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札幌簡易裁判所 平成10年(サ)6642号 決定 1998年12月04日

原告

岩城増美

右訴訟代理人弁護士

毛利明

被告

株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役

新井裕

右訴訟代理人弁護士

横幕正次郎

右当事者間の平成一〇年(ハ)六三三一号不当利得金返還請求事件につき、原告から文書提出命令の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

被告は、平成一一年一月一一日までに、原被告間の金銭消費貸借契約について、契約当初からの、契約年月日、貸付けの金額、受領金額等、貸金業の規制等に関する法律一九条及び同法施行規則一六条所定の事項を記載した帳簿を提出せよ。

理由

一  貸金業者は、「その業務に関する帳簿」に、「債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額」等を記載しなければならない(貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)一九条)。この記載内容から、右業務帳簿が貸金業者と債務者の間の金銭消費貸借契約という「法律関係について作成された」(民訴法二二〇条三号後段)文書であることは明らかである。

したがって、貸金業者である被告は、債務者である原告に対する貸付けについて作成した右業務帳簿を当裁判所に提出する義務がある。

二 被告は、貸金業法施行規則(昭和五八年大蔵省令四〇号)一七条は右業務帳簿の保存期間につき、「当該契約に定められた最終の返済期日(当該契約に基づく債権が弁済その他の事由により消滅したときにあっては、当該債権の消滅した日)から少なくとも三年間保存しなければならない。」と規定されていることを理由に、右業務帳簿のうち、本件文書提出命令申立時に既に同条所定の日から三年が経過している分については、提出義務がないと主張する。

しかし、文書の保存義務と裁判所に対する提出義務は別個の義務であるから、保存期間が経過したから、提出義務がなくなるものではない(商法三五条による商業帳簿の提出義務について、同法三六条の保存期間経過後も提出義務を認めたものとして大審院昭和六年一二月五日判決・裁判例五巻民二七一頁)。よって、被告の右主張は理由がない。

三  なお、念のため付言すると、貸金業法施行規則一七条は、単に同条所定の日から三年間経過後は、貸金業者が業務帳簿を保存していなくても、帳簿保存義務違反として罰則(貸金業法四九条四号)に問われなくなることを定めたに過ぎない。

貸金業法一九条によって、貸金業者が作成・保存すべき業務帳簿は、「債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額」(同法同条)等を記載したものであるから、当然「取引其ノ他営業上ノ財産ニ影響ヲ及ボスベキ事項」(商法三三条一項二号)を記載した帳簿に含まれ、商法上の「会計帳簿」(同法三二条一項)に該当する。すなわち、右業務帳簿は商業帳簿に該当するから、帳簿閉鎖の時から一〇年間保存義務がある(同法三六条)。

実質的にも、債務者が利息制限法所定の利息を超過する利息を支払った場合の不当利得返還請求権の消滅時効期間は、権利行使ができる時から一〇年間である(最高裁昭和五五年一月二四日第一小法廷判決・民集三四巻一号六一頁)から、超過利息の支払後一〇年間は、債務者が不当利得返還請求権を行使する可能性がある。したがって、貸金業者は貸金業法四三条一項のみなし弁済の適用を受けたいのであれば、その要件の立証のために業務帳簿を保管するべきである。

以上のとおり、貸金業法一九条所定の業務帳簿は、商法の規定上も、実質的な権利確定の必要上も、帳簿閉鎖あるいは超過利息の支払から一〇年間は保存するべきなのであって、貸金業者が保管場所の確保が困難であるなどという理由で、これを三年で廃棄したのであれば、その不利益は貸金業者において甘受すべきである。

四  また、被告は、原告の文書提出命令申立ては「文書の表示」(民訴法二二一条一項一号)が不特定であると主張するが、申立書の文書の表示の記載は本決定主文と同旨であり、文書の所持者である被告が該当文書を識別することができる程度に特定されている。よって、この点でも、被告の主張は理由がない。

(裁判官平野哲郎)

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