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札幌地方裁判所 昭和38年(ヨ)290号 判決 1964年2月25日

申請人 鈴木昭二

被申請人 北海道放送株式会社

主文

申請人は被申請会社においてラジオ局技術部調整課員としての地位を有することを仮に定める。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、双方の求める裁判

一、申請人

被申請人が申請人に対し昭和三八年九月一六日なしたテレビ局技術部テレビ手稲送信所勤務とする旨の意思表示の効力の発生を停止する。

二、被申請人

申請棄却

第二、申請代理人の主張

(申請の理由)

一、被申請会社は放送事業を目的とし、本社を札幌市北一条西五丁目におく株式会社である。申請人は、被申請会社に雇傭されている従業員であつて、かつ被申請人の従業員をもつて組織する北海道放送労働組合(以下組合という)の組合員であるが、昭和三八年八月三日組合中央執行委員に選出され、現在組合本部の組織部長を勤める組合役員である。

二、被申請人は、昭和三八年九月一六日申請人に対しこれまで勤務していたラジオ局技術部調整課からテレビ局技術部テレビ手稲送信所へ配置換を発令した。

三、しかしながら、被申請人と組合間に締結され現に効力を有する労働協約第七条には「会社が従業員の解雇、降職、処罰、休退職、雇入、異動、配置転換、昇進等を行なうときは組合の同意を要する。」との規定があるところ、右配置転換命令は組合の同意を得ていないものであるから無効である。すなわち

(一) 被申請人は、昭和三八年九月九日組合に対し申請人を含む五八名について配置転換等の人事発令を同月一六日に行なう旨通知してその同意を求めて来たが、組合は同月一四日申請人について組合活動に支障を来たすとして同意を拒絶した。ところが被申請人は組合が同意を拒絶した理由を納得し難いとして、組合に対し予定どおり発令を行なう旨通知すると共に、同月一六日申請人に対し本件配置転換命令をなした。この間、組合は被申請人に団体交渉を申し入れ、交渉を三回にわたり重ねたが、被申請人は組合の主張に耳をかさなかつたものである。

(二) 組合が申請人の配置転換につき同意を拒絶したのは次の理由による。組合は労働協約第二五条ならびに昭和三六年六月三〇日付組合活動に関する諒解事項に準拠して組合活動を行なつている。そして組合の組織部は組合の団結強化、組織の拡充に関する重要な組合業務を分掌している。申請人は中央執行委員組織部長として団体交渉、中央執行委員会その他の諸会議に出席し、且つ組織部担当の業務を執行すべき任務を与えられ、これを果たすため職場要求獲得月間の設定およびその遂行等の運動方針をたてて、これを完全に実施すべく努力中であるが、手稲送信所は本社々屋から遠く離れた手稲山々頂にあるため、同送信所に配置転換されると申請人は組合役員としての任務を遂行することが困難になる。これが同意拒絶の理由である。

四、組合は申請人に対し昭和三八年九月一六日辞令返上の指示をすると共に、同月二〇日被申請人に対しその旨の通知をしたところ、被申請人は同月二三日申請人に対し配置転換先において就業するよう業務命令を発し、かつ組合にその旨を通告して来た。組合は新役員の選任をおわり、新年度の運動方針に則り諸問題を解決するため精力的に活動をしなければならぬ時期に際会しているので、もし今申請人が手稲送信所に勤務することとなれば、組合活動は全く停滞し、組合運営に回復できない重大な支障を来たすことになる。

よつて本件仮処分申請に及んだ。

(被申請人の主張に対し)

組合の本件配置転換に対する同意拒絶が権利の濫用であるとの被申請人の主張は争う。被申請人が挙げる本件配置転換を必要とした事由はいずれも理由がない。

労働協約第七条については被申請人が主張するような確認事項はなく、またその主張する運用慣行もない。

第三、被申請代理人の主張

一、申請人主張の一、二の事実は全部認める。三、の事実のうち、労働協約に申請人主張の文言の人事同意条項が存在すること、被申請人が昭和三八年九月九日組合に対し申請人を含む五八名につき配置転換等の人事異動の発令を同月一六日付で行なう旨通知をしてその同意方を求めたところ、組合は同月一四日組合活動に支障を来たすことを理由に同意を拒絶したこと、そこで被申請人は右同意拒絶の理由を納得しがたいとして予定どおり申請人に対し配置転換の発令をしたこと、この間組合と被申請人との間で団体交渉が行なわれたこと、組合活動については労働協約第二五条のほか申請人主張の諒解事項のあることは認めるが、その余の事実を否認する。四、の事実のうち、組合が辞令返上の通知および指示をしたこと、被申請人が業務命令を発したことを認め、その余の事実を否認する。

二、被申請人が本件配置転換をした経緯はつぎのとおりである。

(一)  被申請会社は、昭和三七年九月長期計画委員会において新たに人事計画を立案し、人事異動について明文の基準を定め、とくに適性配置、人心刷新、人材養成を目的として春秋二回の定期異動を行ない、同一職場に長期定着する者一四六名を今後五カ年間に逐次異動させその後も五年を目安に順次人事の交流をはかることになつた。

