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最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)209号 判決 1997年9月12日

静岡県沼津市岡の宮字寺林一二五六番地の一

上告人

ヤオハン・ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

和田晃昌

右訴訟代理人弁護士

橋本正夫

静岡県沼津市米山町三番三〇号

被上告人

沼津税務署長 芹沢仁

右指定代理人

深井剛良

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行コ)第一四九号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成八年六月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人橋本正夫の上告理由について

「ホンコン ヤオハン・ファイナンス社」の一九八八年八月一日から一九八九年三月三一日までの事業年度における主たる事業が株式の保有であったと認められるから、同社には租税特別措置法六六条の六第三項の規定が適用されないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成八年(行ツ)第二〇九号 上告人 ヤオハン・ファイナンス株式会社)

上告代理人橋本正夫の上告理由

原判決には法令の解釈・適用に誤りがあることは明らかである。

一 租税特別措置法第六六条の六第一項は、「特定外国子会社等」が「適用対象留保金額」を有する場合には、「課税対象留保金額」に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなし、益金の額に算入するものとし、同第三項は、特定外国子会社等が各事業年度においてその行う事業が同条項または政令で定めるものに該当する場合には、適用を除外するとしており、本件はこの適用除外規定に該当するか否かに関するものである。

ところで、租税法の解釈については法的安定性の要請が強くはたらくから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであるが、文理解釈のみでは目的達成が出来ないときには、規定全体の趣旨や目的を追及して法令の正しい意味を明らかにする論理解釈が補充的に必要となるものであり、その場合には「租税正義」に合致するように解釈する必要がある。

本件については、子会社の利益はそれが親会社に配当された段階で課税する、という法人税法の基本原則の例外規定に関係するものである。

租税条約によって多くの発展途上国についてタックス・スペアリング(みなし外国税額控除)を認めるなど、海外投資に支障を与えないという租税政策がとられてきたことを考慮すると、税の中立性にウエイトをおいたタックス・ヘイヴン税制を導入することはわが国の租税政策に相反する結果となりかねない側面がある。租税特別措置法の解釈は基本法以上に厳格であるべきであるという要請はこのタックス・ヘイヴン税制の適用にあたっても当然求められることである。

以上の意味から「適用除外規定」についてはその文理解釈に合わせて立法者の意図などによる論理解釈なども併せて総合的に妥当な結論をすべきことが必要となる。

この点について政府税制調査会の答申は、正常な海外活動を阻害しないため、所在地国において独立企業としての実態を備え、かつ、それぞれの業態に応じ、その地において事業活動を行うことに十分な経済的合理性があると認められる海外子会社については適用除外とするものとし、第八回通常国会において政府が提出した法律要綱においても正常な海外投資活動を阻害することがあってはならないとし、国会審議における付帯決議においても海外における正常な事業活動の支障とならぬよう配慮することが求められているのである。

東京地裁平成二年九月一九日の判決(判例時報一三六八号五三頁)も、適用除外規定は、特定外国子会社等が独立企業としての実態を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済的合理性がある場合にまでタックス・ヘイヴン課税を適用することは我国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことになるので避けるべきであるとの趣旨で設けられたものと解される、としている。

正常な経済活動かどうかの判断にあたっては、以上のような観点から企業の事業活動の目的、業務内容、その成果の帰属等を総合的に勘案して判断すべきものなのである。

措置法通達六六の六-八は、「収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定設備の状況等を総合的に勘案して判定する」として具体的な場合の判断基準を定めている。

二 ところがこの点について原判決は、「適用除外の前提となる特定外国子会社の主たる事業であるかどうかの判定は、各事業年度ことに行なわれるのは当然で、当該事業年度における具体的・客観的な事業活動の内容から判定するしかないから、その事業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定すべきで(措置法通達六六の六-八)、その際、課税事業年度ごとにその存否が確定される性質のものである以上、決算日以後の事情など当該事業年度には判断不能な事柄などは勘案されるべきではない。」としている。

