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札幌地方裁判所 昭和53年(ワ)5009号 判決 1979年3月30日

甲、乙事件原告 山崎澄江

<ほか二名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 磯部憲次

甲事件被告 高見勇

右訴訟代理人弁護士 村松弘康

乙事件被告 ニューインディア保険株式会社こと ザ・ニューインディア・アシュアランス・カンパニー・リミッティッド

日本における右代表者 平剛

右訴訟代理人弁護士 牧口準市

右訴訟復代理人弁護士 大萱生哲

主文

一、被告高見勇は原告山崎澄江に対し、金二六六万五五九九円及び内金二四六万五五九九円に対する、原告山崎啓子に対し、金二三六万五五九九円及び内金二一六万五五九九円に対する、原告山崎ひとみに対し、金二三六万五五九九円及び内金二一六万五五九九円に対するそれぞれ昭和五一年一二月八日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二、被告ニューインディア保険株式会社ことザ・ニューインディア・アシュアランス・カンパニー・リミッティッドは原告山崎澄江に対し、金二六六万五五九九円及び内金二四六万五五九九円に対する、原告山崎啓子に対し、金二三六万五五九九円及び内金二一六万五五九九円に対する、原告山崎ひとみに対し、金二三六万五五九九円及び内金二一六万五五九九円に対するそれぞれ昭和五一年一二月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告らのその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

五、この判決は第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

甲事件、乙事件

一、請求の趣旨

1  甲事件被告高見勇(以下被告高見という)は甲、乙事件原告山崎澄江(以下原告澄江という)に対し、金七七九万〇二八三円及び内金七四九万〇二八三円に対する昭和五一年一二月八日から完済まで年五分の割合による金員を、甲、乙事件原告山崎啓子(以下原告啓子という)及び甲、乙事件原告山崎ひとみ(以下原告ひとみという)に対し、各金六九九万〇二八三円及び内金六六九万〇二八三円に対する昭和五一年一二月八日から完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

2  乙事件被告ニューインディア保険株式会社ことザ・ニューインディア・アシュアランス・カンパニー・リミッティッド(以下被告会社という)は原告澄江に対し、金七七九万〇二八三円及び内金七四九万〇二八三円に対する昭和五一年一二月八日から完済まで年五分の割合による金員を、原告啓子及び原告ひとみに対し、各金六九九万〇二八三円及び内金六六九万〇二八三円に対する昭和五一年一二月八日から完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第一、二項につき仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

甲事件、乙事件

一、請求の原因

1  事故の発生

山崎正行は次の交通事故(以下本件事故という)により死亡した。

(一) 発生日時 昭和五一年一二月八日午後六時二〇分頃

(二) 発生場所 札幌市白石区菊水九条三丁目先国道一二号線上(以下本件道路という)

(三) 加害車 普通貨物自動車(以下本件加害車という)

(四) 右運転者 被告高見

(五) 被害者 山崎正行

(六) 事故の態様 被告高見は本件加害車を運転して本件道路上を東(厚別方向)から西(東橋方向)に向かい時速約五〇キロメートルで進行中、同道路を南側から北側に自転車に乗って横断していた山崎正行に衝突して、同人を転倒させた。

(七) 結果 右衝突のため山崎正行は右側頭骨骨折、脳挫傷等の傷害を負い、即死した。

2  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一) 被告高見は本件加害車を運転中、前方注視義務を怠った過失によって、本件事故を惹起させたのであるから、民法七〇九条により後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告会社は保険会社であって被告高見との間に本件加害者が第三者に与えた自動車事故の損害について填補する旨の自動車損害保険契約を締結した。

前記の如く保険事故が発生したので、被告高見は被告会社に対して保険金の範囲内で保険金支払請求権を取得した。被告高見は原告らが本件事故により受けた損害を支払う能力がなくかつ自己の債務を履行して被告会社に保険金給付の請求をしないので、原告らは民法四二三条により被告高見に対する交通事故に基づく損害賠償請求権を保全するため、右高見に代位して保険金の支払を求める。