そこで被申請人は、右方針のもとにまず昭和三八年三月に春期大異動を行なつたが、今回九月に行なつた秋期異動は、右春期異動のあとを受け、本来の定期異動のほかに室蘭放送局における番組制作の廃止・停年退職者の補充・組合専従者の交替等に伴う人事異動を併せ行なつたものである。

(二)  申請人の配置転換は右人事異動の一環として、室蘭放送局の減員、ラジオ・テレビ間の技術交流、本・支社間の人事交流に関連して行なわれたものであるが、申請人を手稲送信所に配置転換することにしたのは、つぎの事情によるものである。すなわち、本社テレビ局技術部主調課において調整室を整備し人員を一名増員する必要があつたのでテレビ局技術部テレビ手稲送信所に勤務する二級無線技術士佐藤哲雄を右主調課に配置転換することとしたが、同送信所は電波法上の無線局であるため、その設備の操作には第一級又は第二級無線技術士(以下有資格者という)を最低五名必要とするところ、右佐藤の配置転換のため有資格者に一名の欠員を生じた。そこで被申請人はラジオ・テレビ間の技術交流という基本方針に則りこれを本社ラジオ局所属の有資格者をもつて補充することとして人選した結果、業務内容の関連性、在職経歴、現職場勤務の年数、将来の希望等を考えあわせ、ラジオ局技術部調整課に勤務する第二級無線技術士であつた申請人を最適任と認めた。

(三)  そこで被申請人は、昭和三八年九月七日申請人を含む五八名に対し異動を内示し、同月九日組合に対しその同意方を求めた。これに対し、組合は、すぐ申請人の配置転換問題について団体交渉を申し入れて来たので、被申請人はこれに応じたが、その席上、組合は申請人の配置転換は組合活動に支障を来すから同意できないと主張した。そこで被申請人は本件配置転換の必要性を説き、あわせて組合の主張が理由のないことを述べてその翻意をうながしたが、組合は肯んぜず同月一四日同意拒絶を通告して来た。しかし被申請人は本件申請人の配置転換を実施する必要に迫られていたので、予定どおり同月一六日付でその発令をなした。

三、申請人は本件配置転換につき組合が同意を与えていないことを根拠としてこれを無効であると主張しているが、その理由のないことは以下に述べるところから明らかである。

(一)  第一に、一般の労働契約においては、労働者はその労働力を特別の契約がない限り包括的に使用者の処分に委ね、使用者は右労働契約に基く権限により労働者を指揮してその労働力を自由に企業活動に利用することができるものであり、かかる使用者の労務指揮行為は、それにより労働者との間に新たな契約を成立させたり、従前から存在している労働契約の内容を変更させるというような法律上の効果を生ぜしめるものではないから単なる事実行為である。これを本件についてみるに、申請人と被申請人との間においては、申請人を特定の業務にのみ使用するというが如き特段の契約があつたわけではないのであるから、申請人に対する本件配置転換命令は法律行為ではなく事実行為であり、したがつてその有効無効を論ずる余地はない。

(二)  組合がなした同意拒絶は労働協約第七条制定の趣旨、運用慣行に反するもので権利の濫用である。すなわち、労働協約第七条の規定は、会社が従業員個人に対して不利益取扱をすることを防止し、従業員の身分と地位の安定をはかりこれを保護する目的のために制定されたものであつて、組合は単に組合活動に支障を来たすことを理由に被申請人が行なわんとする人事異動に対し同意拒絶をしないことが、昭和二九年にはじめて労働協約が締結された際労使間で確認されている。この確認事項は実際の運用においても、今回申請人の配置転換を組合が同意拒絶するまで遵守されていたものであつて、従来組合は中央執行委員の人事異動について組合活動に支障ありとして同意を拒絶したことはほとんどなく、例外として組合が争議体制にあるとき、またはその後任選出を待つときに限り理由を明示して一時的に同意を保留し、被申請人はその理由を正当と認めた場合には当該人事異動の発令を延期あるいは取り消してこれに応ずるという柔軟性ある運用慣行を築きあげていたものである。そうして、本来人事権は使用者の経営権に属するものであり、同意条項はこの使用者の経営権の範囲に属する意思決定に組合が参加するという性格を有するに過ぎないから、組合が同意条項により認められる同意拒絶権を行使するにあたつては、その制定の趣旨および運用慣行に従い、使用者の人事権を侵害せぬよう適正に行使するよう配慮すべきである。本件においては前記二、において述べたとおり被申請人は業務上の必要に基づき公正妥当な人選を行ない申請人の配置転換を決し、且つ誠意をもつて団体交渉に応じたのであるが、組合は組合活動に支障を来すことを理由にあくまでも同意を拒否した。しかしそのいうところの支障は決して重大なものではなく、また組合が誠意をもつて対処すれば容易にこれを除去できるものである。すなわち、

