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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)94号 判決 1991年10月11日

東京都武蔵野市吉祥寺南町一丁目二番二号

上告人

星野智衛

右訴訟代理人弁護士

雨宮定直

同弁理士

井澤九二男

神戸市中央区港島中町四丁目一番一

被上告人

株式会社 ダイエー

右代表者代表取締役

中内功

右訴訟代理人弁理士

網野誠

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第一八一号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年二月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人雨宮定直、同井澤九二男の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 藤島昭 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第九四号 上告人 星野智衛)

上告代理人雨宮定直、同井澤九二男の上告理由

一、原審判決の説示

原審判決の説示は、以下のとおりである。

(二1 三つの売店)(判決書三九頁二行~九行)

被告(上告人)が、予告登録前三年間において本件各商標を店舗、工場において使用していたのは、甲第四四号証及び甲第四五号証に現れた、武蔵野市吉祥寺南町一丁目二番二号所在の大栄製菓経営の喫茶店ボアの入口の店舗、同所所在の大栄製菓経営の製菓工場、小金井市貫井北町五丁目七一四番地所在の大栄製菓の本社事務所内売店、製菓工場及び旧売店においてであることは被告(上告人)の自ら認めるところである(それが事実であるか否かは以下に判断する。)。

7(事務所内売店)(判決書五九頁一一行~六三頁六行)

前記5(一)(三)認定の小金井市の大栄製菓本社所在地の状況、事務所内売店の状況によれば、昭和四五年一二月一一日当時の事務所内売店では、第二のショーケースに陳列された洋菓子類については商品として販売するために陳列されていることを否定できないが、第一、第三のショーケースに陳列されたその他の商品については缶詰、調味料を含めて、商品として販売するための陳列とは認められず、特許庁審判官による証拠保全に備えて、販売のための陳列を装ったに過ぎないものと推認される。

即ち、洋菓子製造業者が、本来はそこで製品を販売することを予定していなかった工場で、一般人に直接販売するようになることはありがちなことで、その場合、5(一)認定のように門前に貼紙をして通行人に案内することは何ら不自然ではなく、例え証拠保全の直前にそれが始まったものとしても、商品として販売するものではないとはいえない。しかし、第一のショーケースに陳列された各種の食料品や第三のショーケースに陳列された商品の品目は多岐にわたりばらばらで、類似の品目について各メーカーのものを容量の大小各種そろえることもなく、一品目の商品数も、その種の商品を扱う小規模の商店と比べても極端に少なく、真に顧客に販売するための品ぞろえとは認められない上、缶詰、調味料以外は門前の表示もないことからすると、第一、第三のショーケースに陳列されたその他の商品については顧客に販売するための陳列とは認められず、特許庁審判官による証拠保全に備えて、本件各商標の指定商品に該当しそうなものを思いつくままに集めて、販売のための陳列を装ったに過ぎないものと推認するのが相当である。

右の事実、前記5(一)(三)のとおり、門前の貼紙も事務所入口の貼紙も比較的新しいこと及び前記甲第一二号証の二中の、昭和四二年一〇月当時、原告(被上告人)の社員藤本敬三が調査した際には、被告(上告人)の本社所在地には日本パーカライジング小金井研究所と洋菓子製造工場があったが、入口の表示は日本パーカライジング小金井研究所の表示のみであった旨の部分によれば、予告登録前三年間においては、事務所内売店は存在せず、したがって、右期間に事務所内売店において、洋菓子もその他の本件各商標の指定商品も販売されていなかったものと推認することができる。

よって、予告登録前三年間に、同所で販売される商品について、本件各商標が使用される余地はなかったものと認められる。

8(旧売店)(判決書六三頁七行~六九頁三行)

前記甲第四四号証には、被告(上告人)の指示説明として旧売店の開店のために、昭和三九年頃には、化学品、薬剤、医療関係の品物を仕入し、販売した旨、立会人の大栄製菓株式会社社員林(弁論の全趣旨によれば、同人は被告(上告人)の夫であることが認められる。)の指示説明として、旧売店は、昭和四二年以前から工場現場売りの分を扱い、「タイエイ」という店名で経営していたが、人手が足りなくなり、昭和四三年一ぱいで閉じた、しかし本件審判事件が起きていたのでそのままにしている旨、前記甲第四五号証には、被告(上告人)の供述として、旧売店は昭和四二年二月一〇日頃開店し、昭和四三年末まで、店を開けたり閉めたりしながらも続けていた、開店当時はよく売れたが後に閉めたりしたのは人手不足のためである旨、当時、旧売店は、福永定次郎と高橋という若い女性ともう一人おばさんといっている年寄りでやっていた旨、殺虫剤、消毒剤を売っていたのは(大栄製菓経営の店舗では)旧売店だけである旨の部分があり、前記5(四)認定の旧売店の昭和四五年一二月一一日当時の状況によれば、旧売店の建物は遅くとも昭和四二年二月当時から存在したものと推認できる。

