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最高裁判所第二小法廷 平成4年(あ)201号 決定 1993年4月20日

本籍

名古屋市瑞穂区彌富ケ丘町二丁目二七番地

住居

同 瑞穂区内方町一丁目一一番地

会社員(元会社役員)

麦島善太郎

昭和一四年一二月六日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、平成四年一月二七日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人石原金三の上告趣意は、量刑事情に関する事実誤認、量刑不当の主張であり、被告人本人の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

平成四年(あ)第二〇一号

○ 上告趣意書

法人税法違反 被告人 麦島善太郎

右の者に対する頭書被告事件について、弁護人は左のとおり上告趣意を提出します。

平成四年四月一五日

右弁護人 石原金三

最高裁判所第二小法廷 御中

原判決は、刑事訴訟法第四一一条第二号「刑の量定が甚しく不当であること」及び同条第三号「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること」に各該当し、これを破棄しなければ著しく正義に反する。よって原判決を破棄し、さらに適正なご判決を仰ぐものである。

一、本件刑の量定の基礎となった第一審判決の「罪となるべき事実」は左のとおりである。

被告人株式会社ユニホー(以下「被告ユニホー」という。)は、名古屋市名東区一社一丁目八五番地に本店を置き、住宅の建築及び販売等の業務を営むもの、被告人株式会社麦島建設(以下「被告麦島建設」という。)は、名古屋市瑞穂区内方町一丁目一二番地に本店を置き、建設業を営むもの、被告人麦島善光(以下被告人善光という。)は被告ユニホーの代表取締役、被告麦島建設の取締役として、被告ユニホー及び被告麦島建設の各業務全般を統括していたもの、被告人麦島善太郎(以下「被告人善太郎」という。)は被告麦島建設の代表取締役として、その業務全般を統括していたものである。

第一 被告人善光は、被告ユニホーの業務に関し、法人税を免れようと企て、建設用仮設資材の仕入れを架空計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、

一 昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告ユニホーの実際の所得金額が四億四四八一万一九八一円であり、これに対する法人税額が一億七四六二万〇五〇〇円であるのに、昭和六二年二月二七日名古屋市千種区振甫町三丁目三二番地の三所在の千種税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九四四七万一六〇三円であり、これに対する法人税額が一億〇九五二万三三〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告ユニホーの右事業年度における正規の法人税額との差額六五〇九万七二〇〇円を免れ、

二 昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告ユニホーの実際の所得金額が六億五五二一万六一二七円、課税土地譲渡利益金額が三億一一七二万五〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三億二二〇六万八七〇〇円であるのに、昭和六三年二月二九日、前記千種税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五億七七一三万〇七〇八円、課税土地譲渡利益金額が一億七三八一万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二億六二二三万四九〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告ユニホーの右事業年度における正規の法人税額との差額五九八三万三八〇〇円を免れ、

第二 被告人善太郎及び被告善光は、共謀の上、被告麦島建設の業務に関し、法人税を免れようと企て、建設用仮設資材の仕入れを架空計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、

一 昭和六〇年七月一日から昭和六一年六月三〇日までの事業年度における被告麦島建設の実際の所得金額が六億九五九〇万二九五八円であり、これに対する法人税額が二億九四八一万三七〇〇円であるのに、昭和六一年九月一日、名古屋市瑞穂区字西藤塚一番地の四所在の昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億四五五七万八四三六円であり、これに対する法人税額(留保金課税分を除く。)が九九八二万五三〇〇円である旨の虚偽過少の法人確定申告書を提出し、被告麦島建設の右事業年度における正規の法人税額との差額一億九四九八万八四〇〇円を免れ、

二 昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までの事業年度における被告麦島建設の実際の所得金額が七億一五三七万八四九〇円であり、これに対する法人税額が二億九五三二万九八〇〇円であるのに、昭和六二年八月三一日、前記昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九〇五〇万七六一三円であり、これに対する法人税額(留保金課税分を除く。)が一億一六八八万九四〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告麦島建設の右事業年度における正規の法人税額との差額一億七八四四万〇四〇〇円を免れ、

