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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)940号 判決 1966年1月28日

上告人

山屋八万雄

右訴訟代理人

西村真人

岸巌

糸賀昭

被上告人

全国信用協同組合連合会

右代表者

田中国男

右訴訟代理人

平山国弘

浅川勝重

吉武伸剛

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人が昭和三七年五月二七日午後一時開催の総代会においてなした理事たる上告人を解任する旨の決議は無効であることを確認する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人西村真人、同岸巌、同糸賀昭の上告理由について。

論旨は、中小企業等協同組合法によつて設立された法人である被上告連合会の理事たる上告人は同法四一条の規定による改選の手続によらなければその地位を剥奪され得ない筈であるにもかかわらず、原審において、被上告連合会が理事会の発議に基づく総代会の決議によつて上告人を解任したのは民法六五一条の規定に基づく委任解除の方法によつたものであつて有効であると判断したのは、中小企業等協同組合法四一条或は民法六五一条の解釈適用を誤つたものであるという。

原判決(引用の一審判決を含む〓)は、被上告連合会が信用協同組合を会員として中小企業等協同組合法によつて設立された法人であり、上告人はその理事であつたところ、被上告連合会は昭和三七年五月一〇日開催された理事会において同月二七日開催の総代会の議案として上告人解任の件を採択し、同月二七日の総代会において右議案を可決したことを確定したうえ、中小企業等協同組合法に則り設立された法人と理事との関係は、同法四二条商法二五四条三項の規定により委任に関する規定に従うべきものであるところ、民法六五一条一項の規定によれば、委任は各当事者においていつでも解除することができるのであるから、受任者たる理事からも委任関係を終了させることすなわち辞任することができるのみならず、委任者たる法人からもまた一方的に委任関係を終了させることすなわち理事を罷免することができるのであり、しかして、理事の解任は理事を選任する機関である総会もしくは総代会において決しうるものと解すべく、本件において、被上告連合会が理事会の発議に基づき総代会の決議によつて理事たる上告人を解任したことは、他に無効の事由の主張立証がない以上、有効とするほかなく、結局、右決議の無効確認を求める本訴請求は理由がないとして、これを棄却していることが明らかである。

思うに、中小企業等協同組合法三五条の規定によれば、同法の規定によつて設立された法人の理事は総会において組合員により選挙されることと定められているのであつて、勿論このように選挙された理事といえども、法人との関係が民法上の委任に関する規定に従うべきものであることはいうまでもないところであるが、このような理事について、なんらの理由を要せず当事者において一方的に解除しうる旨を定めた民法六五一条の規定に従い、総会もしくは総代会の過半数による決議によつて解任しうるか否かは、議論の存するところである。しかし、中小企業等協同組合法四一条の規定によれば、組合員は総組合員の五分の一以上の連署を以て理事の改選を請求することができ、この場合、原則として理事の全員について同時に改選の請求をなすべく、ただ法令または定款もしくは規約に違反したことを理由とする場合にかぎり、当該理事のみの改選を請求しうることと定められているのである。さらに、旧市街地信用組合法(昭和一八年法律第四五号)或は旧商工協同組合法(昭和二一年法律第五一号)においては、その組合の理事が総会において選任されるものと定められると共に、総会の決議を以て理事を解任することをうべく、また、右決議は総組合員の半数以上が出席してその議決権の三分の二(旧市街地信用組合法の場合)或は四分の三(旧商工協同組合法の場合)以上でこれをなすべきことと定められていたのに反して、右両法を廃止して新たに制定された中小企業等協同組合法においては、総会における理事の選任および解任の規定を設けず、選挙および改選の規定を設けていること、現行の他の協同組合法の規定による協同組合にあつても、選挙された理事については総会の決議による解任の規定が設けられていないと共に、総会で理事を選任するものと定められている場合には、総会の決議によつて理事を解任しうるものとする規定が見受けられること、中小企業等協同組合法四一条の規定による改選請求の場合には、当該理事が総会において弁明する機会を与えられているのに反して、もし総会の決議で理事を解任しうるとすれば、当該理事に対して右のような弁明の機会が法的に確保されていない結果となることをも考慮すれば、中小企業等協同組合法の規定による組合にあつては、任期中の理事をその意に反して罷免するためには、同法四一条所定の改選手続によることを要し、これ以外の方法によつては理事を罷免することを得ない法意と解するのが相当である。従つて、理事会の発議による総会もしくは総代会の決議によつて理事を解任することはできないのであつて、民法六五一条の規定はこの点において準用がないものと解するのが相当である。然りとすれば、同法四一条の規定によらず総会もしくは総代会の決議を以て理事を解任しうるとの解釈に従い、本件解任決議が他に無効事由の主張立証のないかぎり有効であるとして本訴請求を棄却した第一審およびこれと見解を同じくする原審は、同法四一条或は民法六五一条の解釈適用を誤つたものというべく、この点において原判決および第一審判決は破棄、取消を免れないのであつて、論旨は、結局理由がある。しかして、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、本件解任決議が決議をないし得ない事項を目的としてなされたものであつて無効であることが前述したところにより明らかであるから、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条に則り、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、右決議の無効確認を求める上告人の本訴請求を理由ありとしてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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