3  損害

原告らは本件事故により次の損害を被った。

(一) 葬儀費用 五〇万円

原告澄江は昭和五一年一二月九日及び一〇日山崎正行(以下被害者という)の葬儀を行い、その費用として五〇万円を支出した。

(二) 逸失利益 二三〇七万〇八五〇円

(1) 被害者の年令、職業、稼働期間

① 年令 満四七歳(昭和四年三月七日生

② 職業 中山機械株式会社札幌工場勤務

③ 稼働期間 満四七歳から六五歳まで一八年間

(2) 被害者の収益及び生活費

被害者の前記勤務会社における昭和五〇年一二月から翌五一年一一月までの一年間の給与、手当合計は三〇五万〇九二五円である。

被害者の生活費は右収入の四割とみるのが相当であり、従ってその生活費を控除した純年収は一八三万〇五五五円である。

(3) 被害者の得べかりし収益の現価

被害者が前記純収益をその死亡時において一時に請求するものとして、右収益から複式(年別)ホフマン計算法に基づき年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、その現価は二三〇七万〇八五〇円となる。

算式  1,830,555×126,032=23,070,850 (少数点以下切捨)

(三) 慰藉料 一二〇〇万円

原告澄江は被害者の妻、原告啓子、同ひとみはそれぞれ被害者の長女、次女であるが、原告らは本件事故によって原告らの家庭生活の主柱ともいうべき被害者を失い、甚大な精神的苦痛を受けた。原告らの慰藉料は各自四〇〇万円合計一二〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 一二〇万円

原告らは本件訴訟の追行を原告ら代理人に委任し、弁護士費用として一二〇万円を支払うことを約した。

(五) 相続

原告らは被害者とは前記3の(三)の身分関係にあったので、被害者の死亡によって、被害者の逸失利益二三〇七万〇八五〇円の損害賠償請求権をそれぞれ三分の一にあたる七六九万〇二八三円(円未満切捨)ずつ相続により承継した。

(六) 損害のてん補 一五〇〇万円

原告らは本件事故につき、自賠責保険金として各五〇〇万円(合計一五〇〇万円)受領した。

4  よって原告澄江は被告高見及び被告会社に対し、それぞれ七七九万〇二八三円及び右金員から弁護士費用を控除した七四九万〇二八三円に対する本件事故の日である昭和五一年一二月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告啓子、同ひとみは、被告高見及び被告会社に対し、それぞれ六九九万〇二八三円及び右金員から弁護士費用を控除した六六九万〇二八三円に対する本件事故の日である昭和五一年一二月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する答弁

1  被告高見

(一) 請求原因第1項は認める。

(二) 同第2項(一)は否認する。

(三) 同第3項中、被害者の年令、職業、原告らと被害者との身分関係、原告らが被害者の相続人であること、原告らが自賠責保険金一五〇〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は不知。

2  被告会社

(一) 請求原因第1項は認める。

(二) 同第2項(一)中、高見が本件加害車を運転し、本件事故を惹起させたことは認めるが、その余の事実は否認する。同項(二)中、保険契約の締結は認めるがその内容は否認する。高見の支払能力は不知、保険金給付請求権の発生は争う。

(三) 同第3項(一)ないし(三)は不知、同(四)中、弁護士に委任した事実は認めその余の事実は不知、同(五)中、相続関係は認めその余は不知、同(六)は認める。

三、抗弁

1  被告高見の抗弁

事故現場は車輛の通行が激しく、折からの小雨模様で路面が暗く見通しが良くなかったのであるから、自転車の運転者としては、前照燈を点燈して自車の存在を対向車輛に知らせるべきはもちろんのこと、横断する際には左右の安全を十分に確認し、走行車輛の通過をまって横断を開始するなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、山崎正行はこれをいずれも怠り、折から走行中の被告車輛とその前方車輛の約五〇メートルの車間に割り込み横断しようとした過失により被告車輛に接触転倒したものであって、山崎正行の右過失が本件事故の発生に寄与しているから、損害額の算定に当ってはこの点を斟酌すべきである。

