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札幌地方裁判所 昭和42年(ワ)1159号 判決 1969年3月26日

原告

地崎ハル

ほか四名

被告

北海道

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当時者の申立

一、原告らは次の判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

(一)  被告は原告地崎ハルに対し金二一七万円および右金員のうち金二〇〇万円に対する昭和三九年三月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告は原告地崎和子に対し金八八三万〇、三三二円および右金員のうち金八二五万五、〇三一円に対する昭和三九年三月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告は原告地崎加余子、同地崎夫早世に対し各金四二〇万五、一五二円および右金員のうち金三九〇万二、〇一二円に対する昭和三九年三月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  被告は原告北海建設車輛株式会社に対し金六、六三九万五、二五八円および右金員のうち金六、三三一万五、八八二円に対する昭和三九年三月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(五)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二原告らの請求原因

一、事故の発生

村井裕(以下「村井」という。)は昭和三九年三月二四日午後一〇時五〇分ころ原告北海建設車輛株式会社(以下「原告会社」という。)所有の普通乗用自動車(札五ひ〇八五六号、以下「加害車」という)。を運転し、地崎昭作(以下「昭作」という。)を運転助手席に同乗させて札幌市南一九条西一一丁目附近の国道二三一号線を南から北に向け進行中加害車の前部を対向してきた横岡政行運転の軽四輪自動車の前部に、さらにはこれに後続して進行してきた丹藤康太郎運転の普通乗用自動車の前部にそれぞれ衝突させ、よつて、加害車に同乗中の昭作を頭蓋底骨折による脳幹部損傷により死亡させた。(以下、これを「本件事故」という。)。

二、運転者村井の過失

村井は本件事故当時多量に飲酒して酩酊状態にあつたのであるから、自動車運転者としては運転を断念すべき注意義務があるのにもかかわらず、これを怠つて自動車の運転を開始したのみならず、本件事故現場にさしかかつた際、同一方向に進行中の自動車を追越そうとしたのであるが、このような場合前方を充分に注視して対向車の有無を確認したうえ、対向車がある場合には追越しを断念するか又は先行車の横を通過しても対向車と接触することがない程度に道路間隔があることを確認して先行車を追越すなど、万が一にも対向車と衝突することがないように万全の注意を払つて追越すべき注意義務があるのにもかかわらず、これを怠つて漫然時速五〇キロメートルで先行車の横を追越し通過するため道路中央を越えて右側に進入した過失によつて、本件事故を惹起したものである。

三、被告の責任原因

(一)  村井は、被告の総務部管財課に職員として勤務し、被告の管理にかかる車輛について民間業者に対しその保管修理の発注に関する職務を担当していたものであるが、右職務は、単に民間業者と私的契約を締結するにとどまらず、公物たる被告の車輛の管理作用としての性格を有するから、公権力の行使にあたるものというべきである。そして、国家賠償法一条は国等が強大な公権力を有することに鑑み、危険責任の理念から、公務員による公権力の行使に関連して生じた違法な侵害行為に対して広く法的救済の途を講じた規定であるから、右規定の方では加害行為が当該公務員の職務そのものと関連する必要はなく外観上、職務行為の一部と同一行為類型に属しているが、又はこれと牽連するものであれば足りるものと解すべきである。ところで村井は、常日頃執務時間外に庁舎外において業者と担当事務の打合わせを行なつており、本件事故当日も昭作を呼出し庁舎外の飲食店において被告の車輛修理の発注の件について面談していたものであるから、右面談も職務行為に包含されるものというべきである。そして本件事故は右面談場所からの帰途発生したものであるが、職務上の面談のため自動車を運転する行為も、外観上右職務と牽連性を有するものである。(因に、村井は業者に対し権限逸脱の行為をすることが多く、昭作は村井とは私的交際関係はなく元来酒を好まないうえ当時風邪のため発熱していたにもかかわらず、村井の呼出のためやむなく出掛けたのである。)したがつて、被告は国家賠償法一条に基づき、原告らに違法に加えた後記の損害を賠償すべき義務がある。

(二)  仮に村井の職務が公権力の行使にあたらないとしても、被告は前記のとおり本件事故当時村井の使用者であつたから、村井がその事業の執行につき第三者に加えた損害を賠償すべきところ、民法七一五条一項にいう「事業の執行に付き」との要件も、報償責任の理念に立脚して、加害行為が事業執行自体である場合に限らず、外観上事業執行の一部と同一行為型態に属するか、又は、これと牽連するものであれば足りるものと解すべきである。そして村井の前記(一)の経緯の下での運転行為は、使用者たる被告の事業執行と外観上牽連するから、結局被告の事業執行につきなされたものというべきである。したがつて、被告は村井が右事業の執行につき原告らに加えた後記の損害を賠償すべき義務がある。

