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最高裁判所第二小法廷 平成8年(あ)963号 決定 1997年7月03日

本店所在地

那覇市西一丁目一六番地一

合資会社ゴールデン観光企画

右代表者無限責任社員

渡久山徹

本籍

那覇市西一丁目一六番地の一

住居

同西一丁目一六番一 とくやま産業ビル七〇四

会社役員

渡久山徹

昭和一三年一〇月九日生

本籍

那覇市繁多川二丁目四五八番地

住居

東京都江東区森下三丁目六番九号 トミヤコーポ五〇一号

会社役員

宇榮原宗一

昭和一一年一月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成八年八月二九日福岡高等裁判所那覇支部が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人合資会社ゴールデン観光企画及び被告人渡久山徹の弁護人佐藤義行外一名の上告趣意は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であり、被告人宇榮原宗一の弁護人鈴木宣幸外二名の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点は、法人税法一五九条一項にいう「偽りその他不正の行為」との文言が所論のようにあいまいであるということはできないから、所論は前提を欠き、その余は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 河合仲一 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)

平成八年(あ)第九六三号 法人税法違反被告上告事件

上告趣意書

被告人 合資会社ゴールデン観光企画

同 渡久山徹

右者らに対する法人税法違反被告事件についての上告の趣意は左記のとおりである

平成八年一一月六日

弁護人 佐藤義行

同 後藤正幸

最高裁判所第二小法廷 御中

第一点 原判決には、法令の解釈・適用を誤った結果の憲法三一条、同三九条(罪刑法定主義)違反があり破棄されなければならない。

一 原判決は、当該事業年度の所得に非ざる租税特別措置法(以下「措置法」という)第六三条による短期土地譲渡利益金額(以下「短期土地譲渡益」という)および措置法第六三条の二による超短期土地譲渡利益金額(以下「超短期土地譲渡益」という)を課税標準として、前者につき百分の二〇、後者につき百分の三〇の割合による税率を乗じて算出した税額の逋脱についても、その余の法人税法による法人税の逋脱と同様に被告人会社に対し法人税法一六四条一項、同法第一五九条、被告人渡久山徹に対し同法一五九条一項を各適用し、同法違反をもって処断した。しかし、短期土地譲渡益および超短期土地譲渡益を課税標準として右各法条所定の税率を乗じて算出した租税(以下両土地譲渡益課税を併せて「土地譲渡益重課税」ともいう)の逋脱税額については、罰則規定がなく、かつ右各法条による短期土地譲渡益に対する租税および超短期土地譲渡益に対する租税は各事業年度の所得の金額(法人税法二一条、同法二二条一項参照)に対する法人税とは全く異なり、事業年度を課税単位とする租税ではなく、かつ法人税法七四条一項二号の「前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税の額」にも該当しない。

即ち、法人税法七四条前段は「確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない」とし、同条一項二号は「前号に掲げる所得の金額につき前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税額」と規定しているが、これらの規定は明らかに措置法上の租税を含めておらず法人税法による法人税のみを指している。而して、法人税の逋脱犯を規定した法人税法一五九条は「偽りその他不正の行為により第七四条第一項第二号…に規定する法人税の額につき法人税を免れ…た場合」と規定しているから、措置法による土地譲渡益重課税は、法人税の逋脱犯を構成することはないのである。

しかるに、原判決が措置法六三条および同法六三条の二による土地譲渡益を課税標準とする租税の逋脱につき法人税法違反で処断したことは、罰刑法定主義を宣明する憲法三一条、三九条に違反する判決として、違憲、無効であって破棄を免れないのである。以下その詳細を述べる。

二1 措置法六三条による短期土地譲渡益金額を課税標準とし、これに同条一項所定の二〇%の税率を乗じて算出された金額を税額とする租税(以下「短期土地譲渡益重課税」ともいう)および同法六三条の二による超短期土地譲渡益を課税標準とし、これに同条一項所定の三〇%の税率を乗じて算出された金額を税額とする租税(以下「超短期土地譲渡益重課税」という)は本質的に法人税法にいう法人税あるいはその特別税率による法人税ではない。ちなみに右短期土地譲渡益重課税および超短期土地譲渡益重課税につき、最高裁は法人税という判示をせず「本来の法人税額に上乗せされる租税」と判示している(昭和六二年四月二一日第三小法定判決民集四一巻三号三二九頁)ところである。

2 法人税法に規定する法人税には、次の三種類があること今更言うまでもない。

(一) その一は、法人に対する所得税である各事業年度の所得に対する法人税であり、

(二) その二は、法人が解散し、清算によって生ずる利益に着目して課税する法人税、換言すれば解散によって最終的に実現した資本の剰余を課税標準として課する法人税(法人税法九三条)である。

(三) その三は、退職年金積立金に対する法人税(法人税法八三条ないし九一条)である。

3 右、その二およびその三の法人税が本件と無縁であることは詳論するまでもないので、以下その一の各事業年度の所得(金額)を課税物件(課税標準)とする法人税と土地譲渡益重課税の各課税要件を比較対象のうえ、後者が事業年度の所得を課税物件とする法人税とは別個・独立かつ異質の租税であり、この租税を各事業年度の法人税または清算所得に対する法人税の申告の際に加算して申告・納税するに過ぎない租税であることを明らかにしたい。

4(一) 法人税の課税標準は各事業年度の所得の金額である(法人税法二一条)。各事業年度の所得の金額をいかにして計算するかという、「各事業年度の所得の金額」の基本的な計算原理として、法人税法二二条一項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と規定している。この規定に続き同条二項には、いかなるものが所得金額の計算上益金の額に算入されるべきものであるかを規定し、同条三項には損金の額に算入すべきものについて規定している。この意味で法人税法二二条は、法人税の課税標準たる課税所得の定義規定の役割を果たしている。ここに課税所得の定義的な規定の役割を果たしているというのは、法人税法は直接に課税所得の定義をせず、益金、損金の例示を試みることによって、課税所得の意義ないし計算原理を少しでも明らかにしようとしないるものと認められるからである。すなわち、法人税法は、各事業年度の所得を課税所得として認識し、それを自明の前提とし、その実質的内容は、これを企業会計の理論ないし慣行に委ねているのである。なお、同条四項の「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と規定されている。

(二) また益金の額の帰属年度、即ち、ある収入を、どの事業年度の益金として計上すべきかについては、発生主義のうちいわゆる権利確定主義をとっていることについても、さしたる異論をみない。

(三) それでは、損金の額の事業年度帰属の原則はどのようになっているかというと、法人税法上損金の額の計上については、まず、いわゆる費用収益対応の原則が適用されるが、損金のうち、販売費、一般管理費その他の費(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額は、法人税法二二条三項二号により費用収益対応の原則は適用されず当該事業年度末までに債務の確定したものが損金となる期間対応の原則採用されている。

