大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2777号 判決 1951年8月17日

主文

原判決中大石万喜雄に関する部分を破棄し事件を東京高等裁判所に差戻す。

被告人小林一可、木下広夫、岩附三一郎の上告はこれを棄却する。

理由

被告人小林一可、同木下広夫の弁護人久保田由五郎の上告趣意第一点について。

論旨は判示犯罪の日時場所が不明であるというのであるが、判示第四事実については昭和二二年五月五日頃の翌日判示麻薬を伊那町から松本市に持帰りて所持したと判示してあるから何等不明の点はない、また判示第三事実については日時は昭和二二年五月四日頃と判示してあるから明らかである、場所は松本市に持帰りと判示してあって挙示の証拠によれば高遠町から松本市に持帰った趣旨であるから第三事実についても犯罪の日時場所が不明であるとはいえない、それゆえ論旨は採用できない。

同第二点について。

原判決は被告人両名は判示相被告人等と共謀の上判示麻薬を松本市に持帰り所持した事実を認定しているのであってその事実は挙示の証拠によって十分認定できるのであるから共犯者中の誰が持帰ったかを判示することは必ずしも必要ではない、従って原判決に所論のような違法があるとはいえない。

同第三点について。

しかし所論は事実誤認の主張に帰するから上告適法の理由にならない。

同第四点について。

原審第一回公判調書に弁護人久保田由五郎出頭の記載がないことは所論のとおりである、しかし原審第七回公判で審理が更新され右弁護人は該公判に立会い弁論しているのであるから仮りに更新前の公判手続に所論のような瑕疵があったとしてもそれは上告の理由とはならない。また原判決は第七回公判において証拠調をした証拠を採証しているのであって第一回公判において証拠調をした証拠を採証しているものではないからこの点からも論旨は採用できない。

同第五点について。

原審第五回公判調書の作成日附が昭和二三年四月二〇日となっていることは所論のとおりである、しかし原審第四回公判で次回期日を昭和二四年四月二〇日と指定し第五回公判調書の冒頭に昭和二四年四月二〇日開廷した旨の記載があるのであるから右第五回公判調書の作成日附の記載は昭和二四年四月二〇日の誤記であることは明瞭である、従って論旨は理由がない。

同第六点について。

しかし証拠調をした書類を公判調書に記載するには如何なる書類につき証拠調がなされたかを明瞭にすれば足り必ずしも一々個別的に掲記するの要はない、そして原審第三回公判調書の証拠調をした書類の記載は所論のとおりであるが右記載によって如何なる書類につき証拠調がなされたかを明確にし得るのであるから論旨は採用できない。

同第七点について。

原審第七回公判において原審は被告人倉田四郎に対する弁論を分離したことは所論のとおりである、そして第九回公判において被告人倉田四郎に対する弁論を終結したのであるが原審は右分離した事件を再び併合して判決したものであることは原判決前文において併合して判決すると判示していることから明らかである、裁判所は職権によって弁論の分離併合が出来るのであるから原審が前示のように分離した事件を併合して判決することは何等違法の点なく論旨は理由がない。

同第八点について。

所論は量刑不当の主張であるから上告適法の理由にならない。

被告人大石万喜雄の弁護人海野普吉、位田亮次の上告趣意について。

原判決は所論押収に係るモルヒネ注射液五十本入二箱(昭和二二年証第八十七号の一)の存在を他の証拠と綜合して原判示第一の(一)及び(二)の犯罪事実を認定したものであることは判文上明らかである。ところが原審公判調書を調べてみると原審公判廷において右証拠物について証拠調をした記載がないのであるから原審はその証拠調をしなかったものというべく従って原判決は証拠調をしない証拠を断罪の資料に供した違法がありその違法は判決に影響を及ぼすものと云わねばならない、よって論旨は理由があるから原判決中被告人大石万喜雄に関する部分は破棄を免れない。

