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札幌地方裁判所 昭和48年(ヨ)460号 決定 1974年1月31日

債権者 株式会社ジュン

債務者 有限会社ロペ

主文

債務者は、別紙目録(二)記載の商標を看板、包装紙、包装用袋、タッグおよび領収証等取引書類に使用してはならない。

債務者は本決定送達の日から七日以内に看板に表示した右商標を抹消せよ。

債務者が前項の期間内に右商標を抹消しないときは、債権者は札幌地方裁判所執行官をしてこれを抹消させることができる。

債権者のその余の申請を却下する。

申請費用は債務者の負担とする。

理由

一、本件申請の要旨は、債権者は、婦人用被服について、別紙目録(一)記載のとおりの「ロペ」なる商標権(昭和四一年一一月三〇日出願、同四二年一〇月一九日公告、同四三年五月一五日登録)を有し、また、昭和四三年から同四五年にかけて「ROPEロペ」および「ROPÉ止法一条、商標法三六条にもとづき、その使用禁止および看板に表示した商標の抹消等を求める、というものである。

二、そこで審理するに、本件および関連事件(昭和四八年(ヨ)第四四五号)の各記録によれば、債権者が、その主張のとおりの商標権を有し、また、連合商標の出願、公告を得ていること、債務者が、別紙目録(二)記載のような「ロペ」および「ROPE」なる表示を自己の販売する婦人用被服についての広告、看板、包装用袋、タツグに使用していることが疎明され、また、右表示を包装紙、領収書等の取引書類に使用していることは、債務者の明らかに争わないところであるからこれを自白したとみなすべきである。そして、債務者の使用している右表示は、債権者の表示と比較して、書体が若干異なるものの呼称は全く同一である外観およびこれから受ける観念もほとん 差異がないから、債務者の使用している右表示は債権者の商標と類似の商標とみて妨げなく、したがつて、債務者の行為は、不正競争防止法一条一項一号の、他人の商標と類似のものを使用しまたはこれを使用した商品を販売して他人の商品と混同を生ぜしめる行為、および、商標法三七条一号、二号の商標権の侵害とみなす行為に該当することは明らかである。

しかも、「ロペ」なる商標を付した商品の販売額は、全国では、昭和四二年八月から同四三年七月まで五九〇〇万余円、同四三年八月から同四四年七月まで二億四〇〇〇万余円、同四四年八月から同四五年七月まで八億四八〇〇万余円、北海道では、札幌市の「モズ」、「カナリヤ」の各販売店を中心に、昭和四三年八月から同四四年七月まで八九〇万余円、同四四年八月から同四五年七月まで二六八〇万余円にそれぞれ達しており、その間に四万枚のポスターが全国に配付され、北海道においても、昭和四四年一一月二一日と同四五年八月一〇日に販売店「カナリヤ」によつて「ブテイク・ロペ」、「LAMODE ROPÉ

三、そうとすれば、債務者は、不正競争防止法一条一項および商標法三六条にもとづき、債権者の商標と類似する別紙目録(二)記載の表示を使用することは許されない筋合となるが、他方、債務者は、有限会社ロペとして設立登記を経ておりその旨の商号権を有しているので、進んで債権者の商標権にもとづく差止請求と債務者の商号権との関係について検討する。元来、商号は商人が営業活動において自己を表示する名称であつて、会社の場合はその種類を明示することが法律上義務づけられているのであるが(商法一七条、有限会社法三条)、債務者は、別紙目録(二)記載の表示を使用するに際しては全く有限会社であることを示しておらず、その使用の態様にかんがみれば、自己を表示する商号としてこれを使用しているものとはとうていいえないうえ、何人も不正の目的をもつて他人の営業と誤認させるような商号の選定は禁止されているところ(商法二一条)、本件にあらわれた証拠を総合すれば、債務者は、むしろ、債権者の商標の存在を知りながらその名声、信用を利用する意図をもつてロペなる商号を選定しこれを使用しているものとみざるをえないのである。

すなわち、債務者は、ロペの商号はフランスのフアツシヨンの町「サントロペ」からヒントを得て選定したもので債権者の商標とは関係がないと主張するが、北海道とくに札幌市に限つてみても、「ロペ」なる商標を付した商品は債務者会社が設立される約二年前から販売され、新聞にも「ロペ」あるいは「ROPÉ39;S SHOPロペ」と表示した看板を掲げていたのみであるが、昭和四八年一一月に市の中心部に新店舗を開店するに際しては、同年一〇月二六日付で「ブテイツクの正統派誕生!ロペ本店一一月三日オープン」、「東京以北初めてお目にかけるオリジナル商品の店」との見出しをつけ、店名も右と同様の書体で「BOUTIQUEロペ」と表示し、あたかも、「ロペ」の商品を販売する元締めであるかのような印象を与える新聞広告を出すとともに、店舗の正面には、別紙目録(二)記載のような書体で「ブテイック ロペ」および「BOUTIQUE ROPE」と和洋両様の記載をした大きな看板を掲げ、あたかも、右店舗が「ロペ」の商品を販売する営業上の施設であるかのようにみられる表示をするに至つたこと、また、債権者は、「ロペ」の商標を付した商品の販売店については、石造の重厚な感じを出すようにするなどその外装、室内装飾を統一するようにしているところ、債務者の右新店舗はその外装が債権者の特約店のそれと類似し、とくに新店舗正面には、債権者の特約店の一部が店舗の正面に掲げている「太陽面」ときわめて類似したシンボルマークを掲げていること(もつとも、坂田譲の陳述書中には、右のマークはひまわりをアレンジしたものであると述べた部分があるが、これを「太陽面」というか「ひまわり面」というかは単なる言葉の違いにすぎないといえよう)などの事実を疎明されるのである。

そして、以上のような債務者の「ロペ」および「ROPE」なる表示の使用状況、債権者が「ロペ」なる商標を付した商品を発表した時期と債務者会社の設立時期の先後関係、債務者会社の営業目的、規模および「ロペ」なる商標の独創性などを総合的に考えれば、債務者もしくはその設立関係者が、債権者の商標の存在を知りながらその名声、信用を利用する意図をもつてロペなる商号を選定したもので、債務者には不正競争の目的があつたものといわざるをえない。

したがつて、債務者の商号は、たとえ商業登記簿に登記されているとはいえ、商法二一条に違反するものとしてもともと選定、使用が許されないものであるから(ただし、商号登記の抹消は、これを命ずる本案判決の確定が必要である)、債務者に対して「ロペ」および「ROPE」なる表示の使用禁止を求める本件の被保全権利については、その疎明があるものということができる。

四、つぎに、債務者が右にみたように「ロペ」および「ROPE」なる表示を利用して営業を続けることは、債権者の商標権に対する重大な侵害として、その信用に多大の影響を与え、かつ、測り知れぬ損害を及ぼす危険のあることが疎明されるから、本件では、仮処分をもつて右表示の利用を禁止する必要性があるものというべきである。

五、よつて、別紙目録(二)記載の「ロペ」および「ROPE」なる表示につき、それが債権者の商標と類似の商標にあたるものとしてその使用禁止とこれを記載した看板の抹消を求める仮処分申請を正当として認容することとし(債権者は、ほかに右商標を付した包装紙、包装用袋、タツグおよび領収証等取引書類の執行官保管と保管にかかることの公示を求めているが、不作為債権について本案訴訟で請求しうる範囲とこれについての強制執行の態様にてらして、かかる仮処分は許されないと解されるので、これを却下する)、申請費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 太田豊)

別紙目録(一)

別紙目録(二)

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