大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成8年(オ)721号 判決 1997年2月14日

東京都千代田区麹町三丁目一二番一九号

上告人

株式会社フリーラン

右代表者代表取締役

平原一義

右訴訟代理人弁護士

入倉卓志

東京都新宿区新宿一丁目一一番一二号

被上告人

株式会社サドウ

右代表者代表取締役

平原浩一

川崎市宮前区有馬六丁目八番一号 光ハイツ七号

被上告人

平原浩一

東京都品川区旗の台六丁目一四番三-三〇五号

被上告人

若生淳

同世田谷区上馬一丁目五番六号

被上告人

後藤光

三重県上野市相生町二八二九-一 カネイチアパート二三号室

被上告人

渡辺浩

東京都世田谷区上北沢五丁目四〇番一四-二〇四号

被上告人

片野聡志

同品川区東五反田二丁目二一番一一号 DIKマンション五一七

被上告人

張仁賢

同江東区大島五丁目四〇番八-二〇一号

被上告人

大野朋孝

同江東区東砂一丁目三番二-八一五号

被上告人

二見康記

同江戸川区西一之江二丁目一五番二-二〇二号

被上告人

田谷野弘之

同世田谷区大蔵三丁目四番二四-五〇三号

被上告人

後藤浩二

同江戸川区北小岩五丁目二〇番七号

被上告人

工藤靖二

同江戸川区東小岩二丁目八番一三号

被上告人

樋口和宏

広島県尾道市久保一-二-三

被上告人

肥塚毅

東京都武蔵野市吉祥寺東町三丁目一七番一二号 メゾンロゼ一〇二

被上告人

種市勝司

右一五名訴訟代理人弁護士

増田亨

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(ネ)第五二五〇号不正競争行為差止等請求事件について、同裁判所が平成七年一二月六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人入倉卓志の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に判断遺脱など所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成八年(オ)第七二一号 上告人 株式会社フリーラン)

上告代理人入倉卓志の上告理由

一、原判決には判断遺脱、審理不盡の違法が認められる。

上告人は、第一審判決が、被上告人(但し、被上告会社株式会社サドウを除く。)の行為が不正行為を構成しない理由として、被上告人若生淳はじめその他の被上告人らと上告会社との間に退職後における競業避止契約がなかったから、競業避止義務を負わないこと、従って、被上告人らが上告会社を退職した後は、競業避止義務を負わず、従って、自ら又は新会社を設立してバイク便業を行っても社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものといえないと判決を下した。

上告人は第一審において競業行為をそこだけとらえて違法だと主張したわけではない。更に相手がバイク便の会社の従業員であろうと、義務委託契約者であろうと、また下請業者であろうと、二、三人がばらばら辞めて行って、もと動めていた会社の顧客と取引したとしても、それをとらえて違法だと上告会社が主張しているのではない。上告会社は「被上告人らの行為は、上告会社を集団ぐるみで退職し、上告会社の人手不足による機能を麻痺させた上、上告会社の顧客をそっくり横取りして、上告会社に致命的な損害を与えたことが違法である」と主張しているのである。そこで上告人は原審で改めて左の如く主張した(上告人の一九九五年四月二四日付準備書面一項~四項)。

「(一) 被控訴人らは、平成二年一二月頃から平成三年一月にかけて集団でかつ一斉に控訴会社を退職してバイク便の営業を開始した。

被控訴人らはバイク便の営業を行うにも、それぞれ各人ばらばらで行ったのではない。退職前に予め共同で、即ち有機的組織体として企画実行したのである。被控訴人らが独立して会社を経営し、被控訴人全員が食べて行く為にと、従前控訴人会社が営々として獲得してきた顧客を横取りし、控訴会社に動めていたと同様の取引を「サドウ」という自己の名ですることであった。退職に当たり、その事前にそれが計画されていたのである。このように自己の利益のみを求めて他を顧みないという態度は、社会的に是認されることではなく、法律的にも不公正な方法として保護の対象とはなり得ないものである。

(二) 控訴会社の顧客と取引きするには、被控訴人らは控訴会社のライダーとして常に出入りしていたのであるし、また各自、所在地、電話番号等のメモ帳を持って走り回っていた。従って、原判決が証拠がないという「取引先一覧表」を持ち出さなくても控訴人の顧客を奪うことは十分に出来たのである。そして、現実に被控訴人らが取引した顧客の大部分は控訴人の顧客であった。そして、自己が新しく開拓した取引先は殆どなかった