三 昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度における被告麦島建設の実際の所得金額が六億二七七八万一七五四円であり、これに対する法人税額が二億五八〇三万五九〇〇円であるのに、昭和六三年八月三一日、前記昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九八〇四万三三九九円であり、これに対する法人税額(留保金課税分を除く。)が一億一九五四万九五〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告麦島建設の右事業年度における正規の法人税額との差額一億三八四八万六四〇〇円を免れ、

もって、いずれも不正の行為により、法人税を免れたものである。

二、右事実について、第一審名古屋地方裁判所は

株式会社ユニホーに対し罰金三〇〇〇万円

(求刑、 罰金三五〇〇万円)

株式会社麦島建設に対し罰金一億二〇〇〇万円

(求刑、 罰金一億五〇〇〇万円)

被告人麦島善光に対し懲役二年六月

(求刑、 懲役三年六月)

被告人(上告人)麦島善太郎に対し懲役二年

(求刑、 懲役三年)

の各有罪判決を言渡し、右二法人はそのままこれに服し、各罰金を納付した(原審における弁護人の事実取調請求書中、書証番号1、2の領収証書のとおり)。

被告人善光と被告人善太郎の両名は前記実刑判決を不服として控訴をした結果、原審名古屋高等裁判所は第一審判決を破棄し、

被告人善光に対し懲役二年

被告人善太郎に対し懲役一年六月

と第一審判決より六ケ月を各減軽した実刑判決を言渡した。被告人善光はこの原審判決に服罪すべきものとして上告することなく、すでに平成四年二月一七日収監を受け現に服役し贖罪中である。

しかしながら、原判決が被告人善太郎に対して、刑執行猶予の言渡しをしないで依然として実刑処分を維持したのは、以下の犯情等に照らし本件ほ脱事件に関する処罰として、刑の量定甚しく重きに失し不当であるため、被告人善太郎はさらに本件上告に及んだ次第である。

三、事実誤認について

本件は前記一、罪となるべき事実記載のとおり、株式会社ユニホーと株式会社麦島建設に関するほ脱事件であるが、両社はいわゆる麦島グループとして、行為者となった被告人善光はユニホーの代表取締役並びに麦島建設の取締役会長の立場から、両社の業務全般を実体的に統括主宰していたことは、公訴事実記載のとおりである。

これに対して、被告人(上告人)善太郎は、ユニホーの取締役であり、また麦島建設の代表取締役の立場にあったが、ユニホーには関与なく、麦島建設についてのみその業務全般の統括者として起訴されるに至った。

被告人善太郎は第一審以来右公訴事実を否認することなくこれを認めたが、とくに第一審では麦島建設における善光と被告人善太郎との役割分担は、善光が三割、善太郎が七割程度との主張(被告人善太郎の第一審の法廷供述)をした。このことは被告人善太郎の自己犠牲の下に麦島グループの創設者であり、総帥である実兄善光の寛刑を希う余りの真情に発したものとはいえ、全く事実に反する。そのため原審において、善光及び被告人善太郎はその供述を変更し、(両名の原審公判廷の各供述)善光は自分が麦島建設の実権を握っていたこと及び同社のほ脱により留保できた資産のほとんどを自ら保管、運用してきたことを認め、深く悔悟した態度を表明したのであり、被告人善太郎も「今回の行為にしても私が麦島建設の社長としてもう少ししっかりしていれば起きなかったものと深く反省いたします。兄(善光)についつい引きずられ、早くやめようと、私がとめればよかったのですが、逆に協力してしまったのが間違いのもとであった。」との上申書の記載を再確認したのである。麦島グループの業務運営の実態については、第一審証人村上政義の(査察担当者)麦島建設の脱税の主導権を握っていたのは善光であるとした上、その理由につき、

「彼(善光)は常に全体的な、グループ法人四社ほどあったと思いましたが、全体を常に考えておりましたし、また今回問題になっております仮設仕入については、(善光の)手帳等ですべて管理しておりました。」「小沢仮設資材課長に脱税方法の細かい点を直接指示したのは善光です。」「麦島建設分の偽装工作を善光がやったのは、すべてを管理監督しておったからだと思います。」

