大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)1036号 判決 1955年7月15日

主文

原判決及び第一審判決中上告人に対し被上告人のため第一審判決添附目録記載の建物につき、利息年一割を超える債権につき抵当権設定登記手続を命じた部分を破棄する。

右部分に関する被上告人の請求を棄却する。

爾余の部分に関する上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士高橋義一郎、同鈴木紀男の上告理由第一点について。

弁済の抗弁については弁済の事実を主張する者に立証の責任があり、その責任は、一定の給付がなされたこと及びその給付が当該債務の履行としてなされたことを立証して初めてつくされたものというべきであるから、裁判所は、一定の給付のなされた事実が認められても、それが当該債務の履行としてなされた事実の証明されない限り、弁済の点につき立証がないとして右抗弁を排斥することができるのであつて、右給付が法律上いかなる性質を有するかを確定することを要しないものと解するを相当とする。そこで本件の場合はどうかというと、原判決は、証拠により上告人等から被上告人に対して所論各金員の給付がなされたことはあるが、右はいずれも本件消費貸借債務の弁済として給付がなされたものでなかつたことを認めることができるものとしているのであるから、積極的に右給付の法律上の性質までも判示する必要がないものといわなければならない。されば、原判決が上告人の弁済の抗弁を排斥したことは正当であつて、論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決は、抵当権の被担保債権はそれが無効のものでない限り抵当権設定義務者においてこれが登記を拒み得ないとした上、利息制限法(旧)の制限範囲を超過する約定利息も、その約定が公序良俗違反により無効でない限りこれをもつて直ちに無効のものといえず、また、同法はその制限外の利息を裁判上請求し得ないとするだけであつて、制限外の利息の支払契約に基く利息債権を被担保債権として登記することを不可とするものでないとし、月一割の利息の約定を公序良俗違反でないと認めてこの部分についての被上告人の抵当権登記請求を認容している。しかし、旧利息制限法二条にいわゆる裁判上無効とは、単に同条所定の利率を超える約定利息の支払を裁判上請求する場合にのみこれを無効とすべきことを意味するものではなく、いやしくもかかる制限超過の利息に関する限りその債権を原因とする法律的請求はすべてこれを裁判上無効とすべき趣旨をも含むものと解さなければならない。蓋し、同条は、制限超過の利息については原則としてこれを無効として裁判上の救済を与えることを拒否し、もつて債務者を保護しようとしたものと解すべきであり、従つて、かかる利息については、債務者が任意にこれを支払う限りその支払を有効な弁済としてその取戻を請求することは認めないにせよ、債務者の意思に反してその支払の強制その他これを原因とする法律上の主張または強制をすることはすべて裁判上これを否定すべきものとしたものと認めるのを妥当とするからである。しからば、制限超過の利息も単に裁判上請求し得ないだけであつて、当然に無効ではなく、その部分についての登記を妨げないことを理由とし、これにつき抵当権の登記請求を認容した原判決の部分は旧利息制限法二条の法意を誤解したものであつて、論旨は理由あり、従つて原判決中上告人において被上告人に対し旧利息制限法の制限超過の利息債権を担保するため被上告人のため抵当権設定登記手続をなすことを命じた部分は破棄を免れない。そして原判決の確定した事実によれば右の部分の被上告人の請求については裁判をするに熟するから当裁判所において自判すべきものであり、右破棄部分以外の原判決は正当であるから、この点に関する上告は棄却すべきものである。

よつて民訴四〇八条、三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例