しかし、前記5(四)認定の旧売店の昭和四五年一二月一一日当時の状況と、前記甲第四四号証中の立会人林の、旧売店は、昭和四三年一ぱいで閉じたが本件審判事件が起きていたのでそのままにしている旨の指示説明部分から推認される昭和四二年ないし昭和四三年頃の旧売店の状況は、真に営業をしている商店としては不自然で、同所で商品の販売が行われたものとは認められず、本件各商標の指定商品についての各商標の使用を仮装するための前提として、右指定商品の販売を仮装したものと認められる。

即ち、前記5(四)認定の旧売店の、建坪一三・二平方メートルの片流れトタン張の古びた小屋であるという建物の状況、白地にペンキで「食品雑貨タイエイ」と書かれた看板の状況、古びたショーケースが二台置かれているだけの店内の設備の状況、箱入ビスケット、インスタントコーヒー、紅茶、化学調味料、酢、てんぷら油、インスタントラーメン、ゼラチン等、更に、桃、オレンジ、テェリー等の果物類の缶詰、魚肉の缶詰、オレンジジュース、グレープジュース等の缶詰、アスパラガスの缶詰等が、それぞれ一品につき二、三個位ずつ雑然と置かれている品目の組合わせ、品数の少なさは、洋菓子製造販売を行って来た会社が、新分野に進出するために昭和四二年二月頃に、東京都小金井市で開店し、三人の社員に担当させた店舗としては、極めて不自然である。また、店内の壁に、「販売品目 化学品、医薬品、殺虫剤、防虫剤、ホータイ、ガーゼ、衛生綿、ナフタリン、臭気止、醤油、ソース、酢、砂糖、蜜、菓子、パン各種、茶、コーヒー、紅茶、玉子、海産物、味噌、漬物、缶詰品、穀菜、果物、ソバ類、豆類、種子」と書かれた紙がわざわざ貼られているのも不自然で、しかも、「化学品」のように、本件(一)商標の指定商品に含まれているが、概念が広すぎてこの店舗にあるものとしては何を指しているのか、一般人に見当もつかないと思われる語や、「穀菜」のように、本件(三)商標の指定商品には含まれているが、昭和四二年当時、一般には使われていなかったと推認される珍しい語が使用されており、この貼紙は本件各商標の指定商品に含まれる主な商品を列記し、それらの商品が販売されているかのような外観を作り出すためのものに過きないと解される。これらの点を併せ考えると、旧売店は、予告登録前三年間の昭和三九年九月から昭和四二年九月まで真に営業をしていた商店としては不自然で、同所で商品の販売が行われたものとは認められず、むしろ本件各商標の指定商品についての各商標の使用を仮装するための前提として、右指定商品の販売を仮装したものと認められる。

よって、予告登録前三年間に、同所で販売される商品について、本件各商標が使用される余地はなかったものと認められる。

9(吉祥寺売店関係)(判決書第六九頁四行~七八頁一〇行)

大栄製菓が予告登録前三年間、ケーキ、クッキー等の洋菓子を小金井工場及び吉祥寺工場で製造し、これを少なくとも吉祥寺売店で直接販売し、少なくとも昭和四一年九月までは高島屋ストア吉祥寺店へ納入し販売するなど、小売店へ卸売りしたことは、前記6に認定したとおりである。