(四) 法人税法上の所得金額の確定方法ないし確定原理は何かということが法人税の課税標準額を確定する上で重要な要素となる。この点につき法人税法七四条は、法人税の申告は「確定した決算に基づき…記載した申告書」を提出しなければならない旨を規定し、株主総会等において承認を受けた決算、換言すれば、株主総会等の承認を受けた計算書類に示された企業利益を基準として所定の損益の修正をした申告書を提出して申告するものであるが、土地譲渡益重課税に係る利益金額は、計算書類に表示されるところは全くないことに注目しなければならない。

(五) これを要するに、法人税法は、各事業年度の法人税の課税標準の計算とその確定に係る原則として次の五つの根本原則を定めているが<イ>ないし<ニ>の四つの原則は、事業年度単位(期間計算原理)の計算原則を宣明していることになる。

<イ> 内国法人(法人税法-以下「法」という-二条三号)に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額である(法二一条)。

<ロ> 各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額である(法二二条一項)。

<ハ> 当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の当該事業年度の収益の額とする(法二二条二項)。

<ニ> 当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、<1>当該事業年度の収益に対応する売上原価等の原価の額(法二二条三項一号)と<2>当該事業年度終了までに債務の確定した当該事業年度の一般管理費等の費用および<3>資本等取引以外の当該事業年度の損失の額(法二二条三項三号)。

<ホ> 当該事業年度の益金の額および損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(いわゆる公正基準)に従って計算されるものとする(法二二条四項)。

なお右公正基準を要約したものが企業会計原則であるとの判例(東京地裁昭和五〇年八月二八日判決・税務訴訟資料八二号五八七頁、同地裁昭和五七年五月二〇日判決・税務訴訟資料一二三号四〇七頁)がある。しかして、企業会計原則第二損金計算書原則前段は「一会計期間に属するすべての収益とこれに対するすべての費用とを記載して経常利益を表示し、」として会計期間即ち事業年度単位の経常利益(所得金額)を計算し表示すべきものとしているから結局法人税法上の課税所得金額は事業年度ごとに算出されるべきものである。

5(一) ひるがえって、土地譲渡益重課税は、所得期間一〇年(短期)または二年(超短期)未満の土地の譲渡に係る当該土地の個別的純利益の概算額(租税特別措置法施行令三八条の四第六項)の合計額(事業年度単位)を課税標準として、期間的所得金額(法人税法にいう当該事業年度の所得金額)と別個独立に重課的・追加的に課する税であるから、当該事業年度において、法人税法所定の所得計算によって算出された当該事業年度の所得金額が欠損を生じた法人に対しても課せられるものである。従って、事業年度単位の法人税とは全く性格の異なる租税であると共に、当該法人の当該事業年度の担税力に応じて課税される法人税法上の法人税とは全く別異の租税であり、一種の行政罰的租税ではないかと考えられる程特異な租税であることも明らかである。このことは土地譲渡益重課税が土地の投機的取引を抑制するために設けられた政策税であることに由来するものである。

(二) そこで土地譲渡益重課税制度と土地譲渡利益金額の計算方式の大略(骨子)を短期土地譲渡利益金額に対する土地譲渡益重課税制度を中心に検討してみる。

(1) 土地譲渡益重課税は、租特法六三条一項により「当該法人…に対して課する各事業年度の所得に対する法人税…の額は、…法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二〇の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」と定めているところ、右にいう「当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額」はどのように算出されるかをみると次のようになる。

<1> 土地の譲渡等に係る収益金額(対価)から、その収益に係る譲渡原価の額および土地の譲渡等のために直接または間接に要した経費の額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額をいう(租特法六三条二項二号)。

<2> そこで右の「直接又は間接に要した経費の額」を定めた、租税特別措置法施行令三八条の四を次に検討してみることとする。同令同条第六項は、「直接又は間接に要した経費の額」につき、いわゆる概算計算方式によることを原則とし、この概算計算方式なるものは、次により計算することとされている(同令同条第六項)。

<イ> 支払利子分。各期末の帳簿価額の累計額の六パーセント

<ロ> 販売費および一般管理費分(以下「販管費分」という)。各期末の累計額の四パーセント

これを要するに、法人税法の基本原則たる事業年度単位の期間損益計算(法人税法二一条、二二条一項ないし四項)の原則とは全く異なる計算方式によって課税標準たる土地譲渡益金額の算出をする規定となっているのである。

6 措置法六三条一項(六三条の二も同旨)が「法人が次の行為(土地の譲渡等)をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額…は、法人税法第六六条一項から三項まで…その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二〇の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする」と規定しているから、土地譲渡益重課税もまた法人税であるというのであれば、右にいう「当該法人に対して課する…各事業年度の所得」に非ざることが明らかな土地譲渡益重課税は、<1>当該事業年度に利益金額は発生した(年度帰属はあった)が、その金額は、当該事業年度内に権利及び債務の確定した額をもって算出されたものではない。従って、当該土地の譲渡等がなされた事業年度に、本来の法人税と共に、これに上乗せして申告する租税ではあるが、法人税の基本的性格を全て欠落している。措置法六三条、六三条の二によって、法人税の額として法人税の申告・納付と共に申告・納付する租税に過ぎない。<2>してみると、土地譲渡益重課税は、土地の譲渡等をした法人が法人税の法定申告期限に、法人税に上乗せして「法人税の額」として申告納付するものであるから、「法人税」であるというのであれば、「本来の法人税は、法人が当該事業年度の所得金額及び法人税額を申告納付する租税である。土地譲渡益重課税も当該法人が法人税と共に申告納付する租税である。よって土地譲渡益重課税も法人税である。」という論法であり、措置法第六三条、六三条の二も、この論法で立法したことになる。果たしてそうだとすれば、「男は人である。女も人である。よって男は女である。」というに等しく明らかな誤りである。

ちなみに、法人税の上乗せ税率を規定した法人税法六七条の、いわゆる同族会社の留保金課税を定めた法人税法六七条は「内国法人である同族会社(カッコ書き省略)の各事業年度の留保金額が留保控除額をこえる場合には、その同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、前条又は第二項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、そのこえる部分の留保金額を次の各号に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に当該各号に掲げる割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする。」と規定し、同条二項は「当該事業年度の確定した決算」とし、同項一号ないし四号および三項一号も全て「当該事業年度」主義を採用していることは明らかである。

さすれば、同族会社の留保金に対する特別税率の計算の基礎となるもの及び課税標準は全て「当該事業年度」を単位とするものであるから、正に法人税法による特別税率により算出した“法人税”の上乗せであることに何らの疑義もない。

しかるに土地譲渡益重課税の課税標準の計算は前述のとおり、当該土地の取得の日の属する事業年度から当該土地の譲渡の日の属する事業年度までの当該土地に係る支払利子分および販管理費分も含めて、その累計額をもって計算することの一事をもってしても到底「当該事業年度の損金の額」や、「当該事業年度の所得の金額」とはいえず、法人税法上の法人税の特別税率でもなければ、当該事業年度の法人税の上乗せ税額でもなく、当該事業年度の法人税の申告に際し、当該事業年度の法人税と共に、或いは、当該事業年度の法人税と併せて課される「特殊の税」を法人税の名で申告・納付するものであるということに帰し、到底法人税法七四条一項二号に包含される法人税の額ではあり得ない。

