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最高裁判所第二小法廷 平成5年(行ツ)70号 判決 1993年9月10日

東京都練馬区土支田二丁目八番二三号

上告人

戸水辰男

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行ケ)第二一九号審決取消請求事件について、同裁判所が平成四年一〇月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(平成五年(行ツ)第七〇号 上告人 戸水辰男)

上告人の上告理由

1、本願考案は、平織りの未処理の麻布からなる眼鏡又は写真機のレンズ拭き布に関する。

これに対して原査定の拒絶理由に引用した実用新案公報(実公昭38-16881号公公報・昭和38年8月12日出願公告.以下「引用例」という.)には未処理の織布からなる眼鏡又は写真機のレンズ拭き布が記載されているこの引用例には麻布からなるレンズ拭き布はまったく記載がない.

本願考案の特徴は麻布をレンズ拭き布 として使用することである.本願考案のもっとも重要な特徴である点は引用例にはまったく記載がない。

東京高等裁判所の判決(以下原判決という)では「平織りの麻布は例えばハンカチとして汚れを拭き取る布としても使用されるものであることは、出願当時周知の事項であった.」と述べられている.

一般に周知とは当業者 でもが知っていることであるう。しかしながら.麻布からなるハンカチは当業者 しもが知るとこらではない.

被告は麻布はハンカチに使用されること.が周知であることを示すために乙第1号証~乙第3号証の百科辞典等を提出した.

しかし現在多くの便覧、百科辞典等が市販されている。これらには、多くの項目についての同じような記載がある。すなわち多くの出版社から多くの百科辞典等が発行されているが、これらの百科辞典にはだいたい同じことが記載されている。もし被告が主張するようにある事項が多くの文献に記載されているという事実をもって周知と判断するならば、各種の百科辞典等に同じようなことが記載されているので、百科辞典に記載されているすべての事項が周知であるということになる。

例えば、徳川時代の初代将軍が徳川家康であることは多くの百科辞典、歴史書及び歴史教科書に記載されており、かつほとんどの人が知っているので周知であろう。

しかしながら足利時代の四代将軍が足利義持(金閣寺を建造した足利義満の次の将軍)であることも多くの百科辞典、歴史書及び歴史教科書に記載されている。しかしこの事実はほとんどの人が知らないので、このことは周知とは言えないであろう。

このような歴史上のことが本願考案とまったく無関係であるが、数種の百科辞典に記載されている事実をもって、そのことが周知であるという被告の主張に反論するためにそのような歴史上の事実を持ち出したのである。

上述のごとくハンカチの材質として麻布が使用されている事実はほとんどの人は見たことも聞いたこともないであろう。したがって麻布のハンカチは到底周知であると言えない。

原判決では「繊維学会編「繊維便覧-加工編-」(甲第4号証)を挙げたのは、甲第4号証に当然に麻布からなるハンカチが記載されており、出願人はこの甲第4号証の内容をら知しているべきであるから、このような内容についてあらためて拒絶理由通知書を発送して意見を述べる機会や、これに関連して補正をする機会を与える必要がない」と判示されている。しかしながらハンカチは一般に木綿で構成されており、麻布から構成されているハンカチ等 しもが見たことも聞いたこともないであらう。まして「繊維便覧」は内容が莫大であり、この中に記載されている事項は公知であると言えるが、周知であるとは到底言えない。繊維便覧の内容すべてを熟知している者は日本中にほとんどいないであらう、出願人は繊維便覧の内容を当然知つているべきであったと、絶対に不可能なことを言っている.

一般に周知であるか否かは

審査する審査官、審判官の裁量に依るとこらが大きい.しかしながら数種の百科辞典に記載されているたけで周知事項として判断すべきでない。

原判決において「被告特許庁がなした無茶苫茶な判断を支持しているばかりか周知事項を通知して意見を述べる機会や補正をする機会を与える必要がない」としている。

これは無理が通れば道理も引 つこむという議論である、このようなやり方がまかり通るならば.出願したらその発明や考案が周知であるという理由でいきなり拒絶査定をできることになり、これでは実用新案法41条で準用する特許法159条2項及び50条の規定の存在意義がなくなってしまう。拒絶理由通知が発行されて補正することによってその拒絶理由通知を回避することは出願人がもっている一つの権利であり.このような権利を特許庁の審判官が奪うのはおかしい。

2、審決は、本願考案は、ビロード、絹等が眼鏡拭きとして使用されることを記載している引用例と審決のいう周知事項とから極めて容易にすることのできる考案であった、との理由で請求不成立としたのであるが、その際、実用新案登録出願人であり拒絶査定不服の審判の請求人である戸水総子又はその承継人である原告に、その請求不成立の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えることをしなかった。すなわち、審決が周知事項とすることの根拠とした「繊維便覧-加工編-」(甲第4号証)について原告が初めて知ったのは審決によってであり、原告は、この点について反論する機会も、通知された拒絶理由に応じてそれを回避するために明細書を補正する機会も審判の段階で全く与えられていない。これは、実用新案法41条で準用する特許法159条2項、50条に違反する。

また、審判の段階で拒絶理由が通知されていれば、原告は、これを回避するために明細書の補正ができたばずであり、そうなれば、仮に補正後の考案の登録が審決で拒絶されたとしても、それについて裁判を受けることができたはずである。ところが、この通知がなされず補正の機会が与えられなかったため、原告は、将来補正することができを考案について裁判を受ける機会を奪われた。これは、憲法32条に違反する。

3、いずれにしても 麻布をレンズ拭き布として使用するという本願考案の重要な特徴について拒絶理由通知書を発行せずにいきなり審決を書いたのは明らかに 被告特許庁のミスである、東京高裁はこのような被告特許庁のミスを追認した。裁判所が行政庁のミスを追認し続けるならば、永久的に行政庁がミスを続けることになる、裁判所が被告特許庁がしたミスを咎める判断を示すならばこのような特許庁のミスがなくなり、これは長い目で見れば特許庁の信頼が高まる結果となるものである。

もしこのような周知事項だと称して、拒絶理由通知書を発行せずにいきなりなした審決が最高裁判所で支持されることになれば今後このような審決が増加することが明かであり、これはしまいには諸外国から批判をあびることになるであらう.

裁判所の良識を期待するものである。

以上

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