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札幌地方裁判所 昭和31年(行)7号 判決 1959年2月27日

原告 植田勝

被告 北海道空知支庁長

主文

被告が昭和三〇年八月六日原告に対してなした、昭和二九年三月ないし同年六月、同年一一月ないし昭和三〇年二月の各月の、原告が徴収して納入すべき各遊興飲食税額を別表(一)の<1>更正又は決定税額欄記載の各金額のとおりに更正又は決定した各処分は、昭和二九年三月ないし同年六月、同年一一月及び一二月の各月の分についてはそれぞれ別表(三)の<2>適正税額欄記載の各金額を超える部分を、昭和三〇年一月の分については金一、二三〇円同年二月の分については金一、八一〇円を各超える部分をいずれも取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一原告及び被告の申立。

原告訴訟代理人は、被告が昭和三〇年八月六日になした、原告の昭和二九年三月ないし同年六月及び同年一一月ないし昭和三〇年二月の各月分の遊興飲食税申告納入額を別表(一)の<1>更正又は決定税額欄記載のとおりとする更正又は決定のうち同表<3>申告税額欄記載の金額を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決。被告指定代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めた。

第二請求の原因。

一、原告は肩書住所地において<上>植田館旅を経営しており、同旅館の飲食宿泊その他の利用行為に対する遊興飲食税につき特別徴収義務者としての指定を受けているものであり、かつ、同旅館は、昭和二九年五月法律第九五号によつて追加された、改正前の地方税法第一一四条の二第四項に基き、昭和二九年七月一日被告から一泊の料金七〇〇円以下の宿泊行為に対して非課税の大衆旅館に指定されたもので、当時の右狭義の宿泊料金はすべて七〇〇円を超えないものであつた。

二、昭和二九年三月ないし六月及び同年一一月ないし昭和三〇年二月の各月における右旅館の売上中遊興飲食税の課税対象行為である飲食、宿泊その他の利用行為(但し右一一月以降においては宿泊行為を含まない)に対する料金額(以下課税売上額と称する)は別表(一)の<2>課税売上額欄記載のとおりであつて、これを課税標準として法定税率を乗じた各月の特別徴収納入税額は同表の<3>申告税額欄記載のとおりである

三、原告は同表の<4>申告年月日欄記載の各日に被告に対しそれぞれ右各月の特別徴収すべき遊興飲食税課税標準額並びに税額につき納入申告書を提出した。しかるに被告は昭和三〇年八月六日原告に対し右申告にかかる各課税標準額並びに税額を不足だとし、右各月の申告納入額を同表の<1>更正又は決定税額欄記載のとおりの各金額に更正し、同年同月一〇日原告に対しその通知をした。そこで原告は右被告のなした決定に対し、同年同月二九日異議の申立をしたところ、被告は同年一一月一八日右各更正税額を妥当として右申立を却下し同月二〇日決定書を原告に送達した。

四、しかしながら原告は前記二の各税額以上に遊興飲食税を納入すべき義務はなく、かつ右各税額についてはそのとおりの納入申告書を提出しているのであるから、被告のなした右更正はいずれもなんら根拠のない違法のものである。よつて、右更正中原告の申告額を超える部分の取消を求めるため本訴に及んだ。

第三被告の答弁及び主張。

一、請求原因の項記載の事実中一は認める。二のうち課税売上高及び遊興飲食税の各金額を争う。三のうち原告が昭和二九年三月分の納入申告をした点を除きその余は認める。

二、原告は昭和二九年三月分については課税標準額及び税額の納入申告書を提出しなかつたので被告は同月分については地方税法第一二四条第二項第三項に基き原告が更正税額として主張するとおりの金額を決定しその他の各月分については同法第一二四条第一項第三項に基き申告額を更正したのである。