2  被告会社の抗弁

(一) 免責の抗弁

被告会社と被告高見勇間の自動車保険契約では満二六歳以上の者が運転し事故が惹起された場合のみ被告会社が損害保険金を負担するという若年運転者制限特約が存在する。本件事故を惹起させた運転者たる高見は当時満二三歳であるから、被告会社は右特約により損害保険金を支払う責任はない。

(二) 過失相殺の抗弁

本件道路は国道一二号線であって、車輛の通行も激しく幅員も一六メートルであって、横断歩道でなければ横断するのに困難な場所であり、そのため車道と歩道には防護柵も設置されている。しかも本件事故当時は小雨で暗く見通しの悪い状況にあった。被害者は昭和四六年三月二日にもほぼ同じ場所で交通事故にあい、危険な場所であることを熟知しながら、横断しようとして本件事故となったものである。そしてその衝突位置も、歩道端から六・六メートルの地点であり、本件道路のほぼ中央に位置し、当時被告高見は前車と五〇ないし六〇メートルの間隔で走行していたが、その間を被害者は通過しようとしたものである。したがって検察官においても、自殺の可能性も認め、補充捜査をしているものであり、その結果自殺の可能性が否定されたものの、略式手続で罰金一五万円の軽い刑に終った。

以上の状況のもとにおいては、被告高見において被害者が加害車の直近を横断するということはないと信頼し運転走行したものというべきであるから、同被告には過失はない。仮に過失が認められるとしても、被害者にも重大な過失が存在する。

四、抗弁に対する認否

被告らの抗弁事実はいずれも争う。

第三、証拠《省略》

理由

第一、被告高見に対する請求

一、請求原因第1項の事実(事故の発生)は当事者間に争いがない。

二、責任原因と過失割合

1  被告高見の過失の有無

被告高見が本件加害車を運転して本件道路上を東(江別方向)から西(東橋方向)に向かい時速約五〇キロメートルで進行中、同道路を南から北に向かって自転車に乗って横断していた被害者に衝突して同人を転倒させたことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、

(一) 本件現場は東西に通ずる幅員約一六メートルのアスファルトで舗装された国道一二号線(札幌、旭川間)であり、直線で見通し良好な場所である。本件事故発生地点の道路に対し、やや直角に四・五メートルと七・九メートルの変形道路が交叉している。この交叉した道路付近には横断歩道がなく、歩道と車道は防護柵をもって区別されている。本件事故当時小雨模様で路面はぬれておりうす暗かったが、本件事故現場の道路には街路燈が設置されていた。本件現場はバスその他車両の通行が多いが、同場所を横断する歩行者も少くなかった。

(二) 被告高見は本件事故現場付近には歩道と車道の区切りに防護柵があり、まさか中央車線上に自転車で横断する人間があらわれるとは考えず、又当日荷物が少なかったこともありそのことを気にしながら運転していたため、被害者の発見が遅れ約三メートルの至近距離で被害者を認めたが、ブレーキをかけるいとまもなく衝突し、同人を自転車もろとも約四、五〇メートル引きずったこと。

(三) 被害者は事故当日、勤務先の会社からの帰途、実父母の家に自転車で立ち寄り夕食をすませ、自宅に帰る途中、本件事故現場から東橋方向へ約二〇〇メートルの地点で、被害者の実家から自宅に帰る途中に横断歩道があるのに、前記国道一二号線の歩道を通らず、前記交差道路のうち豊平方向の道路を通行し、国道一二号線上を米里方向に向かって自転車に乗って横断中、本件事故にあったものである。

(四) 本件道路は前記認定のとおり地理的に見通し良好な道路であるばかりでなく、本件事故当時加害車に先行する車輛としては前方約五、六〇メートルの地点を同方向に走行する普通乗用自動車があったのみで進路前方の視野を妨げるものはなく、天候は小雨模様ではあったが、本件事故現場付近の道路両側には街路燈が設置されていたので被告高見が本件道路を横断中の被害者を発見するにそれ程困難な状況になかった。

