大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌家庭裁判所苫小牧支部 平成6年(少ハ)1号 決定 1994年6月07日

少年 K・H(昭48.12.4生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

(申請の要旨)

本人は、平成5年7月23日、当裁判所において強姦保護事件により中等少年院送致の決定を受けて北海少年院に収容され、同年8月31日、少年院法11条1項ただし書の規定による収容継続がなされたものであるが、平成6年7月22日の経過をもって収容期間が満了となる。

本人は、少年院の指導により、自己の問題性に対する認識が徐々に深まり、対人関係においても責任ある行動が取れるようになってきたことから、平成6年3月16日に1級上に進級し、出院準備教育課程に編入された。出院準備教育課程編入後は、時折気の緩みから軽率な行動をとることもあるが、自己の問題性に対する取組はまじめで、院内成績は良好である。ところで、少年院で設定した個別的処遇計画では、出院準備教育は4か月間であり、今後予定通り推移したとしても、本人の出院時期は7月中旬となるので、収容を継続しないと十分な保護観察期間を確保することができない。

また、本人の帰住予定地は両親の元であり、両親も本人の引受けには積極的に同意しているなど、本人と家族との間には親和感もあり、家族感情の面でも特段の問題は認められない。しかし、これまでの両親の養育姿勢を見ると、特に母親が本人に対して甘く、何でも本人の言いなりになってしまうような面があり、このような両親の養育姿勢が本人の自立心の育成を阻害し、自己統制力や規範意識の乏しさといった本人の問題性を助長してきたと認められる。したがって、本人の抱える問題性は施設内教育で相当程度改善されてはいるものの、保護者の本人に対する対応には厳しさに欠ける面があり、また、保護者には本人を自立した成人として適切に指導する力に乏しいと思われるので、出院後の社会生活において、本人が、職場への定着、健全な仲間関係の形成等の課題に取り組んでいく中で、周囲からの適切な助言指導が得られないと挫折するおそれも残っている。

以上の諸点を考慮すると、本人については、平成6年7月中旬に仮退院させ、仮退院に関する各種指導を実施することが必要であり、また、出院後も専門家による保護観察の下での指導援護が不可欠である。したがって、そのためには、収容を継続して3か月程度の保護観察期間を確保する必要があると思われる。

(当裁判所の判断)

1  本人は中学1年生のころから軽度な逸脱行為を繰り返すようになり、平成4年に普通免許を取得してからは、改造車を乗り回し、酒気帯び運転やスピード違反を繰り返すなど、社会規範を軽視し、刺激追及的な生活を送っていたものであるが、この間、平成4年12月10日に酒気帯び運転により交通短期保護観察に処せられたにもかかわらず、その生活態度を改めず、平成5年5月に成人共犯者とともに前件強姦事件を犯し、これにより、同年7月23日当裁判所で中等少年院送致の決定を受けた。

2  少年院においては、本人について、<1>自分本位な考え方を改め、周囲の人を理解し協調して行動できるようにさせる、<2>自分自身を傷つけるような行為をせず、自分への心配りが十分にできるようにさせる、<3>相手の立場や考え方を理解し、自制心や忍耐力を身に付けさせる、<4>健全な異性観を身につけさせる、という四点の個人別教育目標が設定された。本人は、中間期教育の集団生活場面において、感情的な反応や軽率な行動を散発させてD評定を受けたこともあるが、規律違反はなく、全体を通してみれば、自己の問題性の改善に向け積極的に課題に取り組んでいた。その結果、本人の問題として指摘されていた自己統制力の弱さ、自己中心性といった問題が徐々に改善されるようになり、平成6年3月16日付けで1級上の出院準備教育課程に編入された。出院準備教育課程編入後は、時折気の緩みから軽率な行動をとることもあるが、自己の問題性に対する取組はまじめで、総じて、院内成績は良好に経過している。

当庁家庭裁判所調査官による面接の結果及び本件審判の結果によっても、本人が自己の問題性に気付いた結果、従前から指摘されていた本人の性格上の問題が多分に改善されてきたことが認められるほか、本人が強い更生意欲を持っていることも認められる。

3  本人の出院後の帰住予定地は両親の元であり、両親も本人の引受けには積極的に同意しているなど、本人と家族との間には親和感もあり、家族感情の面でも特段の問題は認められない。また、本人の出院後の就労先も、前件時に就労していた建設関係の会社に内定しており、本人も在院中から出院後に備えて大工の勉強をしていたなど、就労には意欲的で、雇用主も本人を再雇用することには異存がないなど、本人の就労関係についても特段の問題は認められない。

4  両親は、本人の出院後は、雇用主の協力も得て、その監護態勢を強化したいと述べるなど、本人に対し強い監護意欲を示している。もっとも、従前から指摘されてきた母親の本人に対する監護態度の甘さという点は、今なお十分に改善されたとは言えないが、母親自身、本人が少年院に収容されたことを契機に、自己の監護態度の甘さが本人の問題性を助長させてきたことに気付き始めており、改善の兆しが認められなくもない。