前記5(二)、(五)ないし(七)の事実、前記甲第四四号証中の立会人林の指示説明部分に弁論の全趣旨を総合すれば、大栄製菓が予告登録前三年間に、本件(五)商標及び本件(七)商標の指定商品中、ケーキ、クッキー等の洋菓子以外のもの、即ち、旧第四三類中、干菓子、蒸菓子、掛け物等の和菓子、ドロップス、アイスクリーム、飴、餅、砂糖漬、炒豆、パン等を小金井工場及び吉祥寺工場で製造し、吉祥寺売店で販売したことがないことが認められる。前記甲第四四号証の被告(上告人)の指示説明中には自社製の和菓子との部分があり、甲第四五号証中には、袋物菓子、量り菓子、打菓子、落雁、おこし、掛け物(生姜糖、はっか糖)、甘納豆、餅飴、飴菓子、かき餅、あられ、塩煎餅、砂糖漬菓子、炒豆、懐中しるこは置いてあった、砂糖菓子はあったように思う、羊羹、饅頭、最中、餅菓子はあった、ドロップス、キャラメル、チューインガムはあった、炒栗、茹栗はあった旨の部分があり、かき餅、あられ、塩煎餅が菓子問屋から仕入れたとされる以外は、自家製か仕入れたものかその趣旨は明らかでなく、具体的にどんな和菓子を、どの工場で作ったか、また和菓子の製造を、いつ、なぜやめて洋菓子一本にしたかについて具体的な説明も裏づける証拠もなく、たやすく信用できず、また、それだけ多種多様の和菓子、栗、ドロップス、キャラメル、チューインガム等をケーキ、クッキー等の洋菓子店である吉祥寺売店で販売していたというのも不自然で、信用できない。

前記甲第四四号証の被告(上告人)の指示説明部分には、パンは製造してみたがうまくいかなかったので、松寿ベーカリーから仕入れたパンと、自社製の和菓子、ケーキを、吉祥寺にある高島屋ストアに四ケース位納めた、和菓子は箱の中に「大栄」という名前と製造年月日入りのシールを入れて販売した旨の部分があり、前記甲第三六号証中には、少なくとも昭和四一年三月一日から同年九月末まで、大栄製菓は高島屋ストア吉祥寺店へ、「タイエイ」、「大栄」、「ダイエイ」、「DAIEI」の商標を使用して、和菓子、洋菓子、パン類等を納品販売していた旨の部分があり、これらの証拠によれば、大栄製菓が、右時期に洋菓子のみではなく和菓子、パン類も高島屋ストア吉祥寺店に納品販売していたことは否定できない。

しかし、パン類は他社から仕入れたものであり、和菓子も自社製という点は信用できないことは前記のとおりであって、他社製のものを仕入れて納品するについて、中間業者である大栄製菓が自社の商標を付するとすると、それだけ手数がかかるはずであり、自社の商標を付さないことに合理性があり、もし商標を付するとすれば自家製の洋菓子の場合とは商標を付する手順も異なり、商品の性質上商標を付する方法も異なるものと解されるのに、手順の説明も、パン類や和菓子に付されたシール等の見本も認める証拠がないことからすれば、大栄製菓が高島屋ストア吉祥寺店に納品販売したパン類や和菓子には本件各商標は付されていなかったものと推認される。

前記5(二)、(五)ないし(七)の事実、前記甲第四四号証中の立会人林の指示説明部分に弁論の全趣旨を総合すれば、大栄製菓が予告登録前三年間に、本件(一)商標ないし本件(四)商標及び本件(六)商標の指定商品を前記小金井工場及び吉祥寺売店で販売したことがないことが認められる。

前記甲第四四号証には、被告(被請求人・上告人)の指示説明として、茶、コーヒー、ココア等については菓子を喫茶店に納めているので、昭和三九年ないし昭和四二年の間にも扱っていた、また、市販のコーヒーが古いものであったりするので、当時近くの家庭からひきたてのミックスコーヒーやココアの注文があり、それに応じて売った、売店に「コーヒー豆あります」との表示はしてあったが、見本の一、二包みをショーケースに置いただけで、販売数量は記帳していない旨の部分がある。

右説明は、大栄製菓が洋菓子と共に営業用の茶、コーヒー、ココア等を喫茶店に卸売りし、他方旧売店又は事務所内売店でコーヒー豆やココアの小売りもしていたとの趣旨と解されるが、旧売店及び事務所内売店で予告登録前三年間に商品の販売が行われたものとは認められないことは、前記7、8に認定判断したとおりであり、また大栄製菓が洋菓子の他に営業用の茶、コーヒー、ココア等を喫茶店に卸売りしていたことを裏づける具体的な仕入先、販売先等は明らかでなくたやすく信用できない。