7 更に保護法益は何かについて法人税と土地譲渡益重課税を対比してみると、法人税の逋脱犯が実質犯であり、その保護法益は、国の財産権であることについて異論・異説はない。しかるに土地譲渡益重課税の保護法益は、短期たると超短期たるとを問わず、両者共に地価高騰の抑制にあることもまた異論を見ない。よしんば、土地譲渡益重課税にも、いくばくかの財政収入確保の趣旨・目的があると仮定しても、それは副次的、二次的保護法益に過ぎない政策税であることに思いを至せば、土地譲渡益重課税を法人税法違反として処断するには、法人税法七四条一項二号(確定申告に係る法人税額)の中に「租税特別措置法に規定された法人税に係る税額の計算についての法人税法の特例を適用して計算した法人税の額」を含む旨の明文規定が措置法の中に規定されていなければならない。

8 即ち、法人税法一五九条一項の構成要件である同法七四条一項二号の法人税は、同法七四条一項一号の「当該事業年度の所得」を課税標準とするものであるから、土地取得の事業年度から譲渡に係る事業年度までの支払利子分や販管費分を含めて課税計算する土地譲渡益重課税の譲渡利益金額は、これには含まれない。

しかるに、原判決(六頁ないし七頁)は、「ところで、租税特別措置法六三条は、『法人が次の行為(土地の譲渡等)をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法六六条一項から三項までその他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。』と規定し、租税特別措置法六三条の二も内容は異なるもののほぼ同様の形式で規定している」と判示した(六頁)うえ、「右各規定や同法一条の文言から明らかなように、法人税に係る税額の計算について、法人税法六六条の特例を定めたものである。そして、租税特別措置法により、法人税に係る税額の計算について、法人税法の特例が設けられている場合には、法人税法七四条一項二号の『前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税の額』とは『租税特別措置法に規定された、法人税に係る税額の計算についての法人税法の特例を適用して計算した法人税の額』をいうものと解すべきであるから、土地譲渡益重課税の額は、法人税法一五九条一項にいう『七四条一項二号(確定申告に係る法人税額)に規定する法人税の額』に含まれるものであり、これに加算して本件逋脱額を算出し、これに法人税法一六四条一項、一五九条一項を適用して、被告人会社及び被告人渡久山を処断した原判決には所論のような違法はないというべきである」(七頁)というのである。右のとおり、原判決は、「法人税法七四条一項二号の「前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税額」とは、「租税特別措置法に規定された、法人税に係る税額の計算についての法人税法の特例を適用した法人税の額」をいうものと解すべきである。というのであるが、その根拠・理由を何一つ示してはいない。

そもそも租税特別措置法は、その規定が課税の減免をもたらすものであれ、課重、重課をもたらすものであれ、租税負担平等の原則を破るものであるから、当該規定が実体面たると手続面たるとを問わず、厳格に解することを要し、拡張解釈も縮小解釈も認められるものではない(東京地裁昭和四四年一二月九日判決・訟務月報一六巻三号二九二頁、神戸地裁同五九年一二月一二日判決・訟務月報三一巻七号一六九頁、横浜地裁同五二年八月三日判決・同判決上告審・最高裁第一小法廷同五五年六月五日判決・同五四年行(ツ)一二七号・税務訴訟資料一一三号五六三頁)。

しかるに、原判決は、何らの理由を示すことなしに、措置法六三条および六三条の二による租税の申告につき、「法人税法七四条一項二号の「前節(税額の計算)の規定を適用した法人税の額」とは「租税特別措置法に規定された、法人税に係る税額の計算についての法人税法の特例を適用した法人税の額」をいうのもと解すべきである」と判示したのは、明らかに納税者の不利益に租税特別措置法と法人税法七四条一項二号を拡張解釈し、ないしは、法人税法七四条一項二号に新たな規定を創設したに等しく、罪刑法定主義に反することは明々白々と言わねばならず、破棄せらるべきである。

しかして、土地譲渡益重課税の逋脱に係る独立の処罰規定もない。従って、この土地譲渡益重課税に係る租税を罰する規定はないことに帰し、これを法人税法違反をもって処断した原判決は、明らかに罪刑法定主義に反し、憲法三一条および三九条に違反し、破棄を免れないものである。

第二点 原判決には、法人税法第二二条第三項及び第四項の解釈に関する重要な誤りがあり、かつ、憲法第八四条が宣明する租税法律主義の違反があるから、破棄されるべきである。

一 被告人会社が、南陽産業株式会社(以下「南陽産業」という)または被告人宇榮原宗一(以下「被告人宇榮原」という)に支出した金員のうち、金三六二、二八六、〇〇〇円は被告人会社の平成元年一二月期の損金に、金一二七、五四〇、〇〇〇円は同平成二年一二月期の損金に、それぞれ算入されるべき金額である。したがって、これを右各期の損金算入しなかったことは、判決に影響を及ぼすべき法令解釈に関する重要な事項に誤りがあり、かつ租税法律主義を宣明する憲法第八四条に反するから、取消されなければならない。

二 原判決は、右各支出金を違法行為のための支出であることを理由に、損金に算入することを否定するのであるが、仮に違法行為のための支出であるとしても、その金額は法人税法第二二条第三項の損金となる支出である。

以下、その理由を述べる。

1 法人税法第二二条一項において「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と規定し、同条第三項において「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これに準ずる原価の額、二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)、三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」と規定している。

しかして、法人税法は、右規定の外損金について特に定義規定を設けていないので、損金の意義については、「一般に公ウ妥当と認められる会計処理の基準」(同条第四項)に委ねられることとなる。

即ち、現行法人税法は損金の範囲につき別段の定めがあるものを除き全て企業会計上の費用または損失を前提とし、適正な適正な会計慣行に委任することとしており(同法第二二条第三項、第四項)、所得税法における必要経費のように「必要性」及び業務関連性の要件を設けていない。

したがって、我が国の法人税法のもとにおける違法支出金については罰金、科料等法人税法三八条二項五号ないし七号を除き、損金不算入の別段の定めがないから、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(同法第二二条第四項)(以下「公正処理基準」という)に照らし、企業会計上費用性を有するものである限り、損金算入が認められる(中村利雄著・法人税の課税所得計算-その基本原理と税務調整改訂版一三一頁)。

2 また、法人税法三八条二項の五号ないし七号を含む損金不算入の特例(法人税法第二二条第三項にいう別段の定めにあたる)は、例示的列挙ではなく、制限(限定)列挙であることは、法人税法三八条二項六号が昭和四八年に、同項七号は昭和五二年にそれぞれ追加されている立法経緯に照らしても明らかである。

したがって、法人税法上の別段の定めがない以上、本件支出金は被告人会社の損金の額に算入されなければならず、これに反する解釈は、憲法八四条が規定する租税法律主義に違反することとなる。