等の証言により明白であるが、さらに麦島建設内部における社員の認識も同社社員小沢春海の検察官に対する供述調書(平成元年一二月一一日付)中、

「ユニホーはもちろんのこと、麦島建設も善光会長が絶対的な権限を持っており、まさにワンマン経営そのものでした。

善光会長が

これでやるんだ。

と言えば、常にその方向で決定していきます。善太郎社長は、実際には善光会長の言いなりであり、その点は私から見ると気の毒な位です。」

との記載にみられるように、単的かつ明快に善光と被告人善太郎との関係は主と従であったことを示しているところである。

善光は文字通り麦島グループの総帥で、麦島建設の脱税についても、同人の強い指示、意向によって総括されていたものであり、被告人善太郎は善光の意に反することは一切できず、よって麦島建設の脱税の責任の大半は善光に帰すべきが当然であり、それが事実に適合するのである。

原判決及び第一審判決はこの点、代表取締役であった故に被告人善太郎を麦島建設の業務全般の統括者として、漫然善光と被告人善太郎とを「業務全般の統括者」として併列の立場におく認定をしているもので、被告人善太郎が、善光の補助者に過ぎなかった事実を看過し、よって量刑の基礎となる重要な事実の誤認をしているもので、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

四、刑の量定の不当について

(1) すでに確定し、服役中の善光に対する懲役二年の実刑も、原判決及び第一審判決で認定された同人に有利な諸情状を考慮すると、厳しい重刑の感を免れないが、善光が前記三、記載のとおりユニホー及び麦島建設のワンマン的総帥の立場から、本件脱税を企画、指示し、それが合計約六億三、七〇〇万円にのぼった事実に照らすと、善光に対しては最高責任者として実刑判決もまたやむなしとする理由は、首肯できないではない(もっとも、右金額程度の多額脱税でも必ず実刑を免れぬというものでもないことは、原審で証拠調済みの寿和工業株式会社外一名に対する名古屋地方裁判所判決書写で立証のとおりであり、この件のほ脱額合計五億一、七〇〇万円に対し、行為者韓鳳道は刑執行猶予処分となっている)。

しかしながら、右善光の刑に比しても、被告人善太郎に対する懲役一年六月の実刑判決は、事案が麦島建設に関してのみであるから、これはほ脱金額の計数的な面から機械的併列的に算定されたに過ぎないものである。そうであるから、ワンマン善光の指示の下に引きずられ補助的に協力した結果の被告人善太郎の立場、情状並に責任は、全く斟酌されていないものと言うべく、両者のみの比較でも著しく均衡を失した重刑と断せざるを得ない。さらに右韓鳳道に比べてみれば、一件記録上明らかなとおりの有利な情状が少なくない被告人善太郎がより重い実刑判決で処罰される理由は到底見出し得ず、被告人善太郎に対する実刑判決はもとより、その刑期において著しく重く苛酷に失するものと断定できるのである。

(2) 次に被告人善太郎の刑の量定に関して、原審において弁護人が控訴趣意書三、において主張した同種ほ脱事件の先例と比較検討してみる。まず、それら先例は検察官が第一審において提出し、証拠調べをされたものであることを注目すべきであるが、原審においてはそれら先例と本件との量刑に顕著な不均衡、不平等が指摘されたにかかわらず、その結果に一言も触れず全く考慮することなく、ただ本件犯行のほ脱額が巨額であること、平均ほ脱率が麦島建設の場合約六〇パーセントに達していること、態様が計画的で虚偽記帳など作為的、積極的であること等を挙げ、他の有利な情状を考慮しても「被告人両名に執行猶予を付することは考えられない。」と簡単に片付けているが、これを何度読み返してみても、被告人善太郎に何故に刑執行猶予を与えず、実刑判決にしなければならなかったかの理由を理解することができない。

すなわち原判決の刑の量定は専ら恣意的であり、独断の誹を免れず、到底首肯できない。

検察官の前記各判決書によれば、

<1> 吉村武雄事件

この件は、二法人でほ脱額八億七九〇万円余にのぼるが、求刑が懲役二年六月で、一審判決は懲役一年四月。しかも第二審ではさらに軽減され「懲役一年」である。しかもそのほ脱率は、一法人約八六パーセント、一法人約九六パーセントと高く、留保資産も奢侈のため使用されているのが実情である(特に控訴審判決書)から、本件麦島建設のほ脱事件より格段に大きく悪質であるのに、その刑も本件に較べれば甚だしく軽く、これほど大きな差異が生じてよいものであろうか。