(三) 原判決が述べるように、被控訴人らは「他のバイク便の会社へ移った」のではなく、被控訴人自身がバイク便の会社を作って顧客を横取り又は競合したのである。

(四) 控訴人は、被控訴人らがバイク便の会社を設立して競業行為を行ったこと自体をとらえて違法であると主張しているのではない。控訴人の会社を集団ぐるみで退職し、原告の顧客をそっくり横取りして、控訴会社に致命的な損害を与えたことが違法だと主張しているのである。」

右の主張は、第一審判決の「事業の概要」に含まれていないし、また原判決の「第二事業の概要」中の控訴人の新たな主張にも含まれていない。

従って、原判決は右主張に対し正面から判断を加えていない。特に、原判決九頁六行目中「控訴人のバイク便の競合行為を開始したという点である。前後の文脈なくして競合行為とは何を意味しているか不明である。原判決には前後の文脈さえ記載していない。そうだとすれば、競合行為とは競業行為と同一意味内容を有すると解される。これでは見当違いとなる。

以上の次第であるから、原判決は、上告人の主張する競合行為即ち、上告会社を有機的組織体的に集団で退職し、上告会社の顧客をそっくり横取りして上告会社に損害を与えたとの主張に対し判断を加えていない違法が存在するといわなければならない。

右は原判決に判断違脱、審理不盡の違法があるというべきである。

一、原判決は理由を付せず又は審理不尽、理由不備の違法がある。

原判決は平成二年一一月中旬頃、代官山のラ・ボエムに、被上告人若生淳、同肥塚毅、同後藤光、同渡辺浩、同片野聡志、訴外遠藤邦彦が集まった席上で、被上告人若生淳が一一月中旬に上告会社を辞めることを告げたと認定している。一方右若生が上告会社に平成二年一一月一五日で業務委託契約を解除する旨を告げた日時は平成二年一一月初旬から数日後だという(乙一号証の六項)ラ・ボエムでは、被上告人若生は、その業務委託契約継続中にもかかわらずその他の被上告人らを含む内勤者及びライダー達をラ・ボエムに集めて、「自分は会社をやるからという話しを一時間か二時間話してゆくうちにそういう話になって行った」というものであり、最後には、そこに出席している人のみならず、出席していなかったライダー達を集めて、再び集会を開いて話しを進めようということに決まった事実が認められる(甲五、六、一五、一六、二四号証、原審証人遠藤邦彦の証言)。

その結果被上告人らは退職して新会社を設立する話しがまとまり、被上告人若生は平成二年一一月一五日に業務委託契約を解消し、同後藤光(内勤)は同年一二月一〇日(乙二号証)、同渡辺浩(内勤)は同年一二月三〇日に(乙三号証)、ライダーである同片野聡は同年一二月二〇日に(乙四号証)、同張仁賢は平成三年一月一〇日に(乙五号証)、同大野朋孝は平成二年一二月一〇日に(乙六号証)、同二見康記は同年一二月一〇日に(乙七号証)

同田谷野は同年一二月下旬までに(乙八号証)、同後藤浩二(内勤)は平成三年一月二五日に(乙一〇号証)、同工藤靖二は平成二年一二月三一日に(乙一一号証)、同樋口和宏は同年一〇月一八日に(乙一二号証)、同肥塚毅は平成三年一月三一日に(同一三号証)、同種市勝司は平成二年一二月一〇日に(乙一四号証)にそれぞれ上告会社を退職している。そして平成三年一月四日からバイクに便業を開始している。(乙一号証九項)。

以上を整理すれば、平成二年一一月一五日に退職した者一名、内勤者にボーナスを支給した日である同年一二月一〇日に退職した者四名、同日以降同年一二月末日までに退職した者四名、平成三年一月中に退職した者は二名である。