3 これに対して、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことの対価として支出された金額を法人の所得の計算上損金の額に算入せしめることは、公正処理基準(法人税法第二二条第四項)に反するという立場がある(最判平成六年九月一六日判例時報一五一八号一四六頁)。

しかし、法人税法上の損金性の判断基準である公正処理基準は「税法規定の解釈というよりは、企業会計上の費用性の判断基準であるから、法的正義論または課税公平論等の税法的要求に影響されない中立的な『一般に公正妥当』な会計処理の基準である」(中村前掲書一三二頁)。

したがって、例え違法行為のための支出金であっても、それ故に損金性を認めないというのは、税法の解釈論としては理由がない。

4 また、違法行為のための支出金を損金として認めると、「その納税者に対しそれだけ税の負担を軽減させることになる反面、その軽減させた部分の負担を国に帰属せしめることとなるのであって、国においてこれを甘受しなければならない合理的な理由は全く認められない」(脱税を助長せしめることとなるとの見解もある(東京高等裁判所昭和六三年一一月二八日判決、判例時報一三〇九号一四八ページ)。

しかし、違法行為のための支出金であっても、それを受領した者(個人・法人を含む)は所得ないし益金(法人税法第二二条二項)として課税されるのであり、右「軽減させた部分の負担を国に帰属せしめることとなる」との批判は全く当たらない。

5 即ち、右見解は、社会正義に反する費用は、公正処理基準に照らして費用性はないというに過ぎず、それならば仮に強盗、窃盗、詐欺、横領、麻薬の販売等は、公正処理基準にしたがって課税しないこととなってしまうのである。したがって、右のような立場は、公正取引基準と公正処理基準とを混同するものに外ならず、もし脱税のための協力金であるからという理由で損金性を否定するのであれば、その旨の立法によらなければならないのである(武田昌輔「所得を秘匿するために要した費用を法人税の課税標準である所得の計算上損金の額に算入することの可否について」判例評論四四九号七〇頁)。

6 本件においても、被告人会社の支出金に対応する金額は、すべて南陽産業の受取手数料として課税されている(弁第五号証及び同第六号証)。

さらに、本件支出金を被告人会社の損金の額に算入しないというのでは、二重課税禁止の原則に反する。

即ち、税法は、同一の所得について二重課税を排除するために様々に規定を設けており(所得税法九二条、同九三条、法人税法六八条、六九条)、これらの規定は同一所得について二重に課税することは許されないという税法の根本原則の発露にほかならない。

しかして、本件の場合、被告人会社が南陽産業に対して支出した金員を、被告人会社の損金に算入しないということになれば、同一の金員をかたや被告人会社の土地譲渡利益として同社の益金として課税し、かたや南陽産業の受取手数料として同社の益金として課税することになり、結局双方に課税することになって、二重課税禁止の原則に違反することとなるのである。

三 以上の次第で、被告人会社が南陽産業または被告人宇榮原に支出した金員のうち、金三六二、二八六、〇〇〇円は被告人会社の平成元年一二月期の損金に、金一二七、五四〇、〇〇〇円は同平成二年一二月期の損金の額に、それぞれ算入されるべき金額であり、これを右各期の損金の額に算入しなかった原判決には、法令解釈を誤り、かつ憲法第八四条に反する違法があるのであるから、取消さなければならない。

以上

平成八年(あ)第九六三号

上告趣意書

被告人 宇榮原宗一

右の者に対する法人税法違反被告事件について、上告の趣意は左記のとおりである。

一九九六年一一月二日 右弁護人弁護士 金城睦

同 鈴木宣幸

同 神木篤

最高裁判所第二小法廷 御中

第一 法人税法一五九条の違憲性

原判決は法人税法一五九条の合憲性を前提として、被告人宇榮原を懲役一年六ヵ月に処した第一審判決を維持し、被告人宇榮原の控訴を棄却した。

これは原判決が法人税法一五九条「偽りその他不正の行為」と、はなはだ不明確である構成要件を「ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作をいう」と合憲限定解釈し、それを前提として被告人宇榮原の行為がこれに該当すると判断したものと解される。

しかしながら、このような解釈を一見許容する文言になっているこの条文は、条文自体が明確性を欠くものであり、特に明確性が要求される刑罰法規についてこのように構成要件が不明確であることは許されない。従って法人税法一五九条は憲法第三一条に基づく罪刑法定主義に反し違憲無効と言わざるをえないものである。

第二 原判決には被告人の違法性の認識の有無の点について判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

1 原判決は、被告人会社の不動産取引の際に自己の経営する会社を介在させたこと、転売先からの代金について外国人名義の銀行預金口座に入金させたこと、被告人渡久山から五億円余りを取得していること等を根拠として、被告人宇榮原に違法性の意識があったと認定している。

しかしながら、原審はこの点において事実認定を誤っており、実際のところ、被告人宇榮原は、本件に関与した当時、自らが取引に関与した形式をとることが、脱税にあたり違法なものであるとは意識しておらず、自己が形式上取引に関与した分については、そのまま正直に申告して納税すれば、結果的に全額納税することになるから、それは脱税にはあたらないと考えていたのである。

2 租税ほ脱犯に対する処罰根拠は、国庫に加えた金銭的損害の賠償を前提とした国家財政収入の確保のための担保、あるいは共同社会を維持するための費用を他人に転嫁するという反社会性に対する非難であると考えられるが、いずれも究極的には租税の支払を免れることを目的としている行為を対象としているものである。

ところが、被告人宇榮原は究極的に租税の支払を免れようとしていたものではなく、最終的に税金を支払おうとする意欲は持っていたものであるから、違法な行為ではないと考えていた。その意味では、本件は、法律の誤解に基づく、過失犯的な側面が強い事件である。

たしかに、被告人宇榮原の行為は、売買行為の仮装をした租税ほ脱行為であるが、そもそも、税法における行政処分の対象としての租税回避行為と、刑事犯の対象となる租税ほ脱行為の差異は前者が当事者の真意に基づかない仮装行為であるのに対して、後者は当事者の真意に基づく行為であり、私法上は適法有効である点にあり、この両者は事実を偽るか否かという点に違いがあるにすぎないのである。

法律家であれば、事実を偽り、虚構の法律行為をする点に違法性の大きな差異があるということは認識できるであろうが、法律の専門家でない被告人にとって、或いは一般人の認識としても、この実際の事実の有無が刑事処罰の有無という大きな違いを生ぜしめるとは思わないのが当然である。(被告人宇榮原は昭和六一年ころに弁護士を交えて、本件計画についての話し合いをしたものであるが、その際に法律の専門家である弁護士からは違法であるとの指摘を受けていない。これ故に被告人宇榮原は本件計画を実行したのである。法律の専門家である弁護士のお墨付きを得ている場合には法律の専門家でない一般人に対して違法性の意識を持つことを要求することはできない。)

被告人宇榮原は学歴としては中学卒業であり、しかもこれまで測量、工事現場の技術監督といった職業に主として従事してきたものであり、法律的な知識は決して精通しているとはいいがたい。被告人宇榮原のような素人が、自分が形式上取引に関与した分については、そのまま正直に申告して納税すれば、結果的に全額納税することになるから、それは脱税にはあたらないと考えてしまうことは、十分理解できることである。