<2> 瀬川重雄外一名事件

この件は、特殊公衆浴場経営を主とする八法人にかかる案件で、これを実質経営するオーナー瀬川と同人を補佐するため八社の経理全般を統括していた石飛洸が共謀の行為者とせられたところ、合計は脱額五億五八〇〇万円余(本件とほぼ同等)であるが、ほ脱率は平均約九七パーセント(中には一〇〇パーセントもある)と甚だ悪質事案と言えるが、オーナー瀬川に対する求刑が懲役三年、一審判決は懲役二年となり、石飛については求刑わずか懲役一年、一審判決はそれに三年間の刑執行猶予が付されている。判決は瀬川に対しては、「当初から税金を正当に収める気持ちは全くなく、……中略……多額の金員を家族や愛人の生活費、飲食遊興費その他個人的使途に費消した」と厳しく非難されている(瀬川につき控訴棄却)。

本件で瀬川を補佐した石飛の立場は、善光を補佐した被告人善太郎の立場と類似的であるから、参考事案として妥当なものと考えられるが、石飛は第一審ですでに刑執行猶予となっている。

<3> 金泰守外一名事件

この件は、パチンコ店を経営する法人の代表者と、その専務取締役にかかる事件であるが、法人税ほ脱額、三億二〇〇〇万円余、ほ脱率八一・五パーセントのほかに、個人所得についても金泰守は所得税七億四八五二万円を各ほ脱したまさに巨額悪質な事案といえるが、その求刑は金泰守につき懲役二年六月罰金一億円、金泰奉につき懲役二年六月罰金二億円と著しく低いもので、本件被告人善太郎らに対する求刑がいかに重く異常であったかが考えられる。判決は懲役刑のみ見ると両名とも懲役一年六月と軽減されている。

<4> 山本清事件

この件は、不動産の売買・仲介を業とする法人の事案で、四期にわたるほ脱額二億二二七八万円余と比較的少ないといえるが、ほ脱率は、四期平均で八八・六八パーセントと極めて高い。求刑懲役二年六月、一審判決一年六月の実刑であるが、求刑が比較的重いのは、新潟県郡部という地域性からみてほ脱額の大きい事件と見られたと思料されることと、山本清が多岐にわたる主張をし、特に昭和五六年から五八年度を対象として、既に一度国税局の査察を受けた後も、従来よりある程度多く申告さえしておけば二度と続けて査察調査を受けることはないであろうと甚だ不遜な考えから、従前と同様の手段方法により脱税工作を継続した点で反省がなく、特に悪質と非難されているもので(控訴関係は不明)あり、前歴の全くない本件とは事情の差異が大きい。

<5> 福本修也事件

この件は、調理器具の卸販売等並びに小売販売等の二法人によるほ脱額合計は三億三六〇〇万円余、そのほ脱率は通算で九九パーセントを超える高率なものであった。求刑懲役二年六月、一審判決は一年六月と軽減された(控訴は棄却)。

福本は税務調査を免れるため帳簿も備えず、また本店所在地を転々するなど犯情悪く、また顧問税理士が積極的に脱税を従慂等指導したものと責任転嫁を図っている点で特異な事例と思料されるのであり、特に堅実な会社経営を目標として、応分の納税を果たしてきた麦島建設とは、会社基盤が異なっている。

<6> 小林謙二事件

この件は、特殊公衆浴場を経営する二法人によるほ脱額一億七九四七万円余、ほ脱率平均八四・七五パーセントのほか、小林個人経営にかかる同種浴場の二店の所得を免れようとし、昭和五六年分一年でほ脱額五九九〇万円、ほ脱率八四パーセント。小林に対する求刑は懲役一年六月及び罰金二〇〇〇万円、判決は懲役刑について一年二月とされた。小林のほ脱額は比較的多くないが、詐欺罪により懲役刑(猶予付)に処せられた前科があるほか、暴力団関係者と交際し、高級クラブ、競馬等の遊興資金、家族の海外旅行費用等の専ら私的欲求を満たす動機の脱税であり、内容虚偽の申告書を提供して捜査の妨害工作をした等及びなお業界から脱退しない等悪質と認められた(控訴関係は不明)。

