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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)460号 判決 1961年4月07日

上告人 追原三郎

被上告人 追原百合子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水田猛男の上告理由について。

原判決の認定した事実によれば、上告人と被上告人は昭和二六年三月婚姻した夫婦であつて、その間に一子を儲けた者であるが、上告人は被上告人との婚姻の前後を通じ他の二、三の女性と情交関係があり、外泊することも多く、生計費の支給も遅れ勝ちであつて妻の感情を軽視して自らを反省しようとしなかつたために、夫に情婦のあることを知つた被上告人は嫉妬心を抑制することができないで上告人を責めて口論し、掴み合いを演じ、勤務先で執務中の夫を呼び出す等の言動を繰り返したので、上告人は被上告人を嫌つて昭和二七年一一月頃より自宅に戻らず、昭和二八年一月より他の女性と事実上の夫婦生活に入り今日に及んでいること、被上告人の性質は、一般女性のそれに比較してやや強情我儘な傾向があつて従順の婦徳に欠ける嫌いがあるにしても、これとても人の性格の一般的な傾向の範囲を越えるものではなく、愛情による夫婦結合の妨げとなるような異常性格の持ち主でないというのであつて、右認定事実は原判決所掲の証拠に照し肯認できるところである。以上の次第であれば、かりに上告人が現在同棲する他の女性との間に既に子供も生れ同棲期間も長期に亘るなど所論の事情から、上告人としては今更被上告人との間の同棲生活に戻ることが事実上困難であるとしても、このような場合に相手方配偶者の意思に反して民法七七〇条一項五号により離婚を求めることができないこと当裁判所の判例とするところであるから(昭和二四年(オ)第一八七号同二七年二月一九日判決参照)、論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

上告代理人水田猛男の上告理由

一、事実

被上告人は自己を主張して絶対に譲ろうとしない生来強情な気質とヒステリーから来る異状性格とは上告人と根本的に相容れないばかりでなく、被上告人の上告人に対する愛情は徹底的に欠如し、その非協力的言動は日増しに激しくなつて、夫である上告人を敵視するに至り、本来楽しかるべき家庭は心身の安息所でなく憎悪に満ち荒廃した牢獄の如き観を呈するに至つた。上告人が勤務先から疲れて辿り着いた我家の玄関先で帰宅後の不愉快を想像して躊躇逡巡することが度び重なり遂に家出を余儀なくされるに至つた始末である。事実上夫婦別れをして以来既に五年を経過した今日復縁は到底考えられない。被上告人も自から被上告人と婚姻を継続することが不可能であるゆえんを諒知し、上告人と同棲する意思は毛頭ないけれども他に良縁を得るまで応訴しつつ時を稼ぐよりほかに仕方がないと公言している。上告人の離婚請求が認容されないことは上告人、被上告人の双方に対し互に憎悪に満ちた冷やかな生活を継続せよということに帰するのであつて、現在他の女性と上告人とその先妻との間に生れた長男篤男とともに幸福な生活を営んでいる上告人に対し不当に苛酷を強いるものである。一度婚姻すれば夫婦間に愛情が失われても離婚ができぬという思想は封建的で個人の自由を尊重する新民法の精神に副うものではなく、離婚が真に双方の幸福をもたらすべき本件のような場合は民法第七七〇条第一項第五号所定の離婚原因ある場合に該当するのである。

二、新法下におきましては婚姻関係の破綻が配偶者の何れにあるを問わず、

双方配偶者の性格の相違乃至愛情の喪失は民法第七七〇条第一項第五号所定の離婚原因ある場合に該当するものといわねばならぬ。

原判決は旧法時代の思想にとらわれ婚姻破綻の原因が上告人側にも幾分存在することにこだわり、既に夫婦間に愛情を欠き、別居生活五年に及ぶ当事者に対し、離婚原因を否定したのは新法令の趣旨を誤解適用したものである。