また後述するように被告人宇榮原は犯行を中止しようとした際にも、違法であることをいっさい理由としていない。共犯者に対し共犯関係を離脱しようとする際には違法性の意識があれば違法であるということを理由にするはずである。

そして実際に被告人宇榮原は形式上自己が関与した部分については、包み隠さず、国税庁に対して、すべて正直に申告していたのである。これは後に自分が被告人宇榮原に約束した納税義務を果たすためであることは言うまでもない。以上のことからも明白であるが、被告人宇榮原には違法性の意識はなかったものであり、この点については原審は事実誤認の誤りを犯している。

2 本件のような工作が脱税にあたるということを被告人宇榮原が知ったのは国税当局に発覚して査察を受けた後の取調においてである。

査察の際に被告人宇榮原は「私が払うから、ゴールデンは関係ない。」と言ったように、この時まで被告人宇榮原は全く自己の行為の違法性を意識していなかったのである。

被告人宇榮原に今日、罪を免れようなどという意思は毛頭ないが、本件に関与する当時には、軽率に、いわば過失的に本件に関与してしまったものである。その軽率さは非難されても仕方がないが、どのような行為が脱税にあたるかということは、法律の素人がその判断を誤ることは十分理解できる。被告人が脱税という犯罪に関与している意識がなく、いわばその形態は過失的であるという事実は、その罪責を判断する場合に最大限考慮されなければならない。

3 原判決は被告人宇榮原が被告人渡久山から五億円を受け取っていることも宇榮原に違法性の意識があったことの根拠とし、違法性の意識を認定している。しかしながら宇榮原がこのように多額の金銭を受領していることは、宇榮原が違法性の意識を持っていたことの根拠とはならない。前述したように、被告人宇榮原自身には、自らがすべて納税すれば脱税にはあたらないと誤解していたのである。ただ被告人宇榮原は相被告人渡久山(以下、単に渡久山という)に代わって納税をする義務があると考えていたのであるから、この五億円は宇榮原が渡久山に代わって納税する税額の前払い的な性格を有するものである。そこでこの五億円を脱税に対する報酬と考えることは妥当ではなく、したがってこの五億円受領の事実をもって被告人宇榮原の違法性の意識を認定することはできない。

4 以上のことから考えても、被告人宇榮原には違法性の意識がなかったこと言わなければならない。原審は、被告人宇榮原の違法性の意識の不存在の事実を誤認しており、かつこの事実の誤認は、被告人渡久山の虚偽申告行為の準備行為に関与したにすぎないと評価できる被告人の罪責を判断する上ではこの点についての事実誤認は判決に重大な影響を及ぼすことは必定である。

第三 原判決は刑の量定が甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

一 原判決は「被告人宇榮原は、被告人会社の本件ほ脱行為の全てに関与したわけではなく、被告人渡久山の指示を受け、ダミー会社の代表者として行動するという従たる立場にあったことは否定できない」とは判示しているものの、「南陽産業等を被告人会社の不動産取引にダミーとして介在させるという方法による脱税額が本件脱税額の大半を占めている」という表面的な捉え方しかせず、被告人宇榮原が本件公訴事実に関与してしまった経緯について、十分な検討・考慮がなされておらず、その現実に関与した程度は、他の被告人(渡久山)と比べて極めて薄く、実質的な役割としては共同正犯というよりは幇助犯に極めて近いものであることを、十分考慮していない。

しかも法人税法のほ脱犯は納税義務者として身分を前提とする身分犯であり、本件脱税の直接の実行行為は、被告人渡久山がなした虚偽過少申告である。被告人宇榮原がなしたのは、虚偽過少申告行為の準備行為にすぎないと評価できるのである。

また、共同正犯として起訴されたものであっても、個々の被告人の罪責を考える上ではその被告人が犯罪に関与するに至った経緯、その被告人が実際にどのような役割を果たしているか、具体的犯行のなかでの被告人の役割、犯罪遂行に対する能動性の程度等を共同被告人間で比較し、犯罪の実現に対する因果性を検討することが不可欠である。

そこで、この点について被告人宇榮原と被告人渡久山で比較すると、

1 まず、本件犯行に関与するに至った経緯については、本件犯行は渡久山が被告人宇榮原を引き込んだものである。

原判決は「被告人渡久山は前記の脱税の巧妙な手口について被告人宇榮原から持ちかけられたものであるとはいえ、」と判示している。しかし、今回の脱税工作を実際に持ちかけたのは、被告人宇榮原ではなく、渡久山であることを見落としている。

確かに、昭和六一年二月ないし三月頃、被告人宇榮原は、渡久山から西三丁目物件の転売先を探していることを知り、その売買の仲介をしようとして、渡久山に対して、その気を引くために、一度は被告人宇榮原の関係する企業をダミーとして介在させる方法を申し出たことはあった。しかしながら、昭和六二年一月頃に至っても適当な買い主が見つからなかったため、被告人宇榮原、渡久山ともに、右計画を実行に移すことを断念し、この時点で完全に被告人宇榮原と渡久山との関係は完全に断絶したのである(検乙四二号証)。

一方、渡久山は、被告人宇榮原との関係が断絶した直後から、被告人宇榮原以外の第三者(有限会社健宝)が売買の中間に入ったように仮装しようとして、同社に対して、所有権移転請求権仮登記を設定するなどの工作を行っていた。

ところが、結局、有限会社健宝との関係も険悪化し、同社を利用した脱税工作が実行できなくなったため、渡久山は、再び被告人宇榮原を利用して、脱税工作をしようと考えて、わざわざ東京のホテルに滞在していた被告人宇榮原に対して、電話をかけて西三丁目物件の買い手が決まりそうであるから、売買の中間に入ってくれないか、と持ちかけたのであった。

このように、今回の計画を積極的に具体的に持ちかけたのは、渡久山の方であって、被告人宇榮原ではなく、その意味では、被告人宇榮原は、受動的に本件に関与するに至ったのである。(この経緯については、検察側も被告人宇榮原の主張が事実であることを冒頭陳述書においても認めている。)

従って原判決は被告人宇榮原が犯行に関与するに至った契機についての評価を誤っているものと言わざるをえない。

2 さらに、一連の偽装工作に対する両被告人の能動性の点について考えると、この点については被告人渡久山と被告人宇榮原には顕著な差異が見られる。

すなわち、被告人宇榮原は、自己が関与する取引は西三丁目物件を東京合商株式会社(株式会社パックスコーポレーション)のみであると考えていたのであり、それ以後の偽装工作については宇榮原は全く考えていなかった。ところが、その後、渡久山の方から、西三丁目物件の買い戻し・転売や、読谷物件や首里物件についても、一方的に次々と計画が持ちかけられ、それに対して、被告人宇榮原は(後述のように一旦断ろうとはしたが)断りきれず、渡久山の指示どおり、いわばロボットのように動かされてしまったものであるにすぎない(検乙四六号証)。