以上を見てみると、被上告人若生同樋口和宏を除く被上告人らの大部分は、退職の意思表示をした、しないにかかわらず、二〇日間以内に退職したのである。

これでは上告会社に打撃を与えるためはやばやと退職したとみられてもしかたがないであろう。しかも、被上告人らは、仲間同志で打合わせをしたことや、退職して会社を設立してバイク便業をすること、上告人の顧客を横取りすることの謀議を上告会社に内密にしておこうとお互いに申し合わせ、これに違反して被上告人らの情報を上告会社に告げた訴外藤岡啓一は裏切行為と見ななされ、上告会社を辞めなくてはならなくなった事実が認められる(甲二四号証)。被上告人らがそうまでしたのは、被上告人らが一せいに退職することで僅か数名の残存部隊を抱えるにすぎなくなる上告会社の機動力を麻痺させ、顧客の注文に直ちに応ぜられないようにし、自然に顔なじみの被上告人らに注文が行くように画策したと言われても仕方がないであろう。これがお互い同志の引き抜き行為でなくて何であろうか。裏切りを排し団結力を固めることが引き抜きではないのか。上告会社の倒産を少くとも認容していたのではないのかと言われても仕方がないであろう。

原判決は、被上告人らが上告人の顧客を奪うことになっても、被上告人らの生活の不安を考えれば許されるというが、生活の不安があれば、どんなことをしてもいいというのであろうか。上告会社代表者を悪者に仕立てれば、どんな違法な行為をしても許されるというのであろうか。被上告人らの行為により現に上告会社は多大な損害を受けていることは原判決も認めている。

原判決は、被上告人若生と上告会社との業務委託契約は準委任、ライダーと上告会社とのライダー契約は請負あるいは準委任、被上告人後藤光、同種市と上告会社との関係は雇傭契約だと言っている。

上告会社と被上告人との関係は準委任契約だとすれば、受任者は、委任者の為に不利なる時期に委任を解除したときは損害賠償義務があるし(民法六五一条二項六五六条)、委任終了の場合に於いて急迫の事情のあるときは受任者は委任者が委任事務を処理することが出来るまで必要なる処分をなす義務を負う(民法六五四条六五六条)。被上告人若生は勝手に平成二年一一月一五日から出社しなくなったのであるが、仮に原判決の言う如く「上告会社代表者に対し、同月一五日で委託された責任者の仕事を辞める旨を伝え」(第一審判決二九頁末行から三〇頁一行目)、「同日上告人との業務委託契約を終了させた」(原判決一一頁末行から一二頁一行目)としても、上告会社は危急存亡の時機にあったし、それを作り出したのは、同被上告人自身である。被上告人若生の行為は、民法六五一条二項、六五四条に違反することは明白である。ライダー(被上告人渡辺浩、同片野聡志、同張仁賢、同大野朋孝、同二見康記、同田谷野弘之、同工藤靖二、同肥後毅ら)について言えば、原判決の言う如く雇傭契約だとしても社会的に是認されないような不公正な方法で他人の営業上の得意先を奪ったわけであるから、不法行為を構成するし(昭和四四年六月三〇日東地判下級民集二〇巻五-六合併号四三八頁)、準委任契約だとすれば、被上告人若生について述べたと同様の責任、しかも被上告人若生との共同不法行為責任(民法六五一条二項六五四条六五六条)が生じる。

そして民法六二七条所定の二週間の予告期間をおかないで退職した内勤の被上告人後藤光、同種市勝司は同条に違反して退職したことは明らかである。

原判決は、右二名につき退職に至る経緯をみれば、突然退職しても違法ではないと述べているが、上告会社代表者から「明日からも出てくるのか、ボーナスが出たらそのまま雲隠れするんだろう」などと言われた程度で(乙二、一四号証)翌日から出社してなくても許されると言えるであろうか。それは単なる口実であって、ボーナスを貰ってすぐ退職することは予定の行動だったのである(甲乙一六号証一頁~五頁、一七頁~一九頁)。原判決には法律解釈を誤った違法もある。その他の被上告人平原浩一、同後藤浩二、同樋口和宏は被上告会社の取締役兼出資者であり、更に他の被上告人らとの共謀者として責任は免れない。

上告会社は原審における平成七年九月二〇日付準備書面一一頁において、仮にライダーであった者の地位が雇傭契約ではなく、請負その他の契約であったとしても責任を免れることはできない旨主張していたのであるから、被上告人らの地位が準委任、雇傭契約だとすれば、それに対する契約違反の責任について判断すべきである。被上告人若生についても、準委任契約違反による損害賠償責任につき判断すべきものであった。しかるに原判決は何ら判断を加えずに控訴を棄却した。この点は原判決に理由を付さなかった違法がある(判断遺脱)。そうでなくても、上告人に対し釈明権を行使して審理をすべき義務を怠ったものである。これは審理不尽、理由不備というべきである。

よって、原判決は破棄を免れないものである。

以上

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