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最高裁判所第二小法廷 平成9年(あ)73号 決定 1997年7月15日

本籍

大阪府東大阪市山手町二三六番地

住居

同 東大阪市東豊浦町一一番三〇号

会社役員

辻子仁宏

昭和二二年九月四日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、平成九年三月一二日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人本井文夫の上告趣旨は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)

平成九年(あ)第五一〇号

上告趣意書

被告人 辻子仁宏

右の者に対する相続税法違反被告事件について、上告の趣意は左記のとおりです。

平成九年六月一九日

右被告人弁護人

弁護士 本井文夫

最高裁判所第二小法廷 御中

被告人辻子仁宏には刑事訴訟法四一一条二号に該当する事由があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められますから、その旨上告致すものであります。

即ち、原判決には被告人に対する量刑を検討するにあたり、

一、本件における被告人の役割ないし加担の程度を過大評価する誤りがあり、

二、罰金刑三、五〇〇万円とした量刑理由が全く不明であって、かつ、分離前の相被告人辻子孝義の罰金刑三、〇〇〇万円と比較して極めて過大かつ不合理である。

との誤りを犯している。

これは著しく正義に反するものであって、原判決を取消したうえ相当に軽減した量刑をなされたい。

原判決の量刑判断に対する不服の要点

一、原判決の弁護人作成の控訴趣意書に対する量刑判断には自己矛盾がある。即ち、原判決は一方では「被告人は、兄から架空債務を計上した申告をすると知らされた際、これが違法であることを十分に承知しながら反対することをせず」と認定し、他方原判決は「本件は兄の言葉に安易に従ったという面もあり」と認定判断している。右両者の認定判断には大きな質的差異がある。前者であれば、原判決のいうとおり「被告人の立場が従属的なものと評価」できないであろう。しかし後者であれば、兄孝義から一〇分間程度「恩借」の話を聞かされ、この言葉に安易に従ったと認定判断しているものと思われる。

原判決は右の矛盾を矛盾とは認めず、本件を二つの別の側面あるいは角度から認識判断して表現していると強弁されるであろう。しかし、弁護人としては、本件全体を見れば、右のいずれかであって、前記認定は相矛盾するものと判断せざるを得ない。結局、原審では被告人の供述調書を措信する余り、被告人の一審及び原審における公判廷における供述を軽視し、この両者を十分に比較検討するという基本的な事実認定作業を怠ったものである。

この点につき、被告人は罪体について争っておらず、ために原審の判断をより安易にさせたのではないかとの反省がある。一審判決は「橋渡し役」として被告人の役割を正しく認定しているが、原審はこの点についても判断を誤っている。「橋渡し役」という表現は弁護人のものではなく一審判決文中に被告人の役割を認定判断する際に使用された文言である。

これらの諸事情を正確に認定判断した場合、被告人の本件脱税事犯における関与の程度は、兄やその余の脱税請負人グループと対比した場合、極めて軽微であると評価してもよい筋合と考える。これらが量刑判断に極めて大きく影響していることは明らかであり、原審判決を破棄しなければ著しく正義に反することも明白である。

二、原審における罰金刑に対する量刑基準及びほ脱犯に対する一般論については、弁護人としても異論はない。しかしながら、本件の如く、兄弟と母の相続税違反の事犯においては、罰金刑の金額を決定した要素や基準、兄と被告人(弟)との罰金刑額に差を設けた理由については、明示的な理由を示すべきであろう。最高裁の提唱する「わかりやすい判決」は刑事事件でも同じであろうと考える。罰金刑の量刑基準は、ほ脱金額がその基準となることは理解できるが、それだけではないことも原審の判断の指摘するとおりである。であれば、弁護人の主張した修正申告後に「物納による納税等により被告人の現実の利得がないこと」をも罰金刑の量定にあたり考慮すべき事情から除外しなければならないものであろうか。明らかに矛盾がある。

兄と被告人(弟)との本件ほ脱行為によるほ脱金額の差異は、不動産資産の面積と評価の差により発生するものであるが、結局、兄と被告人(弟)とも物納する以外に納税の方法がなく、その結果、現実の利得は両者ともになくなるという本件の如き事犯では、罰金刑に兄と被告人(弟)との間に差を設けなければ罰金刑の量刑基準に不合理が生ずるとは思われない。かえって、ほ脱犯の罰金刑の量定はほ脱額の何パーセントといった一般的な基準が独歩し、個別的な諸事情を考慮した量刑がなされず、反則金制度と同じこととなってしまい、罰金刑の犯罪抑止力を失い、ひいては国民の裁判への信頼をもそこなう結果となるのではないかと考える。

三、以上、本件につき再度記録を検討され、適確な量刑判断を賜りたい。

以上

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