三、被告は昭和三〇年五月三一日北海道事務吏員三戸佐市郎をして原告方において昭和二九年度に納入すべき遊興飲食税の賦課に関する調査をなさしめたところ、原告は所得税につき青色申告の承認を受けているものであるに拘らず被告の要求する関係諸帳簿の呈示を回避し遊興飲食税徴収簿・現金出納帳・領収書写の三種を呈示したのみで課税売上額の算定につき最も必要な原始諸記録・売掛帳等呈示せず被告の正確な調査を極度に困難ならしめた。更にその後の調査によれば原告は(イ)昭和二九年三月六日付で三菱礦業株式会社芦別鉱業所に対し(ロ)同年六月二八日付で明治芦別鉱業所に対し(ハ)昭和三〇年二月一六日付で藤川ベニヤ工業株式会社に対しそれぞれ宿泊飲食料及びこれに対する遊興飲食税の領収書を発行しているがこれ等の売上金及び徴収金はいずれも原告の現金出納帳並びに遊興飲食税徴収簿に記帳されていないことが判明した。しかも右領収書はいずれも複写式のもので番号を付しており毎年一号から繰返して発行したものと認められ右(イ)の領収書の番号は三七号(ロ)の番号は七八号又(ハ)の番号は一三号であるから右(イ)乃至(ロ)の日付の間約一一〇日間に同種の隠れた領収書が少くとも四二枚発行されているものと推定されるのである。又右(ロ)の領収書の分は売掛となつて昭和二九年八月一二日に支払を受けているのであるから原告の売上は必ずしも現金取引に限られていないにかかわらず売掛帳の記載がなく更に右領収書によると宿泊料は二食付金七〇〇円一食付金六〇〇円とされているのに原告の帳簿に記載されている分は殆んど二食付金六〇〇円一食付金五〇〇円となつている。これ等の事実によると原告は単に売上金等についての記帳を脱落しただけでなく故意に事実と異つた記帳をして脱税を図つたものと疑うに十分である。そこで被告は原告の呈示した諸帳簿の正確性信用性を否認し、その記載のみを基礎とした原告の申告税額等を是認せず、別に昭和二九年度所得税の修正確定申告予定の総売上高を基礎として後記の如く各月分の課税売上高を合理的に推算し税額の決定及び更正をしたのである。

四、被告が滝川税務署において調査したところ、当時原告は既に昭和二九年度(同年一月乃至一二月)の所得税につき総売上高を金五二七、三四〇円とする確定申告書を提出していたが、同税務所の調査を受けた結果総売上金の脱落分金二一一、二七九円の存在を認め総売上高を金七三八、六一九円とする修正確定申告書を提出する予定であることが判明した。

ところで右修正確定申告による所得額は金二一九、三一〇円であつて、これを標準所得率三〇パーセント(昭和二九年度における所得の標準率であつて各業態別に統計的に算出された日本式普通旅館における所得額の総売上高に対する割合であり、北海道知事が作成したものを出先機関で若干修正したもの)で除すると金七三一、〇三三円となりこの金額は右修正確定申告予定総売上高とほぼ一致するところ、これらの金額はいずれも昭和二九年一月ないし同年一二月の間の総売上高を示すものであるから、本件遊興飲食税における昭和二九年度すなわち同年三月から昭和三〇年二月までの一年間の総売上高については、原告が記帳せるこの期間中の仕入金額合計一八三、一七八円を売上に対する原材料仕入標準率二五パーセント(北海道全道の旅館営業につき実額調査を毎月行つて算出したもので知事が査定して全道的に作成したものに地方の出先機関すなわち支庁又は税務出張所において若干の修正を加えたもの)で除すると金七三二、七一二円となり、この金額も亦前二者の金額とほぼ一致するから、前記昭和二九年度修正確定申告予定総売上高をもつて右昭和二九年度(遊興飲食税のばあいには同年三月から翌昭和三〇年二月までのことを言う)全期間中の総売上高とみてもその金額においてさしたる相違がない。

そこで被告は昭和二九年三月分については地方税法第一二四条第二項、第三項に、同年四月ないし同年六月及び同年一一月ないし昭和三〇年二月の各月分については同法同条第一項、第三項に基き、前記昭和二九年度修正確定申告予定総売上高金七三八、六一九円を基礎として次の方法により右各月分の課税標準額並びに遊興飲食税額を算出したのである。

(1)  右総売上金七三八、六一九円から、その中に含まれる非課税売上金として、原告が記帳していた昭和二九年三月から昭和三〇年二月までの間の合計額金二七一、九三八円をそのまま認めて差引き、その差額金四六六、六八一円を右一年間の課税売上高の合計額とした。