事業内容その他情状悪質により実刑相当とは思料されるが、求刑、判決とも重くない。

<7> 仁木恭男事件

この件は、健康機械器具等販売を業とする法人であるが、代表者仁木は東京都新宿の地上げに関与し、無免許で不動産の売買をし、ほ脱額四億四八二〇万円余、ほ脱率七二パーセント。仁木に対する求刑は懲役二年、判決は一年六月であるが、仁木は宅地建物取引業法違反も併せて起訴されている上に、過去に私文書偽造、同行使、詐欺、業務上横領の罪により懲役刑(猶予付)に処せられた前科があり、ほ脱の態様が大胆・悪質、かつ虚偽の更正請求をするなど、法無視の態度が顕著で、さらに判決に至るまでも当該年度の法人税を二〇〇〇万円余しか納付していないことを総合し刑責は重いとされた。

本件は、ほ脱内容、事業形態、前科等で、麦島建設とは比較にならぬ悪質事犯と思料されるが、それにしても求刑はわずか懲役二年に過ぎず、被告人善太郎よりはるかに軽いものであることを無視し得ない。

<8> 加藤年男事件

この件は、不動産売買、仲介業務等を業とする法人で、三事業年度でほ脱額九億二三一四万円余、ほ脱率八八・八三パーセントにのぼる大型事件で、併せて宅地建物取引業法違反も起訴されている。

加藤に対する求刑は懲役四年であったが、判決は二年六月となっている(控訴人善光と同じである)。

しかも加藤は、既に法人税法違反により、昭和五七年五月一八日東京地方裁判所で懲役一年、三年間執行猶予の判決(法人は罰金一三〇〇万円)を受けながら、何ら自省することなく、実兄弟等から架空領収書を徴する方法等により大型脱税をしたもので、さらに証拠隠滅工作をするなど、「その刑責は非常に重い」とされているにもかかわらず、初犯である本件と較べてみれば、なお甚だ寛大なものであり、本件被告人善太郎の刑がいかにも重いことが指摘できる。

<9> 寺西直美事件

この件は、名古屋市で不動産売買仲介業を営み、昭和六一年八月一日から六二年七月三一日までの事業年度において、ほ脱額六億八一五一万円余、ほ脱率八一・一パーセントの脱税をしたもの。求刑は懲役三年六月、判決は一年八月と軽減の上実刑となった。

寺西は、脱税を計画した夫が直腸癌に冒された後、その情を打ち明けられ、蓄財のため自ら主体的に遂行するに至ったものであるが、判決当時においても本税のほか付帯税につき多額の未納付分が残っていたことに、特異な犯情が存する(控訴関係は不明)。

以上、実刑事案については、ほ脱額が多額で、ほ脱率が高いことが認められるが、情状として過去に前科や、または査察調査を受けた前歴があること、所得税法違反その他の法令違反事実があること、ほ脱利益が奢侈遊興等に使用されていること、ほ脱にかかる本税、付加税が納付されていないこと、業務が社会有益性に乏しいこと等、だれが見ても悪質と言える事情の存在が認められる。しかしその場合においても、実刑の刑期については慎重に判断され、とくに刑期は求刑よりも可成り大幅に軽減され短期であることが看取できるのである。

これら事例と本件とを対比してみると、本件ではほ脱額は可成り多額というべきものの、以上個別に指摘したような特異な悪質性は全く存在せず、明らかに情状は軽いものである。また刑期の点においても例えば、被告人ら二名の刑を合算するまでもなく極めて悪質な前記<8>と同等であり、<1>、<2>、<3>、<9>の事件よりも甚だ長期であって、明らかな量刑上の不均衡不平等を示しており、畢竟原判決の実刑及びその刑期は著しく重く到底首肯し難いことが明らかである。

(3) 本件ユニホー及び麦島建設が、そのグループの創設者であり、総帥である麦島善光の企画と実行力とをもって、営々築き上げられて今日に至り、地域社会に相応の貢献を果たしてきたことは、第一審判決も認めているところである。

被告人善太郎は、善光の実弟として大学卒業と同時に、善光の建設業に入り補助をなし、後に麦島建設の代表取締役の地位を与えられ、同社の一般的業務を統括する立場にいたが、グループ内では、既述のように善光のワンマン的指導の下にあり、あくまで従属的立場にあったことは一件記録上明らかである。