このように、両被告人の偽装工作実行に対する能動性の程度は全く異なっているものである。原判決はこの点について、被告人、渡久山、「不動産取引の話が舞い込んでくる都度、ダミー会社を利用することを進んで決断するなど、その実行面においては終始主体的、積極的に行動したものであり」と正しい認識を示してはいるが、被告人宇榮原の罪責の評価についてはいまだ不十分である。

被告人宇榮原の当初の意思とは異なり、渡久山の指示によってしかたなく西三丁目物件等の取引に関与させられてしまったことは、被告人宇榮原の関与の程度をより一層薄めるものであるから、被告人宇榮原に極めて有利な事情として十分評価されなければならない。

3 さらに、一連の具体的な偽装工作における両被告人の関与の程度について検討すると、各売買契約書の作成も、渡久山が売買価格及び売買代金の中間控除額などすべて契約相手方と決定した後で、単に契約書に署名押印する段階ではじめて被告人宇榮原を呼んで、いわば形式的に契約書に署名押印させたにすぎない(検乙四四号証)。被告人宇榮原は、各売買交渉、売買代金の決定及び売上控除額の具体的な決定等に関しては、一切関与していない。

そのうえ本件に関して利用した被告人宇榮原名義の口座や通帳などは、すべて渡久山が保管・管理していた。

琉球銀行本店の被告人宇榮原名義の口座は、渡久山の指示で被告人宇榮原が作ったものであるが、作成当日入金した八〇〇〇万円の金額は、渡久山ないし被告会社が決定して入金したものであり、その後の管理も渡久山ないし被告会社が行っていた。また、被告人宇榮原に無断で、被告会社側が南陽産業名義の口座を開設し、勝手に利用していたことすらある。さらには、本件で利用されたローマン・メトゥール名義の通帳も、その入金及び出金の管理は、すべて被告会社が行っていた。

各売買契約及び脱税工作に関して、金銭の管理という点からも、渡久山ないし被告会社側が主導権を握っていたものであり、被告人宇榮原の関与は一切ない。

4 以上のように、本件に関しては、犯罪に関与するに至った経緯、具体的犯行のなかでの役割、犯罪遂行に対する能動性の程度のいずれを検討しても、被告人宇榮原と渡久山の罪責には著しい差異があるのである。

これらの点について、原判決は十分に検討評価しておらず、極めて不当である。

二 また被告人宇榮原の有利な情状として、被告人宇榮原が共犯関係から離脱しようと試みた点(検乙四七号証)があるが、原判決はこの点について全く情状面でも考慮しておらず、極めて不当である。

1 被告人宇榮原は、当初は、西三丁目物件の東京台商への売買についてだけ、中間に介在するという意識しかなかった。ところが、その後西三丁目物件の買い戻しや読谷物件一の取引等、当初念頭においていなかった取引にも入れられるような話になってきたため、被告人は、あまりこのような工作に関与すると結果的に自分が負担しなければならない金額(被告人宇榮原が被告人会社にかわって納めなければならない税額)が膨大なものとなることが想定されることもあって、渡久山に対して、もうこれ以上本件工作に関与することはやめたい旨、申し出た。

しかし、この申し出も渡久山から無視され、いったん始めた以上、最後まで協力するように強く働きかけられたため、それまで資金的にも渡久山に世話になっているという義理から、断りきれずに、ずるずると、本件工作への協力を続けてしまったのである。

2 この経緯からみると、結果的には、本件工作への協力は続けてしまい、被告人が関与した取引による脱税額が本件脱税額の大半を占めていることになっているが、被告人宇榮原は、一度は、本件工作から真剣に離脱しようと試みたという事実は、被告人宇榮原に極めて有利な事情として考慮されなければならない。

3 ここで注意すべきことは、被告人宇榮原があくまで本件工作から離脱しようとした理由は、自分の負担しようとした税額を軽減しようとしたためであり、決して本件犯行を違法と考えて共犯関係から逃れるためではないことである。

一見するとこれは被告人の悪性を示すものと思われるが、しかしながらこの事実からも被告人が違法性の意識を持っていなかったことが伺われる。

もし犯行当時違法性を意識していたならば、被告人宇榮原が被告人渡久山に対して共犯者が共犯関係を離脱しようとする場合に、渡久山に対して違法行為をしているから抜けたいということがいちばん確実であるし、また共犯者が共犯関係を離脱しようとこころみたことがあるならば、自己の犯情を軽くするために検察官に対して、犯行を深く悔悟してしたため離脱を試みたと主張するはずである。

ところが被告人宇榮原は、離脱をしたいと被告人渡久山に述べたときにも、検察官に対してもこのような主張はしていない。

この点を見ても被告人宇榮原が本件犯行当時違法性の意識を持っていなかったことが伺われるのである。

四 本件は法人税法違反であるが、被告人宇榮原は最終的に納税義務を回避しようとしてはいなかった。

すなわち、被告人宇榮原は自己が現実に利益を得ていないものまでも国税庁に申告しており、これは被告人渡久山の利益についても自分の所得として申告して支払えばそれは脱税にはならないとの認識に基づいたものであり、かつ自分が渡久山の負担すべき税金まで支払う意思を持っていたことを示す何よりの証拠である。

宇榮原はこの納税の資金をパラオの開発による収益から賄おうとしていた。確かに現在もほ脱税について支払を済ませてはいないが、当時、宇榮原は渡久山に代わり納税をすることが可能であると考えていたのであり、また納税をしようとの意欲を持っていた。

本件行為当時はいわゆるバブル期の真っ最中であって、現在では想像もつかないほど巨額の資金が容易に集められる時期であった。結果的にバブルは崩壊し、パラオの計画は一時暗礁に乗り上げたが、この当時の被告人宇榮原の認識としてはこの計画の成功は間違いないものと思っており、必ずや法人税の支払いをしようと考えていた。それ故に巨額の私財をも投資していたのである。

原判決は「右事業の成功は極めて不確実であり、少なくともその成功には多年を要し、被告人宇榮原が被告人渡久山に対して約束した二年間のうちに本件ほ脱に係る法人税全額を納めることができないことは明らかであって、」と判示しているが、以下に述べるように、この事業の成功は極めて有望かつ現実的であって、被告人宇榮原は納税をする意思と意欲を持っていたのである。

五 被告人宇榮原が関与してきたパラオの都市開発の内容、経緯と現在の状況について述べるパラオの開発計画とは、簡単に言えばパラオに中華街を作り、香港返還の際に移住する資産家に対してパラオの市民権を売るというものであるが、この計画は極めて実現性の高いものである。

