大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)1793号 判決 1950年1月13日

主文

本件再上告を棄却する。

理由

弁護人竹内卯一の再上告趣意について。

精神異常の有無の問題は常識では容易に判定し得るものではないのである。それ故、事実承審官たるものは被告人の犯行当時における精神状態に関し疑ある場合には、よろしく専門家の認定を俟つの態度に出ることは望むべきところである。したがって、右の方法を講ぜずして輙く精神状態に関する判定を下すときは、経驗則違背として違法の裁判となることも勿論あり得るのである。しかしながら裁判官が公判廷における被告人の供述態度等を仔細に注意し、且つ証人の証言等他の資料と相俟って、犯行当時の被告人の精神状態に異常のなかったものとの心証を構成し得る場合においては、たとえ被告人に精神分裂の既往症並びに犯行後に同様の医師の診断があったとしても、敍上裁判所の心証判断をもって直ちに経驗則違反の不法あるものとは云い得ないのである。そして本件原上告審の判示も畢竟以上の同趣旨に出でたものであることは、判文上十分に疑い得るところである。されば、所論は原上告審の判示趣旨を正解することなくしてこれを論難するものであると同時に、論旨は究極するところ、被告人の犯行当時の精神状態に関する本件第二審裁判所の証拠判断の不法を攻撃するものであって、したがって畢竟刑事訴訟手続の違背を攻撃するものである。そしてこの違背の有無は所論憲法第一三條適否の問題に該当しないものであることは敢て喋辞を要しないところである。しからば所論は、違憲に名を藉りその実は違憲問題に関係のない部分の訴訟手続に関する違法を攻撃するものであって、再上告適法の理由とならないことは明らかである。

仍って、刑訴施行法第二条旧刑訴法第四四六条に從い、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例