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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)771号 判決 1963年9月06日

上告人 坂口亀吉

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

(1)  日本国の敗戦により日本国民は朝鮮における不動産所有権を喪失したことは公知の事実であり、上告人の二男訴外坂口吉文もまた本件不動産の所有権を喪失したものであるが、原判決によれば、朝鮮忠清南道の代表者ないしは代理人等において、昭和一八年七月六日吉文に本件不動産を売り渡した当時において、やがては日本国が戦に敗れることは必至であり、その結果日本国民が朝鮮における不動産所有権を失わざるをえない事態が到来することを予測しえたにかかわらず、過失により予測することができなかつたことを認めるに足る証拠はないというのであるから(原判示は敍上の趣旨を含むと解される。)、本件損害賠償請求中被上告人の過失による不法行為を理由とする部分を失当とした原審究極の判断は結局正当である。

(2)  また、敗戦により本件不動産の所有権を喪失したという結果論から、上告人主張の売買契約当時においてすでに本件不動産はこれを売買しうる余地がなかつたと主張し、これを前提として損害賠償を請求することはできないとした原審の判断も正当である。

(3)  さらにまた、国が朝鮮の独立を承認し朝鮮における領土権を放棄したからといつて、それに伴い該地域における不動産所有権を喪失した日本国民に対し土地収用の場合と同一の取扱いをすべきであるという理由をもつて、被上告人に対し、損害賠償を求めることは許されないとした原審の判断は正当である。

所論は違憲をいうが、その実質は単なる法令違背を主張するに帰し、その(一)は独自の見解に立脚して前示原審の判断の誤りをいうものであり、その(二)は上告人の主張を正解しこれに対して判断を加えた原審の措置を徒らに非難攻撃する以上に出ないものであり、いずれも採用に値しない。

同第二点について。

所論は違憲をいう部分を含むが、実質はすべて原審の認定しない事実および原審で主張判断を経ていない事項を前提とし、独自の見地に立つて、前段掲記の原審の判断を非難するものでしかなく、採用できない。

同第三点について。

(一)について。前段の要素の錯誤を云為する部分は原審において主張判断を経ていない事項を前提として原判決を非難するものであり、後段については、所論第一点(二)に対してさきに説示したとおりであり、いずれも採用できない。

(二)について。記録によれば所論証人については原審はこれを取り調べない旨決定し、証拠調を施行しなかつたものであり、また所論書証は証拠として提出された形跡は認められないから、これらの証拠調の結果を斟酌しなかつたという理由を挙げて、原判決の理由不備をいう論旨は、前提を欠くものとして、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告理由書<省略>

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