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札幌地方裁判所 昭和47年(ワ)3055号 判決 1974年10月16日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は原告らに対しそれぞれ金二五〇万円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨の判決

第二請求原因

一  保険契約の締結

訴外鈴木章(以下「訴外鈴木」という。)は被告との間で、同訴外人所有にかかる自家用小型貨物自動車(札四も八八三六。以下「本件事故車」という。)につき、保険期間を昭和四四年一一月二五日から同四五年一一月二五日午前一二時までとする自動車損害賠償責任保険契約を締結した。

二  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

1  日時 昭和四五年五月二四日午前〇時二〇分頃

2  発生地 小樽市春香町二九番地先路上

3  加害車 本件事故車

右運転者 訴外佐々木宗利(以下「訴外佐々木」という。)

4  被害者 訴外武田吉生(以下「亡吉生」という。)

5  態様 本件事故車が道路の中央線を越えて対向車線に進出したため、対向車と衝突し、本件事故車の左助手席に同乗していた亡吉生が頭蓋底骨折、脳挫傷の傷害をうけ右同日死亡した。

三  責任原因

1  訴外鈴木は本件事故車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法第三条により原告らが被つた後記損害を賠償する責任がある。したがつて、被告は同法第一六条により保険金額の限度において右損害金を支払うべき責任がある。亡吉生は本件事故車の保有者でも運転者でもなく、また事故当時同車の助手席で仮眠中のものであつたから運転補助者にも当らない。

2  仮に亡吉生が本件事故車の広義における保有者に該当するとしても、自賠法の立法趣旨が自動車の保有者に自動車損害賠償責任保険契約の締結を強制し、その運行によつて生命又は身体を害された者の迅速確実な保護を図ることを目的とし、社会保障的性格を内包することにかんがみ、本件事故においては亡吉生は「他人」として保護されるべきであるので、被告は少くとも右保険金額の限度において原告らの被つた損害を支払うべきである。けだし、亡吉生の本件事故車に対する保有者としての地位は一時的なものであつて訴外鈴木のそれが継続的であるのとは本質的に異なるばかりでなく、本件事故は訴外佐々木の一方的な過失によつて発生したもので亡吉生には何ら過失がないこと、しかるに、無資力な右佐々木に対して民法七〇九条の責任を追求しうるにすぎないとするならば亡吉生は事実上救済されないことになり、亡吉生と同様本件事故車に同乗していた訴外大沼敏文に自賠責保険金が支払われることと権衡を失するに至るからである。

3  仮に以上の主張が認められないとしても、亡吉生は共同運行供用者である訴外鈴木、同佐々木に対する対内関係において、割合的に他人性を阻却されるにすぎず、阻却されない割合において自賠法上他人として保護されるべきものである。

すなわち同車の保有者である訴外鈴木は本件事故当時においても同車の運行供用者たる地位を失つていないし、訴外佐々木も自己のドライブのため同車を運転したのであるからその運行供用者に当るものであつて、仮りに亡吉生もその運行供用者に当るとすれば右の三者がその共同運行供用者となるものであるところ、本件事故は共同運行供用者の一人である右佐々木の一方的過失によつて発生したものであるから、損害の公平な分担という損害賠償制度の理念に照らし、訴外鈴木および同佐々木に対する関係において亡吉生の他人性は三〇パーセントの程度で阻却されるにすぎないと解すべく、従つて右訴外人両名は亡吉生に対し残る七〇パーセントの割合で賠償責任を負担するというべきである。

四  損害

(一)  亡吉生の逸失利益

職業 店員(義兄である訴外鈴木経営の精肉店に勤務)

事故時の年令 満二〇歳

就労可能年数 四三年

収入 月額金四〇、六六六円

生活費控除 月額金一五、七〇〇円

中間利息控除 年別ホフマン式現価計算法

(係数二二・六一一)

現価 金六、七七四、〇七四円

算式 24966×12×22.611=6774074

原告らは亡吉生の父母であつて、右損害賠償請求権を各二分の一宛相続により承継取得した。

(二)  原告らの慰藉料 各金一、五〇〇、〇〇〇円

亡吉生と前記身分関係にある原告らは亡吉生の死により多大の精神的苦痛を被つた。

五  結論

よつて原告らは訴外鈴木に対し自賠法三条にもとづき前記損害の賠償請求権を有するから、同法第一六条第一項にもとづき被告に対しそのうち各金二、五〇〇、〇〇〇円宛の支払いを求める。

