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最高裁判所第二小法廷 昭和63年(行ツ)173号 判決 1989年3月03日

千葉県八日市場市イの一三八番地の一〇

上告人

株式会社 千葉農林

右代表者代表取締役

岡野全孝

右訴訟代理人弁護士

横井治夫

千葉県銚子市栄町二丁目一番地一号

被上告人

銚子税務署長

水木善造

右指定代理人

植田和男

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行コ)第五三号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六三年八月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

報告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人横井治夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 奥野久之)

(昭和六三年(行ツ)第一七三号 上告人 株式会社千葉農林)

上告代理人横井治夫の上告理由

本件は、上告人(原審控訴人、第一審原告)が名実ともに別紙記載の土地(以下、本件土地という)の譲渡についての取引主体であつたのか否か、が争点となつている事案であるが、原判決は、「本件土地の真実の取引主体は株式会社大洋興産(以下、大洋興産という)であつて、上告人は単なる名義人にすぎない」旨の上告人の主張を排斥し控訴棄却の判決を言渡している。

しかしながら、以下に指摘するとおり、原判決は、理由不備と判決に影響を及ぼすべきことが明らかな法令の違背があるので破棄を免れ得ないと思料する。

一、理由不備について

原判決は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱した理由不備がある。すなわち、原判決は、

(1) 本件土地の譲渡収益を享受した者はだれか、その収益享受者の判定

(2) 原取得地(本件土地の大部分を含む千葉市塩田町及び同市浜野町所在土地合計一〇万三五一二平方メートル)はだれが取得したのか、その取得者の判定

(3) 本件土地の保有状況、特に、阿部土地建物株式会社(以下、阿部土地建物という)に所有名義を提供させるとともに関連費用を大洋興産が負担した経済的実質

の三点について、いずれも、判断を遺脱している。右の三点は、だれが真実の取引主体であるのか、が争点となつている本件の場合、いずれも、判決に影響を及ぼすべき重要な事項であることは多言するまでもない。原判決はこれらの重要事項についての判断を遺脱した理由不備の違法がある。

1 収益享受者の判定について

原判決は、本件土地の譲渡による収益を享受したのはだれか、その収益享受者の判定についての判断を遺脱している。

法人税法一一条は「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する」として実質所得者課税の原則を明らかにしている。つまり、収益の帰属主体の判定は、取引の法律的型式にとらわれないで、収益を享受している者はだれか、その「収益享受者の判定」によつて決すべきであると定めているのである。このように、「収益享受者の判定」は収益の帰属主体を決する場合に欠くことのできない最も重要な判断要素である。

第一審において、上告人は、「本件土地の譲渡収益は大洋興産に帰属し、同社は、取引名義を提供した上告人に二割、金融協力をした那須ハイランドワイン株式会社(以下、那須ハイランドワインという)に一割の割合による収益の配分をした」ことを明らかにして「本件譲渡益は全額、上告人に帰属する」旨の被上告人の主張が誤りであることを再三にわたつて指摘したのである(第一審における上告人の準備書面(三)~(六)参照)。ところが、第一審判決は、収益の帰属が争点となつている本件の場合の最重要不可欠の判断要素である「収益享受者の判定」についての判断を遺脱し、外形上の法律的形式だけによつて本件土地の譲渡収益は全額、名義人の上告人に帰属する旨の致命的な誤認をするに至つたのである。

そこで、上告人は、第一審判決が「収益享受者の判定」についての判断を遺脱していることを控訴理由の第一に挙げて第一審判決の取消しを求めたのである(原審における上告人の準備書面(一)2丁~3丁裏参照)。それなのに、原判決は、「収受享受者の判定」について一言もふれずに、またしても、判断を遺脱しているのである。しかも、原審において、被上告人は右の控訴理由に対し何らの反論もしていない。原審裁判所は、この点について何ら釈明権を行使することもなく審理を尽くさないまゝに最重要不可欠の判断要素についての判断を遺脱しているのである。

収益の帰属が争点となつている本件の場合、「収益享受者の判定」は最重要不可欠の判断要素である。その判定によつて収益の帰属主体が決まるのであるから、それは、まさに、判決主文の結論を決するものにほかならない。その点についての判断を遺脱している原判決は理由不備の違法があることは明らかである。よつて、原判決は、その余についての判断を待つまでもなく、破棄を免れ得ないと思料する。