前記甲第四四号証、甲第四五号証中には、被告の供述及び指示説明として、本件各商標の指定商品中、右菓子、パン類、茶、コーヒー、ココア等の他の商品についても、多種多様なものについて販売した旨の部分があるが、各種の商品について順次、販売の有無を確認する過程で、一旦、取り扱ったことを否定したものについても、登録商標の指定商品として列記してある品目はすべて売ったと簡単に前言を翻すなどの供述過程や、前記小金井市の旧売店、事務所内売店で商品が販売されたものとは認められないこと、吉祥寺売店や本社でそれほど多種多様のものを販売した形跡は認められないことに照らすと到底信用できない。

10 以上認定の事実によれば、大栄製菓は小金井市の本社製菓工場並びに吉祥寺売店及び吉祥寺工場で本件各商標の指定商品の内、ケーキ、クッキー等の洋菓子の製造販売、和菓子、パン類の販売を行っていた事実は否定できないが、その他のものは販売したことはないことが認められる。

したがって、前記3認定の新聞広告に記載された商品中、実際に大栄製菓が販売していたのは菓子のみで、他の大多数の商品は大栄製菓が販売していなかったものであり、右広告は全体としてみると、大栄製菓の営業の実態に合致しないものであり、この事実に、右広告に列挙された商品はいずれも本件各商標の指定商品に属するものであること、右広告の掲載が前記2認定の、原告(被上告人)が、昭和四一年九月頃からその社員に被告の本件各商標の使用状況を調査させ、同年一一月二九日に弁理士と社員が吉祥寺店で被告の夫に面会し、本件各商標の譲り受けを打診した直後であることを併せ考えると、右広告は、真に大栄製菓の営業の宣伝のために行われたものではなく、列挙された商品について「タイエイ」の商標を広告に使用したことを仮装するためにされたものと認められる。

したがって、右新聞広告をもって、商品に関する広告に商標を使用したものということはできない。

(なお、前記の説示において、七件の商標について(一)ないし(七)の番号が用いられているが、右各商標の登録の詳細は、添付「本件商標一覧表」のとおりである。)

二、上告理由第一点(旧売店関係)

(一) 原審判決の理由二8は、旧売店の建物は遅くとも昭和四二年二月当時から存在したものと推認できる旨認定したうえで、

前記5(四)認定の旧売店の、建坪一三・二平方メートルの片流れトタン張の古びた小屋であるという建物の状況、白地にペンキで「食品雑貨タイエイ」と書かれた看板の状況、古びたショーケースが二台置かれているだけの店内の設備の状況、箱入ビスケット、インスタントコーヒー、紅茶、化学調味料、酢、てんぷら油、インスタントラーメン、ゼラチン等、更に、桃、オレンジ、チェリー等の果物類の缶詰、魚肉の缶詰、オレンジジュース、グレープジュース等の缶詰、アスパラガスの缶詰等が、それぞれ一品につき二、三個位ずつ雑然と置かれている品目の組合わせ、品数の少なさは、洋菓子製造販売を行って来た会社が、新分野に進出するために昭和四二年二月頃に、東京都小金井市で開店し、三人の社員に担当させた店舗としては、極めて不自然である。また、店内の壁に、「販売品目 化学品、医薬品、殺虫剤、防虫剤、ホータイ、ガーゼ、衛生綿、ナフタリン、臭気止、醤油、ソース、酢、砂糖、蜜、菓子、パン各種、茶、コーヒー、紅茶、玉子、海産物、味噌、漬物、缶詰品、穀菜、果物、ソバ類、豆類、種子」と書かれた紙がわざわざ貼られているのも不自然で、しかも、「化学品」のように、本件(一)商標の指定商品に含まれているが、概念が広すぎてこの店舗にあるものとしては何を指しているのか、一般人に見当もつかないと思われる語や、「穀菜」のように、本件(三)商標の指定商品には含まれているが、昭和四二年当時、一般には使われていなかったと推認される珍しい語が使用されており、この貼紙は本件各商標の指定商品に含まれる主な商品を列記し、それらの商品が販売されているかのような外観を作り出すためのものに過きないと解される。これらの点を併せ考えると、旧売店は、予告登録前三年間の昭和三九年九月から昭和四二年九月まで真に営業をしていた商店としては不自然で、同所で商品の販売が行われたものとは認められず、むしろ本件各商標の指定商品についての各商標の使用を仮装するための前提として、右指定商品の販売を仮装したものと認められる。