第三答弁

一  請求原因一、二項の事実は認める。

二  同三項の事実中訴外鈴木が本件事故車の所有者であること、本件事故当時訴外佐々木がドライブのため同車を運転していたこと、その助手席に亡吉生が同乗していたこと、本件事故が訴外佐々木の過失によつて発生したものであること、同訴外人が無資力であることおよび同車に同乗していた訴外大沼に自賠責保険金が支払われることは認め、その余は争う。

(被告の主張)

1 亡吉生は自賠法第三条の「他人」に当らない。

イ 同条にいう「他人」とは運行供用者および当該自動車の運転者、運転補助者を除くそれ以外の者を指し、更に運行供用者とは自動車の運行支配、運行利益を有する者をいう。

ロ ところで亡吉生は、雇主であり義兄である訴外鈴木の許可がなければ本件事故車を運転することを禁じられていたものであり、事故当日は所定の場所に格納することを命じられていたに拘わらず、自己の遊興に供するため勝手に同車を持出したものであるから、その時点で同車に対する保有者の地位は亡吉生に移転したと考えるべきものである。従つて同人は自賠法第三条の「他人」に当らない。

ハ 仮りに、亡吉生が同車の保有者でないとしても、同人は自己の遊興のため同車を持出して訴外佐々木同大沼敏文を誘い両名を同車に同乗させて運転したのち三名協議のうえドライブすることに決し、目的地へ向う途中訴外佐々木と運転を交替したが自分は助手席に座つていたのであるから、亡吉生は依然として同車に対する運行支配および運行利益を有していたもの、すなわち運行供用者であつたものである。

ニ また亡吉生は同車を持出して乗り廻していたのであり、途中訴外佐々木と運転を交替したからといつて運転者たる地位を離脱したというべきではない。

2 要するに亡吉生と訴外鈴木間においてみる限り、同車の保有者としての地位、運行利益および運行支配は亡吉生にすべて帰属し同訴外人には存しないといえるから、亡吉生は自賠法第三条の「他人」に当らず、従つて訴外鈴木には同条の責任なく、被告には同法第一六条により請求されるいわれはない。

三  請求原因四項の事実中、亡吉生の職業、年令、同人と原告らの身分関係は認めその余は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  保険契約の成立及び事故の発生

請求原因一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

自動車の運行により生命、身体が害されたとして自賠法第一六条第一項にもとづき保険会社に対し損害賠償額の支払を請求しうるためには、その前提として同法第三条により保有者に損害賠償の責任が発生していることが必要であり、そして保有者が同条により損害賠償の責任を負うのはその自動車の運行によつて「他人」の生命又は身体を害したときであり、この「他人」とは運行供用者および当該自動車の運転者・運転補助者を除くそれ以外の者をいうのである。

そこで訴外鈴木が本件事故車の保有者であるかおよび亡吉生が右「他人」に該当するかどうかについて検討する。

(一)  訴外鈴木が本件事故車を所有していたこと、本件事故当時訴外佐々木が同車を運転し亡吉生がその助手席に同乗していたことおよび当時亡吉生が義兄である訴外鈴木経営の精肉店に勤務していたことは当事者間に争いがなく、これらの事実と〔証拠略〕を総合すると、亡吉生は昭和四四年の秋頃から訴外鈴木方に住込店員として稼働していたこと、本件事故車は右訴外人が所有する二台の自動車のうち一台であつて、主として右訴外人自ら運転使用していたものであるが(他の一台は主として亡吉生が使用)、亡吉生においても本件事故車を業務上あるいはボーリング、パチンコ等の遊興の際使用したことがあり、本件事故日の一週間位前にも右鈴木の了承を得たうえではあつたが同車を使用し遊び友達の訴外佐々木と運転を交替しながら洞爺湖一周のドライブに行つていること、また本件事故車とその鍵は夜間において訴外鈴木宅に保管されてはいたが何時でも自由に持ち出せる状況で保管されていたこと、ところで亡吉生は本件事故日の前日の夕食後訴外鈴木から本件事故車を右鈴木の兄のもとに持つて行くように指示を受けたのであるがパチンコ店に行つて遊ぶため同車を持ち出し、同僚の訴外大沼敏文および訴外佐々木をこれに同乗させ自ら運転してパチンコ店に赴き、三人で午後一一時頃まで遊び、その後右佐々木が同車を運転し、亡吉生が助手席に、大沼が後部座席に同乗して右佐々木方に向つたが、途中釣場の下見に小樽までドライブすることに話がまとまつて小樽築港駅付近まで行き同所から引返して帰宅の途中本件事故が発生したこと、なお亡吉生は当時同車助手席で仮眠中であつたこと、以上の事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定の本件事故車の所有関係、訴外鈴木と亡吉生間の身分関係、同車についての日常の使用・管理状況、亡吉生が同車を持出す契機となつた事情、無断運転の距離および時間ならびに同車が短時間のうちに訴外鈴木に返還されることが予定されていた事実を総合すると、同車の所有者である訴外鈴木は本件事故当時においても同車の運行支配・運行利益を失つていなかつたものと認めることができ、従つて同訴外人は右時点においても同車の保有者、すなわち同車を使用する権利を有する者で自己のために同車を運行の用に供する者の地位を有していたということができる。