(1) 申請人が主張する組合活動の支障は、組織部長の代行者の選任、改選、職務分掌の改正又は組織部長の専従者化により容易にこれを除去できる。

(2) 文書配付活動、業務連絡活動および休憩時間中の組合活動程度のものは、他の組織部員の活用、手稲送信所と本社とを結ぶ通信線の利用によりさしたる支障なく遂行できる。

(3) 労働協約第二五条によれば組合活動は原則として勤務時間外に行なうことになつているし、労働協約付属覚書の3項により職場の勤務ダイヤを作成するにあたりあらかじめ組合活動を考慮に入れることができるから、会合に出席するのに特に重大な支障はない。

(4) 手稲送信所の勤務時間の起点・終点は山麓の連絡事務所であり、そして同事務所と本社との間の交通に要する時間はバスで片道約三〇分であるから時間的にも大して支障があるわけではない。

かような事情を綜合して考えてみれば、組合が被申請人側の情理をつくしての説得に耳をかさず、労働協約第七条制定の趣旨とその運用慣行に反してまで同意拒絶の態度を貫いたことは、同意拒絶権の濫用にほかならないというべく、したがつて、被申請人が組合の同意なく本件配置転換の発令をしたことは何ら労働契約に違反するものではない。

(三)  労働契約第七条に規定する人事のうち配置転換に関する部分は、被申請人がその業務運営のため人事配置を行なうにあたつての手続に関する制約を定めたものであつて、労働契約の規範的部分ではなく債務的部分に属するものであるから、被申請人に右協約違反があつたとしても配置転換の効力に影響がない。

(四)  最後に、本件仮処分申請は次の理由により保全の必要性を欠くものである。すなわち、

(1) 仮に本件配置転換により申請人の組合活動に支障を来たすとしても、それにより損害をこうむるのは組合であり、申請人個人にとつて何らの損害も生じない。

(2) のみならず、申請人が組織部長になつたのは単に組合役員選挙における同人の得票数がたまたま組織部長の順位にあたつたという偶然の事情によるものであるにすぎないから、組織部長が申請人でなければならぬ理由はなく、その業務は他の役員による代行が可能であるし、職務分掌の改定も可能であるから容易に支障を除去できる。加うるに申請人が主張する組織部長の業務内容には直ちに仮処分をもつて申請人を現職場にとどめおいて遂行しなければならぬ程の緊急なものはない。

よつて申請人の本件申請は理由がない。

第四、疎明<省略>

理由

第一、争いない事実

被申請会社が、放送事業を目的とし本社を札幌市北一条西五丁目におく株式会社であること、申請人が被申請人に雇傭されている従業員であり、かつ組合の組合員であつて、昭和三八年八月三日組合の中央執行委員に選出され、現在組合本部の組織部長であること、そして被申請人は昭和三八年九月一六日申請人に対し同人がこれまで勤務していたラジオ局技術部調整課からテレビ局技術部テレビ手稲送信所へ配置転換を命じたこと、被申請人と組合との間に締結され現に効力を有する労働協約の第七条には「会社が従業員の解雇、降職、処罰、休退職、雇入、異動、配置転換、昇進等を行なうときは、組合の同意を要する。」との定めがあるところ、申請人に対する右配置転換については組合は組合活動に支障を来たすことを理由に同意を拒絶し、数次の団体交渉にもかかわらず、結局組合の同意は与えられていないこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、本件の配置転換が形式的には右労働協約の定めに抵触するものであることは文理解釈上明らかであるといわなければならない。

第二、配置転換命令の性質

被申請人は、配置転換命令は単なる事実行為であつてその有効無効を論じる余地はないと主張する。一般に労働契約においては、労働者は企業運営に寄与するため使用者に対し労働力を提供し、その使用を包括的に使用者に委ねるのに対し、使用者はその労働力の処分権を取得し、その裁量に従い提供された労働力を按配して使用することができるものである。すなわち当該労働契約において特に労働の種類・態様・場所についての合意がなされていない限り、これらの内容を個別的に決定し抽象的な雇傭関係を具体化する権限は使用者に委ねられており、使用者は右権限に基づいて労務の指揮として自由に―但し、労働協約に定めがあるときはその基準に従つて、―具体的個別的にその内容を決定することができる。配置転換・転勤等の人事異動は使用者の有する右のような権限に基づく命令であつて、それは使用者がさきに自ら決定していた労働契約の具体的個別的内容を一方的に変更する行為というべく、その意味において一種の形成行為と解するのが相当である。したがつて、それが労働契約その他に定められた有効要件を備えていないときは命令の無効を来たすことになるといわなければならない。被申請人の右主張は採用することができない。