例えば、弁第一号証は、被告人宇榮原が描いた右開発計画を実行に移すために、戸田建設及び電通という超一流企業も参加して作成されたものである。

しかも現在でも、被告人宇榮原のもとには、パラオ開発事業についての種々の問い合わせや打診が絶えない状況にある。例えば、その一つとして、今年に入って、地中海にあるマルタ騎士団国のコウヤマ極東全権大臣が、直接被告人宇榮原を訪問し、パラオ開発計画に非常な興味を示し、パラオ開発計画を国としてそっくりそのまま引き継ぐことを含めて、被告人宇榮原に対して、パラオ開発計画の実現に協力したい旨の申い入れさえある)。このような状況からみて、被告人宇榮原がパラオへの往来が可能となれば、マルタ国やパラオ当局との協議を詰める等して、パラオ開発計画が一気に進展して早期に実現する可能性が高い。そうなれば、被告人宇榮原が当初に考えていたように、それによる利益によって、現在滞納している税金はすべて支払うことも可能となる。したがって、被告人宇榮原のパラオ開発計画の実現性に疑問を抱いて、被告人宇榮原の有利な情状として考慮していない原判決はこの点でも妥当でない。

六 被告人宇榮原は非常に真面目な企業人・市民であり、事業を通じて社会に貢献するという姿勢で、その半生を貫いてきた。

1 被告人宇榮原は、これまで建設業や不動産業など正業に従事しており、これまで一度も他人に迷惑をかけたり、違法行為に関与したことはない(検乙四〇号証)。

被告人がこれまで行ってきた事業は、那覇市小禄での宅地造成等、地域に貢献することが大きな目的となっていた。例えば、復帰前のことであり明確な証言と言えるものはないが、宇榮原小学校のために、道路用地を寄付したこともある。

このように、被告人のこれまでの事業の姿勢は、単に自己が儲けるためだけではなく、それを通じて、地域の発展に対して少しでも貢献をしたいというところにある。前述のパラオ開発事業に対する情熱もその現れである。

現在、北海道八雲町において、温泉を利用した水耕栽培の計画を立てているが、北海道において一年中作物を栽培できるようにして北海道経済に貢献することが、大きな目的となっている。

南陽産業の経理部長である福沢証人も、このような被告人の仕事ぶりについて、「仕事に男としての深い情熱をもち、また非常に人柄も良く、人に騙されても人を騙すような人ではない。知人が頼ってきたときには、自分で借金してまでもお金を作って貸してあげたりすることもある。」旨証言している。

このような情熱と暖かい心をもった被告人宇榮原であるからこそ、福沢証人ら従業員は、今後も一緒に仕事をしたいと、被告人宇榮原が事業に専念できる日を待ち望んでいるのである。

2 また、被告人宇榮原の妻が原審において証言しているように、家庭においても、四名の子供の父親として、尊敬されている。被告人が本件に関与して逮捕された後も、その尊敬は変わるところはない。これは、これまでの被告人の誠実な生きざまを子供達が認めているからに他ならない。

また、被告人宇榮原の四人の子供は、いずれもまだ未婚であり、未婚の四人の子を育てる責任のある父親としての家庭内の責務・役割も、被告人の処遇に際して、有利な情状の一つとして十分に考慮されなければならない。

3 また、被告人宇榮原は国頭村宜名真出身であるが、約三〇年前に、被告人宇榮原が中心となって、那覇において宜名真郷友会を組織し、当時被告人宇榮原は二〇歳代であったにもかかわらず、初代副会長を務め、それ以後、郷勇会活動に積極的に関わるなど、郷里の諸活動に対しても、大きな貢献をしてきた。宜名真郷友会の会員も、これまでの被告人の郷輿会あるいは郷里に対する貢献が大きかったことを評価し、今回の裁判を非常に気にかけてくれている。

4 このようにこれまでの被告人は、自分のことさえ良ければいい、自分さえ儲ければいいというような姿勢とは無関係で、あらゆる点で社会への貢献に務めようと努力してこの半生を送ってきた。

また、現在被告人宇榮原は、元総理大臣羽田牧も参加し、国庫から活動の援助も受けているアジア親善交流協会に参加し、日夜アジアの親善のために力を尽くしている。

このように被告人宇榮原が社会に対して行ってきた貢献は、被告人に非常に有利な事情であるから、最大限評価されなければならない。ところが、原判決は、この点について、何等の検討も評価もされておらず、極めて不当であると言わねばならない。

七 被告人宇榮原の性格は、極めて正直で誠実である。

被告人宇榮原の性格は、福沢証人や被告人の妻が証言するように、人から頼まれたらいやといえず、自分を犠牲にしても人を援助する人間であった。そのため、被告人のまっすぐで誠実な性格は、従業員をはじめ、他人から信頼されている。この誠実な性格は、本件への関与においても、決して主導的、悪質でなかったことの徴表ともなる。

原判決は、被告人宇榮原の正直で誠実な性格については、全く言及していないが、これは量刑を決定する意味でも重要な事情であるから、十分検討考慮されなければならない。

八 被告人宇榮原には前科は一つもなく、本件については十分反省しており、再犯の恐れは全くない。

1 被告人宇榮原にはこれまで前科は一つもなく、ごく普通の社会人として、犯罪とは無縁の生活を送ってきた。被告人宇榮原は、前述のように、本件に関与する際には、その知識の乏しさから、被告人会社が納めなくとも、その分を自分がかわりに税金を納めれば脱税にはあたらないと誤解し、安易かつ軽率に関与してしまった。

しかし、本件において、生まれて初めて逮捕勾留され、刑事裁判にかけられたことによって、被告人は自己の軽率さを十分反省している。今後は、現在北海道八雲町で計画している水耕栽培計画を推進したり、さらには、パラオ開発計画を再開する意欲を有している。

被告人はこれらの事業に打ち込み、成功を通じて社会に貢献し、そのことによって、本件で多方面に多大な迷惑をかけてしまったことの償いをする決意をしており、決して再度罪を犯すような恐れはない。

2 原判決の量刑について、被告人宇榮原には前科前歴はない旨判示しているもののこれまで被告人の真面目な生活歴について、十分な検討されているとはいえない。

これは、前科もあり、その他情状としても比較にならないほどの大きな差のある相被告人である渡久山が懲役二年六月であることと比較しても、懲役一年六月という判決は、被告人宇榮原に対しては、重すぎ、不当な量刑であることは明白である。

九 被告人には判決が課しているような実刑ではなく、社会内で立ち直らせて、これまで以上に社会に貢献させることこそが、被告人に対する処遇として適切である。

本件に関与したことによって、被告人宇榮原(南陽産業)が得た収入に対する所得税については、未だ金額の支払はなされていない。もし、被告人を実刑に処することになれば、南陽産業は倒産し、被告人宇榮原が計画している諸事業も挫折してしまうことは明白である。もしそのような事態になれば、南陽産業が納めなければならない税金も大半は、納付することができなくなることもまた必定である。

この点、渡久山であれば、長男等の後継者がおり、それらに事業を引き継ぐことは可能であるが、被告人宇榮原の場合は、これまでの事業はほとんどすべて自分一人で計画立案してきたもので、実質的に代わるべき者がいない。実刑判決によって被る打撃は、本件の中心的人物である渡久山よりも被告人宇榮原の方が、格段に大きい。このように、渡久山との比較からしても、被告人に対する実刑判決というものが、不当に重すぎることは一目瞭然であるといわざるをえない。