四、損害

(一)  昭作の損害

(1) 得べかりし利益の喪失

昭作は本件事故当時原告会社の取締役として毎月六万円の報酬を得ていたのであつて、毎月の生活費を控除しても同人の年間純収益は五四万円を下らなかつた。ところで、同人は本件事故当時二九才であつたが、通常男子は平均六三才まで労働可能であるから、同人も爾後三四年間労働しえたはずである。

したがつて昭作は、本件事故に遭遇しなければ、その翌日である昭和三九年三月二五日から三四年間にわたつて毎年五四万円の純収益をあげえたはずである。よつて、同人が本件事故により失つた右期間における得べかりし利益の総額の現価はホフマン式計算法により年毎に年五分の割合による中間利息を控除して計算すれば、金一、〇五五万九、〇五七円となる。

(2) 慰謝料

昭作は若冠二九才にして原告会社の取締役という重要な地位を占め、身心ともに健全で将来を嘱望された前途有為の青年であつたが、妻および愛児三名を後に残して年若くして自己の生命を絶たれた無念さならびに、本件事故後絶命するに至るまでの約三〇分間に受けた苦痛は、はかりしれないものがあつた。

したがつて、昭作の精神的苦痛に対する慰謝料は、三〇〇万円を下らないものである。

(3) 損害賠償請求権の相続

昭作が本件事故により死亡したため、同人の妻である原告地崎和子(以下「和子」という。)、同人の実子である原告地崎加余子(以下「加余子」という。)、同原告地崎夫早世(以下「夫早世」という。)、同地崎由差はそれぞれ昭作の前記(1)(2)の損害賠償請求権を相続分に応じて相続により承継したが、右地崎由差が昭和四〇年一一月一七日死亡したので、原告和子、同加余子、同夫早世において同人の前記請求権についての相続分を、再び相続した。よつて、結局原告和子は前記請求権の九分の五、原告加余子および同夫早世は各その九分の二を相続により承継した。

(4) 損益相殺

原告和子、同加余子、同夫早世は、本件事故による自動車損害賠償保障法に基づく保険金として合計五〇万円を受領したので、右原告らの相続した前記損害賠償請求権は同額を控除した一、三〇五万九、〇五七円、したがつて、原告和子について七二五万五、〇三一円、原告加余子および同夫早世は各二九〇万二、〇一二円(いずれも小数点以下切捨)となる。

(二)  原告ハル、同和子、同加余子、同夫早世の損害

(1) 慰謝料

原告ハルは昭作の母であるが、既に夫に先だたれ、本件事故当時五五才の老未亡人として昭作と同一家屋で起居を共にし、余生の楽しみをもつぱら昭作ら二人の息子の成長にかけ、老後の生活は精神的にも経済的にももつぱら昭作ら二人の息子に依存していたところ、不慮の事故により長年にわたり手塩にかけて育てたそのうちの一人昭作を失い、かつ、老後の生活扶助の途も断たれたのであつて、その精神的苦痛は甚大である。したがつて、原告ハルの精神的苦痛に対する慰謝料は二〇〇万円を下らない。

また、原告和子は昭作の妻であるが、結婚後わずかに三年有余にして最愛の夫であると同時に一家の柱と頼りにしていた昭作を不慮の事故により突然失い、二五才の若さで幼児三名をかかえ、手に何ら職を持つことなく生活を維持していかなければならない状態におかれたのであつて、その精神的打撃は甚大である。したがつて、同原告の精神的苦痛に対する慰謝料は一〇〇万円を下らないものである。

さらに、原告加余子、同夫早世は、昭作の実子であるが、事故当時いまだ満一才の幼児で、幼くして本件事故により父を失い、爾後父親の愛情も生活上の援助も得ることなく長い人生を生きて行かなければならない破目に陥つたのであつて、その精神的苦痛は甚大である。したがつて、同原告らの精神的苦痛に対する慰謝料はそれぞれ一〇〇万円をもつて相当とする。