(イ) 現に原審裁判所は、被上告人の性質が一般女性のそれに比較し強情我儘の傾向があり従順の婦徳に欠くる嫌いあるを認めながら、上告人が家出を余儀なくしたのは上告人の責任としておるが、これは「ニワトリが先かタマゴが先か」の譬の通り、女性本来の内助の精神があれば何を苦しんで上告人が社会的にも見苦しい家出をする必要があろうか。

現に原審で認定しているように上告人は現在満五年半に渉つて訴外北田由美子及先妻との間に生れた長男篤男並に新たに本年二月生れた子供と共に一家四人幸福な家庭生活を営んでおるのである。被上告人が何故に上告人との間に右の如き幸福なる家庭生活を営み得なかつたか、之を要するに被上告人と上告人との間に愛情を欠き婚姻関係を継続する意思がなかつたためである。

かかる場合は民法第七七〇条第一項第五号に該当し、原審は此の点で法律の適用を誤つたものといわねばならぬ。

(ロ) 原審裁判所は

上告人と被上告人との当今の間柄は全く夫婦の愛情を欠き、これを再び円満な夫婦生活に戻すことは相当困難なことを認めながら、子供等を中心に互譲によつて円満な夫婦生活を継続する様努力を続けるならば再び平和にして円満なる家庭を回復し婚姻関係を継続すること必ずしも期待し得ないものでないと認定したのは、

吾人の実験法則に反し法律を適用したものといわねばならぬ。

夫婦愛の有無を判定するのは裁判時の状態で判定すべきものである。

判示の如く夫婦愛を欠如したものに対しては離婚を認容すべきものである。

将来しかも期待の薄き夫婦愛の復活に一縷の望を属し、離婚を否定したのは吾人の実験則に反するものである。

上告人と被上告人との同棲生活は僅に数ヵ月に過ぎぬ。

現在の事実上の妻である北田由美子との夫婦生活は五ヶ年半に及び其の間に生れた、

1 長女民江

2 最初の妻との間に生れた長男篤男

3 上告人

4 北田由美子

の四人が円満、幸福な家庭生活を営んでいるのは現実の状態であり、前記篤男の如きは被上告人と同居することを極度に嫌つている。過去一年足らずの冷たい不幸な生活は身の毛が立つ思いがすると述べている。

原判決の所謂円満な夫婦生活の復活は百年河清を待つにひとしい。

(ハ) 上告人が被上告人との家庭生活を営んだ期間は一年足らずであり、其の間は憎悪に満ちた、冷い喧嘩と、イガミ合い生活の連続であつた。

これは被上告人の性格から来ているのである。被上告人は生れると同時に他人に養われ、長じて永い間の事務員生活はサイギ心強く、強情で強度のヒステリーは第二の天性となり、物資欲のみ旺盛で人間的の愛情を喪失しているのである。其の性格上夫婦生活に適せぬのである。

婚姻生活の不適格者である。

上告人と訴外北田由美子との事実上の家庭生活は満五ヶ年半を経過しその間

1 被上告人より俸給、ボーナスの差押を受け、

2 衣服家財は一品残らず留置せられ、

3 上告人の上司、同僚に対し上告人の悪口を触れ廻り或は執務妨害を為し、

あらゆる迫害を加えている被上告人に比較し現在夫婦生活を営んでいる北田由美子は、

1 前記の迫害に堪え、

2 時に被上告人より加えられた暴力行為にも屈せず、

3 或る時は生活費に窮し粥をすすり、

4 罹病の時は徹夜して看護し、

文字通り六年近く苦楽を共にして来た女を捨てて元の女に帰るが如き事は、人情上あり得ないことである。

しかるに裁判所は六年も昔にあつた、僅か一年足らず、しかも荒廃した牢獄の如き観を呈した、被上告人との家庭生活に戻れとの判決は上告人は勿論、子供達も到底応せさる処、余りにも現実と遊離し事実を無視した、単に文章に過ぎない矛盾極まる判決である。

かかることは新民法の精神に反することは勿論であり、又民法第七七〇条第一項第五号の適用を誤つたものといわねばならぬ。

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