しかしこのような考え方は、適用除外規定が我国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことのないようにする目的で定められたという前記の趣旨に反する。措置法六六条の六第三項の規定、更に前記の通達にある「収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定設備の状況等を総合的に勘案して判定する」との規定は幅広く当該子会社に関する事情を考慮することを予定している。

この通達のうち「収入金額又は所得金額」のみなら決算書の表面的な数字を見るだけで判明するが、具体的にはどのような収入、所得なのか、その収入、所得はどのような取引によって発生したのか、といった取引の実体まで把握しない限り、正常な海外投資活動かどうかの正確な判断をし難いものである。そのため、通達は「総合的に勘案して判定する」としているのであり、そのためには目的を含む主観的要素や事業年度外の前後の活動実体等をも必要に応じて考慮せざるを得ないのであり、それが法の趣旨・目的に合致するのである。

三 ところで、ホンコンヤオハンファイナンス社は、すでに香港においてデパート事業等を展開していたヤオハングループ企業各社が更に事業を拡大する予定であったことから、これらの資金需要に答えるために融資をする目的で一九八八年に設立された会社である。そして現にその目的のために活動中の会社である。たまたま一九八八年九月二二日にホンコンヤオハン社が香港証券取引所に上場することが予定されており、同社が上場すれば当時株式の値上がりが見込める状況であったことからそれを期待してホンコンヤオハン社の株式を購入したのであり、それによって売却金を得たほか、その後においては会社の目的に添った融資もなされたものであることから、ホンコンヤオハンファイナンス社の株式取引及びその保有はホンコンヤオハンファイナンス社の本業である金融業に関連し付随するものであることは明白である。

この点につき、原判決は「ホンコンヤオハン社の株式は、上場時の公募価格が一株一ドル二〇セントないし三〇セントであり、同年中二ドル程度まで上がったが、ホンコンヤオハンファイナンス社は、右株式を証券市場に通すことなく、ヤオハンジャパン関係者に、市場価格よりも相当低廉な一株一ドルないし一ドル五〇セントで売却した」「そもそもホンコンヤオハンファイナンス社がホンコンヤオハン社の株式の上場後にその保有株式の半分を売却した先は、いづれもヤオハンジャパン社の関係者などであって、しかも、証券市場を通さず市場価格よりも相当低廉な価格で売却した」とし、取引の実態からみて営業資金の獲得を目的としたとはいえないとしている。しかしこれらの認定は明らかに事実誤認である。

即ち、ホンコンヤオハンファイナンス社は、一九八八年七月二二日にヤオハン物流株式会社ほか四社からホンコンヤオハン社の株式合計八八、七五四株(単価四〇〇香港ドル)を購入し、同社株はその直後の一九八八年八月二五日に株式分割となり、一株四〇〇株(一株一香港ドル)となった。

この株式分割後の八八年九月九日から一二月一四日までの間に株式を売却しているが、この間の取引は一九八八年九月九日 セツコワカイ 五〇、〇〇〇株、九月一二日 シゲトシタニタ 五〇、〇〇〇株、邱永漢 一、〇〇〇、〇〇〇株、九月一四日 今井徳明 五〇、〇〇〇株、(九月二二日ホンコンヤオハン社上場)九月二七日 神田敦子 一〇〇、〇〇〇株であり、九月九日から九月一四日までは上場前であるから市場を通さない相対の取引であった。

これら五名分の取引については、株数は合計でも一一五万株程度であり、五三五〇万株(分割後)の中での比率は極めて低く、この取引をもって全体をヤオハン関係者間での内々の取引であるとして、営業資金獲得目的の取引であることを否定することはできないことは明らかである。

