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札幌地方裁判所 昭和53年(ワ)5039号 判決 1979年6月08日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告は原告に対し金九九三万九六〇〇円及び内金九五三万九六〇〇円に対する昭和五一年一二月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて傷害を受けた。

1 日時 昭和五一年一二月二七日午後四時五〇分ころ

2 場所 札幌市豊平区中の島中央バス停留所(以下「本件停留所」という。)

3 加害車 営業用バス(札二二あ三三〇)

右運転者 訴外平島一治(以下「訴外平島」という。)

4 被害者 原告

5 事故の態様 原告が本件停留所で加害車(中乗り前降りのスライド開閉式扉のワンマンバス)に乗車しようとして左足をステツプにかけた途端訴外平島がドアを閉めはじめたため、原告の左足が引きこまれる形となり挟まれ、その際原告が足を抜こうとして力を入れたところ足指がつつた状態となつた。

6 結果

(一) 右事故により原告は、左下腿挫傷、左外傷性半膜様筋腱周囲炎、左ヒラメ筋痛の傷害を受けた。

(二) そのため原告は、本件事故日から昭和五二年一二月一二日まで北辰病院整形外科に通院、その後同月一四日から同月二八日まで幌南病院に入院して治療を受けた。

(三) 原告は、いまだに膝関節が正常に曲らないため正座ができず、歩行も波行状態、左下腿内後側に痛みがあり、長時間歩くとけいれんする等の後遺障害がある。

二  責任原因

被告は、加害車を所有し、自己の営業のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告が本件事故によつて被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

原告は本件事故により次の損害を被つた。

1 入院雑費 一万〇八〇〇円

入院日数一八日、一日当り六〇〇円

2 休業損害 二三三万〇八六〇円

原告は、昭和五一年七月から本件事故の生じた同年一二月まで訴外共同交通株式会社(以下「共同交通」という。)のタクシー運転手として稼働し、その間日収平均六六五九・六円を得ていたものであるが、本件事故による受傷のため同年一二月二八日から同五二年一二月一二日まで休業を余儀なくされた。

(算式 6659.6×350=2330860)

3 逸失利益 七六一万〇八九四円

(一) 原告は、事故後症状固定までの約一年間のうち一八五日間通院し、温熱療法、機能回復訓練等をくり返したが機能はほとんど回復せず、その後一年以上経過した昭和五四年三月一九日の診断によつても症状は変らず、原告のこれまでの症状経過からすると今後も機能回復の可能性は認められず、六七歳まで後遺障害が残存することは明らかである。

(二) 原告は、昭和五二年一二月一二日、症状固定との診断を受け、原告の後遺障害は自賠責保険後遺障害等級一四級に該当すると判定された。

しかして原告は、事故時満四一歳(昭和一〇年一月一日生)の健康なタクシー運転手であつたが、本件事故により左下腿の痛み、左下肢のけいれん等の自覚症状が残存し、事故前の職に従事することは不可能となつた。原告は、症状固定後職を求めてさまざまの努力を払つたが、いずれも足が不自由であること、あるいは高齢であることを理由に職を得ることができず、現在に至つている。そして、現在の雇傭情勢の下では原告の努力にも拘らず現在まで就職できなかつたことは同人の責任ではない。従つて、症状固定後現在までの労働能力の喪失率は一〇〇パーセントである。

また、原告の症状は左大腿内側部分及び左下腿中央内側の圧痛、左大腿下腿の筋萎縮著明、左股、膝、足関節の拘縮が認められ、左右の運動能力に明らかな差異があり、また、歩行時に左下腿内側に痛みがあり、正座、あぐらは不能、長時間歩行により左下肢のけいれんが生ずる等の自覚症状が存することからすると、原告の後遺障害は医学的にみても前記等級の一二級七号に該当するものである。仮りに医学的にみて一二級に該当しないものとしても、原告の職歴、同人がこれといつた特技、資格を有していないこと、同人の年齢、現在の雇傭情勢等の諸事情からすると、原告の再就職の途は今後も極めて困難である。従つて、原告の社会的経済的な労働能力喪失率は最低でも一四パーセントを下るものではない。