第三、本件配置転換命令の効力―権利濫用の主張について

一、本件の中心をなす争点は、組合のした同意拒絶が権利の濫用であるかどうかの点にある。被申請人と組合との間に締結されている労働協約にいわゆる人事同意条項のあることは前述のとおりであり、これにより、組合は被申請人のなす人事につき個別的に同意しまたはこれを拒む権利が与えられている。組合はこの権利に基づき申請人の配置転換に同意しなかつたのであるが、これが権利の濫用であるかどうかは、人事異動をしようとする使用者側の主観的意図と人事異動の具体的内容ならびにその必要性、組合が同意を拒絶する主観的意図と当該人事異動によりこうむる組合活動上の支障など諸般の事情を総合考慮し、前記同意条項の意義ないし目的とその運用慣行に照らして判断すべきことがらである。

二、そこでまず被申請人が本件配置転換をするに至つた経緯から検討を進めよう。

証人秋山拡・同小笠原長の各証言および申請人本人尋問の結果ならびに成立に争いのない甲第一、一〇号証、乙第一七号証、証人秋山の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、第三〇号証の一、二、証人小笠原の証言により真正に成立したものと認められる乙第二一号証を総合すると、次の事実が一応認められる。

(一)  被申請会社は、会社設立後一〇年余を経過し民間放送企業として創業期から安定期に入つたので、この際これまでの事業運営を反省し今後の発展をはかるため、昭和三六年三月に長期計画委員会を設けて会社事業運営の長期計画を検討して来たが、同三七年九月同委員会において長期計画の一環として人事計画を立案し、あらたに人事異動についての明文の基準を定め、(イ)適性配置(ロ)人心刷新(ハ)人材養成の三つを目的として毎年春秋に定期人事異動を実施し、同一職場に長期間定着している従業員一四六名を今後五年間に逐次異動をさせると共に、さらにその後も五年を目安に順次人事異動をすることになつた。

(二)  そこで被申請人は昭和三八年三月に右基準にのつとり機構改革に伴う部課の呼称変更とあわせ、合計七一四名(うち転勤五五名)の大人事異動を行なつた。

(三)  昭和三八年九月一六日に行なわれた本件配置転換を含む人事異動は、右春期異動のあとをうけ前記基準にのつとり行なわれたものであるが、その具体的な目的は、従来からの基本方針であるラジオ・テレビ間の技術交流、本社支社間の人事交流のほかに(イ)春期異動後の退職者により生じた欠員補充と販売体制強化およびこれに伴う技術部門とくにテレビ部門の補強(ロ)組合専従者の交替に伴う措置(ハ)室蘭放送局の番組制作廃止に伴う転勤を行なうことにあつた。

(四)  その際被申請人は前記テレビ部門補強の一環として、本社四階にあるテレビ局技術部主調課の調整卓を三階に移設して副調室に隣接させ、同時に同室へ定員を一名増員してその業務内容を充実させることとし、テレビ局技術部テレビ手稲送信所に勤務する第二級無線技術士佐藤哲雄をもつてこれにあてることとした。

(五)  ところで手稲送信所は電波法上の無線局であり、同法第三九条、無線従事者操作範囲令第二条によれば同送信所の設備の技術操作は第一級無線技術士およびその指揮下にある第二級無線技術士でなければ行ない得ないので、同送信所には従前から第一級無線技術士二名、第二級無線技術士三名が配置され他の所員と共に泊り、明け、日勤の三交代によるシフト勤務を行なつていたのであるが、前記のとおり佐藤が配置転換されることになつたため、有資格者に一名不足を来たし、これを補充する必要が生じた。

(六)  そこで被申請人はラジオ・テレビ技術交流の見地から、その後任を本社のラジオ部門に勤務する第二級無線技術士のうちから補充することとして検討したところ、一応選考の対象として考えられたのはラジオ局製作部スタジオ課、同局技術部調整課および同部ラジオ送信所であるが、そのうちスタジオ課は業種として関連性が薄く、またラジオ送信所からは昭和三七年に石田忠義が手稲送信所に配置転換となつているので、そのほか手稲送信所の業務内容人員構成なども考えあわせ、今回は調整課から選ぶのが適当と考えた。

(七)  そして、調整課には三名の第二級無線技術士がいたが、その中で申請人は、昭和三四年一二月一日以来同課に勤務しもつとも古参であつたこと、申請人はさきに実施された人事調査において、一応現在地を離れたくないとしつつ、東京もしくは函館ならば転勤してもよいとする回答を寄せていたが、この意向にそつて申請人を東京もしくは函館に勤務させるためにはテレビ技術を習得させる必要があつたこと、他方手稲送信所は会社機構上本社に属し、勤務時間の始点、終点は手稲山の麓にある連絡事務所の発着時であるから、申請人を手稲送信所に配置転換しても組合活動には支障がないと考えられたこと、このような理由から、被申請人は申請人を適任であると認めた。

(八)  そこで被申請人は昭和三八年九月七日に申請人を含む五八名の人事異動を内定して即日該当者に内示し、同月九日組合に対し書面をもつて同意を求めた。ところが組合は申請人を含む三名についてその人事異動が納得できないとして被申請人に対し団体交渉を申し入れて来たので被申請人はこれに応じ数次の団体交渉をもつたが、同月一四日組合は申請人の配置転換を組合活動に支障を来たすとの理由で拒絶した。

