇〇〇円の支払をうけて右の内金三、〇〇〇円の分を記帳していたことが認められる。当審における控訴人本人尋問の結果(第二回)中右認定に反する部分は前掲各証拠に照し措信できず他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうだとすれば控訴人は右昭和三四年三月八日金三、〇〇〇円の一部支払をした時に本件工事残代金債務を承認したものと解すべく、右債務承認により前記債務の消滅時効の進行は中断され、被控訴人が昭和三六年八月三一日右債務を差押え、その差押通知を控訴人に送達した昭和三六年九月二日には右債務が存在していたことは明らかである。

五、以上の通りであつて控訴人は滞納者の前記工事残代金の取立権者である被控訴人に対し右残代金一八万九、〇〇〇円及びこれに対する増改築部分の引渡以後で滞納者が内容証明郵便による催告状(成立に争いのない乙第一二号証)によりその支払を請求した昭和三四年一月二一日以後である同年二月一日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払義務のあることは明らかで、これが支払を求める被控訴人の主たる請求は第二次、第三次の予備的請求につき判断するまでもなく正当であるから右のうち、右金一八万九、〇〇〇円及び差押通知書送達の翌日である昭和三六年九月三日以降の損害金の支払請求を認容した原判決は相当で本件控訴は理由がない。

よつて本件控訴を棄却した上、被控訴人の当審における附帯控訴請求を認容したことにより遅延損害金の起算点につき原判決の主文の表示と不一致をきたすので、主文第三項の表示を変更することとし、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第一九六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 伊藤淳吉 今富滋 潮久郎)

別表<省略>

租税債権目録<省略>

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