なお、原告の勤務していた共同交通は五五歳を定年としているので、原告の場合も右を定年として扱い、就労可能年数は六七歳までとするのが合理的である。

(三) よつて、原告の逸失利益は次のとおりとなる。

(1) 昭和五二年一二月一三日から同五四年三月三〇日まで三一四万九九九〇円

(算式 6659.6×100/100×473=3149990)

(2) 昭和五四年三月三一日から同六五年三月三一日(五五歳)まで二九三万一二六七円

(算式 6659.6×365×14/100×8.5901≒2931267)

(3) 昭和六五年四月一日から同七七年三月三一日(六七歳)まで一五三万七六四六円

定年後は収入が三割程度減ずるものとして計算する。

(算式 6659.6×7/10×14/100×6.4549≒1537646)

(4) 右の総合計 七六一万八九〇三円

4 慰藉料 二三九万二〇〇〇円

(一) 入院慰藉料 一〇万円

前記入院期間等によると右金員が相当である。

(二) 通院慰藉料 七二万二〇〇〇円

前記通院期間等によると右金員が相当である。

(三) 後遺症慰藉料 一五七万円

原告の後遺障害は実質的には一二級七号に該当するものであるから、右金員が相当である。

5 損害の填補 二八一万二九六三円

原告は被告から二二五万二九六三円を、自賠責保険から後遺障害に対する保険金として五六万円を受領した。

6 弁護士費用 四〇万円

四  よつて、原告は被告に対し、金九九三万九六〇〇円及び内金九五三万九六〇〇円に対する本件事故発生日である昭和五一年一二月二七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項1ないし4の事実は認める。5、6は否認する。

二  同第二項のうち、被告が運行供用者であることは認める。

三  同第三項のうち、1ないし4は争う。但し原告が後遺障害等級一四級に判定されたことは認める。5は前段は認める。6は原告が本訴追行を原告代理人に委任したことは認める。

(抗弁)

一  和解契約

本件事故について昭和五二年一月二七日に被告は原告との間で、被告が原告に対し本件事故にかかる一切の損害について二〇万二九六三円を支払うことで和解が成立した。

二  過失相殺

本件事故の態様は以下のとおりである。

訴外平島は本件停留所で加害車を停車させ、乗客一名を乗せ、他に乗客はいないことを確認して、ドアを閉める操作をした。ところが、原告はドアがまだ閉りきつていないのを見て乗りこもうとして左足からかけこんだところ、ドアに左足をすくわれた状態になつた。しかし、訴外平島はその際ドンという音がしたため直ちにドアを開ける操作をし、そのため原告は足を挟まれずに済んだ。

右のとおり、本件事故は原告のいわゆるかけこみ乗車という重大な過失により生じたものであり、右過失は原告の損害額を算定するにあたり斟酌されるべきである。

(抗弁に対する認否)

一  抗弁一について

原告が被告との間で被告主張日時に示談契約書を作成したことは認める。しかし、右は事故後わずか三〇日経過した時点で被告の強い要請があり、しかも当時あと二週間程で治ゆするとの診断があつたことから示談契約書の調印に応じたものであり、原告としては示談後にも治療が長期間に亘り後遺症までも残るということは全く予測しておらず、また、予測もできなかつたのである。従つて、右は示談後に予想外に増大した本訴請求の損害賠償請求権まで放棄したものではない。

二  抗弁二について

争う。本件事故は本件停留所で原告他三名がバスを待つていたところ、乗客二名のみが乗車した時点で訴外平島がドア閉めてしまつたが、再びドアが開いたので、まず原告が乗車しようとしたところ、訴外平島は原告の乗車を十分確認しないままドアを閉じる操作をしたためステツプにかけた原告の左足を挟んでしまつたものであるから、本件事故は訴外平島の一方的過失によるものである。