(五) しかるに被告高見は進路前左方の注視を尽くさず漫然と加害車を運転していたため被害車の発見がおくれ、本件事故の発生を回避することができなかったものである。

以上のとおり認めることができ、右認定に反する被告高見勇本人尋問の結果の一部は前掲証拠に照らし信用し難い。

よって被告高見は民法七〇九条により本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告高見の過失相殺の抗弁に対する判断

前記認定事実に照らせば、本件事故の発生には被害者が自宅への帰途に横断歩道があるにもかかわらずこれを横断せず、接近してくる加害車の直前をあえて自転車で走り抜けようとした被害者の過失も寄与していることが明らかであって、本件事故に対する過失割合は被害者に四、被告高見に六と認められる。

三、損害

1  葬儀費用 金五〇万円

《証拠省略》によれば、被害者の葬儀費用として少くとも五〇万円を要し、原告澄江が右費用を負担したことが認められる。

2  被害者の逸失利益 金二三八二万八〇〇〇円

《証拠省略》によれば、被害者の年令、職業、原告らが被害者の相続人であることは原告ら主張のとおりであることが認められる(ただし原告らと被告高見との間においては右事実は争いがなく、右事実中、被害者と原告らとの身分関係は原告らと被告会社間に争いがない)。

(一) 平均年収 金二五〇万円

《証拠省略》によれば、被害者の昭和五〇年一月ないし同年一二月までの給与所得は二七〇万三六一五円であるところ、四月に給与が改定されるので、昭和五〇年一二月から同五一年一一月までの給与所得は右金員を上回ると考えられるが、被害者の勤務する会社には定年制があり五五歳で退職し、その後は嘱託として残れても、給与体系は別になり、定年前の給与所得額より相当程度減少することが認められる。したがって逸失利益の算定の基準となる平均年収は二五〇万円とするのが相当である。

(二) 被害者の生活費 右収入の三割とみるのが相当である。

(三) 稼働可能年数 六七歳までの二〇年間と解する。

(四) 中間利息の控除 複式年別ホフマン計算法(係数一三・六一六)

(計算式)

2,500,000×0.7×13.616=23,828,000

原告らは右損害賠償請求権を三分の一宛相続により取得した。

3  慰藉料 金一二〇〇万円

原告澄江は被害者の妻、原告啓子、同ひとみはそれぞれ被害者の長女、次女であることは前記認定のとおりであり、《証拠省略》によると、原告らは本件事故によって一家の支柱ともいうべき被害者を失い、甚大な精神的苦痛を被ったことが認められる。原告らの右精神的苦痛を慰藉すべき額はそれぞれ四〇〇万円ずつ合計一二〇〇万円とするのが相当である。

4  過失相殺

原告澄江の1ないし3の損害金合計は一二四四万二六六六円(円未満切捨)原告啓子、同ひとみの23の損害金合計は一一九四万二六六六円(円未満切捨)になるところ、前記認定の過失割合を斟酌すると、被告高見に負担させるべき損害額は原告澄江に対し七四六万五五九九円、原告啓子、ひとみに対し各七一六万五五九九円となる(円未満切捨)。

5  損害の填補

原告らが自賠責保険から一五〇〇万円の支払いを受けたことは原告らの自認するところであるから、右金員を各自相続分に応じてそれぞれ控除すると、本訴において認容すべき原告澄江の被った損害は二四六万五五九九円、原告啓子、同ひとみの損害は各々二一六万五五九九円となる。

6  弁護士費用 金六〇万円

原告らが本件訴訟の追行を原告ら代理人に委任したことは当事者間に争いがなく、本件事件の性質、認容すべき額その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、被告らに賠償せしめるべき弁護士費用の額としては、原告ら各自につき二〇万円ずつ(合計六〇万円)とするのが相当である。