よって、予告登録前三年間に、同所で販売される商品について、本件各商標が使用される余地はなかったものと認められる。

と述べている(判決書六三頁七行~六九頁三行)。

(二) しかしながら、右説示中には、経験則違反の法律違反がある。

すなわち、原審判決は、昭和四二年二月当時には旧売店の建物が存在し、そこにショーケースが二台置かれて、箱入ビスケット、インスタントコーヒー、紅茶、化学調味料、酢、てんぷら油、インスタントラーメン、ゼラチン等に加え、桃、オレンジ、チェリー等の缶詰、アスパラガスの缶詰等が陳列されていたことはこれを推認して認めている。

しかし、「一品につき二、三個位ずつ雑然と置かれている品目の組合せ、品数の少なさは、・・・・・・店舗としては、極めて不自然である」とし、また店内の壁に販売品目を列挙した紙が貼られているのも不自然で、またその販売品目の記載中に、「穀菜」のように一般には使われていなかったと推認される珍しい語が使用されている点を理由として、

それらの商品が販売されているかのような外観を作り出すためのものに過きないと解される。これらの点を併せ考えると、旧売店は、予告登録前三年間の昭和三九年九月から昭和四二年九まで真に営業していた商店としては不自然で、同所で商品の販売が行われていたものとは認められず、むしろ本件各商標の指定商品についての各商標の使用を仮装するための前提として、右指定商品の販売を仮装したものと認められる。

と述べているのである。

(三) 前記認定から、昭和四二年二月当時旧売店の建物が存在していたこと、およびそこに各種商品の陳列があったことは明らかである。

商品を陳列し、これを買主に対して販売のために提供することが、小売店における類型的な販売形態である。

そうであるとするならば、営業を行っていた期間が極めて短かったとか、買主から示された購入の意思に反して販売を拒絶するとか、販売不可能な状態があったとか等、特段の事情があれば別として、そのような事情が明らかにされていない旧売店の場合において、どうして「指定商品の販売を仮装」したものと云えるのであろうか。

(四) なる程旧売店の建物は一三・二平方メートルであり、堅固な建物ではなかったかも知れないが、昭和四二年当時、小金井地区のように都心をはずれた郊外においてこの程度の建物が店舗として一般に使用されていたことは、経験上明白なことである。品目の組合わせ、品数の多少さ等は、店舗の経営方針や、開店当時の事情に主として左右される事柄であって、「仮装」の有無とは重大な関係はない。

(五) 特に、問題の時点から二三年も経過して、市民生活レベルや経済状況がすっかり変った現在における事情を尺度として、日本経済の高度成長の初期段階における本件旧売店の状況を評価するならば、誤りをおかすことになろう。

(ちなみに、旧店舗から出発し、発展を遂げた上告人の店舗〔JR吉祥寺駅ビル内〕においては、品揃えも旧売店の場合に比すればやや豊富な程度であるが、それでも大きな収益が年々確保されているし、地域社会に対しそれなりの貢献を果しているのである。)

(六) また判決は、多種に亙る取扱品目を記載した紙が、店内に貼られていたのは不自然である旨述べている。しかし、ここに記載されているが陳列されていない品目についても、注文があれば取り揃える旨の営業方針であるとするならば、それなりの意味をもつ掲示と解することができるのである。

(七) 旧売店における一定の商品が販売に供せられていたか否かについては、いやしくも陳列がなされている以上、建物の状況、品目の組合、品数等が自然であるか不自然であるかによるのではなく、陳列されている商品、取扱品目に記載されている商品について、買主の購入希望に応じられ得るか、これを拒否したことがあるか等の事情に基づき、判断されるべきものであり、これが経験則というもめである。

原審判決は、この点において経験則に反して、各商標の指定商品についての各商標の使用を仮装するための前提として、右して商品の販売を仮装したもの、とした点において、経験則違反をおかしたものであり、この意味において、法律解釈の誤りをおかしている。

三、上告理由第二点(事務所内売店関係)

(一) 原審判決は、「事務所内売店」に関して、

第一のショーケースに陳列された各種の食料品や第三のショーケースに陳列された商品の品目は多岐にわたりばらばらで、類似の品目について各メーカーのものを容量の大小各種そろえることもなく、一品目の商品数も、その種の商品を扱う小規模の商店と比べても極端に少なく、真に顧客に販売するための品ぞろえとは認められない上、缶詰、調味料以外は門前の表示もないことからすると、第一、第三のショーケースに陳列されたその他の商品については顧客に販売するための陳列とは認められず、特許庁審判官による証拠保全に備えて、本件各商標の指定商品に該当しそうなものを思いつくままに集めて、販売のための陳列を装ったに過ぎないものと推認するのが相当である(判決書六一頁三行~六二頁四行)。