(再抗弁)

一  錯誤無効

本件和解契約は、原告が本件事故による傷害が真実は相当長期に亘る治療を必要とするにも拘らず、昭和五二年一月一二日当時の医師の診療見込期間が二週間程の通院との診断であつたため軽傷と誤信し、これを前提として締結されたものである。従つて、原告の前記和解契約における意思表示は、その重要な部分に錯誤があり無効である。

(再抗弁に対する答弁)

否認する。

第三証拠 〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一の1ないし4は当事者間に争いがない。

そこで、本件事故の態様について検討するに、右当事者間に争いのない事実に成立に争いのない甲第二、第三号証、同甲第二五号証、同乙第一号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第一〇号証、証人平島一治の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると次の事実を認めることができる。即ち、

訴外平島はいわゆるワンマンの定期バス(平岸線)を運転し、本件停留所にさしかかつたのであるが、当時予定時刻より二〇分程度遅れていたため先を急いでいた。訴外平島は本件停留所で本件加害車を停止させ、乗客一名を乗車させたのち、もはや他に乗客はいないものと考えドアを閉めるべくレバー操作をしつつ、それが閉まるのを確認することなく右バツクミラーに目を移し後続車両の存否の確認をし、発進の態勢にはいつた。

そのころ、原告は遅れて乗車口にいたり、閉まりかかつているドアに左足をかけて乗りこもうとしたが間に合わず、左足が閉まつてくるドアにすくわれる形となり、急いで足を抜いたが、その際足がつつた状態となり、また、瞬間的にはドアに足を挟まれる結果となり負傷した。訴外平島は物音に気づき急いで左バツクミラーをみると原告がドアの外に立つていたので再びドアを開け原告を乗車させて発進したが、原告は訴外平島に対し、とくに足の異常を訴えることもなく豊平郵便局前で下車した。以上の事実を認めることができる。ところで原告は「原告の前にいた乗客二名が乗車すると原告と他の一名の客がいたのにドアが閉まつた。不思議に思つていると再び開いたので、まず原告が乗車すべく両足をステツプに乗せたところ、ブザーが鳴つて再びドアが閉まりはじめたので急いで右足をおろしたが、左足は間に合わずドアに挟まれた」旨の供述をするのであるが、いつたん閉まつたドアが原告他一名の客に気づき再び開いたものとすれば、残りの客のうち最初の客の原告が乗車途中で再びドアを閉めるということは考えられないし、また、両足をステツプに乗せた段階でブザーが鳴つたものとすれば、ドアが閉まるまで若干の時間的余裕もあリ、しかも乗車すべくステツプに両足をかけているのであるから、バスの外に降りるよりそのまま乗りこむ方を選ぶのが常識的行動であり、原告が乗りこむのに特段の支障があつたと認める証拠もないこと(因みに原告本人尋問の結果によれば、当時加害車は混んでいなかつたことが認められる)及び証人平島一治の証言に照らすと右供述は信用し難いし、また、証人平島一治は「原告はドアに挟まれていないと思う」旨の証言をするが、右は原告が挟まれている状態を目撃していないことに推論の根拠をおくものと考えられ、また、前掲甲第二五号証により認められる原告の挫傷部位が左下腿内側であることに照らすと、右証言もまた右認定を左右するに足りるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない(右にみたとおり原告の左下腿挫傷部位が左足の内側であることは左側から閉まつてくるドアによる打撃ではなく、挟まれた際に生じたものと推認される。尤もドアに挟まれることによる衝撃は証人平島一治の証言によると、本件ドアは中ほどまでは比較的早く閉まるがそれ以後はゆつくり閉まること、ドア及びこれを受ける車体側にはゴムによる緩衝設備があることが認められるから、その程度はさほど強くなかつたと考えられる)。

二  責任原因

被告が本件加害車の運行供用者であることは当事者間に争いがないから、被告は自賠法三条により本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1  受傷治療経過等