四、結語

よって被告高見は原告澄江に対し金二六六万五五九九円及びうち弁護士費用を控除した金二四六万五五九九円に対する、原告啓子、同ひとみに対し各金二三六万五五九九円及びうち弁護士費用を控除した各金二一六万五五九九円に対する、それぞれ本件事故の日である昭和五一年一二月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

第二、被告会社に対する請求について

一、被告会社は本件事故の発生につき、被告高見は無過失である旨抗弁するが、本件証拠上これを認めるに足りず、かえって前記認定のとおり被告高見に過失があったことが明らかであるから、右抗弁は失当である。

二、被告会社の相殺の抗弁に対する判断は、被告高見の過失相殺の抗弁に対する判断と同一である。

三、被告会社の免責の抗弁に対する判断

被告会社と被告高見間の自動車保険契約において「満二六歳以上の者が運転し事故が惹起された場合のみ被告会社が損害保険金を負担する」という若年運転者制限特約が存在したか否かにつき検討する。

《証拠省略》を総合すれば、

被告高見は訴外柴田義昭と義兄の岸野良博の三人で自動車を購入して運送に関する仕事を一緒にすることになり、柴田が被告会社の保険に加入していたので、柴田は昭和五一年一〇月一八日被告会社の代理店に勤務している訴外吉田昌美(以下訴外吉田という)に「自分の知り合いの者が自動車を買うので保険の加入手続を頼む」との話をしたこと、被告高見は訴外吉田から昭和五一年一〇月下旬頃、車の型式、車両ナンバーを教えてほしいとの電話を受けたが、納車期が同年一一月初めなのでディーラーの方に聞いてみてほしいと返答したこと、同年一一月上旬頃、訴外吉田から再度電話があり、保険料二万八〇〇〇円を振り込んでくれれば保険が効力をもつと言われ右吉田名義に保険料を振り込んだところ、被告会社から、若年運転者制限特約の年令条件について何ら明記していない自動車保険契約の明細書(甲第八号証)と「被告高見が被告会社と自動車保険契約を締結したことに対する御礼のあいさつと、申し込み書(前記契約の明細書、甲第八号証)のコピーを同封する」との内容の書類が送られてきたこと、その後同年一一月下旬か一二月初旬頃になって、若年運転者制限特約について年令条件の付された保険証券(甲第七号証の12)が送られてきたこと、訴外吉田は被告高見に前記申込書(甲第八号証)を送付したのち、若年運転者制限特約の年令条件を明記していなかったことに気づき年令条件を明記して保険証券(丙第一号証)を作成し被告会社に提出し、被告高見に右保険証券をコピーした保険証券(甲第七号証の12)を送付したが、被告高見に対し、右特約の存在につき説明することはもちろん。知らせることもしなかったこと、訴外吉田は被告会社に対し、被告高見との保険契約の締結につき指示を求めたところ、被告会社から二六歳以上の条件を付して契約するよう指示されたが、右吉田はそのことを訴外柴田にも被告高見にも伝えなかったこと、訴外吉田は、右柴田から保険加入者の依頼を受けたとき、柴田から自分達の仲間で車を買って運送の仕事をするとの話の内容から柴田から紹介された加入者も同年令位だと考え、柴田にも被告高見にも高見の年令につき確認することを怠り、本件保険契約には若年運転者制限特約の存在することを右両名に説明しなかったこと、

以上の諸事実が認められ、右認定に反する《証拠省略》は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。

右事実によれば、本件保険契約は、被告高見が保険料を振込み、吉田が契約の締結を認めた書面(乙第九号証)と契約明細書(甲第八号証)を送付した頃に成立したものと解せられ、そのことは右契約明細書によると、保険契約年月日は昭和五一年一一月一〇日になっていることからも裏付けられる。

したがって右契約成立の時点では本件契約には若年運転者制限特約は存在しなかったものと解される。もっとも昭和五一年一一月下旬頃、被告高見は吉田から右特約の存在を明記した保険証券(甲第七号証の12)を受け取っているが、これは前記認定のとおり、契約成立以前に、右特約の存在については吉田から年令の確認はもちろん特約につき何らの説明も受けておらず、被告高見の方では全く了承していないのであるから、右特約の存在については被告会社と高見との間に合意が成立していないものと解するのが相当である。