(2)  原告の旅館所在地域の同業者の営業状態を調査したところ、昭和二九年度は前年度に比し一般に売上高が低下してはいるが、月別の経営傾向については大差がないので、右昭和二九年度課税売上合計額を前年度の実績に応じて各月に接分することにした。しかして昭和二八年度の各月別の調査による遊興飲食税額は別表(二)の<1>前年度税額欄記載のとおりであるから、この各税額の昭和二八年度税額合計金六八、一一〇円に対する割合を同表の<2>前年度税額月別比率欄記載のとおりに算出し、この割合を前記(1)によつて得られた金四六六、六八一円に乗じて昭和二九年度各月別の課税売上高を算出した。その結果は同表の<3>昭和二九年度月別課税売上高欄記載のとおりである。

(3)  右(2)によつて得られた各月別課税売上額はそのまま原告が徴収すべき遊興飲食税の課税標準額となるものであるから、これに法定の税率百分の十を乗じて得られる各金額が昭和二九年度各月の適正税額であるる。

五、右の方法によつて算出された適正税額と原告が納入申告書に記載した税額とを比較するに、明らかに後者は過少であるから、被告は各月の税額を右適正税額に応じて別表(一)の<1>更正又は決定税額欄記載のとおりに更正し、又昭和二九年三月分については納入申告書の提出がなかつたので右適正税額のとおり決定したのであるから、かかる更正決定はなんらの違法がない。

第四被告の主張に対する原告の答弁。

被告の答弁及び主張の項記載の事実中原告が同三の(イ)(ロ)(ハ)に掲げられた各領収書を発行したこと及び原告の昭和二九年度の事業所得額が金二一九、三一〇円であることは認めるがその余は争う。原告の売上及び仕入はすべて現金取引によるものであつてそのつど正確に記帳しており、又右(イ)(ロ)(ハ)記載の各領収書はいずれも名宛会社の会計担当者や接待係に要請されて発行した実質の伴わない架空のものであつて原告の現金出納帳及び遊興飲食税徴収簿には何等の記帳脱落は存在しない。

第五証拠<省略>

理由

一、原告が肩書住所地において<上>植田旅館を経営し、同旅館における飲食、宿泊その他の利用行為に対する遊興飲食税につき特別徴収義務者としての指定を受けているものであること、右旅館は昭和二九年七月一日被告から一泊の料金七〇〇円以下の宿泊行為に対し非課税の大衆旅館に指定され、従つてその後同旅館における利用行為中宿泊料金については遊興飲食税が課せられなかつたこと、原告がその主張の各日に昭和二九年四月ないし六月及び同年一一月ないし昭和三〇年二月の各月分の遊興飲食税額等の申告をなしたところ、被告が昭和三〇年八月六日右各月の税額を別表(一)の<1>更正又は決定税額欄記載の各金額のとおりに更正し、かつ同時に昭和二九年三月分の申告納入額を金五、五六二円と定めて原告に通知したこと、及び原告が同年八月二九日右更正ないし決定を不服として異議の申立をしたところ、被告は同年一一月一八日これを却下し、その決定書が同年同月二〇日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争いがない。

しかして成立に争のない乙第一号証、同第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二九年三月分については所定期間内に納入申告書を提出しなかつたので、被告は地方税法第一二四条第二項により前述のとおり同月分の課税標準額及び税額を決定し、これを原告に通知したものであることが認められ、成立の争のない甲第一号証、同第四号証ないし同第六号証によつてはこれをくつがえし得ないから、同月分についての原告の本訴請求は右決定の変更を求める趣旨であると解することができる。