原告の後遺障害が自賠責保険後遺障害等級一四級に該当すると判定されたことは当事者間に争いがなく、これと成立に争いのない甲第四ないし第七号証、同甲第二三、第二四号証、甲第二五号証、成立に争いのない乙第二ないし第四号証、同乙第六号証、同第八号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は右事故により左下腿挫傷、外傷性半膜様筋腱周囲炎、左ヒラメ筋痛の傷害を受けたこと、原告は本件事故の翌日から北辰病院に治療のため通院し、当初は左下腿挫傷との診断を受け、昭和五二年一月一二日ころにも休業通院二週間を要するとの診断であつたが、原告の自覚症状はその後も回復せず、前記傷病名の下に前記病院に昭和五二年一二月一二日まで通院治療を受け(治療日数一八五日)、遅くとも右同日症状固定となつたこと。原告の受傷の程度は前記当初のころの診断結果等から原・被告双方とも軽傷と考えていたこともあり、事故扱いをしていなかつたところ予期に反し治療が長期化したため、原告は被告の協力を得て書類を整備し北辰病院の昭和五三年二月六日付診断書(甲第四号証)を添え自賠責保険の請求手続をとつたが、後遺症については昭和五三年三月後遺障害は存しないとの理由で不支給通知を受けたこと、そこで原告は再度請求手続をとり最終的には後遺障害等級一四級に該当するとの判定を受けたこと、原告は右症状固定時において他覚的にも左大腿半膜様筋部、左下腿ヒラメ筋部に圧痛があリ、また、大腿及び下腿の周囲径は右足に比し左足はそれぞれ一センチメートル、二センチメートル少なく、正座は不能(左側に踵臀部間隔四センチメートル)であり、自覚症状として歩行時の左下腿内後部の痛み、長時間歩行すると左下腿にけいれんがくる等を訴えており、今日でも左足内側にときどき刺しこむような痛みがある等ほぼ同様の自覚症状を訴えていることを認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。そして、成立に争いのない甲第一号証、同乙第七号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、右のほか原告は前記北辰病院に通院中の昭和五二年一一月九日左膝の関節痛を訴えて北海道大学医学部付属病院で診察を受けたところ左内側半月板損傷の疑いがあるとされ、同病院の指示により同年一二月一四日から同月二八日まで幌南病院に入院し検査を受けたが、検査結果は正常で半月板損傷の所見なく、経過観察のみとされたことが認められる。

2  入院雑費 四五〇〇円

右のとおり原告は昭和五二年一二月一四日から同月二八日までの一五日間入院したことが認められるが、それは治療のためではなく検査のため(本件事故との関連が疑われる半月板損傷の疑)であつたこと等前記認定事実関係に照らすと本件事故と相当因果関係のある入院雑費としては一日三〇〇円の割合による合計四五〇〇円を要したものと認めるのが相当であり、右を越える分についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

3  休業損害 二三三万〇六五〇円

原告本人尋問の結果により成立を認める甲第一四号証の一・二、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一七、第一八号証、原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五一年七月六日から同年一二月二七日まで共同交通にタクシー運転手として勤務し、給与としてその間合計一〇一万六六二一円を、燃料手当として昭和五一年分八万〇五〇〇円、昭和五一年五月から同年一一月まで半年分の賞与として一二万八四一六円を各得ていたことが認められるから、事故当時の原告の平均日収は原告主張の六六五九円(円未満切捨)を下廻ることはないと認められる。

しかして原告は事故の翌日の昭和五一年一二月二八日から同五二年一二月一二日まで休業を余儀なくされたものと認められるから原告の休業損害は二三三万〇六五〇円となる。

4  逸失利益 五三万〇三七九円

原告の症状は昭和五二年一二月一二日固定し、最終的には自賠責保険後遺障害等級一四級に該当するものとされたこと既にみたとおりであるところ、原告は、原告の後遺障害は右の後遺障害等級一二級七号に該当する旨主張するが、甲第四号証、甲第二四号証、乙第九号証によれば、膝関節の機能はほぼ正常であり、また、股関節、足関節にも格別の機能障害(運動可能領域が健側の運動可動域の四分の三以下に制限)があるとの証拠はなく、他に右主張を認めるに足りる証拠もないから、前記1認定の原告の後遺障害は自賠責保険後遺障害等級一四級の一〇号(局部に神経症状を残すもの)に相当するものと認められる。