(2) 弁護士報酬

同原告らは本件事故後被告に対し再三口頭で、さらには内容証明郵便による書面で本件事故による損害賠償につき支払の催告をしたが、被告が誠意ある回答をしなかつたため、同原告らはこのまま放置すれば権利を失うことになるので、止むなく弁護士に依頼して本件訴を提起した。そして、本件訴訟遂行のため担当弁護士に対し報酬として、原告ハルは札幌弁護士会規定の弁護士報酬規定に基づく最低料金である一七万円を、原告和子は同じく五七万五、三〇一円を、原告加余子および同夫早世は同じく各三〇万三、一四〇円をそれぞれ支払う旨の債務負担をし、各前記金額の損害を被つた。

(三)  原告会社の損害

(1) 企業損失

原告会社は昭和三一年以来大型・普通自動車分解・整備および一般区域貨物自動車運送の各事業を運営し、本件事故当時自動車分解・整備部門のみで年間約二、五〇〇万円の売上げをし、収支相償える健全な会社であつた。ところで原告会社は元来昭作およびその兄の地崎宇作によつて設立され、その発行株式も同人らが大部分を所有し、その経営も同人らの意思によつて決定されていた会社で、いわゆる同族会社的色彩の強いものであつた。ところが、原告会社は、本件事故によりその自動車分解・整備部門の担当取締役であり、かつ最高責任者であつた昭作を失つた結果、同部門において受注難に陥つたのみならず、従業員の離散がこれに重つて、ついに、借財六、三三一万五、八八二円を残して倒産するの止むなきに至つた。したがつて、原告会社は、本件事故による昭作の死亡によつて右の借財相当額の損害を被つたものである。

(2) 弁護士報酬

原告会社は、他の原告らと共に前記の経緯で本件訴を提起し、担当弁護士に対し報酬として前記趣旨に則り三〇七万九、四七六円を支払う旨の債務負担をして、本件事故により同額の損害を被つた。

五、よつて、被告に対し、

(一)  原告ハルは、(1)慰謝料二〇〇万円、(2)弁護士報酬による損害一七万円(3)慰謝料二〇〇万円に対する本件事故の発生した日の翌日である昭和三九年三月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による損害金の支払を、

(二)  原告和子は、(1)慰謝料一〇〇万円、(2)昭作の損害賠償請求権の相続分七二五万五、〇三一円、(3)弁護士報酬による損害五七万五、三〇一円、(4)右(1)、(2)の金員合計八二五万五、〇三一円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和三九年三月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、

(三)  原告加余子および同夫早世は、それぞれ(1)慰謝料一〇〇万円、(2)昭作の損害賠償請求権の相続分二九〇万二、〇一二円(3)弁護士報酬による損害三〇万三、一四〇円、(4)右(1)、(2)の金員合計三九〇万二、〇一二円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和三九年三月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、

(四)  原告会社は、(1)企業損失六、三三一万五、八八二円、(2)弁護士報酬による損害三〇七万九、四七六円(3)右(1)の金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和三九年三月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を各求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因一の事実のうち、昭作の死因の病名は不知であるがその余の事実はすべて認める。

二、請求原因二の事実はすべて争う。

なお、昭作は加害車の運行供用者であるが、村井が飲酒酩酊して運転を断念すべき状態にあつたことを知りながら、敢えて同人に同車を運転させ、かつ本件事故に至るまで村井の運転が危険であるのを知りながら、これを中止させなかつたもので、本件事故は専ら昭作の右過失によつて生じたものである。

三、請求原因三の事実のうち、村井が被告の総務部管財課の職員で、被告管理の車輛について民間業者に対し、車輛修理等の発注に関する業務を担当していたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

なお、村井は右職務のほか、車輛およびその附属品の購入、購入車輛の検査をも担当していたが、いずれの場合でも、被告の庁舎外で執務した事実はなく、同人の原告ら主張の日時における行動は全くの私的行為であつて、同人が原告会社の自動車を運転した行為は、被告管理の車輛について修理等の発注をする職務行為ないし事業執行行為とは実質上も外観上も全く牽連関係がないものである。

四、請求原因四(一)の事実のうち、(3)の相続関係、(4)の自賠保険金受領の各事実は認めるが、その余の事実は争う。

五、請求原因四(二)(1)の事実のうち、原告らの身分関係は認めるが、その余の事実は争う。同四(二)(2)のうち被告が原告らの内容証明郵便による書面を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

六、請求原因四(三)の事実のうち、原告会社の事業および昭作がその取締役だつたことは認めるが、その余の事実はいずれも争う。

第四証拠関係〔略〕

理由

一、本件事故の発生

本件事故の発生に関する請求原因一の事実は、昭作の死因たる病名の点を除き、すべて当事者間に争がなく、〔証拠略〕によれば、昭作が衝突による頭蓋底骨折により死亡したことが認められる。