二、成立に争のない甲第二号証の一及び二(遊興飲食税徴収簿)並びに原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、三及び四(現金出納帳)によれば、植田旅館における昭和二九年三月ないし六月、同年一一月ないし昭和三〇年二月の各月における課税売上高として原告主張の別表(一)の<2>欄記載のとおりの金額の記載のあることが認められる。しかしながら、この記帳額を以て右各月の課税売上高のすべてであるとするためにはその前提として右各帳簿の記載内容が正確であり信用のおけるものであることが当然に要求されるのであつて、これに反し、その記載内容が不正確であり信用のできないものであるならば、右帳簿の記載のみから課税売上高の実額を算出することは不可能であつて、これがためには更に他の諸資料をも充分に参照しなければならず或は適当な推計方法を用いて課税売上額を推算しその税額を決定することも、その推計の基礎とした事実が正確でありかつ推計の方法自体が合理性を持つものである限り、これ亦許容されるところと言わなければならない。しかるところ原告が右帳簿に記載のない被告の答弁の項三中(イ)(ロ)(ハ)記載の如き宿泊飲食料及び遊興飲食税の領収書を発行していることは当事者間に争がなく成立に争のない乙第三号証、同四号証、前掲甲第二号証の一、二、同第三号証の一、三及び四、原告本人尋問の結果により成立が認められる乙第一三号証の一、二、証人三戸佐市郎、同鷹見昭三の各証言を綜合すると、原告は被告の係員が原告の納入すべき昭和二九年三月から昭和三〇年二月までの遊興飲食税の調査を行つた際同係員の要求する原始記録売掛帳その他必要な帳簿を呈示せず現金出納簿・領収書・遊興飲食税徴収簿を開示したに過ぎなかつたこと。原告備付の前記諸帳簿は前認定の記帳もれがあるほか仕入価格と売上価格との割合につき不合理がありその他前示(イ)(ロ)(ハ)の如き記帳のない領収書が他にも発行されている形跡のあること。及び原告の昭和二九年一月ないし同年一二月の旅館営業における年間事業所得の基礎となる総売上高の記帳額は課税売上高金三一九、六六〇円を含む金五二七、三四〇円であるにかかわらず原告は同年間の旅館営業による事業所得の基礎となる総売上高を金七三八、六一一円とする昭和二九年度所得税青色申告書及びこれに基く同年度所得税確定申告書を提出していること。がそれぞれ認められるからこれらの事実からみると原告の現金出納帳及び遊興飲食税徴収簿には売上高につき相当多額の過少記載ないし記帳の脱落があるか又は他に隠れた売掛取引のあることを推認するに難くない。

この点につき原告は前記各領収書は得意先の係員等から要請されて発行した実質のともなわない架空のものであつて、右各帳簿には売上高につきなんらの記帳の脱落等はなく、しかも原告の取引は仕入売上ともすべて現金取引である、と主張するが、右趣旨にそう原告本人尋問の結果の一部は措信することができず、成立に争のない甲第七号証ないし同第九号証の各一及び二、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第一〇号証ないし同第一二号証並びに証人岩下幸雄及び同西出正の各証言によるも未だ原告の右主張を肯認し前記認定を覆すことはできない。

してみれば、右各帳簿の記載内容は不正確で信用することができず、これのみを根拠にして課税売上高を算出すれば必然的に実額より過少なものとならざるを得ず、従つてかかるばあいには推計の方法によりこれを算出し、その税額を決定することも止むを得ないものといわなければならない。

三、地方税法第一二四条第三項及び第四項は、所得税につき確定申告、修正確定申告、更正、決定等があつたばあいには、その所得算定の基礎となつた売上金額のうち、遊興、飲食、宿泊その他の利用行為にかかる金額を基準として遊興飲食税の課税標準額及びその税額を更正又は決定し得る旨を規定し、地方税賦課における課税主体の調査能力の不足等を考慮しつつ、年間売上金額が所得税の申告、調査等の結果明らかにされたばあいには、右金額が適正なものである限り、右年間売上金額から課税売上額を抽出し、これを基準として遊興飲食課税標準額及び税額の更正又は決定をなし得ることを認めている。

もちろんかかる方法によつて課税標準額及び税額の更正等がなされたばあいであつても所得税における申告又は調査の結果が誤りであることを主張して右処分の適否を争うことはもとより許されるところであるが、本件においては前記のとおり原告の帳簿の記載が信用できず、かつ他に課税売上の実額を把握するに足りる適確な資料がないものと認められるうえ、原告自ら昭和二九年一月から一二月までの旅館営業上の総売上額を前掲売上に関する帳簿の記載額を超過する金七三八、六一一円としてこれを基礎とする所得税の確定申告をなしているのであるから、被告が主張するように、この金額を一応適正なものとみ、これに基いてこの期間中の遊興飲食税を更正、決定することは、それ自体としては適法なものとして許容されるものと言わなければならず、又更正、決定のさいにはいまだ確定申告書提出予定の段階にあつたものとしても、結果において確定申告の基礎となつた売上高に基く更正又は決定となつたばあいにはこれ又同様に適法なものと認めるのが相当である。