そして、甲第四号証、成立に争いのない甲第二三号証、甲第二五号証、乙第六号証、乙第八号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は昭和五二年四月ころから理学療法に加えて機能回復訓練を続けてきたが同年一二月に至るも十分機能回復しなかつたこと、しかし、他方本件受傷の原因からしてその打撲そのものは強度のものではなかつたこと、原告は既に昭和五二年九月三〇日に症状固定同年一一月七日には就業可能との診断をされたことがあリ、これに不服の原告は北海道大学医学部付属病院で検査を受けたが半月板損傷はなく膝関節の機能は略正常との診断であつたことが認められ、また、原告の後遺障害が器質的損傷に基づくとの明確な証拠もないことを勘案すると、原告の前記後遺障害は症状固定後五年ほど継続するものと認めるのが相当である。

よつて、原告は右稼働可能期間を通じて前記後遺障害により労働能力を平均五パーセント喪失したものと認めるのが相当であるから、前記原告の平均日収に基づき中間利息の控除につき年別ホフマン方式計算法を用いて原告の逸失利益を算定すると五三万〇三七九円となる(なお、原告は、原告がタクシー運転手であつたことを強調するようであるが、原告本人尋問の結果によると、原告は事故当時までの過去の職歴中職業運転手として稼働していたのは合計でも一年二か月にすぎないものであり、また、原告が症状固定後も職を得られず収入がないことは右本人尋問の結果により認められるが、前記後遺障害の程度に照らすと労働能力の喪失率は前記五パーセントをもつて相当と認める)。

(算式 6659×365×5/100×4.3643≒530379)

5  慰藉料 一二〇万円

原告の傷害の部位程度、入・通院期間とその内容、後遺障害の程度等諸般の事情(但し、後記過失相殺事由を除く)を勘案すると、本件事故による受傷についての原告に対する慰藉料は一二〇万円をもつて相当と認める。

6  過失相殺

前記一でみたとおり、原告は遅れて乗車口にいたり、ドアが既に閉まりかかつているのに無理に乗りこもうとした(いわゆるかけこみ乗車)ものであるから、同人にも相応の過失のあることは明らかであるところ、前認定事実より認められる訴外平島の過失(訴外平島は公共輸送機関のワンマンバスの運転手であるから、停留所における待客の有無動向、乗車の際の安全等に十分注意し、自動ドアを閉める際にも閉め終るまでバツクミラー等で安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある)その他の事情に鑑みると過失相殺として原告の損害の四〇パーセントを減ずるのが相当である。

そうすると、被告が賠償すべき損害額は右2ないし5の合計四〇六万五五二九円の六割に相当する二四三万九三一七円(円未満切捨)となる。

7  損害の填補 二八一万二九六三円

原告が被告から二二五万二九六三円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、原告が自賠責保険から五六万円を受領したことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

四  ところで、被告は二〇万二九六三円を支払うことで和解契約が成立している旨主張するので付言すると、前記三の1にみたとおり右は事故後一か月程のちの時点でなされ、金額も比較的僅少であること及び原・被告双方とも右契約時点においては原告の症状は早晩治ゆするものと予測し、これを前提として和解したものと推認されるから、右契約において原告が放棄した請求権は示談当時予想されていた損害に関するもののみと認めるのが合理的であるが、原告が限定的に放棄した請求権の範囲について問うまでもなく既にみたとおり原告の全ての損害は填補済みであるということができる(従つて、弁護士費用の請求も理由がない)。

五  結論

以上のとおりであるから原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宗宮英俊)

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