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札幌地方裁判所 平成10年(ワ)2836号 判決 1999年7月19日

《住所略》

原告

小笠原秀一

《住所略》

被告

鷲田秀光

《住所略》

被告

高村健二

《住所略》

被告

河谷禎昌

《住所略》

被告

大野忠二

《住所略》

被告

武馬鋭稱

《住所略》

被告

永田修

右被告ら6名訴訟代理人弁護士

斎藤祐三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告らは、株式会社北海道拓殖銀行に対し、連帯して、金1兆4773億6500万円及びこれに対する被告武馬鋭稱においては平成11年1月21日、被告鷲田秀光、同高村健二及び同河谷禎昌においては平成11年1月22日、被告大野忠二及び永田修においては平成11年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

本件は、訴外株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)の株主である原告が、株主の代表訴訟として、拓銀の代表取締役であった被告らに対し、被告らが取締役の忠実義務に違反して、株主総会の特別決議を経ることなく拓銀の営業を訴外株式会社北洋銀行(以下「北洋銀行」という。)及び訴外中央信託銀行株式会社(以下「中央信託銀行」という。)に譲渡したことにより、拓銀に対して1兆4773億6500万円の損害を与えたとして、拓銀に対して右損害を賠償するよう求めた事案である。

第三  原告の主張(請求原因事実)

一  原告は、平成9年6月18日から引き続き拓銀の株式を保有する株主である(保有株式数50万6000株)。

二  被告鷲田秀光及び同高村健二は、平成9年11月16日から平成10年3月31日までの期間拓銀の代表取締役の地位にあり、拓銀の営業及び対内的業務執行について最高責任を負う地位にあった。また、被告河谷禎昌、同大野忠二、同武馬鋭稱及び同永田修は、平成9年11月21日まで拓銀の代表取締役の地位にあった。

三  平成10年6月26日の拓銀の第178期定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において、北洋銀行及び中央信託銀行に対する営業の一部譲渡の件が議案として提出され(以下、北洋銀行に対するものを「5号議案」、中央信託銀行に対するものを「6号議案」、両者を合わせて「本件各議案」という。)、可決された。しかしながら、本件各議案を承認可決した本件株主総会決議は、以下の理由により無効である。

1  本件各議案の採決は、拍手による方法でなされたものであるところ、同方法は、保有株式数に応じた議決権の行使を妨げるものであり、商法241条1項に違反する無効な採決方法である。

2  本件株主総会の議事録には、議決権行使書を提出した株主数及び株式数がそれぞれ1万1695名、4億9519万5000株であるとの記載があるが、本件株主総会当時の事情等に照らすと、これらの数は明らかに過大である。さらに右議決権行使書により本件各議案に賛成した株主数及び株式数は、本件株主総会当日には当然判明しているにもかかわらず、その数が右議事録に記載されていない点が極めて不自然であり、本件各議案が、その承認可決に必要な株式数である4億5676万8000株以上の賛成により承認可決されたとする右議事録の記載には重大な疑義がある。

四  右三の事実を前提とすると、北洋銀行及び中央信託銀行に対する営業の一部譲渡は、株主総会特別決議を経ないで行われたものであるから、右営業譲渡を行った被告らの行為は、取締役の忠実義務に反する違法行為である。

五  拓銀の第178期の当初の予想経常利益は30億円であったところ、右違法行為により、1兆4743億6500万円の経常損失が生じた。よって、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの間に拓銀が受けた損害の額は1兆4773億6500万円であり、被告らにはこれを賠償すべき義務がある。

六  原告は、平成10年8月7日までに、拓銀に対し、被告らの右責任を追及する訴えを提起するよう書面で請求し、同書面は遅くとも同月10日には拓銀に到達したが、拓銀は、その後30日を経過しても右訴えの提起をしない。