ただ本件においてこの方法をとるにあたつては、第一に、右確定申告によつて明らかにされている金額は非課税額及び課税額を含めた総売上高であるから、この中から課税売上額を抽出算定するためにとられる方法は合理的妥当なものでなければならないこと。第二に、かくして算出された課税売上高はあくまで所得発生期間に対応する昭和二九年一月から同年一二月までにおける年間の合計金額ないしはこの間の各月別の金額にとどまり、右期間後の昭和三〇年一月及び二月分の課税売上高をこの方法によつて求めることは、同法第一二四条第三項による更正又は決定としては特に合理的な推定基礎のない限り無条件に許されるべきものでないこと。の各点に留意しなければならない。

被告は、前記記帳不足額はすべて課税売上額とみるべき旨の主張をしているが、課税の対象となる料金のみを過少に記載したばあいには脱落額はすべて課税売上に該当するものと言えるけれども、昭和二九年七月一日以降においては宿泊行為に対する料金は課税外におかれている関係上、所定宿泊料金を超える売上のみが課税売上となるのであるから、売上額を故ら過少に記帳しさらにこれから所定宿泊料金を滅じた額を課税売上として記帳しているばあいには、記帳脱落総売上高中課税売上の占める割合は極めて率の高いものとなるが、本件においてはある宿泊について売上料金をまつたく記載していない事例のあることは前認定のとおりであつて、このようなばあいには課税売上の記帳脱落があると同時に非課税売上の記帳脱落のあることも明らかであるから、原告の帳簿の正確性信憑性を否定しながら、その非課税売上金についての記載のみをそのまま認め、これを確定申告総売上高から控除した残額のすべてが課税売上高とすることは妥当でないと言わざるを得ない。

又、被告は昭和二九年三月一日以降昭和三〇年二月末日までの総売上高は金七三二、七一二円となり前掲確定申告による昭和二九年一月ないし一二月における総売上高とほぼ一致する旨主張し、前記乙第三号証、甲第三号証の一、三及び四によればこの間の原告の原材料仕入高が被告主張のとおり合計金一八三、一七九円と記帳されていることが認められるけれども、前記総売上高算出の基礎とされた仕入標準率二五パーセントなるものがはたして右期間中の原告旅館の業態にそのまま適用できるものか否かについて被告の主張は明確を欠きこれを首肯するに足りず他に同期間中の原告の総売上を推算する基礎についての立証がないから、昭和二九年度の確定申告売上高を昭和二九年三月から昭和三〇年二月まで一年間の総売上高とみてこの期間中の遊興飲食税課税標準額を推計することは許されない。

四、そこで右確定申告売上高を基礎として、被告主張の算出方法に修正を加えながら昭和二九年三月ないし同年六月、同年一一月及び一二月の各月の課税売上額及びこれに対する遊興飲食税額を推算すれば次のとおりである。

(1)  原告の前記諸帳簿には昭和二九年一月から同年一二月までの一年間の旅館営業上の総売上高として課税売上額、非課税売上額の両者を含む金五二七、三四〇円が記帳されているのに対し、確定申告の基礎となつた同期間中の同種総売上高は金七三八、六一一円であるから、この差額金二一一、二七一円の記帳過少ないし脱落又は隠れた売上があつたものとみなければならない。

(2)  右差額金二一一、二七一円中には課税売上と非課税売上の両者が含まれていることは前述のとおりであるが、乙第三号証及び同第四号証によるも記帳不足額中に含まれる課税売上と非課税売上の額ないし割合は明らかでなく、他に右各額又は割合を判断するについてなんらの資料のない本件においては、原告が課税売上高として遊興飲食又は宿泊の料金を逐日に記載した甲第二号証の一及び二(遊興飲食税徴収簿)中の売上金額とその余の売上金額に同一の比率で記帳の不足があるものとして推算を進めるよりほかにない。

ところで、右徴収簿に記載された昭和二九年中の課税売上高は合計金三一九、六六〇円であり、これに総売上高における記帳不足額金二一一、二七一円の記帳売上額金五二七、三四〇円に対する割合を乗じると右徴収簿における記帳不足額を得ることができ、さらにこれに右徴収簿記帳額を加えると金四四七、七二六円(¥319,660+¥319,660×211,271/527,340=¥447,726)となることが算数上明かであるから、この金額が既に争のない同年一月、二月および七月ないし十月分を含め本来右徴収簿に記載さるべき課税売上の年間合計額である。