2 原取得地の取得者について

原判決は、原取得地の真実の買主はだれか、その取得者についての判断を遺脱している。

第一審判決は、「原取得地の全体につき上告人名義で売買契約を締結したことは、真実に反する。」旨を判示している(第一審判決書55丁)。つまり、第一審判決は、上告人は原取得地の真実の買主ではなく、単に買受人名義を提供したにすぎないことを認定しているのである。それでは、一体、原取得地の真実の買主はだれなのか、この点について、第一審判決は何ら言及していない。そこで、上告人は、第一審判決の認定事実に基づいて、原取得地の真実の買主は大洋興産であることを明らかにし、この点の事実誤認を控訴理由に挙げたのである(原審における上告人の準備書面(一)3丁裏~6丁参照)。

原審における上告人の釈明(昭和六二年一〇月一三日付釈明書参照)によつて、昭和四三年一二月末、原取得地の売買予約成立時、買主大洋興産が売主東邦工業に対し振出交付した金額一億円の約束手形一通は実質上、予約の保証金であることが明らかになつた。これに伴ない、原判決は、第一審判決の事実摘示と理由に必要な附加、訂正をしている(原判決書2丁の3、2丁裏の1、2参照)。それなのに、原判決は、原取得地の真実の買主はだれなのか、その取得者について何らの言及していない。このように、原判決は、当事者の主張内容についての形式的な整理をしただけで、肝心の原取得地の真実の買主はだれか、その判断を遺脱しているのである。

原取得地の取得は本件の発端である。その真実の取得者の判定は本件土地の譲渡収益の帰属について欠くことのできない最優先の判断要素であることはいうまでもない。原取得地の真実の買主は本件土地の真実の所有者であり、譲渡収益の享受者だからである。そうすると、原取得地の真実の取得者の判定は、本件土地の譲渡収益の帰属が争点なつている本件の場合、判決主文の結論を決するものである。このような重要事項についての判断を遺脱している原判決は、理由不備の違法があるので、前記1の場合と同様、破棄を免れ得ないと思料する。

3 本件土地の保有状況について

原判決は、本件土地の保有状況、とりわけ、阿部土地建物に所有名義を提供させた背景事情と関連費用負担の経済的実質についての判断を遺脱している。

原取得地を二分した一方の土地(以下、第一次上告人名義地という)の登記簿上の所有名義は上告人から阿部土地建物に移転しているが、これは、実質上の所有者である大洋興産が融資銀行の要請に従つてとつた措置であり(詳細は第一審における上告人の準備書(四)5、6丁参照)、このことは、とりもなおさず、上告人が単なる名義提供者にすぎないことを如実に物語つている。つまり、融資銀行側は、第一次上告人名義地の単なる所有名義人にすぎない上告人が借受名義を提供したまゝの状態で長期間経過する事態を避けるため、第三者の借替による上告人名義借入金の完済処理を要請し、これを受けて大洋興産が阿部土地建物に依頼して右の借替処理を実行し、これに対応した取引の外形を作るため、形式上、阿部土地建物に同土地の所有権移転登記を経由したのである。このように、本件土地の保有期間中における登記名義の移転に関連し、上告人は単なる名義人にすぎないことを如実に示す背景事情が存在しているのである。第一審判決は、右の外形的事実(第一審判決書46丁裏~47丁裏)さらに、その名義移転が単なる形式であつて真実に反する旨(同55丁)の認定をしていながら、何故、そのような「名義借り」が行なわれたのか、その背景事情については何らの検討もせず、その実質的、経済的側面を看過している。その結果、第一審判決は、第一次上告人名義地は実質上も上告人の所有地であつた旨の誤認をするに至つているのである。

