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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)3232号 判決 1958年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

理由

本件上告受理申立の理由は末尾に添付する広島高等検察庁検事長岡本梅次郎提出の上告受理申立理由書と題する書面記載のとおりである。

検察官の上告受理申立理由について。

刑法九六条所定の差押標示侵害罪の行為の客体は、公務員の施したる「差押の標示」であって、その差押の標示が有体動産に対するものであると、不動産に対するものであるとは問うところでない。そして所論掲記のように、本件不動産につき裁判所が被申請人たる被告人に対し「被申請人等の前記宅地十四坪に対する占有を解き申請人の委任する岡山地方裁判所執行吏にこれが保管を命ずる。被申請人等は右土地に建物を築造その他右土地の明渡しの妨害となるべき一切の行為をしてはならない。執行吏は右裁判の趣旨を公示する為適当な方法をとることができる。」旨の仮処分決定を為し執行吏が右仮処分決定に従い仮処分の趣旨を公示したときはその公示がすなわち差押の標示となるのであって、かかる標示そのものを損壊し又はその他の方法を以って無効ならしめることによって始めて前記犯罪が成立するものと解すべきである。従って、右差押の標示が行為当時現存しない限りたとえ被申請人たる被告人が右仮処分の存在を知りながら、仮処分命令の趣旨に反して擅に家屋を建築したとしても、刑法九六条の「差押の標示」を損壊又は無効ならしめたものに該当するものとはいい得ない。(昭和二九年(あ)第一四八〇号同年一一月九日当裁判所第三小法廷判決、刑集八巻一一号一七四二頁参照)

それ故原審の判断は正当であって、本件上告は理由がない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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