上場後の九月二七日の神田敦子宛の一〇万株も全体の中での比率は極めて低いことは明らかである。

一二月一四日に株式会社ビッグエイトほか二社に対しては単価を一ドル五〇セントで売却している。この間のホンコンヤオハン社の株式は一ドルから二ドルに推移したとみられるが、売る側のホンコンヤオハンファイナンス社側からは一ドルのものが一ドル五〇セントになったものであるから、購入から半年後に五〇%の利益を生んだことになり、営業資金獲得も目的に添うものであった。

四 また、原判決は「香港において株式の売買による利益が課税されるか否かの判断と我が国においてタックスへイヴン税制が適用されるか否かの判断は、当然のことながら必然的に関連を有するものではなく、仮に香港税務当局により営利事業取引として課税されたとしても、それが直ちにホンコンヤオハンファイナンス社の事業内容についてまで判断したものとはいえない」としている。

しかし、香港税務当局が本件取引を営利事業目的の取引であると認定したことは事実である。

即ち、ホンコンヤオハンファイナンス社の一九八九年三月期における株式取引(購入、売却)は、客観的にも主観的にもそれを営業資金にあてるための短期的利益目的の本業に密接に関連する取引であったのである。

香港内国歳入法一四条は、香港で行われる事業により生じた香港源泉所得には、香港の事業税を課すとしているため、事業目的で保有した資産の譲渡により生じた利益は課税されるが、長期投資等の目的で保有した資産の譲渡により生じた利益は課税対象にならない。

事業目的による保有か資本的資産としての保有かの区別は、所有期間、譲渡資産の性質(長期投資目的か)、類似取引の頻度、資産を譲渡するための広告、宣伝等の有無、譲渡に至った経緯、取得保有の動機の六つの基準による。

これらの基準には主観的な要素もあり、一律に客観的に判断するものではない。

賦課納税制度をとる香港において、非課税取引になると主張する納税者がこれらの六条件について明らかにし、それを証明するという制度である。その結果本件取引は営利事業取引と認定されたのである。

ところがこの認定が日本では全く異る認定になるというのでは納得されない。全く同一の行為が香港においては営利事業取引と認定されて、課税されたのに、一方で我が国においても実質的に二重に課税される、というに等しい。これこそ我が国企業の海外における正常な事業活動を阻害する結果になるものであるから、本件のような場合には香港での判断をまず尊重すべきである。そしてこのような結果を回避するのが措置法とその解釈を補う通達のはずである。右のような法の趣旨・目的、本件の場合ホンコンヤオハンファイナンス社が香港におけるヤオハングループ企業各社への融資を目的に設立されたという経緯、香港においてホンコンヤオハン社が上場することになっていたことから同社の株式を購入すれば値上がりを期待できる状況があり、これを期待して営業資金を獲得する目的で同社の株式を取得し、保有したこと、その実態に従って前記のとおり香港においては税務当局により営利事業取引と認定され課税された事情、そしてその後のホンコンヤオハンファイナンス社が香港などでのヤオハングループ企業各社への融資を実行した事実など主観的・客観的なあらゆる事情を総合的に考慮すべきであり、それらを経済的合理的に判断する必要があるのである。

そうすれば、本業である融資事業に関連し付随した取引であったものとして、措置法六六条の六第三項の適用除外の対象となる株式の保有に該当することは明らかである。

本件の場合、我が国の法の適用、適用除外規定の適用にあたって、当該年度のみを対象として株式の所有により利益を得た場合は適用除外する理由はない、とすることはあまりにも一面的な考え方であり、本規定が正常な海外投資活動を阻害しないことを目的としている趣旨に反する。

五 以上のとおり、特定外国子会社であるホンコンヤオハンファイナンス社における一九八九年三月事業年度の主たる事業はそれが株式の所有であっても正常な金融業務に付随する業務として、措置法六六条の六第三項に規定する適用除外に該当する。

よって、ホンコンヤオハンファイナンス社の同期中の九三〇万三五五一香港ドル(一香港ドルを一八円三八銭として、日本円が一億七〇九九万九二八七円)を課税対象留保金額とした被上告人の処分は違法であり、原判決は破棄を免れない。

以上

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