また、阿部土地建物に本件土地の所有名義を提供させていた期間、本件土地の関連費用は大洋興産が負担していた。すなわち、借入金の利息は大洋興産が原則として各融資銀行に直接、支払い、一部、例外として阿部土地建物に立替支払させた後、精算処理し、固定資産税等については大洋興産が一部、那須ハイランドワインの金融協力を受けて支払つていたのであり、この事実は第一審判決も認定している(第一審判決書48丁、同丁裏)。ところが、第一審判決は、「それだけから本件土地の所有者が大洋興産であつたと認定しなければならないものではない」と判示し、その理由として「上告人が大洋興産に対して未払の債務を負つている法律関係が残つているのにすぎないと解することも可能である」ことを挙げている(同56丁裏)。しかし、第一審判決も認定しているとおり(第一審判決書49丁、同丁裏参照)、右の関連費用は、大洋興産(一部、那須ハイランドワイン)が相手先に直接支払つたものであつて、上告人が大洋興産から借り入れた資金で支払つたものではない。当初、上告人が所有名義を提供していたことに伴い形式上、上告人の帳簿を経由させる必要があつたことから仮受金勘定に計上して処理していたのである。そして、右の仮受金の精算は実質的には行なわれていないので、大洋興産に対する未払債務額は確定されていないうえ、利息の計上、支払も一切行なわれていない。もし、かりに、大洋興産が本件土地の関連費用の支払資金を上告人に対する債権として認識していたのであれば、その場合は、上告人に対する貸付金として利息を計上、徴収することはもちろん、債権保全の措置を講ずるはずである。そのような取扱を一切していない本件の場合、「上告人が大洋興産に対する未払の債務を負つている」法律関係と解することは条理上もできないことは多言するまでもないところであろう。そうすると、第一審判決が挙げている理由は根拠がないことになり、その結果、「大洋興産が諸経費の支払をしたとしても、それだけから本件土地の所有者が大洋興産であると認定しなければならないものではない」旨の第一審判決の判示は理由がないことに帰することはいうまでもない。大洋興産は、何故、本件土地の関連費用を支出負担したのか、その理由は真実の所有者であつたからにほかならない。例外となる特別の事情がない限り、真実の所有者が費用を負担するのは条理上も当然のことである。そして、本件の場合、その例外となる特別の事情は一切存在していない。結局、第一審判決は、この当然の条理を合理的な理由もなく排斥しているのであるから、その誤認は明白である。

そこで、上告人は、右に指摘したことを控訴理由に挙げて詳細かつ具体的に主張したのである(原審における上告人の準備書面(一)7丁~11丁参照)。ところが、原判決は、右の控訴理由について一言もふれないで、それに対する判断を遺脱している。

右に指摘したとおり、上告人が単なる名義人にすぎなかつたので阿部土地建物に本件土地の所有名義を提供させたのであり、また、大洋興産は、本件土地の真実の所有者であつたからこそ関連費用を負担したのである。これらの事情は、上告人が単なる名義人であつて本件土地の真実の所有者は大洋興産であることを如実に裏付けるものであることは多言するまでもない。そうすると、これらの事情は、収益の帰属が争点となつている本件の場合、判決主文の結論を決するものと言つても過言ではない。そのような重要事項についての判断を遺脱している原判決は、理由不備の違法があることは明らかであるから破棄されるべきであると思料する。

二 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背について

原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな論理、経験法則に違背した違法がある。すなわち、原判決は、

(1) 阿部土地建物に対する未精算金の支払

(2) 本件土地譲渡益の八割相当額を他社に寄付した旨の被上告人の認定

について、論理、経験法則に違背して重大な誤認としているのである。

1 阿部土地建物に対する未精算金の支払について

原判決は、大洋興産の阿部土地建物に対する未精算金の支払について論理、経験法則に違背した重大な誤認をしている。

原判決は、大洋興産が阿部土地建物から本件土地の固定資産税等の立替払未精算金の支払請求を受けて昭和六二年一〇月一日その支払のため関連会社である株式会社福富(以下、福富という)振出名義の手形を交付した事実を認定している(原判決書3丁の4)。なお、右の各手形は、いずれも、支払期日に決済ずみであることは甲二十六号証ないし二十九号証(大洋興産の普通預金通帳と福富の当座勘定入金帳の各関係部分)によつて明らかである。原判決は、右の事実を看過して「手形の交付」のみを認定する誤りをおかしている。

ところで、原判決は、右の「未精算金の処理には作為が加えられた疑いなしとし難い」旨を判示し、その理由として、

(一)、右未精算金は、昭和五一年から昭和五七年末まで上告人の会計帳簿に未払金として計上されていたところ、本訴提起後の昭和五八年一二月に雑収入勘定に振替処理されていた。