と述べて、前記旧売店について述べたとほぼ同一の推認方法により、販売のための陳列を装ったに過ぎないとし、これに加えて、

門前の貼紙も事務所入口の貼紙も比較的新しいこと、及び昭和四二年一〇月当時、原告(被上告人)の社員藤本敬三が調査した際には、被告(上告人)の本社所在地には日本パーカライジング小金井研究所と洋菓子製造工場があったが、入口の表示は日本パーカライジング小金井研究所の表示のみであった旨の部分によれば、予告登録前三年間においては、事務所内売店は存在せず、したがって、右期間に事務所内売店において、洋菓子もその他の本件各商標の指定商品も販売されていなかったものと推認することができる(判決書六一頁三行~六二頁四行)。

と述べて、予告登録期間後、陳列されたものと認定している。

(二) しかしながら、この認定には経験則違反および採証方法則上の重大な違反がある。

(1) すなわち、すでに上告理由第一点において述べたとおり、一定の商品についての陳列が、販売を仮装してなされているものであるか否かの認定は、いやしくも陳列がなされている以上、購入者の購入意思を拒否する等の事情がない限り、陳列の外形的な模様等により、軽々しく否定的な認定を行うべきでない。陳列の外形的模様等から「販売のための陳列を装った」ものとした認定には、経験則違反がある。

(2) 次に、判示の貼紙は、クリスマスケーキのための案内文言に関するものであり(註1)、証拠保全が一二月一一日で、クリスマスケーキのシーズンに当っていたことからみて、右貼紙の新しさについては何の不自然性もない。

(3) 次に、原審判決は、甲第一二号証の二、藤本敬三(昭和四〇年一〇月当時被上告人社員)の報告書中、

(前記)本社所在地には日本パーカライジング小金井研究所と洋菓子製造工場があったが、入口の標示は日本パーカライジング小金井研究所の標示のみであった。

旨の記載を採用して、

予告登録前三年間においては、事務所内売店は存在せず、したがって右期間に事務所内売店において、洋菓子もその他の本件各商標の指定商品も販売されていなかったものと推認することができる。

旨述べている。

(4) しかしながら、原審判決は、前記藤本の報告書(甲第一二号証の二)については、たやすく信用できない旨を認定しておきながら(判決理由二6判決書五六頁七行~五七頁九行)、事務所内売店の点においては、突如態度を変えて、これを採証しているのは、いかなる理由によるものであろうか。(註2)

(5) しかも、前記藤本の報告書において明らかになっている点は、昭和四二年一〇月当時<1>被告(上告人)の本社所在地に大栄製菓の工場と、日本パーカライジング小金井研究所とが存在していたが、入口の表示には後者の表示しか存しなかったこと、<2>検証時(昭和四五年一一月)には、「大栄」、「大栄製菓株式会社」の古びた標札がとりつけられていた点にとどまるのである(判決書四四頁二~四行)。(註3)

前記<1>と<2>の状況の変化が、昭和四二年一〇月と同四五年一二月の間に生じたからといって、何故に「事務所内売店」が、予告登録期間中には存在せず、その後設けられたといえるのであろうか。

パーカライジングの研究所が、大栄製菓の敷地内にあった事実は、むしろ事務所内販売が同研究所の職員にとっても売店の機能を果していたということになっていた点についての評価に結びつくはずであるのに、原審は、このような経験則の適用については、何の考慮もしていないのは、不可解である。

原審認定には、理性を備えたものを承服させることができない重大な経験則の違反があり、これによって予告登録前三年間の期間中「事務所内売店」が存しないという認定に達しているのである。

(註1)原審判決理由二5(四四頁二行~一一行)

右敷地の西南隅に敷地への入口の正門があり、両側の門柱に、それぞれ「大栄」、「大栄製菓株式会社」と大書きされた古びた標札が取り付けられている他、「クリスマスデコレーション 予約ご注文承ります 大栄」、「洋菓子食料品販売 ○高級洋菓子一ヶ四〇円より、アップルパイ、ボックスその他各種あります ○バター、チーズたっぷりの本格欧風クッキー一袋(二〇〇グラム)一五〇円 ○バースデーケーキご用命承ります ○缶詰調味料等あります 大栄」と手書きされた比較的新しい紙が貼られている。

(註2)原審判決理由二6(五六頁七行~五七頁九行)