(3)  次に北海道税条例によれば遊興飲食税の特別徴収義務者は各翌月に前月中において徴収すべき遊興飲食税に係る課税標準額及び税額を納入申告書を以て申告すべきものとされており地方税法第一二四条所定の決定又は更正は右申告書の提出がないとき又は該申告書記載の課税標準額についてなされるものであるから、そのためには前記(2)によつて算出された課税売上高をさらに各月に配分する必要がある。

しかして成立に争のない乙第一号証及び同第二号証によれば、昭和二九年一月及び二月の各月の課税売上高は先に調査の結果、金五八、三〇〇円及び金四〇、八〇〇円であることが明らかにされ、これらの金額についてはすでに確定していたことが認められるから、右(2)によつて得られた年間課税売上高からさらに右合計金額を差引いた金額金三四八、六二六円が昭和二九年三月から一二月まで一〇ケ月間の総課税売上額となる。

(4)  次に右一〇ケ月間の課税売上合計額を同期間中の各月に配分するについては、本件では特にその割合についての特別の事情の存在を認めるに足りる証拠がないから、月別売上高の推移はほぼ前年どおりであると推でき、従つて前年度における各月の税額確定額の割合によりこれを各月に按分した被告の主張は一応もつともであるが、前記のとおり本件においては昭和二九年七月一日を境として宿泊行為の料金に対する課税はなくなつたのであるから、右時期の前後においては課税標準額及び税額に大きな相違のあることを推認するに難くなく、従つて一年間を通じてなんら課税行為に変化のなかつた昭和二八年の各月の税額の割合で按分すれば、六月分以前においては実額よりも極めて低額となるのに反して七月分以降においては極めて高額となり、結局妥当を欠くこととなる。

従つて各月の割振についてなんら考慮すべき事情の明らかにされていない本件にあつては、(2)のばあいと同じく、結局各月の徴収簿の記帳額に同一比率による不足分があるものとして、三月ないし一二月の各月の記帳高に応じて按分することがもつとも合理的かつ妥当な方法であると言うほかはなく成立に争のない甲第二号証の一及び二によれば昭和二九年三月ないし同年一二月の一〇ケ月間の右記帳額の合計は金二六九、三一〇円であることが認められ、かつ同年三月ないし六月及び同年一一月及び一二月の右各記帳課税売上額は別表(一)の<2>欄記載のとおりであるから、これを基にして計算すれば、別表(三)の<1>適正課税売上高欄記載の各金額を得ることができる。

(5)  右(4)によつて得られた各月別の金額はその各月の適正な課税売上高とみることができ、これらはそのまま当該月において原告が徴収すべき遊興飲食税の課税標準額となるから、これに法定の税率百分の十を乗じて得られる別表(三)の<2>適正税額欄記載の各金額が、原告の徴収して納入すべき税額である。

五、昭和二九年三月ないし同年六月、同年一一月及び一二月の各月の税額が、右四によつて算出された金額を超えるものであることについては他になんらの立証がないから、これらを別表(一)の<1>欄記載の各金額とした被告の更正又は決定は、別表(三)の<2>欄記載の各金額を超える部分につきいずれも根拠のない違法の処分として取消を免れない。

次に昭和三〇年一月及び二月の各月分の税額については前記昭和二九年度の所得税の確定申告にかかる売上高を基準としてこれを定めることのできないことはすでに述べたとおりであつて、前述のとおり一応原告の前記遊興飲食税徴収簿には記載の不足があり、従つてその記載に即応する各納入申告書記載の税額は過少であると言えるとしても、それだからと言つて、成立に争のない乙第一〇号証及び証人鷹見昭三の証言によつて同年二月分につき明らかに脱落のあると認められる前記(ロ)の領収書にかかる課税売上額金一、一〇〇円以外には、各月課税売上額がいくらであるか、あるいはこれをどのように合理的に推計することができるかについて他になんらの主張立証がないから、同年一月の税納入額を納入申告書の記載額金一、二三〇円以上のものとした更正は右金額を超える限度において、又同年二月の税納入額を金三、二三六円とした更正は右徴収簿記載どおりの申告課税標準額金一七、〇〇〇円に右明らかな不足額金一、一〇〇円を加えた金一八、一〇〇円に対する税額金一、八一〇円を超える部分につきいずれも根拠のない違法なものとして取消しを免れない。

よつて原告の本訴請求は右認定の各取消すべき範囲においてのみ理由があるからその限度においてこれを認容することとし、その余は失当として排斥すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝 石垣光雄 岡本健)

(別表省略)

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