(二)、右の請求及びその支払のため手形振出が原審の係属中になされている

ことの二点を挙げている(原判決書3丁の4)。しかし、次に指摘するとおり、原判決の挙げている理由は、いずれも、右の判示と結びつくものではない。

(一)、本件土地の所有名義提供者であつた上告人は、本件土地の売却後における関連未払金として、昭和五一年一二月期から昭和五七年一二月期までの間、右の未精算残額二六九万五四六一円を未払金勘定に計上していたが(乙三九~四五号証参照)、阿部土地建物からの請求がないまゝ五年以上の期間を経過したので、昭和五八年一二月期に同額を雑収入勘定に振替処理をした(甲三十、三十一号証参照)。つまり、五年以上の期間経過によつて商事債権である右の未精算残額は時効により消滅した(商法五二二条参照)ものとして未払金勘定から減算し、その半面、債務の免除を受けたものとして同額を雑収入勘定に計上したのである。

このように、右の勘定振替は、商事債権の消滅時効期間との関連における会計上の処理にすぎず、本訴提起とは何の関係もない。いわんや、その後に行なわれた未精算金の請求及び支払とは何らの関連も有しないことはいうまでもない。両者を結び付けて考えること自体、誤りであることは条理上、自明のところである。そうすると、「未精算金の処理に作為が加えられた疑いなしとし難い」理由として右の勘定振替を挙げている原判決の判示は論理、経験法則に反する誤りであることは何人の目にも明らかなところであろう。

(二)、大洋興産は、昭和六〇年九月ころ、阿部土地建物名義で設定していた抵当権の抹消登記手続についての協力を求めた際、阿部土地建物から右未精算金の支払請求を受けた。そこで大洋興産は、阿部土地建物との交渉を重ねた挙句、右の抵当権抹消登記手続についての協力を得るために、未精算金二六九万五四六一円を支払うことにしたが、さらに、阿部土地建物は利息分として金五〇〇万円の支払を請求したので交渉の末、金一〇〇万円の利息分を支払うことで合意したのである(原審における証人安井勇司の証言参照)。大洋興産としては、阿部土地建物との永年にわたる取引関係に加えて前記(一)で指摘した消滅時効期間が経過していることから、その支払義務はないものとして取り扱つていたのであるが、抵当権抹消登記手続についての協力を得るための解決金として右の利息相当分を加算した合計金三六九万五四六一円を支払うことにしたのである。そのための交渉を重ねた結果、請求を受けた昭和六〇年九月ころから二年後の昭和六二年九月末に、ようやく合意に達したのである。

原判決は、右の「“請求”及びその支払のための手形振出が当審の係属中になされていることが本件記録上明らかである」と判示している(原判決書3丁11、12行)。しかし、右の「請求」は原審係属(昭和六二年五月二〇日)前の昭和六〇年九月ころになされているので、右の判示部分は明白な誤りである。

また、昭和六二年一〇月一日に右の解決金支払のための手形が振出交付されたのは、昭和六〇年九月ころの請求から二年間、交渉を重ねて昭和六二年九月末に合意に達したからである。その時期が、たまたま、原審の係属中になつたにすぎない。前記の経緯からして明らかなとおり、もともと、大洋興産は、右の未精算金の支払義務はないものとして取り扱つていたところ、抵当権抹消登記手続についての協力を得るため、止むなく、阿部土地建物の請求に応じて利息分を付加した解決金を支払うことにしたのである。もし、抵当権抹消登記手続についての協力を得る必要が生じなければ、大洋興産は右の支払をしなかつたことはいうまでもない。その必要が生じたのが昭和六〇年九月ころであり、解決金支払の合意に達するまで二年間の交渉期間が経過したのである。そうすると、解決金支払のための手形振出の時期に作為が加えられる余地はないことは明らかである。合意に達した直後に手形が降出されたにすぎず、その時期と原審の係属期間とは関連するはずはないからである。結局、右の手形振出時期が原審係属中であることを理由に「作為が加えられた疑いなしとし難い」としている原判決の判示は、論理、経験法則に違背した明らかな誤りであることは多言するまでもない。