しかしながら、被申請人は組合の主張は理由がないとして、予定どおり同月一六日本件発令をなすに至つた。

右に認定した事実によれば、被申請人が本件配置転換を行なうについては業務上それ相当の理由と必要性があつたことは否定できないところである。手稲送信所に配置された五名の有資格者のうち一名が転出する以上、その補充を不要とする明白な理由がないかぎり、その後任にこれと同等の有資格者をあてることは企業経営上まことに当然なことであり、その候補者として申請人を選んだいきさつにも不当な動機とか不自然な作為は存在するものでない(証人佐々木貞行の証言により真正に成立したものと認められる甲第二三号証によれば、手稲以外の送信所においては有資格者の補充が行なわれなかつた事例があること、また手稲送信所において有資格者無資格者各一名を一グループとする新しい勤務形態が採用されたのは本件配置転換発令の後である昭和三八年一〇月一日からであることがうかがわれるけれども、そのことから直ちに本件配置転換はその当時としては業務上かならずしも必要なことでなかつたとは言いえないであろう。)。

三、つぎに申請人の配置転換により生ずる組合活動上の支障について検討する。

証人梅沢吉平、同秋山拡(但し後記採用しない部分を除く)および申請人本人尋問の結果ならびに成立に争いのない甲第二号証、第四ないし第七号証、乙第一七号証、第二五号証、第二九号証、証人梅沢の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証の一ないし三、第二二号証、証人相沢竜一の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証、証人秋山の証言により真正に成立したものと認められる乙第二六号証(但し後記採用しない部分を除く)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一六、一七号証によると次の事実が一部認められる。

(一)  組合は本部と二〇の支部からなり、本部は中央執行委員長、同副委員長、中央書記長および中央執行委員でもつて構成されている。本部には書記局がおかれ、財政部、組織部、教育宣伝部、調査部、文化厚生部の専門部があり、専門部長と同副部長には原則として中央執行委員が任命される。組織部の職務分掌については特に明文の定めはないが、各専門部・各支部・諸団体との連絡活動がその職務の中心であつて、(1)労働協約その他の諸協定の実施・改定に関する事項(2)関連産業との提携、下請業臨時雇の組織化に関する事項(3)組合員名簿の管理に関する事項(4)上部団体、他組合、政党その他友誼団体との渉外活動および各支部の地区労活動の指導などに関する事項(5)職場要求の組織化に関する事項(6)組合組織の民主的運営の指導に関する事項(7)学習活動、サークル活動に関する事項(8)婦人部活動の指導に関する事項などを担当し、教育宣伝部と共に組合の組織の維持強化のため重要な作用を営んでいる。

(二)  申請人は昭和三二年六月一日組合員となり、以来同三四年七月頃組合ラジオ技術支部代議員、同三六年六月二五日第一〇期中央執行委員、同三七年八月一三日第一一期中央執行委員を歴任し、同三八年八月三日第二位の得票数で中央執行委員に選出され、同月七日互選により組織部長に任命された。申請人はこれまでも団体交渉その他の会合に積極的に出席して組合活動を行なつて来たが、今後も中央執行委員の一員として団体交渉に出席する必要があるのみならず、組織部長として組織部の活動を行なうためには中央執行委員会に出席し活動の基本となる討論に参加する必要がある。

(三)  労働協約第二五条によると、組合活動は原則として勤務時間外に行うことになつているが、例外として組合大会、団体交渉、中央執行委員会等同条各号に掲げられた一定の場合については社務に重大な支障のないかぎり勤務時間内にこれを行なうことが認められ、また昭和三八年六月三〇日付組合活動に関する諒解事項によると、一日一時間を限度として文書配付・組合業務連絡活動を行なうことが認められている。そうして団体交渉・中央執行委員会等の会合は札幌市北一条西五丁目所在の被申請人会社本社々屋であるHBC会館で開催されている。申請人の従来の職場であつたラジオ局技術部調整課は同市南一条西三丁目大丸ビルにあり、右本社と大丸ビルとの間は徒歩で約七分である。同職場では手稲送信所と同様にシフト勤務制がとられているが、組合用務がある際は比較的容易に交替を得ることができたので、申請人は本社で行われる会合にさ程困難なく参加できた。

また日常接し得る組合員数が多いので、休憩時間中の組合活動、勤務時間中の文書配付・業務連絡活動を行なう上にも便利であつた。

(四)  これにひきかえ、申請人の配置転換先であるテレビ局技術部手稲送信所は本社機構内とはいうものの、札幌市郊外である札幌郡手稲町にある海抜一、〇二三メートルの手稲山々項にあり、札幌市中心部にある本社から札樽国道沿いに小樽方向に約一二キロメートル離れたところにある被申請人会社の連絡事務所から、さらに山道を一二キロメートル登つた地点に設置されている。そうして、本社から右連絡事務所までは、国鉄、国鉄バス、私営バスの便があり所要時間約三〇分で運行回数も比較的多いから、この区間は特に交通の便が悪いとはいえないが、同連絡事務所から送信所までは毎日午前午後各一往復定期的に被申請人会社の手稲送信所員通勤用のランドクルーザー又は雪上車が運行しているだけであるから、極めて交通の便が悪く、したがつて組合用務の為本社に赴くことは意の如くならない。また同送信所に在勤する組合員は一一名にすぎないから、申請人が日常接し得る組合員の数が少くなる。さらに拘束時間数についても、手稲送信所は一週四八時間勤務となつているうえ、泊り勤務が一週間に二回あるため、勤務時間外に組合活動をする時間が従来より制約される。