二、村井の過失

〔証拠略〕を総合すれば次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。すなわち、

村井は本件事故当日午後六時過ぎ頃から午後九時五〇分頃までの間に札幌市内の飲食店においてビール数本を飲んで酩酊状態になり、その後同僚の笹谷雅信を昭作の自動車で同市内真駒内団地内にある同人宅に送り届け帰宅途中に前記一の日時ころ本件事故現場にさしかかつたのであるが、その間に自動車の煖房のためさらに酔いが深まり、前方を注視し、適切なハンドル操作、制動措置をとりながら運転することは困難な状態に陥つた。それにもかかわらず村井はなお運転を継続し、右現場において自車の前方を同一方向に進行中の乗用車が道路の中央線寄りを走行していたのにこれを追越そうとして中央線を越えて道路の右側に進入し、そのまま進行したところ、前方に対向車のライトを発見し衝突する危険を感じて急制動の措置を講じると共にハンドルを左に切つたが間に合わず、自車の右前部を、右対向車の右前部に衝突させ、さらに自車の前部を右対向車に後続して来た自動車の前部に衝突させた。

そして、以上の事実によれば、村井が当時前記のような酩酊状態にあつたのであるから、自動車の運転を中止すべき注意義務があつたのにかかわらず、これを怠り、漫然と運転を継続した過失により、本件事故を惹起したことは明らかである。

なお、被告は、昭作が村井の飲酒酩酊を知りながら同人に運転させ、或いはこれを中止させなかつたとの点を把えて、本件事故は専ら昭作の右過失に起因する旨主張するが、仮にこのような事実があつたとしても、これは被害者の過失として過失相殺において斟酌されるのはともかく、村井の前認定の過失責任を阻却するに足るものと考えることはできないから、被告の右主張は失当である。

三、被告の責任原因

(一)  国家賠償法一条に基づく責任

村井が被告の総務部管財課に職員として勤務し、被告の管理にかかる自動車について民間業者に対し、その修理の発注に関する職務を担当していたことは当事者間に争がなく、〔証拠略〕を総合すれば、村井はその所属する総務部管財課受品係の副主査として、係長重延宏平、主査阿野英吉の監督の下で同係の所管事項である被告の自動車の修理の発注、三〇万円以下の自動車部品の購入の発注、修理した車輛の検査などに関する職務を担当していたこと、村井は発注にあたり自動車の修理箇所を点検し予定価格の見積りをしていたが、右の発注は一万円以上のものは見積り合せによる業者間の競争入札の方法によつて業者を指定し、一万円末満のものは業者間に順次割当てて行く方法によつていたため発注にあたり業者の選択について同人が裁量を働かせる余地はなかつたこと、村井が修理車の検査の際には車輛の試運転をしたり、特に必要がある場合に発注先の工場に赴いたりすることもあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。要するに村井の職務は広く被告の自動車の管理に関するものとはいえ、被告車輛の修理・部品購入の発注およびこれに附随する修理車、修理箇所の検査点検に過ぎず、その発注の方法等も右認定のとおり通常の民間業者間のものとも格別異るところがないのであるから、私経済作用の域を出るものではない。したがつて、村井は公権力の行使にはあたる公務員であつたと云うことはできない。

とすれば、原告らの国家賠償法一条に基づく主張は爾余の点につき判断するまでもなく失当である。(なお、附言するに村井の本件事故当時の加害車の運転行為が「その職務を行うについて」なされたものと認められないことは後記(二)において事業執行につき判示するところと異らないから、この点からも国家賠償法一条に基づく主張は理由がない。)

(二)  民法七一五条に基づく責任

(1)  村井が被告の職員であつて、被告がその使用者であることは既に述べたとおり当事者間に争がない。

そこで、次に被告の被用者である村井が其の事業の執行につき昭作および原告らに損害を加えたかどうかについて検討する。原告らは(イ)村井が常日頃執務時間外に庁舎外において業者と担当事務の打合せを行つていたこと、(ロ)同人が本件事故当日も昭作を呼出し被告の庁舎外の飲食店において被告の車輛修理の発注の件について面談してその帰路加害車を運転して本件事故に遭遇したことなどから同人の右行為が被告の事業の執行につきなされた旨主張する。