よって、原告は、株主の代表訴訟として、被告らに対し、拓銀に対し金1兆4773億6500万円を支払うことを求める。

第四  被告の主張

一  本件株主総会における議決権等の状況は以下のとおりである。

1  本件株主総会において議決権を行使できる発行済株式総数

9億5823万株

2  本件株主総会当日における株主本人出席数及び株式数

1015名 1億8995万7000株

3  議決権行使書提出株主数及び株式数

1万1695名 4億9519万5000株

二  本件株主総会における議案の議決に必要な定足数は、右一の1の2分の1以上であるところ、右一の2及び3のとおり、定足数は充たされている。また、本件各議案の承認可決に必要な株式数は、右一の2及び3の株式数を合わせた数の3分の2以上である4億5676万8000株以上であるところ、本件総会の議事録によれば、右株式数以上の株主による承認可決があったことは明白である。

三  株主総会における採決方法は、議長の議事整理権に基づく裁量により、拍手、挙手、投票等の選択がなされるものである。拍手による採決方法を選択した場合でも、議決権行使書の提出によって議案に賛成する株主の株式数は予め明らかであるから、議長は採決に際し、議場に出席している大株主本人またはその代理人、委任状提出により会社で選任した代理人の挙動に注目し、これらの者の意思表示である賛成の拍手を確認して、議案につき承認可決を宣言することができる。

四  本件株主総会における本件各議案の採決においては、議決権行使書による賛成が、5号議案につき4億3521万1000株、6号議案につき4億3593万4000株あり、議場に出席した大株主5社の代理人(持株数合計4077万6000株)及び委任状提出により拓銀で選任した大株主6社の代理人(持株数合計1億0030万6000株)がいずれも本件各議案について賛成する意思表示をしたから、本件各議案が発行済株式総数の過半数を超える株主の3分の2を優に超える賛成により承認可決されたことは明らかである。なお、本件株主総会において、採決方法につき「挙手で行うこと」を提案した株主の動議は否決されていた。

よって、原告の主張には理由がない。

第五  審理経過

被告は、平成11年2月18日、原告の主張する請求原因が明らかに理由のないものであること及び被告の悪意等を理由として、本件を本案とする担保提供命令の申立てをした。当裁判所は、同年4月23日の第2回口頭弁論期日において原告に対し、請求原因の法律構成を再検討するよう求めた。原告は、同年5月31日の第3回口頭弁論期日において、前記第二のとおりの請求原因を述べたうえ、本案についての判決を求め、被告もこれに同意して同日右担保提供命令の申立てを取り下げた。

第六  当裁判所の判断

一  原告は、前記のとおり、本件株主総会における決議方法に法令違反があり、その決議は無効であるにもかかわらず、被告らが営業の一部譲渡を実行したことをもって、被告ら取締役の違法行為であると主張しているところ、他方で、被告らが拓銀に与えた損害として、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの間に生じたことを前提とするものを主張している。そうすると、原告の主張する違法行為と同じく原告の主張する拓銀の損害との間に因果関係がないことは、原告の主張自体から明らかであるというほかない。

二  また、原告は、本件株主総会における本件各議案の採決が拍手の方法によっていることをもって、本件各議案の承認可決決議は無効であると主張している。

しかしながら、関係証拠及び弁論の全趣旨によると、本件株主総会において議決権行使書を提出している株主の株式数が議決権を行使できる株式総数の過半数に達していること(乙一)、本件株主総会には、その持株数の合計が4077万6000株に達する大株主5社の代理人及びその持株数の合計が1億0030万6000株に達する大株主6社の代理人(いずれも委任状の提出により拓銀で選任した者)が出席していたこと(乙四)が認められるところ、本件株主総会開催に当たり、議決権行使書の提出により本件各議案に賛成している株主数及び株式数を予め知ることができ、さらに、本件株主総会に出席している右大株主11社の代理人の意思表示を的確に把握できる立場にある議長が、その裁量により、本件各議案の採決につき拍手による採決方法を選択したとしても、そのことにより、直ちに本件各議案を承認可決した本件株主総会の決議が無効であるとか、不存在であるといえないことは明らかである。

そして、右決議の効力についての原告のその余の主張は、結局、商法247条の訴えによらなければ主張できない決議の瑕疵をいうものに過ぎない。

三  以上、要するに、原告の主張する本訴請求原因事実は主張自体失当であるから、原告の本訴請求は棄却を免れない。

口頭弁論終結の日 平成11年5月31日

(裁判官 綱島公彦)

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