右認定にてい触する証人秋山拡、被申請会社代表者本人の各供述並びに乙第二三、二六号証の供述記載部分は、他の疎明と対比して以上の事実認定の疎明力を減殺するに足らない。

以上の認定事実に徴すれば、申請人が手稲送信所に配置転換されると、勤務時間外の組合活動を行なう時間が従前に比し多少減少することは受忍するとしても、休憩時間中の組合活動および前記諒解事項により認められた勤務時間中の文書配付・業務連絡活動を本社および大丸ビル内で行なうことができなくなるほか、労働協約により勤務時間中に行なうことが例外として許容された団体交渉、中央執行委員会等の会合に出席することが困難になり、また日常多くの組合員と接する機会もなくなるため、前記認定にかかる職務分掌に従い組織部長として組合活動をするうえにおいて相当の支障を来たすことは明らかである。もつとも、証人梅沢の証言によれば、組織部には部員として歌代功および前組織部長である西尾豊久両名が配置されていることが疎明せられ、また証人秋山の証言および同人の証言により真正に成立したものと認められる乙第二六号証によれば、手稲送信所と本社との間には通信設備が一応完備していることが疎明せられるから、組織部員の活用や通信設備の利用により組合活動上の支障はある程度までは除かれるであろうが、それにしても組織部の職務分掌が前記のとおり多岐にわたることを考えると、すべての場合に他の部員の活用ないし通信設備の活用でことたりるとはとうていいいがたい。また前掲乙第二九号証によると、労働協約付属覚書3(ヘ)項に組合は組合活動の翌月予定表を毎月二〇日までに会社に提出するものとする旨の規定があり、他方勤務ダイヤ特定に関する確認事項1項に勤務ダイヤは前月二〇日までに特定する旨、7項に始業時刻の変更は原則として一週間前までとする旨の各規定があることが一応認められる。これによると、前月二〇日以前に予定が判明している組合行事は勤務ダイヤ作成にあたりあらかじめ考慮することができ、その後も一週間前までに判つた行事についてはある程度勤務ダイヤを変更してこれに参加し得る余地があることになる。しかしながら、組合大会、定例中央執行委員会のようにあらかじめ開催が定つている場合はともかく、団体交渉、臨時中央執行委員会等問題が発生したときその都度緊急に開催される性質の会合についてはあらかじめその開催を予測することが困難というべきであるから、かかる場合にはなお右の方法によつても支障の除去ができないわけである。そうして証人相沢竜一の証言により成立の認められる甲第二四号証によれば、昭和三七年度においては年間を通じて六二回の団体交渉がもたれ、一一六回の中央執行委員会が開かれたこと、この他在札支部協議会、婦人部会、専門部会等の会合が一カ月平均五~六回開催されていることが疎明せられるから、勤務ダイヤ作成にあたりこれを可能な限り考慮に入れるとしてもなお相当数の場合に支障が生ずるといわざるを得ない。

なお被申請人は、組織部長の代行者の選任、改選、職務分掌の改正または組織部長の専従者化などにより組合活動上の支障は取り除かれるとも主張しているが、それはたしかに可能なことであるとしても、使用者側が組合にそのような措置を求めるのはおよそ筋ちがいであり、組合がそうまでして使用者側にこたえなければならないいわれはないというべきである。

四、上述したところから明らかなように、被申請人が本件配置転換をするについては、それ相当の理由と必要性があつた。しかし他方組合側はこれにより活動上の不利益をこうむることもまた明白であり、組合が本件配置転換に対する同意を拒絶した理由はまさにその点にあつたのである。

およそ人事権は経営権の中枢をなすものとして使用者に帰属している。そして使用者は専ら企業経営の立場からこれを自由に行使しようとする。労働協約のいわゆる人事条項はこの使用者の人事権行使に組織労働者の意思を参与させ、労働者の利益擁護をはかる機能を営むものにほかならない。使用者は労使間の合意に基づき、自己の有する人事権の行使にいわば自ら制約を課したことになるのである。ところが被申請人は、労働協約第七条のいわゆる人事同意条項は、被申請会社が人事権を行使するにあたり従業員個人に対して不利益取扱をすることを防止するために設けられたものであつて、被申請会社が行なう人事異動が組合活動に支障を来たすとしても組合はこれを理由にその同意を拒絶しないことが昭和二九年に労働協約がはじめて締結された当時労使間に確認されている旨主張する。しかし被申請会社代表者本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したことが認められる乙第三二、三三号証によつてもなお労働協約締結時に組合と被申請人との間で被申請人が主張する内容の明確な確認がなされたことを疎明するには足らず他にこれを疎明する資料はない。