しかしながら他面前記認定事実によると、本件事故は、亡吉生が訴外鈴木の指示に反し同人に無断で自己の遊興の用に供する目的で同車を持出し、その用途に使用中発生したものであるから、本件事故当時亡吉生も同車の運行支配および運行利益を有していたものと認めるに十分である。当時たまたま訴外佐々木が同車を運転し亡吉生が助手席で仮眠中であつたことは右の判断を妨げる事由とはならない。したがつて、亡吉生は自賠法三条のいわゆる運行供用者に該当するというべきである。

(二)  次に原告らは、自賠法の立法趣旨を強調しかつ亡吉生の運行供用者たる地位が一時的であつた等の事由をもつて自賠法上同人を「他人」として保護すべきものであるとし、あるいは共同運行供用者に対する関係において亡吉生が七割の「他人性」を有する旨主張するのでこの点につき判断する。

自賠法が自動車交通被害者の保護を図る目的を有することはいうまでもなく、本件事故車に対する関係において亡吉生の運行供用者としての地位が訴外鈴木のそれとは異なり一時的なものであつたことは前記認定事実に照らし容易に認めることができ、また本件事故が訴外佐々木の過失によつて発生したものであること、同訴外人が無資力であることおよび同車の同乗者である訴外大沼に自賠責保険金が支払われることはいずれも当事者間に争いがない。更に前記認定のとおり亡吉生および訴外鈴木がともに本件事故車の運行供用者に当るものであるほか、訴外佐々木が自己のドライブのためにも同車を運転していたことは当事者間に争いがないから同訴外人も同車の運行供用者としての地位を有するものである。

ところで既に明らかなとおり、本件は複数の運行供用者の下にある自動車の運行によつて運行供用者の一人に人身損害が生じた事案であるところ、このように複数の運行供用者が存するとき、当該事故の発生原因となつた具体的運行について各人間に運行関与の有無あるいは関与度の強弱が生じ、また現実的運行利益の帰属の有無あるいは帰属利益の程度に差が生ずることは稀ではないところ、被害運行供用者につきその具体的運行に対する無関与ないしは関与度の弱小性、現実的運行利益の不存在ないしは低位性が認められる場合にあつては、他の運行供用者に対する関係においては被害運行供用者の「他人性」が阻却されずあるいは割合的に阻却されるにすぎないと判断して差支えないであろう。

しかしながら本件にあつては、亡吉生の運行供用者としての地位が一時的なものでありまた本件事故が訴外佐々木の過失で生じたにせよ、前記認定のとおり亡吉生は自己の遊興に供するため訴外鈴木に無断で本件事故車を持出し、本件事故当時同車に乗車して訴外佐木々との共同目的のためにこれを運行していたのであるから、その運行についての関与は直接的でありかつ運行利益の亨受の程度は最大限であるのであるから、亡吉生に「他人性」を認める余地は全くないといわざるをえない。

なお原告らは、訴外佐々木が無資力であることおよび訴外大沼に自賠責保険金が支払われることを挙げるが、右の諸点が亡吉生に「他人性」を認めうるか否かについての判断資料となることは解せられない。

(三)  以上認定のとおり亡吉生は本件事故車の運行供用者であり同人に「他人性」を認める余地がないのであるから、原告らが本件事故によつて損害を被つたとしても自賠法上訴外鈴木に対しその損害賠償請求権を有するものではなく、従つて被告に対し同法第一六条第一項にもとづいてその損害金の支払を請求しえない筋合である。

三  結論

よつて、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当であるので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤原昇治 小田八重子 北山元章)

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