右の手形を受領した阿部土地建物は、引き換えに大洋興産宛の領収証二通(未精算金分甲二十二号証の一、利息分同号証の二)を発行している。この事実は、阿部土地建物が右の支払者は手形振出人の福富ではなく大洋興産であると認識していたことを如実に裏付けていることはいうまでもない。もし、そうでなければ、手形の振出人である福富宛の領収証を発行するはずだからである。また、右の事実は、とりもなおさず、阿部土地建物は、本件土地の実質所有者は大洋興産であり、その依頼に応じて所有名義を提供し、関連費用の一部を立替払いしたと認識していたことを裏書きしている。だからこそ、阿部土地建物は、大洋興産に対し、立替未精算残額と利息分の支払を請求し、その支払に充てられた福富振出手形の受領と引き換えに大洋興産宛の領収証を発行しているのである。このように、大洋興産は、阿部土地建物の立替金の未精算残額及びこれに対する利息金を支払い、これを受領した阿部土地建物は大洋興産宛の領収証を発行している事実は、本件土地の実質上の所有者は大洋興産であつて上告人は単なる名義人にすぎないことを明らかにするものであると言うことができるのである。

前記一、3で指摘したことに加えて右の事実は、本件土地の真実の所有者はだれか、が争点となつている本件において判決主文の結論を決するものであるというべきである。そうすると、右の(一)及び(二)で指摘した原判決の論理、経験法則に違背した判示は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背に該当することは多言するまでもないところであろう。この点からしても、原判決は破棄を免れ得ないと資料する。

2 本件土地譲渡益の八割相当額を他社に寄付した旨の被上告人の認定について

原判決は、「収益の八割相当分を他の企業に寄付するなどは営利企業の行為として条理上あり得ることではなく、取引の経済的実質に反する」旨の上告人の主張に対し、「被上告人は、本件土地の譲渡益が全額上告人に帰属する以上、上告人がその収益の一部を大洋興産外一社に各配分したことをもつて、これを税務上寄付金と把握し、その処理をしたものであるから、上告人の右主張は当たらない」旨を判示している(原判決書3丁、同丁裏)。

しかし、右の判示は論理法則に違背した明らかな誤りである。すなわち、上告人は、収益の帰属主体が争点となつている本件の場合、「収益の八割相当額を他企業に寄付した」としている被上告人の認定は「条理上、実際にあり得ることではなく、取引の経済的実質に反する」もので失当である旨を主張したのである。これに対し、被上告人は一言の反論もしていない。このような経緯で、原判決は、前記のとおり、「譲渡益が全額、上告人に帰属する」ことを前提にした判示をしているのである。譲渡益がだれに帰属するかが争点で、その帰属を判断しなければならないのに、「譲渡益が全額、上告人に帰属する」ことを前提にした判示をすることは、まさに、本末を転倒した論理である。そのような判示は論理法則に違背した明らかな誤り出歩ことは、あえて、多言するまでもないところであろう。

本件土地の譲渡益は、所有者である大洋興産が七割、名義提供者である上告人が二割、金融協力社である那須ハイランドワインが一割の割合で分配されている(原審における上告人の準備書面(一)11、12丁等参照)。もし、被上告人が認定しているように「譲渡益の全額が上告人に帰属する」とした場合、上告人は「収益の八割を他社に寄付した」ということにならざるを得ない。先に指摘したとおり、「収益の八割を他社に寄付する」ということは「条理上、実際にあり得ることではなく、取引の経済的実質にも反する」ものである。そのような説明しかできない認定、つまり、「譲渡益の全額が上告人に帰属する」という認定は明らかな誤りであることはいうまでもない。このように、「収益の八割を他社に寄付した」という説明は、その前提となつている「収益の全額が上告人に帰属する」旨の認定が誤りであることを何よりも雄弁に物語つているのである。

そうすると、「収益の八割を他社に寄付した」旨の主張の当否は、収益の帰属が争点となつている本件の場合、判決主文の結論を決するものであることは明らかである。その点に関する論理法則に違背した原判決の判示は判決に影響を及ぼすべきことが明らかな法令の違背であることはいうまでもない。この点からしても、原判決はとうてい、破棄を免れ得ないと思料する。

以上に指摘したとおり、原判決は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱した理由不備があるうえ、判決に影響を及ぼすべきことが明らかな論理、経験法則の違背がある。よつて、原判決は破棄を免れ得ないものと思料する。

以上

別紙

千葉市塩田町三六六番一ほか五五筆

合計地積

四万八四五七・七二平方メートル

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