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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)3810号 判決 1958年3月14日

主文

第一審判決中外国為替及外国貿易管理法違反に関する部分及びこれを支持した原判決の部分を破棄する。

外国為替及外国貿易管理法違反の公訴事実につき被告人は無罪。

関税法違反の部分に対する本件上告はこれを棄却する。

理由

弁護人五井節蔵の上告趣意は別紙記載のとおりであり、違憲をいうけれどもいずれも実質は単なる法令違反、量刑不当の主張をいでないもので刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

職権により調査すると、第一審判決は、被告人は法定の除外事由がないのに、第一、支払手段たる米国軍票を輸入しようと企て、昭和二八年一〇月三〇日午後一時三〇分頃韓国釜山より米国軍票三三六〇ドル(昭和二八年証第一三八四号)を携帯し、ノースウエスト航空会社所属航空機に搭乗して同日午後四時三〇分頃日本国東京都大田区羽田所在の東京国際空港に到着し同所外貨申告所において右軍票を申告せずに通過上陸し、以て右軍票を輸入し、第二、所定の通関手続を経ないで米国軍票を輸入しようと企て、前同日前記航空機に搭乗して米国軍票三三六〇ドル(昭和二八年証第一三八四号)を前記空港に携帯輸送し、所定の通関手続を経ずにわが国内に搬入しようとしたが税関係員に発見されたのでその目的を達せず、以て法定の免許を受けることなく右軍票を輸入しようとしたものである、との事実を認定し、第一の米国軍票を無申告で輸入した所為については、外国為替及外国貿易管理法四五条、七〇条一九号、外国為替管理令一九条、昭和二七年政令一二七号四条一項(二項の誤りと認む)、罰金等臨時措置法二条一項本文を、第二の米国軍票を無免許で輸入しようとした所為については、旧関税法七六条二項一項、八二条ノ四本文、罰金等臨時措置法二条一項本文を各適用して、それぞれ罰金三〇万円に処した。そして、原判決も右第一は、判示空港外貨申告所において携帯外貨を申告しないで同所を通過したときに成立する罪であり、右第二は、免許を受けないで外貨を輸入しようとしたが税関官吏に発見されたためその目的を遂げなかったという罪であるから、両者は性質上別個の所為であり、且つ、刑法五四条一項前段の関係にたつものではないとして第一審判決を支持したのである。

しかるところ、第一審判決挙示の証拠殊に大蔵事務官広瀬典三作成の犯則現場見取図並びに原審の検証調書及び証人上田二朗の供述によれば、羽田空港には東京税関羽田支署が存在し、航空機から降り立った旅客は入国者通路を通って検疫を受け、入国管理所において入国手続を済ませ、為替管理所において外貨の申告をし外国為替記録手帳に携帯外貨の登録をして税関の確認を受けた上、さらに旅具検査所において旅具の輸入申告をし旅具検査を受け輸入免許を受けてはじめて携帯品を持ち出すことができるよう施設されていることがわかる。かようにして、たとえ外貨申告所(為替管理所)をことなく通過してもさらに旅具検査所を経て税関の関門を通過しないかぎり、旅客の携帯品は未だ税関の実力的管理の下におかれているのである。そして羽田空港は未だ法令上保税地域には指定されていないけれども、右関係は法令上指定された税関空港における保税地域と全く同様の関係とみられうるのである。

しかして第一審判決挙示の証拠によれば、被告人はその認定のごとき目的意図の下に所定の申告並びに通関手続を経ないで、認定の日時羽田空港において、自己の着衣及び携帯鞄内に認定の米国ドル軍票を隠匿し、申告をしないで外貨申告所を通過したが旅具検査所において税関職員に発見されその目的を遂げなかったことが認められるのであるから、本件米国軍票は未だ税関の実力的管理を脱しなかったのであり、関税法上無免許輸入の未遂罪を構成するとともに、外国為替及外国貿易管理法上も支払手段の輸入未遂にとどまるものというべきである。そうとすれば外国為替及外国貿易管理法において支払手段の輸入未遂を処罰する規定の存しない以上、同法の違反罪は成立の余地なく、これにつき有罪を認定した第一審判決の右部分及びこれを支持した原判決の部分は、刑訴四一一条一号により破棄を免れない。

よって原判決及び第一審判決中の同部分を破棄し、同部分については被告事件罪とならないので刑訴四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により被告人を無罪とし、関税法違反の部分は、右部分と可分な独立した裁判であって、これについては刑訴四一一条各号の事由は認められないから、これに対する本件上告は同四一四条、三九六条により棄却することとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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