前記甲第一二号証の一、二中には、昭和四一年九月一一日当時、吉祥寺売店では本件各商標は使用されておらず、当時から過去三年の間に、被告(上告人)、大栄製菓が本件各商標を使用した事実は発見できなかった旨、昭和四一年一一月二九日に武蔵野市で、昭和四二年一〇月四日、同五日及び同月三一日に武蔵野市及び小金井市で、それぞれ過去三年の間に、被告(上告人)が本件各商標を使用した事実があるかどうか調査したが、調査した範囲内では商標使用の事実を知っているものはなく、吉祥寺売店では、「Bois」、「ボア」の商標が使用されているのみであつた旨の部分があるが、いずれも具体的に、どこでどのような方法で調査したのか、例えば、吉祥寺売店において実際に各種商品を購入して、紙箱、包装紙、紙皿、袋等を検分したのか否かが不明であり、たやすく信用できない。

(註3)原審判決理由二5(四四頁二行~四行)

右敷地の西南隅に敷地への入口の正門があり、両側の門柱に、それぞれ「大栄」、「大栄製菓株式会社」と大書きされた古びた標札が取り付けられている他、……

四、上告理由第三点(吉祥寺売店関係)

(一) 原審は、以下述べている。

前記甲第四四号証には、被告の指示説明として、茶、コーヒー、ココア等については菜子を喫茶店に納めているので、昭和三九年ないし昭和四二年の間にも扱っていた、また、市販のコーヒーが古いものであったりするので、当時近くの家庭からひきたてのミックスコーヒーやココアの注文があり、それに応じて売った、売店に「コーヒー豆あります」との表示はしてあったが、見本の一、二包みをショーケースに置いただけで、販売数量は記帳していない旨の部分がある。

右説明は、大栄製菓が洋菓子と共に営業用の茶、コーヒー、ココア等を喫茶店に卸売りし、他方旧売店又は事務所内売店でコーヒー豆やココアの小売りもしていたとの趣旨と解されるが、旧売店及び事務所内売店で予告登録前三年間に商品の販売が行われたものとは認められないことは、前記7、8に認定判断したとおりであり、また大栄製菓が洋菓子の他に営業用の茶、コーヒー、ココア等を喫茶店に卸売りしていたことを裏づける具体的な仕入先、販売先等は明らかでなくたやすく信用できない(判決書七四頁七行~七六頁一行)。

(二) 前記から明らかなとおり、証拠保全手続における調書には、上告人(被請求人)の指示説明は、

<1> 茶、コーヒー、ココア等については、菓子を「喫茶店」(喫茶店「ボア」)に納めているので・・・・扱っていた。

<2> また、近くの家庭からひきたてのミックスコーヒーやココアの注文があり、それに応じて売った。

<3> 売店に「コーヒー豆あります」との表示はしてあったが、見本の一、二包みをショーケースにおいた・・・・。

とされている。

前記<2><3>の趣旨は、吉祥寺店(喫茶店ボアの入口に洋菓子陳列ケースが二台置かれ、売店となっているもの<原審判決五二頁(五)>)において、近隣からの注文に応じて、業務用のものを用いてひきたてのコーヒー、ココアの小売を行っていをという点にほかならない。そして、業務用のコーヒー、ココア等は、小金井の大栄製菓から納めた(提供した)という趣旨である。

原審判決は、この指示説明の記載を

<1> 大栄製菓が、洋菓子と共に営業用の茶、コーヒー、ココア等を得意先喫茶店に卸売りをした。また、

<2> 他方「旧売店」および「事務所内売店」でコーヒー豆やココアの小売りもしていた。

趣旨と、上告人(被請求人)の指示説明と全く異なった趣旨に解し、「旧売店」ないし「事務所内売店」における販売であるとの指示説明があったとしたうえで、評価しているのである。

喫茶店は、本来コーヒー、紅茶、ときには抹茶等の提供を主体とする役務を店内において提供する店舗ではあるが、それと同時に、前記役務提供に用いるコーヒー、ココア等の小売りを小規模に行うことは極めて一般に行われる小売り慣行である。同様にして、喫茶店の業務用の紅茶や抹茶の小売りを行う例もしばしば見受けられる。

上告人の指示説明は、上告人の「吉祥寺店」において、このような小売方法が行われた旨を述べているものである。前記指示説明には、「事務所内売店」や「旧売店」についての言及は全く現れていない。いわんや「他の喫茶店に卸売り」を行った旨の陳述などは全く存しないのである。