またこれをその後の運用の実例についてみるに、証人梅沢吉平の証言とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一九、二二号証、および証人秋山拡の証言により真正に成立したものと認められる乙第二四号証、ならびに成立に争いのない甲第二〇号証の一ないし五、第二一号証の一、同号証の二の(イ)(ロ)、同号証の三、乙第一、二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし四、第五号証の一、二、同号証の三の一、二、同号証の四、五、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証の一、二、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし四、第一六号証の一ないし三、同号証の四の一、二、同号証の五を総合すると、組合は中央執行委員その他の組合役員の転任ないし配置転換に対しても多くの場合これに同意を与えているが、その同意をしなかつた事例としては次の四例があることが疎明せられる。

(1)  被申請人はテレビ放送局開局にそなえる機構改革と地方放送局開局にともなう既設放送局の人員減を補うため、昭和三一年一一月五日当時企画室調整課勤務の社員津坂良子についてこれを小樽放送局勤務とする旨の人事異動の発令の同意を組合に求めたところ、組合は同女が組合婦人部長で婦人部組織の整備拡充等の実施の中枢的存在であり、しかも当時組合が年間賃金協定改定につき被申請人と交渉中であつたので、同女の転勤は組合活動に支障を来たすとしてこれに同意せず被申請人に再考をうながした結果、右発令はなされなかつた。その後被申請人は翌三二年五月二五日改めて右発令の同意を組合に求めたところ、組合は一旦同意を保留したのちこれに同意したので、同年六月一日付でその発令が行なわれた。

(2)  被申請人は函館放送局の開設にともない、昭和三三年一一月一七日当時技術管理課勤務の社員竹村富弥および小樽放送局勤務の社員友広政信について函館放送局勤務とする旨の人事異動の発令の同意を組合に求めたところ、組合は(イ)まず竹村につき同人が組合の中央副書記長兼給与対策部長であり、しかも当時組合は賃金協定改定および最低賃金制度新設を要求して闘争中であつたため、組合活動に著しい支障を来たすから同意出来ないが賃金協定改定交渉終了後あらためて同意を求められた場合は再考慮する旨回答し、(ロ)さらにその後友広についても同人が組合小樽支部中央闘争委員であることを理由に赴任期限の延期を求めたところ、被申請人はその発令をせず右闘争終了後である同年一二月八日あらためて同人らの発令について組合に同意を求めたので組合はこれに同意し、同年一二月一五日付で発令がなされた。

(3)  被申請人は電々公社のテレビ送り出し体制の充実により東京支社の機構を縮少することとし、これにともない昭和三五年一〇月二五日同支社技術部管理課勤務の社員田塩富次について技術局テレビ技術部(当時)テレビ手稲送信所勤務とする旨の人事異動の発令の同意を求めたところ、組合は同人が民放労連の副書記長であり当時同労連書記長が病気のためその職務代行を勤めていることを理由に同意できないと回答したので、右発令はなされなかつた。その後被申請人は翌三六年五月二四日あらためて組合に同意を求めたところ、組合はこれに同意したのでその発令がなされた。

(4)  被申請人は、昭和三六年八月二三日技術局テレビ技術部スタジオ課に送像主任として勤務する社員高林昭三について同部テレビ手稲送信所長(課長待遇)とする旨の人事異動の発令を求めたところ、組合は同人が組合の中央副執行委員長であるため後任決定まで同意を保留する旨回答し、その後、後任者が決定したのち改めて同意を通告した結果、同年九月一九日その発令がなされた。