(2)  まず、村井の職務内容が被告の自動車の修理・部品購入の発注、修理車の検査に関することであり、同人には業者指定等につき裁量の余地がなかつたことは前記(一)に述べたとおりであるところ、〔証拠略〕を総合すれば、村井は通常前記職務を被告の庁舎内で行つており、被告の車輛が事故に遭うなど緊急の場合、或いは被告の車輛の修理を依頼した業者から別の修理を要する箇所を発見した旨の連絡があつた場合など例外的な場合に限り庁舎外で検査・点検等の執務をすることがあつたに過ぎず、しかも同人はいずれも通常の執務時間内又はそれに接着した時間内でこれらの事務を処理していたことが認められる。しかし、原告らが主張するように村井が日頃執務時間外に庁舎外において業者との打合せを行つていたとの事実については、〔証拠略〕中にこれにそうかのごとき部分があるもいずれも前記認定事実と対比して採用することができず、他にこれを認むべき証拠もない。

(3)  次に、原告会社が大型・普通自動車の分解・整備事業および一般区域貨物自動車運送事業を主たる業務としており昭作が同社の取締役だつたことは当事者間に争がなく、〔証拠略〕を総合すれば、昭作は原告会社の車輛整備部門の最高責任者として車輛整備に関する一切の業務を担当し、取引先の接待も行つていたこと、原告会社は昭和三八年九月以来被告の車輛の修理等も引受け被告とは年内約二〇万円の取引があつたが、昭作が被告との接渉に当つて来たので、仕事上被告の職員である村井と交渉をもつに至つていたこと、以来村井は昭作が兄の友人でもあつた関係上、職務外で飲酒を共にしたり麻雀をしたりして交際していたこと、村井は本件事故当日上司から自己の仕事について注意されたので、その不快の念を晴らすため飲酒しようと考え、予め昭作に電話して誘いをかけたうえ、退庁後はじめひとりで午後七時過頃から札幌市南六条西四丁目星会館内バー「山河」で飲酒を始め、午後七時半過頃同人に誘いを受けていた同僚の笹谷雅信が加わり、更に昭作も来て飲酒を共にしたが、その際、右三名は世間話などしたにとどまり、職務に関する話は出なかつたこと、村井らは同日午後九時過ぎころ同店を出たが、村井が笹谷の同市真駒内の自宅方面へ行く地理に明るいところから、同人を昭が運転してきた原告会社所有の自動車(加害車)で送り届けるといいだし、昭作もやむなく村井に運転をまかせた結果村井が昭作・笹谷を加害車に同乗させて自ら運転し、途中一、二のバーに立寄りながら笹谷を同人の前記自宅へ送り届けたが、さらに、帰途引続き村井が運転して本件事故現場にさしかかり本件事故に遭遇したこと、が認められる。

(4)  ところで被用者の行為が使用者の「事業の執行につき」なされたというには、必ずしも被用者がその担当する職務を適正に執行する場合に限らず、たとえ被用者が執務に関する内部的な命令等に違反し、或いは全く個人的目的を達するためになした行為であつても、それが客観的に被用者の職務行為となんらかの関連性を有するならば、それで足りるものと解すべきである。しかし、右(2)に認定したような村井の職務内容、およびその執務状務(3)に認定した村井と昭作との関係、および村井と昭作が本件事故当日飲酒を共にするに至るまでの経緯、その後における同人らの行動村井が加害車を運転するに至つた理由、ならびに村井の運転した加害車が被告の所有ではなく、原告会社所有のものであつたことなどを総合すると、村井の本件事故当日における運転行為はもはや被告の支配領域外の行為であつて、到底客観的に同人の職務行為と関連するものと云うことはできない。

よつて、原告らの民法七一五条に基づく主張も失当と云わざるを得ない。

四、もつとも、村井と昭作の交際関係は単なる友人関係以上のものがあるのではないかとの疑いがないではなく、〔証拠略〕によれば、昭作が民間業者である原告会社の一員として自社が不利な扱いを受けるのではないかとの懸念から、不本意にも同人の意を迎えるように振舞い、同人もこれを甘受し、ときには度を過ぎた要求をも敢えてなしていたとも認められ(特に昭作は本件事故当日風邪による発熱をおして村井の誘いに応じたものであることが認められる。)また、本件事故当日における村井の加害車の運転行為は弁解の余地のない程悪質なものであることは多言を要しないところであるが、それらはいずれも、村井に対する非難あるいは不法行為責任追及の根拠とはなり得ても、既に認定したような事実関係の下にあつては、被告の国家賠償法による責任、あるいは民法の使用者責任を肯定する根拠とはなり得ないのである。

五、結論

以上説示のとおり原告らの請求は、爾余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないから、これらを失当としてすべて棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞 小林充 加藤和夫)

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