被告人岩附三一郎の弁護人伊能幹一、小林直人の上告趣意第一点について。

しかし刑訴応急措置法に基く逮捕状の執行による被疑者逮捕の場合には同法八条四号の規定により同条三号掲記の旧刑訴一二七条及び一二九条所定の手続を準用し逮捕状によって逮捕された被疑者を受取った司法警察官又は検察官はその被疑者を訊問することができることは当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第七七六号同二六年三月二八日大法廷判決)とするところであるから原判決が所論訊問調書を罪証に供したことは正当である、又司法警察官又は検察官が右の訊問をするにあたり被疑者に黙否権の告知をしなかったとしても、その訊問調書をもって憲法三八条一項に違反して無効であるとすることはできない(昭和二三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日大法廷判決参照)従って原判決には所論の如き違法なく論旨は理由がない。

同第二点について。

所論昭和二二年五月二六日附司法警察官の被告人岩附三一郎に対する第二回訊問調書が事件を検察官に送致した後に作成されたものであることは所論のとおりである。ところで旧刑訴当時においては法令によって作成した訊問調書と聴取書との間に截然たる区別を設け地方裁判所事件について訊問調書は証拠となるも聴取書は原則として証拠とならないものとしていたのである。しかし新憲法施行後においては何人も自己に不利益な供述を強要されないのであるから法律上訊問権のある場合でも被告人は自己に不利な供述を強制される訳ではなく何時でも黙否権を行使することができるのであって訊問調書と聴取書とは共に供述を録取した書類としてその実質を異にするものではないのである。

そこで刑訴応急措置法においてはその区別を撤廃し両者ともに供述を録取した書類として一定の条件の下にその証拠能力を認めこれが採否は一に裁判官の自由心証に委せられたのである。(同法一二条参照)それゆえに所論の訊問調書がたとえ事件を検察官に送致した後に作成されたものであって作成者たる司法警察官が訊問をなし得ないにかかわらず作成したものであったとしても訊問が直ちに供述を強制したものとはいえないのであるからその訊問調書は聴取書と同様供述を録取した書類として証拠能力があるものといわなければならない。然らば原判決が所論訊問調書を採証したことは正当であって論旨は理由がない。

同第三点について。

検察官が被疑者を取調べるにあたり黙否権の告知をしなかったとしてもその聴取書をもって憲法三八条一項に違反して無効であるとすることはできないことは既に第一点に対する説明によって明かである。

同第四点について。

しかし麻薬取締規則四二条には「次に掲げる者以外の者は麻薬を所有又は所持することができない」と規定しているのであって右の麻薬というのは正規の手続を経た論旨の所謂登録された麻薬のみを指すのではなく正規の手続を経ない所謂無登録の麻薬をも包含するものと解するを正当とする、けだし麻薬の取締の徹底を期するには所謂無登録の麻薬についてもその所有又は所持を禁止するに非ざればその目的を達することができないのであるから右規定は所論の如く所謂登録された麻薬を指すものであると狭く解することはその当を得たものとはいえない、然らば原判決が同規則施行前に被告人が取得した麻薬について同規則を適用してその麻薬の所持を所罰したことは正当である、論旨は憲法一三条違反を云々しているがその実質は原判決の法律解釈を争うものであるから採用することはできない。

同第五点について。

原審共同被告人大石、倉田、赤羽について原審が証拠調をしない証拠を採証した違法があるとしても被告人の原判示の犯罪事実は挙示の証拠のみで十分認定できるのでありその証拠のうちには証拠調をしない証拠は採用されていないのであるから、かかる場合には旧刑訴四五一条にいわゆる「破棄の理由が上告を為したる共同被告人に共通なるとき」に該当しないものと解すべきであるから論旨は採用できない。

よって被告人大石万喜雄に関する部分については刑訴施行法二条旧刑訴四四七条四四八条ノ二により被告人小林一可、木下広夫、岩附三一郎については刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例