これらの事例に徴すれば、組合は、人事異動が組合活動に支障を来たすときはその理由を明示して同意をせず、これに対し被申請人は組合の主張する支障があると認めたときには労働協約第七条の解釈に異議をなんらさしはさむことなくその同意拒絶権の行使を認容し人事異動の発令を見合わせたことが明らかである。もつとも右各事例において組合は被申請人に対する回答として「同意できない」「再考されたい」「保留する」などいろいろの表現を用いていることが認められるが、いずれも語調から来る強弱ニュアンスの差は別として同意をしなかつたという結果においては変りがない。他方前掲各疎明によると、組合が従業員個人の経済生活上の不利益を理由として被申請人が行なおうとした人事異動の同意をしなかつたのは昭和三二年四月における社員小山信幸に関する場合唯一例である。そうすると、労働協約第七条の実際の運用においても同条による同意拒否権の行使が認められる場合については特段の制限がなく、むしろ組合活動に支障がある場合の方が大きい意義を有していたというべきである。ただ、前記各事例のうち(1)(2)は、いずれも組合が被申請人に対し具体的な要求をかかげて闘争中であることをとくに理由として挙げているのであるが、そうだからといつて組合は現に闘争中である場合に限つて被申請人が行なおうとする人事異動に対し同意拒絶権の行使ができると解するのは狭きに失するのであつて、組合の存在目的が労働者の団結をはかり労働者を使用者と対等の地位に立たしめることによつて労働条件の維持改善その他労働者の経済的地位の向上を助成しもつてその生活を擁護することにあることを考えるとき、日常の組合活動により労働者の団結をたかめるとともに労使間に発生する諸問題を解決することもやはり組合の重要な任務の一つというべきであるから、被申請人が行なう人事異動により組合の日常業務に支障を来たすというだけでは同意拒絶の理由にならないとは解釈すべきでない。もちろん組合が同意拒絶権を行使するについては会社の経営権人事権を十分に尊重すべきことは労働協約の前文(乙第二九号証)をまつまでもなく当然のことであり、その適切妥当な運用を労使双方の良識に期待しなければならないが、当該労働者が組合活動において重要な地位を占め、これを他に配置転換することにより組合活動に相当の支障を来たすと認められる以上、使用者がなす当該配置転換が企業運営上の必要に基づくものであつて特に不当な差別待遇の意思に出たものではなくても、それが余人をもつて変えがたい程の高度の必要性を有するものでない限り、これに対する同意を拒絶することは権利の濫用とはいえず、正当なものとして認容されるべきである。本件の配置転換が十分な理由と必要に基づき計画されたものであることはこれを認めうるにしても、それが余人をもつては容易に替えがたいほどの高度の必要性があつたことまでの疎明はないとすれば、組合が前記のような組合活動上の支障を理由に同意を拒絶したことをもつて、これが権利の濫用であるとはいうことができない。そうすると被申請人が組合の同意を得ないままに行なつた本件配置転換命令は労働協約第七条に違反するといわざるをえない。

そこで右違反の効果について考察すると、労働協約第七条の規定のうち配置転換に関する部分は労働者の企業内における地位、職務内容の得喪変更に関する規定として労働条件事項の性格を有するものと解される。したがつて右はいわゆる労働協約の規範的部分に属するものというべきであるから、これに違反した行爲の効力は否定されなければならない。そうすると、労働協約第七条の配置転換に関する部分に違反した本件配置転換命令は無効であるというべきである。

第四、保全の必要性

組合が申請人に対して昭和三八年九月一六日辞令返上を指示し同月二〇日被申請人に対しその旨を通和したこと、これに対し被申請人は同月二三日申請人に対し業務命令をもつて配置転換先である手稲送信所で就業するよう指令し、かつ組合にその旨を通告してきたことは当事者間において争いはない。

ところで前記のとおり被申請人の配置転換命令はその効力を生ぜず申請人は従来どおりラジオ局技術部調整課にその職場を有すべきものであるが、被申請人が手稲送信所に勤務せよとの業務命令を発したため申請人の職場内における地立は甚だ不安定となつている。また、申請人が組織部長として組合活動中であること、本件配置転換が申請人の組合活動に支障を来たすことは前示のとおりであるが、組織部は組合内部および外部団体との連絡の中心であつて組合教育宣伝部と共に組合の団結強化維持のため重要な作用を営むものであるから,この日常連絡活動が停滞するときは組合の団結が弱まり組合運営に甚だ不利益をもたらすことが察知される。被申請人はここでも組織部長が申請人でなければならなぬ理由はなく、また代行者選任、職務分掌改定、專従者化により支障除去可能として必要性を争うのであるが、証人梅沢吉平の証言によると、申請人が組織部長に選任されたのは中央執行委員選任にあたりその得票数が猪田昇に次ぎ二位で組合員多数の支持を受けた者であつたため、とくに団結強化のための連絡活動を行なう者として適任であるとの配慮によつたものであることが窺われ、単なる代行者の選任でこれがまかなわれるわけのものでもなく、職務分掌改定、專従者化は組合組織の根本に触れる問題でたやすく行ないうるものと考えられないから被申請人の主張は採用することができない。

なお被申請人は本件配置転換により損害を受けるのは申請人ではなく組合であるから申請人が仮処分を求めることはできないと主張するのであるが、なるほど、本件では申請人は配置転換により申請人自身について生ずる個人的経済的不利益については何ら主張せず、もつぱら組合の活動に生ずる不利益を主張しているのであるが、右不利益は前記認定のとおり本件配置転換が組合構成員である申請人の組織部長としての組合活動に支障を来たすことから招来されるものであつて、申請人自身の組織部長としての地位にも密接且つ重大な利害関係を有するばかりでなく、申請人が業務命令に従わなければ命令違背を追及され不利益な処遇をうけるおそれもありうるから、かかる場合申請人個人が当事者として仮処分を求める利益と必要は十分にあると解するのが相当である。

そうすると申請人について本案判決の確定に至るまで仮にその地位をラジオ局技術部調整課員として定めておく(申請人が被申請人のした意思表示の効力の停止を求めているのはこの趣旨に理解される)必要があるというべきである。

第五、結論

よつて申請人の本件仮処分申請を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 藤井正雄 長谷川正幸)

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