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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)948号 判決 1956年5月04日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金二千円に処する。

右罰金を完納できないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

検察官の上告趣意について。

原判決は、昭和二四年政令第三八一号附則第七項前段について、この規定は、本件被告人の如く旧令(昭和二二年政令第二〇七号外国人登録令)施行当時から本邦に在留する外国人で所定の登録をしなかった者の処罰については、その犯罪事実が改正令施行後に及んだ場合、改正令施行後の行為については旧令の罰則を適用し、改正後の罰則を適用すべからざることを明らかにした趣旨であると判示する。

しかし、右の判断は、右の如き場合においては「改正令を適用すべきであり、改正令附則第七項は旧令附則所定の登録申請期間内登録の申請をしなかったものが、その申請期間経過後で、且つ改正令施行前に登録した場合に関する規定であって、改正令施行後なほ登録の申請をしなかった者に適用すべきでない」との昭和二五年七月三一日福岡高等裁判所判例に相反するものである。

按ずるに、昭和二二年勅令第二〇七号外国人登録令施行当時、同令第四条第一項附則第二項に違反し同令第一二条第二号の罪を犯した者が、その後所定の登録の申請をしないまま、昭和二四年政令第三八一号改正令の施行後に及んだ場合においては、右改正前の犯罪行為と改正後の犯罪行為とは相合して一個の継続犯を構成するものであって、従ってこれに対しては新法である右改正令第一三条第一号を適用し処断すべきものと解する。しかるに、原判決が、右改正令附則第七項を適用し旧令の規定を適用すべきものと判示したことは法令の解釈を誤ったものといわねばならない。右附則第七項は、前記福岡高等裁判所の判例の判示するように、旧令附則所定の登録申請期間内に登録の申請をしなかった者が改正令施行前に登録の申請をした場合に関する規定であって、改正令施行後もなほ登録の申請をしなかった者に適用すべきものではない。若しこれを反対に解するにおいては、改正令施行後においても犯罪を継続しながら、これに対して改正令の規定する重い刑罰を科することを得なくなるのであって、右附則第七項がかような実質上の不当の結果を是認し新旧両法に跨る継続犯に対する新法適用の原則を廃除する趣旨において立法せられたものと解すべき根拠は存しないものといわねばならない。

従って、本件上告の申立は理由があるものと認め、刑訴第四一〇条第一項前段により原判決を破棄すべきものとする。

よって刑訴四一三条但書により更に被告事件につき判決することとし、原審の確定した事実を法律に照すと被告人の判示所為は外国人登録法附則第三項、昭和二二年勅令第二〇七号外国人登録令第四条第一項、附則第二項、第三項、昭和二四年政令第三八一号第一三条第一号、罰金等臨時措置法第二条、第四条に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し所定金額内において被告人を罰金二千円に処し刑法第一八条により右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

この判決は裁判官池田克の補足意見を除くその他の裁判官一致の意見である。

本件に関する裁判官池田克の補足意見は次のとおりである。

旧外国人登録令(昭和二四年政令三八一号による改正前の昭和二二年勅令二〇七号)附則二項、三項所定の登録不申請罪は、同令施行当時本邦に在留した外国人が所定期間内に登録申請をしないことによって成立し、その後も、不申請の状態の継続する限り犯罪行為が継続するいわゆる継続犯と解すべきのところ、右旧令に規定された登録申請義務は、昭和二四年政令三八一号による改正後の外国人登録令においても何等変更をみないのであるから、本件被告人のように登録不申請の状態が右改正令の施行後に及んだ場合には、登録不申請罪は、その施行の前後を通じて継続して成立していたものと解するを相当とすること、正に原判決の判示するとおりである。そうだとすると、当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第四五三六号同二七年九月二五日第一小法廷決定、刑集六巻八号一〇九四頁)でも明らかなとおり、継続犯については、その間に刑罰法規の変更があっても新旧両法対照の問題はおこらず、常に新法を適用処断すべきものであるから、本件登録不申請罪に対し改正令の新罰則たる同令一三条一号が適用されることは、当然であるといわなければならない。尤も、改正令の施行に当っての経過法を定めた附則七項は、「改正前の第一二条第二号に掲げる罪を犯した者の処罰については、なお、従前の例による」と規定するにとどまり、これを形式的にみると、改正令の施行前後を区別していないようではあるが、この立法形式を重視するの余、原判決のように、旧令一二条二号の罰則が改正令施行前の場合は勿論、その後の犯罪についても、なお、適用されることを定めたものと解することは相当でない。けだしこのことは登録不申請罪を継続犯と解する以上、又、事理の当然であるといわなければならない。原判決は、なお、右附則七項が、本件被告人の如く旧令施行当時から本邦に在留する外国人の登録不申請罪の処罰につき、改正令施行後の行為についても旧令の罰則を適用し、改正後の罰則を適用すべからざることを定めた経過法であるとする理由の一つとして、「何等罪責を加重せらるべき格別の所為に出でても居ないのに、単に罰則の改正によって重く処罰」することは、「酷に失する」ことが考慮されたためであるとしているけれども、改正令施行後においても、なお登録申請の義務をつくさないような者に対する罰則を殊更に旧令の限度にとどめる理由は少しもないばかりでなく、原判決の解釈に従えば、旧令施行当時本邦に在留した外国人と、旧令施行後本邦に入国した外国人が、共に登録申請義務に違反し、改正令施行後に及んだ場合に例をとってみると、前者については軽い旧令一二条二号の罰則が、後者については重い改正令一三条一号の罰則が適用されることとなり、法定刑の権衡を失し極めて不合理であるといわなければならない。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田 克)

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