しかし、すでに右善光は本件の責任を負い服役中であり、この上に被告人善太郎が実刑に服し、相当期間不在するとなる場合、麦島グループの将来は引き続き社会に寄与することができるどころか、その存立さえきわめて危いものと憂慮せざるを得ない。被告人善太郎には、善光服役中その代理として麦島グループの維持に努めさせることは、社会的に有用であり、必要である。仮に一罰百戒の目的で対応する必要があるとしても、グループ総帥の善光に対して懲役二年の実刑判決が確定していることでその目的は十分に達せられたのであり、さらに被告人善太郎まで実刑に処することは明らかに刑事政策の目的を逸脱するものと強調しなければならない。

近時ほ脱事件につき実刑が言い渡される事例の増加傾向が指摘され、それが脱税防止の効果につながることが期待される反面、「重罰の面だけ強調されることは好ましくない」との意見が強いことも否定できない。本件で被告人善太郎まで実刑とし、麦島グループを事実上圧殺してしまうことになるのは、まさに「角を矯めて牛を殺す」の譬えのように重刑の行き過ぎであり、著しく正義に反することとなる所以である。

(4) さらに近時、次ぎ次ぎに報道される大型、悪質脱税事件の発生に伴い、この種事件の刑の量定については再考慮されなければならぬ。

<1> 稲村利幸元代議士にかかる所得税法違反の第一審判決は、約一七億円のほ脱に対し懲役三年四月。ただし求刑は本件善光の懲役三年六月と同じであり、罰金五億円は免除されている。(ただし控訴中。)

<2> 竹井博友地産元相談役は約三四億円の所得税法違反で起訴、裁判中である。

<3> ケン・インターナショナル社長水野健は約五七億円の法人税法違反で起訴、裁判中である。

<4> また有名な大企業某コンツエルンは赤字法人として全く課税されていないと週刊誌で大きく報道されている。

右はいずれも社会の耳目を衝動した大事件で、判決結果が大いに注目されるところである。本件善光及び被告人善太郎のケースは前(2)で比較検討したとおり、ほ脱額は少ないとはいえないものの、特異悪質な情状のない普通の事犯であるから、最高責任者の善光については別として、同人に従った被告人善太郎の懲役一年六月の実刑は、どの面よりみても重く均衡を失していることは明白といえる。被告人善太郎は、原審における法廷での供述及び上申書記載のとおり社会人としては善良な一市民として信頼を得ていたものであり、本件について深く悔悟反省し、今後は麦島建設の仕事に全力を尽すことを通じて社会に贖罪することを誓っているのである。参考までに被告人善太郎の上申書を本書末尾に添付する。

以上

上申書

平成四年四月十五日

被告人 麦島善太郎

最高裁判所第二小法廷 御中

私に対する法人税法違反事件に関し、第二審の判決後の私の心情を上申させていただきますので、何卒よろしくご理解賜りますようお願い申し上げます。

一、第二審の判決によって、私は二年の刑を一年六月に、兄は二年六月の刑を二年に夫々、減刑する旨の宣告を受けました。控訴について、冷静なるご判断とご理解を賜りましたことを、心より感謝申し上げます。

兄は、この判決に従い、今刑に服しております。先日名古屋拘置所へ面会に行って、兄の顔をみて話をしているうちに、つい不覚にも涙を落としてしまいました。

「自分の非を素直に認めて、今一生懸命真面目につとめている。自分の健康については、心配はいらない。ここをでられたら、また今迄続けてきた姉弟会をやろう」と言って看守と共に扉の奥へ消えていきました。

私は、自分達の犯した罪の重大さを、改めて自覚すると同時に、悔悟の念にかられ、生きている限り二度と再び同じ過ちを繰り返すまいと、心に誓って、拘置所の門を出ました。

その足で私は、兄の妻と一緒に暮らしている九十一才になる年老いた母に会いにいきました。

今回の事件については、母にはいっさい知らせてありません。そうすることが、早逝した父のあとを女手一つで我々兄弟を、必死に育ててくれた母への悲しい恩返しだと思うからです。

母はすでに半ば老人性痴呆になってしまっていることが、かえって幸であると思っております。

私は、決心しておりました。兄弟二人居なくなったと気づいた時の母の様子を想像していたからです。最後にもう一度上級審でのご判断をしていただこうと。

二、このたびの件につきましては、私は最初から、すべての事実を認めております。国税局での取り調べに対しては、ありのまま素直に事実をお話し申し上げました。当時ご担当いただいた国税調査官にお聞きいただければ、わかってもらえる筈です。

