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札幌家庭裁判所 昭和44年(少)2427号 決定 1969年12月19日

少年 H・N(昭二五・一・二一生)

主文

少年を札幌保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は、

(一)  昭和四四年五月○○日、○○○大学学生等有志主催による「中教審答申粉砕」を市民にアピールすることを目的とする集団行進及び集団示威運動に学生等約一八〇名とともに参加したものであるが、同集団行進及び集団示威運動に対しては、北海道公安委員会が、集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(昭和二五年九月二七日札幌市条例第四九号)第三条第一項に基づき、「だ行進、うず巻行進、いわゆるフランスデモ、すわり込み、他の梯団との併進、先行梯団の追い越し、または、ことさらなかけ足行進、おそ足行進、停滞その他これらに類する交通秩序をみだす行為をしないこと」との条件を付し、また、札幌北警察署長が、道路交通法第七七条第三項に基づき、「だ行進、うず巻行進、ことさらなかけ足行進等交通の妨害となるような行為をしないこと」との条件を付していたものであるにかかわらず、同日午後五時八分頃から同五時三三分頃までの間、札幌市○○○西○丁目、○○○大学正門前より同市○○○○西○丁目交さ点付近に至る道路上他一か所において、右集団第一梯団約八〇名の先頭隊列列外中間付近に位置して同集団に対面し、先頭隊列列員が横に構えた竹竿を掴み、笛を吹き、あるいは、携帯マイクで号令するなどして、右集団のだ行進、うず巻行進、ことさらなかけ足行進を指揮誘導して指導し、また自らもそのような行進をなし、

(二)  昭和四四年一一月○日午前六時三〇分頃、かねていわゆる○○○派の学生らによつて、閉鎖、占拠されていた札幌市△△△△西○丁目、○○○大学付属図書館において、同館における捜索、検証、差押の各許可状の執行ならびに少年らの排除、逮捕などの任務に従事する多数の警察官らの生命、身体に対して共同して害を加える目的をもつて、右図書館に多量のレンガ、コンクリート塊、火炎びんなどが準備されていることを知つて、A、B、C、D、E、Fとともに集合し、

(三)  同日午後六時三二分頃、前記図書館を管理する○○○大学学長○内○郎からすみやかに同館外に退去するよう要求を受けたにもかかわらず、その要求に応せず同日午前八時三〇分頃まで同館にとどまり、もつて故なく退去せず(なお、○○○大学学長の右退去要求を少年が聞き取ることができたかについて少年は明確な供述をしないが、同一一月△日、学長は、「学内の諸建物を封鎖中の学生に告げる」との告示を学内に掲示し、その中で封鎖中の建物からの退去を強く要請しており、また、その頃より警察官を導入しての封鎖解除の強行が学内外で論じられるようになり、少年もこれらのことは熱知していたのであるから、いずれにしても、建造物侵入の罪の成立を妨げない。)

(四)  A、B、C、D、E、Fと共謀のうえ、同日午前七時頃から同八時三〇分頃までの間、前記図書館において、同館における捜索、検証、差押の各許可状の執行ならびに少年らの排除、逮捕などの職務に従事し、あるいは従事しようとした北海道警察警視今野金三、同岸巖指揮下の多数の警察官に対し、レンガ、コンクリート塊、火炎びんなどを投げつけるなどの暴行を加え、もつて右警察官の前記職務の執行を妨害し、

(五)  前記六名と共謀のうえ、同日午前七時四四分頃から同八時二〇分頃までの間、前記図書館西側正面玄関屋上および同館四階バルコニーに積み上げてあつた国有財産である椅子、机、雑誌棚等八四点に火炎ビンを投げつけて火を放つてこれを焼燬したが、これにより右図書館自体への延焼の危険を生ぜしめ、もつて公共の危険を生ぜしめ

たものである。

(適条)

(一)の事実 集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例

同条例第五条、第三条第一項(昭和二五年九月二七日札幌市条例第四九号)

違反

道路交通法違反 同法第一一九条第一項第一三号、第七七条第三項

(二)の事実 兇器準備集合 刑法第二〇八条の二第一項

(三)の事実 住居侵入 刑法第一三〇条

(四)の事実 公務執行妨害 刑法第六〇条、第九五条第一項

(五)の事実 建造物等以外放火 刑法第六〇条、第一一〇条第一項

(本処分の必要)

少年は、○○○大学水産学部二年に在学中の学生であるが、その性格に粘着的傾向がみられる他には著しい偏よりはなく、素質、環境上の一般的な負因は格別みられない。高等学校在学中より持ち始めた社会問題、政治問題への関心は、大学進学後の家庭を離れて自由な生活と雰囲気の中で学生運動への積極的な参加へと発展し、その過程を通して少年は次第に資本主義体制に対する批判的思想を身につけるに至り、今日ではそれが少年の自我の中核部を占めるまでになつていることが認められる。本件非行に対しても、少年は一応そのような基本的な考え方との主観的な関連づけを行なつており、そこには興味半分よりの行動としての、あるいは、付和雷同的と行動としての要素は少ないと言える。

そのように言つても、もとより、このような行動が民主主義社会、法治主義国にあつて許容さるべきものでないことは言うまでもなく、法律的にも正当化しえないのは当然であつて、本件、とりわけ、(二)ないし(五)の、いわゆる○○○大学封鎖解除の際の暴力的、破壊的行動にあつては、その招いた社会的結果の重大性に鑑みても、一般予防的観点から、刑事処分を相当として検察官送致の決定をすることも充分考えられるところである。

しかし、そもそも、少年は必ずしもこのような暴力的、破壊的行動を是とする考え方は持つておらず、むしろ、それに対して批判的でさえあつて、時としてそのような行動に対して道徳的嫌悪感をも感じると供述する程であつた。少年が本件でこのような行動に出たのは、警察官を導入しての○○○大学封鎖解除という事態を目前にして一種の焦慮感を持つていたところへ、この一連の行動を組織、計画していた、いわゆる○○○派の指導的立場にあつた学生らが、検挙された際に処分が比較的軽くすむと予想その他の考慮より、少年ら七名を最後まで図書館内に残留する者として選び出したので、かねてより同派の主張に共鳴するところのあつた少年としてはそのような交渉を受けて引込みがつかなくなり、本件を敢行することになつたものと認められる。そして、今回、このような行動に出て検挙され、家庭裁判所での調査、審判の過程を通じて家族のことや学業のことなど現実的な課題にも充分目を向けなければならないことを知り、自己の行動を深く後悔、反省しているので、少年が今後同様の暴力的、破壊的活動に出ることはまず考えられないと言つてよい。経済的に必ずしも豊かでない家庭にあつて少年と親兄弟との間には緊密な感情的な結びつきがあり、それは本件を通じて一層強化されているうえ、保護者らにも少年の指導能力があるので、今後はそれらの事情も少年の違法な行動を抑制することが期待できる。

従つて、今後少年を健全に育成するためには、少年に広い視野にたつて物事を考えることの必要を自覚させる一助として保護観察に付することで一応充分と考えられるので、少年法第二四条第一項第一号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 村上敬一)

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