もっとも証人吉田は「若年運転者制限特約の年令条件を明確にしなかった契約明細書(甲第八号証)を被告高見に送付したのは、高見には保険料を知らせることが主たる目的だった」旨証言するが、吉田が被告会社に保険契約申込書を提出するとき右特約の存在を明記していないことに気づいた時点で、被告高見に対し、本件契約には若年運転者制限特約の存在することを説明すべきであるのは、右特約が保険加入者の年令と重要な関連をもち、右特約の存在を知っていたなら、おそらく被告高見は保険契約を締結しなかったであろうと考えられる程重要な特約であることから当然のことであり、被告会社はこれを怠ったものであるから、特約の存在を明記した保険証券を契約の後日被告高見に送付したのみで、本件契約に右特約が存在していたものと解することは相当でなく、したがって、被告高見と被告会社間の契約内容には右特約は含まれていないと解するのが相当である。

よって被告会社の免責の抗弁は理由がない。

四、保険金請求権の代位行使について

自動車事故の被害者は、加害者との間で損害額が確定する以前に、民法四二三条により加害者が保険会社に対して有する任意保険金請求権を裁判上代位行使することができるか否かの問題について、当裁判所は、右損害額が確定するまでは、何人も保険金請求権を行使しえないのが原則であるが、右代位訴訟と被害者の加害者に対する損害賠償請求訴訟の弁論が併合される場合に限り、例外的に被害者による保険金請求権の代位行使が許されるとの見解をとる。本件においては責任関係の訴訟と保険関係の訴訟が併合して提起されているので、原告らの代位訴訟は適法であると解する。

五、代位権行使の要件として債務者(被告高見)が債権者(原告ら)に対する損害賠償を支払う資力を欠いていることを要するかということが問題となる。

当裁判所は債務者の無資力が代位権行使の要件と解する。交通事故に基づく損害賠償債権は、保険金請求権との間に特別な牽連関係があっても、なお金銭債権であることは明らかであり、被害者の直接請求権を認めていない保険にあっては、債権者代位権の行使が許されるとしても最少限の範囲に限られるべきであり、加害者に十分な資力のあるときにまであえてこれを許すべきではないからである。

《証拠省略》によれば、被告高見は本件事故当時、運送の仕事を始めるため普通貨物自動車一台を購入し借入金が約四三〇万円あり、毎月の収入からローンと燃料代を控除すると一ヵ月の生活費は約一五万円で、右収入で妻と子供一人の生計を立てていること、原告らが被告高見に対して損害賠償請求の訴を提起してから、約七ヵ月経過して、原告らは被告会社に対し保険金の請求訴訟を提起したが、その間被告高見の方から被告会社に対し保険金請求権を行使しなかったこと、以上の事実が認められる。

右事実によれば、代位権行使の要件が具備していると解するのが相当である。

以上によれば原告らの被告会社に対する代位訴訟は適法である。

六、保険契約

被告高見と被告会社との間に原告ら主張の保険契約が締結されたことは当事者間に争いがない。

七、責任関係

前記認定のとおり被告高見は原告らに対し、前記の損害を賠償する責任があり、被告会社は保険契約上、被告高見に対し、同被告が右損害賠償責任を負うことによって受ける損害を填補する責任があるところ、同被告の債権者である原告らが民法四二三条により右保険金請求権を代位行使するというのであるから、原告らに対し右損害額相当の保険金を支払う義務がある。

よって被告会社は原告澄江に対し、

金二六六万五五九九円及びうち弁護士費用を控除した

金二四六万五五九九円に対する、

原告啓子、同ひとみに対し

各金二三六万五五九九円及びうち弁護士費用を控除した

各金二一六万五五九九円に対する

それぞれ本件事故の日である昭和五一年一二月八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第三、結論

よって主文第一、二項の限度で原告らの本訴請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

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