むしろ、その軽率さによって本件に関与してしまった被告人に対しては、今一度社会内においてチャンスを与えて、自己の事業に全力を尽くさせ、それによって、これまで以上に社会への貢献という形で、本件の償いをさせるとともに、未納付の税金を納めさせるようにすることこそが、前科もなくうかつに脱税事件に関与した被告人に対する処遇としては最も適切である。

実際にパラオの計画も徐々に軌道に乗りつつあり、資金調達の目処もついたため、そこから未納となっている南陽産業の法人税の支払いを今年の一一月中にする予定である。(おって証拠を提出する予定である)

一〇 これまで述べた事情から勘案すれば、被告人に対し、懲役一年六月の実刑判決を下した原判決の量刑は、明らかに重すぎると言うべきであるが、最近の同種脱税事件の裁判における判決と比較しても、原判決は重きに失するというべきである。

1 例えば、一九九五年七月三日に大阪地方裁判所第一二刑事部(裁判長田中正人)において下された判決(事件番号平成五年(わ)第三九〇九号)と比較すると、

右事件は、都市開発を計画する不動産会社の顧問税理士である被告人が、同社が地権者から計画予定地を購入した際、地権者らの税務申告を代行したが、その際、不動産会社社長らと共謀して(自ら発案して)、土地売却代金を大幅に減額したり、売買契約日付を遡らせた契約書を作成するなどして、七人の地権者の所得税合計約八億六八〇〇万円を脱税したという事件であるが、この税理士に対して、大阪地方裁判所は、懲役二年四月、執行猶予四年、罰金一〇〇〇万円の判決を下した(以下、「大阪判決」という)。大阪判決では、税務申告をした税理士であるため、罰金が附加されているものの、合計八億六八〇〇万円という額の脱税事件にもかかわらず、不動産会社社長に対して従属的立場にある等の理由から懲役刑については執行猶予の判決がなされている。

本件と大阪判決事件と比較した場合、脱税額についてはほとんど変わらない上、被告人宇榮原が渡久山らに対して従属的地位にあるという点では本件と大阪判決事件とは全く同様であり、しかも、大阪判決事件は、被告人自身が、虚偽の契約書を作成するとともに、脱税の中心的な行為である税務申告を代行したのに対し、本件被告人は、申告には全く関与せず、相被告人渡久山らが独断で行ったものである(そのため、本件では、被告人が関与しないものまで、相被告人らは脱税を行っている)。大阪判決事件は、税務専門家である税理士の脱税行為への加担であるのに対して、本件被告人は、税については全くの素人で専門家ではない。そのため、大阪判決事件では、被告人は、自己の行為については、明確に違法行為であると認識していたものであるのに対し、本件被告人については、税知識に誤解があり、違法性の意識についての度合に大きな差があった。

以上のように、大阪判決事件と本件事件との比較では、被告人の立場、税法知識の精通度合い、要求される税法遵守の程度、そして、脱税行為への関与の程度等、本件被告人は、大阪判決事件の場合よりも、いずれの点においても、悪質とは評価できないことは明白である。

そして、本件被告人よりも悪質と言わざるを得ない税理士の脱税行為に対し、大阪判決事件が、懲役刑について執行猶予の判決をしたことを考えれば、本件被告人を、懲役一年六月の実刑に処した原判決は、明らかに量刑不当と言うべきである。

2 本件事件では、被告人宇榮原に対する処遇と他の共犯者との間の処遇とのバランスという点でも、原判決は、被告人宇榮原に対し、重きに失すると言うべきである。例えば、東京地裁平成四年七月七日判決(判例時報一四六七号)では、総額三七億円余りの法人税法脱税事犯について、その代表取締役に対し、懲役三年六月の実刑を科すとともに、さらに経理課長として右法人脱税工作を実行するとともに、経理を任されていた関連会社の資金を着服した所得について所得税を脱税した者に対しても懲役一年六月の実刑と罰金を科した。

本件との比較では、右事件では、経理課長である被告人の量刑と比較すべきと言うことになるが、右事件では、被告人は、不動産取引に関する脱税の工作として、フローチャートを作成し、関係書類を整え、必要な経理処理をするなど、本件被告人とは比較にならないほど、自ら積極的に脱税工作に関与している。さらに、東京判決事件では、自らの所得税八三〇〇万円余りの脱税という被告人自身の脱税もあるのに対し、本件被告人には、自らの脱税行為という犯罪は全くない。

このように、その脱税額、被告人の脱税行為及び不正申告への関与の程度、自らの犯罪という諸点において、本件と比較すれば、右事件の方が、明らかに悪質と言わざるをえない。それにもかかわらず、本件被告人に対する原判決が、右事件と全く同じ懲役一年六月の実刑というのは、明らかに、原判決が量刑不当であることを示している。

さらに、ここで注意すべきことは、右事件は、脱税した会社の代表取締役の共同正犯として起訴され、実刑に処せられたのは、被告人会社の経理課長という経理事務の担当者であるという点である。

本件においては、被告人は、合資会社ゴールデン観光の代表社員である渡久山と被告人会社の経理事務に従事していた渡久山光宏と共謀して、脱税行為を行ったとして、起訴されているが、東京判決事件において起訴された経理課長と同じ立場に立つのは、被告人会社の経理事務に従事していた渡久山光宏である。

ところが、本件においては、被告人会社の経理事務を担当し、本件各公訴事実及びすべての脱税工作について、相被告人渡久山徹と密接に意思を通じていた渡久山光宏は、起訴猶予とされている。

それに対し、脱税の中心的行為である申告行為及びその前段階である被告人会社の経理処理については、なんら関与せず、個々の取引について、相被告人渡久山から誘われて関与したにすぎない被告人宇榮原に対して、懲役刑、しかも実刑で処断するというのは、明らかに共犯者間での処遇につき、バランスを失しているというべきである。

また平成二年三月二九日東京地方裁判所刑事第二五部判決(平成一年特わ第一九八〇号)では、本件と同様に仮装相対取引の相手会社の代表取締役に対し、執行猶予判決を言い渡しているが、右事件は本件と比較すると逋脱税額はほとんど同額であり、かつ本件の被告人宇榮原は消極的に関与したにすぎないのに対して、右事件における被告人は積極的に報酬を受けるために関与していることを考えてみても、本件に比べるとはるかに刑事責任が重いこの被告人に対して執行猶予判決を言い渡している。このことを見ても原判決の量刑不当は明白である。

一三 結語

以上に述べたところから明らかなように、被告人宇榮原に対して、控訴を棄却した原判決は、刑事訴訟法第四〇五条、第四一一条二項、三項の諸事由があるので原判決を破棄されるのである。

本件事件の真相をしっかり把握され、さらに量刑の本質的あり方に沿って被告人宇榮原に対し原判決破棄の上自判による執行猶予の判決をするか、原審差戻の判決をされるように強く望む次第である。

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