5  以上によれば、確かに、本人には出院準備教育課程編入後も軽率な行動が認められるほか、母親の監護態度には未だ甘さが残っていることも認められ、これらの点を考慮すると、本人の予後には全く不安がないとは言い切れないが、本人に対する院内処遇は順調に推移し、本人の性格上の問題点は多分に改善されたと認められる上、本人の強い更生意欲、本人の出院後の社会の受け入れ態度、保護者の監護意欲等も考慮すれば、本人の犯罪的傾向は概ね矯正されたと認めるのが相当であり、残された問題は既に成人に達している本人の強い更生意欲と自覚に任せれば足りると思われる。したがって、本件においては、本人について出院後もなお保護観察を必要とする特別の事情は認められないというべきである。

なお、本件においては、少年院における個別処遇計画上、本人の収容を継続しないと十分な保護観察期間が確保されないことも申請の理由として挙げられている。確かに、施設内処遇は社会内処遇と有機的一体性をもって始めて十分な矯正効果を上げられると考えられるが、少年院法11条2項によれば、収容を継続するためには「犯罪的傾向がまだ矯正されていない」ことが必要であり、単なる個別処遇計画上の必要性は収容継続の理由にならないと解される。

以上の次第であるから、本件申請は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 栃木力)

〔参考〕収容継続申請書

北少発第××××号

平成6年5月16日

札幌家庭裁判所苫小牧支部御中

北海少年院庁嶋谷宗泰

収容継続申請書

少年院法11条第2項の規定に基づき、下記少年の収答継続を申請する。

1 氏名   K・H

2 生年月日 昭和48年12月4日生

3 事件番号 平成5年(少)第112号

4 事件名  強姦保護事件

5 本籍   北海道苫小牧市字○○××番地の××

6 住居   北海少年院在院中

7 決定日  平成5年7月23日

8 決定内容 中等少年院送致

9 入院日  平成5年7月27日

10 少年院法第11条第1項但書きによる収容継続満了日

平成6年7月22日

11 収容継続申請理由  別紙「収容継続申請理由」のとおり

12 収容継続期間の意見 平成6年7月23日から同年10月22日までの3か月間(本期間は保護観察の期間とする。)

別紙

収容継続申請理由

1 本少年は、平成5年12月4日をもって満20歳に達し、同年8月31日に決定された少年院法第11条第1項但書きによる収容継続期間は、本年7月22日で満了となる。

2 本少年に対しては、別添(1)「個別的処遇計画(表)」(編略)のとおり、個人別教育目標を設定し各処遇段階ごとに矯正教育を行ってきた。また、処遇経過及び成績については、別添(2)「処遇経過及び成績の概要」(編略)及び別添(3)「成績経過記録表(写)」(編略)のとおりである。

当院では、集会活動、担任教官を中心とした個別面接指導及び内観等を継続的に実施し、本少年の問題性である軽率な行動傾向や内省力の乏しさなどに対し集中的に改善指導を行うとともに、本件非行に対する反省を促してきた。また、寮内生活において役割活動や各種行事等に積極的に参加させることにより、健全な対人関係の在り方や責任感を育む指導を実施してきた。その結果、自己の問題に対する認識が徐々に深まり、対人関係においても責任ある行動が取れるようになってきたことから、本年3月16日付けで処遇の最高段階である1級上に進級し、出院準備教育過程に編入となっている。

出院準備教育過程編入後は、時折気の緩みから軽率な行動を取ることがあるものの、自己の問題性に対する取り組みはまじめであり、院内成績は良好である。

3 当初、当院で設定した個別的処遇計画では、出院準備教育期間は4か月間であり、今後予定通り推移したと仮定すると本少年の出院時期は7月中旬となり、この場合、保護観察期間が十分確保できないことになる。

4 本少年の帰住予定地は苫小牧市に居住する実父のもとである。保護者である実父母は少年の引受に対し積極的に同意しており、また、少年と家族の間には親和感があり、家族感情の面では特段の問題は認められない。しかし、これまでの実父母の養育姿勢を見ると、特に実母は少年が非行化したのは仲間が悪いからであるとして少年を甘やかし、何でも少年の言いなりになってしまうような過保護な面があり、そのような親の養育姿勢が少年の自立心の育成を阻害し、自己統制力や規範意識の乏しさといった少年の問題性を助長してきたことが認められる。さらに、「環境調整報告書」では、実母は本件非行の被害者に慰謝料を支払ったことで償いは済んだと考えているようであるとの指摘もあり、保護者の少年に対する監護力・指導力には依然として不安が残っている。

5 以上のとおり、本少年の抱える問題性は施設内教育で相当程度改善されているものの、保護者の少年に対する対応は厳しさに欠け、少年を自立した成人として適切に指導する力に乏しいと思われる。これらの点を踏まえると、出院後の社会生活において、職場への定着、健全な仲間関係の形成等の課題に少年が取り組んでいく中で、周囲からの適切な助言・指導が得られず、挫折するおそれが残る。

以上のことから仮退院として出院させ、さらに仮退院に関する各種指導(たとえば遵守事項を考えさせるなど)を実施することが必要であり、出院した後も専門家による保護観察の下で指導・援護が不可欠である。そのため3か月程度の保護観察を確保する必要があると思料する。

なお、本申請により収容継続が決定されることを前提として、本年7月12日を希望日とする仮退院申請を北海道地方更生保護委員会に行った。

6 添付資料(編略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例