全く思いもよらぬ逮捕を受けて、拘置所での検事さんの取り調べに対しては、最初は反抗的でした。今考えてみましても、二十三日間の拘留中、取り調べは、たったの二~三回。それも時間にして、延べで数時間であったからです。

事実を否認しているのでもなんでもなく、国税局での上申書に書かされた「工事の前倒しは、脱税をカムフラージュするための手段に使った」という誤認を解きたい一心で申し上げたことが、検事さんの心象を害したものと思われます。前倒しをそのような意図で行ったことは、断じてないことだけは、今もって信じていただきたいのです。

この逮捕が報道されたことによる、会社のダメージや、私個人及び家族等の苦痛は、測りしれませんでした。しかしこれも自分の行為がすべての原因でありますから、人を恨んだり、免や角を言う気持は、今は毛頭ありません。

検事さんの取り調べには、ありのままを申し上げております。たしかに、ほ脱という行為の動機が、二度と倒産というみじめな出来事を避けるためであったことは、検事さんから指摘されたとうり経営者として、全く間違ったものであったことは、深く々々反省をいたしております。

また、ほ脱したものを、私利私欲のためや、奢侈遊興のため、あるいは暴力団や、ダーティーな面に使ってはいないということも、明言出来ますが、結果として、国家戝政に損害を与えたことには間違いなく、このような違法行為をしでかした自分が悔やまれてなりません。将来このようなことは、決してしないことを、改めてお誓いいたします。

三、今、私は、今迄の経験をもとにして、会社の営業活動に専念をしております。

この事件による信用失堕への挽回と、会社と社員に与えた損害や迷惑を少しでも穴埋めしようと、必死に仕事の受注にかけずりまわっています。私の犯した過ちは、二度と再び当社には起り得ません。このたびのこの恐ろしい体験は、新しく改革された組織と制度のもとで、新役員の運営に、はっきりとその効果を植えつけてくれたからです。

私はもう、このような事態は、二度と経験したくありません。ただ私が今、一番恐れているのは、バブルの崩壊にはじまった、空おそろしいほどの経済不況です。仕事の受注難は勿論のこと、受注先の倒産や、金融、証券の不詳事から発するところの資金不足による不良債権や、回収不能金が出るというケースが、あちこちで発生してきたことです。

当社に対する銀行の融資については、私が個人保証をしている関係で、資金繰りが、大きな問題となってきている今、この時に、時間の許す限り、営業活動をさせていただきたいのです。

兄、善光の居ない間、私が居てがんばらなくては、麦島建設も、ユニホーもたいへんなのです。あつかましいお願いですが兄の出所したあと、私が入所出来るようにして、いただけないでしょうか。

第二審の控訴趣意書の中にあります、同種の事件と比較を再度させていただくことをお許し下さい。

私と兄との合計額で計算しますと、約六億参阡万円のほ脱に対して三年六月の実刑となりますが、同地区(名古屋市昭和区)の不動産業者の判決が、約六億八阡万円のほ脱に対して、一年八月の実刑でありました。

また最近発生している、一億総バブルに狂った結果の、しかも額に汗することなく、濡れ手に粟でかせいだ金の数十億から、百億単位にのぼる巨額脱税事件に対しても、法定刑が五年以下ということは、なんとも納得のゆかないことなのです。

一罰百戒は承知しております。泣きごとと、とられるかもしれませんが、今一度この点についても、是非ご賢察を賜りたいと思います。

四、私にとって、このような刑事罰を受けるということは、生まれてはじめての体験であります。そして最後であることをお誓いいたします。

昭和六十三年九月に査察の調査を受けましてから、第一審第二審と過ぎて、今日ではや三年と六月になります。

この間、国税局及び裁判所のかたがたには、たいへんなご迷惑をおかけいたしました。また弁護人の先生をはじめ、関係のかたがたにも、測りしれないご苦労、ご迷惑をかけてしまいました。

私自身にとっても、言うに言われぬ心の重みや苦しみの毎日でした。くどく聞こえるかもしれませんが、決して再びこのようなことは、ひきおこしません。

どうか最後の私の心情をお汲み取りいただき、刑の軽くなりますように、切にお願いを申し上げます。

以上

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