大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌家庭裁判所 昭和62年(少)1453号 決定 1987年7月30日

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

1  少年は、Bと共謀の上、昭和62年3月22日午後1時05分頃、札幌市中央区○○×丁目××番××号○○株式会社車庫内において、同社所有のタイヤ4本(時価4万円相当)、C所有のタイヤ4本(時価20万円相当)及びD所有のタイヤ4本(時価6万円相当)を窃取したものである。

2  少年は、Bと共謀の上、札幌市白石区○○×丁目地下鉄○○駅前交差店付近を走行中のE(当時20歳)運転F(当時20歳)同乗の普通乗用自動車(登録番号、帯××も××××)を認めるや「なにして幅寄せするのよ」などと因縁をつけて両名を同市同区○○×丁目×番地○○公園に連れ込み、両名に対し「この車は盗難車でないか白状すれ」などと申し向けて困惑させ、両名をB運転車両に搭乗させた上、

(一)  昭和62年4月3日午前3時30分頃から同日午前4時頃までの間、札幌市内を転々と走行するB運転車両内において、こもごも前記両名に対し、ゴルフクラブや手拳で殴打し足蹴りする等の暴行を加え

(二)  同日午前4時頃、前記○○公園先路上に駐車中の前記E所有にかかるパーソナル無線機等を積載した前記普通乗用自動車1台(時価合計168万8000円相当)を窃取し

たものである。

3  少年は、Bと共謀の上、車の運転方法に因縁をつけて金品を喝取しようと企て、昭和62年4月9日午前1時30分ころから同日午前3時30分ころまでの間、札幌市中央区○○×丁目×番地付近路上、同区○○×丁目××番地○○パーキング、同市南区○○××番地×付近路上等において、G(当時21歳)及びH(当時21歳)の両名に対し、こもごも、その顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加えた上、「おとしまえをどうつけるんだ。逃げたりしたら轢き殺してやる。」などと脅迫して金品を要求し、右両名をして、もしこの要求に応じなければ右両名の生命、身体等にどのような危害が加えられるかもしれないと畏怖させ、よつて、前記場所等において、右Gから現金約1万2800円及びスピーカー等7点(時価合計約8万3000円相当)、右Hから現金約300円及び腕時計等3点(時価合計約2万8000円相当)の交付を受けてこれらを喝取し、その際の右暴行により、前記Gに対し、全治約10日間を要する右耳翼・上口唇・顔面挫傷の傷害を、前記Hに対し、全治約2週間を要する左乳突部・顔面・左耳翼・左大腿挫傷の傷害をそれぞれ負わせたものである。

4  少年は、Aと共謀の上、法定の除外事由がないのに、昭和62年7月17日ころ、札幌市北区○○町○○××番地×○○公園駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する水溶液約0.1立方センチメートルを自己の左腕部に注射し、もつて覚せい剤を使用したものである。

(適用法条)

1  非行事実1及び2(二)につき刑法235条、同法60条。

2  非行事実2(一)につき刑法208条、同法60条。

3  非行事実3につき刑法204条、同法249条1項、同法60条。

4  非行事実4につき覚せい剤取締法41条の2第1項3号、同法19条、刑法60条。

(処遇の理由)

1  試験観察に至る経緯等について

(一)  少年は、当庁昭和58年(少)第3499号虞犯保護事件(その主な内容は覚せい剤自己使用や恐喝を含む暴力団関係者との密接な交際)により中等少年院送致決定を受け、仮退院後さらに当庁昭和60年(少)第2242号、同第2598号覚せい剤取締法違反・窃盗保護事件により再び中等少年院送致の決定を受け、昭和61年8月14日帯広少年院を仮退院したものであるが、自己の将来に見通しも希望も見い出せない心境に陥り、更生の意欲も持てないまま急速に暴力団関係者と交際し始め、暴力団○○会○○興業の事務所に出入りするようになり、暴力団員B(当時20歳)と日常の行動を共にするうち、本件非行事実1ないし3の一連の犯罪を敢行するに至つた。

(二)  少年は、本件非行事実3により当裁判所に身柄付で事件係属したものであるところ、その非行の態様は、共犯者Bの極めて粗暴な言動に追従する格好で敢行されたとはいえ、暴力団組織が社会に与えている恐怖心をことさら利用して被害者に対し長時間にわたつて執拗かつ大胆な暴行、脅迫を加えているのであつて、極めて悪質である。そして、その非行の態様に照らせば、少年の暴力団に対する親和性や罪障感の希薄さは矯正されていないものと考えるべきであり、更に施設収容の上再々度矯正教育を施す必要があるといわざるをえない。

(三)  しかしながら、他方、本件非行事実3以後の少年の生活態度を振り返るならば、少年は、昭和61年10月頃、隅々、過去に恋人として交際していたI子と再会したことを契機として実父や叔父の塗装業の仕事を手伝つて稼働するようになり、次第に同女との夫婦生活に希望を持つようになつて本件共犯者Bのような短気で粗暴な人間、ひいては暴力団そのものに嫌気がさし、自ら願い出て前記○○興業を破門されるに至つた。その後少年は、昭和62年4月18日I子と婚姻し、同月21日、逃走するという考えを振り切つて自ら警察署に出頭したものである。

(四)  このように、本件非行事実3の態様は悪質なものであるが、少年がI子との再会をきつかけに自ら生活の目標を設定し、暴力団と絶縁し、自己の非を認めて警察に出頭したことは、過去の少年の行動にはみられない強い更生の意欲を感じさせるものであるから、直ちに少年を施設に収容するよりも少年を社会内に置き少年自らの努力によつて遵法精神と勤労意欲を身に付けさせることが有益であり、かつそのような処遇をすべき機会が到来しているものというべきであり、当裁判所は本件非行事実3につき少年を家庭裁判所調査官の観察に付することとした。

2  終局処分について

(一)  前記試験観察決定の後、本件非行事実3の余罪である本件非行事実1、2が当庁に係属したものの、少年は夫婦2人の家庭生活を維持するため真面目に働き安定した社会生活を送つていた。ところが、昭和62年7月17日、夜間若年の素行不良者等の溜り場を車で通りかかつたことがきつかけとなり、少年は、暴力団関係者Aの再三にわたる誘いに応じ安易な気持ちで本件非行事実4を敢行したものである。

(二)  このように少年は、試験観察期間中でありながら、自ら積極的に求めてではないにしろ、覚せい剤を使用しているのであつて、少年の覚せい剤使用歴を考慮すれば、その覚せい剤事犯に対する罪障感は未だ十分に自覚されていないものというよりほかはなく、今後少年の遵法精神を堅固なものとし、健全な社会生活を送るだけの資質を身に付けさせるには今一度施設に収容して矯正教育を施す必要があるものといわなければならない。

(三)  なお、少年は、本件非行事実4が発覚する端緒となつた任意同行手続において警察官の不当な有形力の行使のあつたことが不満である旨の陳述をしているが、その任意同行手続の推移が少年の当審判廷における供述や社会記録中の昭和62年7月29日付調査報告書の記載のとおりであつたとしても、任意同行及びこれに引き続く採尿手続が令状主義の精神を没却するような重大な違法を内包するものということはできず、したがつて、少年の陳述するところが本件非行事実4の認定及び終局処分の決定を左右するものではないと思料する。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 橋詰均)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例