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札幌高等裁判所 平成4年(ネ)246号 判決 1993年8月31日

控訴人

渡部友里恵

(旧姓齊藤)

右訴訟代理人弁護士

今重一

今瞭美

右訴訟復代理人弁護士

藤本明

被控訴人

株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役

阿部喜夫

右訴訟代理人弁護士

高橋秀夫

右訴訟復代理人弁護士

稲澤優

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を釧路地方裁判所に差し戻す。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  主文第一項同旨

(二)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一)  本件控訴を却下する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

1  控訴人

(一)  本件控訴の適法性及び原審訴訟手続の違法について

原審における本件訴訟手続の経緯は次のとおりである。

(1)控訴人は、昭和六三年五月二五日以降、釧路市川端町<番地略>(以下「控訴人旧住所地」という。)に控訴人の両親等と居住していたところ、平成二年三月七日、本訴状及び本件口頭弁論期日を同年四月二〇日午後一時一五分とする呼出状の送達を受けた。但し、控訴人はその内容を見た記憶はない。(2)同年四月二〇日午前九時二〇分、控訴人の伯母萩野スエと称する者から、釧路地方裁判所書記官に、控訴人は会社の研修があるため同日は出頭できない旨の電話連絡があった。(3)控訴人は、同月二二日、渡部勲と夫の氏を称する婚姻の届出をして、同日肩書住所地に転居した。(4)控訴人に対する本件口頭弁論期日を同年五月九日午後一時一五分とする呼出状は同月一日控訴人旧住所地に送達され、控訴人の母齊藤友子がこれを受領した。(5)控訴人は右期日に釧路地方裁判所に出頭しなかったところ、同期日において弁論終結となり、判決言渡期日は同月二四日午後一時一五分と指定された。(6)控訴人に対する原判決正本の送達手続は、控訴人旧住所地宛になされたが、三度不在のため郵便局に留め置かれ、いずれも留置期間満了となって返送された後、同年七月一三日、控訴人旧住所地において控訴人の母齊藤友子がこれを受領した。(7)控訴人は平成四年七月一七日に至って初めて原判決の存在を知った。

右のとおり、控訴人に対する平成二年五月九日の原審口頭弁論期日呼出状及び原判決正本の各送達は、控訴人の住所に宛ててなされたものではなく、これらを受領した齊藤友子は、控訴人の同居者ではなく、受領権限を有していないから、右送達はいずれも無効である。

控訴人は現在まで原判決正本の送達を受けていない。

そして、同年五月九日の原審口頭弁論期日は、控訴人に対する呼出状の送達が無効であるのに開かれ、全く実質的審理がなされないまま結審となって原判決が言い渡されたのであるから、原判決を取り消して本件を釧路地方裁判所に差し戻すことを求める。

(二)  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。同2は否認する。同3は知らない。同4は否認する。同5は争う。

2  被控訴人

(一)  控訴人の主張(一)について

控訴人の主張(一)中、(1)ないし(4)は知らない。(5)は認める。(6)、(7)は知らない。その余の主張は争う。

(二)  請求原因

請求原因事実は原判決事実及び理由一1ないし5(原判決一枚目裏八行目冒頭から二枚目裏三行目末尾まで)に記載のとおりであるら、これを引用する。

三  証拠関係<省略>

理由

一本件控訴の適法性について検討する。

<書証番号略>、当審における証人齊藤友子の証言、控訴人本人尋問の結果並びに本件記録に顕われた原審訴訟手続に関する諸資料によれば、次の事実が認められる。

1  控訴人は、控訴人旧住所地に控訴人の両親と共に居住していたところ、平成二年三月七日、右住所地において、本訴状及び同年四月二〇日午後一時一五分の口頭弁論期日呼出状を自ら受領してその送達を受けた。

2  同年四月二〇日午前九時二〇分、釧路地方裁判所書記官は、控訴人の伯母萩野スエと称する者から、控訴人は会社の研修があるため同日は出頭できない旨の電話連絡を受けた(右電話連絡が何者によるものかは不明である。)。同日の原審第一回口頭弁論期日に控訴人が出頭しなかったため、同期日においては被控訴人の訴状が陳述されただけで、第二回口頭弁論期日は同年五月九日午後一時一五分と指定された。

3  控訴人は、同年四月二二日、渡部勲と夫の氏を称する婚姻の届出をするとともに、同日肩書住所地に転居し、住民基本台帳法所定の転居届をした。控訴人は、以後夫とともに同所を生活の本拠とし、控訴人旧住所地には居住することなく現在に至ったが、右転居の事実が原審裁判所に知らされることはなかった。

4  控訴人に対する原審第二回口頭弁論期日の呼出状は、控訴人旧住所地宛に送達手続がなされ、同年五月一日、控訴人の母齊藤友子は、控訴人が既に転居したのに同居者としてこれを受領したが、齊藤友子は右呼出状を控訴人に渡さなかった。

5  同月九日の原審第二回口頭弁論期日に控訴人は出頭しなかったところ、同期日において口頭弁論は終結され、判決言渡期日は同月二四日午後一時一五分と指定された(控訴人に対して判決言渡期日についての呼出手続はなされなかった。)。

6  同月二四日の原審第三回口頭弁論期日(判決言渡期日)において、被控訴人の請求を全部認容する内容の原判決が言い渡されたが、控訴人は同期日にも出頭しなかった。

7  控訴人に対する原判決正本の送達手続は、三度控訴人旧住所地宛になされたが、いずれも受取人不在として郵便局に留め置かれ、留置期間満了となって返送された。四度目の原判決正本の送達手続も控訴人旧住所地宛になされたところ、同年七月一三日、齊藤友子が同居者としてこれを受領したが、同判決正本は控訴人に渡されなかった。

8  控訴人は、平成四年七月二六日、当裁判所に本件控訴を提起した。

右事実によれば、平成二年七月一三日、控訴人旧住所地において原判決正本を齊藤友子が受領した当時、控訴人旧住所地が控訴人についての民事訴訟法一六九条一項所定の送達場所であったとは認められないし、齊藤友子が同居者として原判決正本を受領しうる者でないことは明らかである。そうすると、右の方法による原判決正本の送達は無効というべきであり、控訴人に対して他の方法で原判決正本が有効に送達されたとも認められないのであるから、民事訴訟法三六六条一項所定の控訴期間は進行していないこととなる。したがって、本件控訴は適法に提起されたというべきである。

二原審訴訟手続の法令違背について検討する。

原審第二回口頭弁論期日の呼出状の送達手続は、控訴人旧住所地宛になされ、齊藤友子が同居者として受領したものであるから、前同様の理由により右送達は無効というべきである。そうすると、控訴人に対しては原審第二回口頭弁論期日につき適法な呼出がなされなかったのであるから、同期日は適法に開かれたものとはいえず、原審裁判所が、同期日において控訴人欠席のまま弁論を終結するとともに判決言渡期日を指定し、控訴人に対して判決言渡期日の呼出手続をせずに判決言渡期日において判決言渡しをしたことは違法といわなければならず、本件の、審理経過に鑑みれば、右は原判決を取り消すべき手続違背というべきである。

三よって民事訴訟法三八六条、三八九条により原判決を取り消して、本件を釧路地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宮本増 裁判官河合治夫 裁判官髙野伸)

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