原審の前記上告人指示説明の趣旨の解釈は、明らかに経験則に違反するものであり、コーヒー、紅茶、茶についての不使用の認定は、ひとえにこの誤りに由来するものである点からみるならば、判決に直接影響を及ぼす誤りであるといわなければならない。

五、上告理由第四点(パン類関係)

(一) 原審判決は、和菓子、洋菓子、パン類について

前記甲第三六号証中には、少なくとも昭和四一年三月一日から同年九月末まで、大栄製菓は高島屋ストア吉祥寺店へ、「タイエイ」、「大栄」、「ダイエイ」、「DAIEI」の商標を使用して、和菓子、洋菓子、パン類等を納品販売していた旨の部分があり、これらの証拠によれば、大栄製菓が、右時期に洋菓子のみではなく和菓子、パン類も高島屋ストア吉祥寺店に納品販売していたことは否定できない。

しかし、パン類は他社から仕入れたものであり、和菓子も自社製という点は信用できないことは前記のとおりであって、他社製のものを仕入れて納品するについて、中間業者である大栄製菓が自社の商標を付するとすると、それだけ手数がかかるはずであり、自社の商標を付さないことに合理性があり、もし商標を付するとすれば自家製の洋菓子の場合とは商標を付する手順も異なり、商品の性質上商標を付する方法も異なるものと解されるのに、手順の説明も、パン類や和菓子に付されたシール等の見本も認める証拠がないことからすれば、大栄製菓が高島屋ストア吉祥寺店に納品販売したパン類や和菓子には本件各商標は付されていなかったものと推認される。

旨述べている。

(二) 確かに他社製のものを仕入れて納品することについて、中間業者が自社の商標を付するためには、それだけ手数がかかることは事実である。

しかしながら、被上告人から商標不使用取消の審判請求がなされるおそれが極めて大きいと考えられた昭和四一年頃の状況において(原審判決理由二10判決書七七~七八頁)、上告人にとって、その商標を防衛するために残された唯一の手段は、これを使用することにあったのであるから、多少の手数がかかるからといって、商標を付したシールや包装紙等を使用して、これらの取引を行うための努力を尽すことは、商標登録権者であり事業経営者でもある上告人が、自ら行い、また使用権者たる大栄製菓に行わしめたことは、経験則上当然に理解し得ることといわなければならない。上告人は、あらゆる努力を傾注して、本件各商標が、実際に使用されることを心掛けていたはずであるとみるのが、経験則に合致するところである。

しかして、商標登録が取り消されないことを念頭においてなされた商品の商標を付したうえの販売活動であるからといって、それだけの理由により、それが商標使用の仮装行為であるとは、いえないはずである。

原審判決は、ここにおいても経験則違反をおかしている。

六、上告理由第五点(和菓子、ドロップス等関係)

(一) また、原審判決は、和菓子、ドロップス、キャラメル、チューインガム等についても

自家製か仕入れたものかその趣旨は明らかでなく、具体的にどんな和菓子を、どの工場で作ったか、また和菓子の製造を、いつ、なぜやめて洋菓子一本にしたかについて具体的な説明も裏づける証拠もなく、たやすく信用できず、また、それだけ多種多様の和菓子、栗、ドロップス、キャラメル、チューインガム等をケーキ、クッキー等の洋菓子店である吉祥寺売店で販売していたというのも不自然で、信用できない。

旨述べている。

(二) しかしながら、上告理由第四点においてすでに述べたとおり、昭和四一年から四二年にかけては、上告人は、商標登録不使用取消の攻撃に対し、いかに防衛するかについて腐心していた時期に当る。このような状況において、上告人が防衛の唯一の手段として、各商標権をいかに行使するかにつき、経営上重大な関心を有しており、できるだけ多種類の商品につき商標を使用することに努めたとみることは、経験則上認め得ることであり、このような点についての配慮を欠いた原審の前記認定は明らかに経験則に反するものである。

七、上告理由第六点(広告関係)

(一) 原審判決は、理由二10の項において、

大栄製菓は小金井市の本社製菓工場並びに吉祥寺売店及び吉祥寺工場で本件各商標の指定商品の内、ケーキ、クッキー等の洋菓子の製造販売、和菓子、パン類の販売を行っていた事実は否定できないが、その他のものは販売したことはないことが認められる。

したがって、前記3認定の新聞広告に記載された商品中、実際に大栄製菓が販売していたのは菓子のみで、他の大多数の商品は大栄製菓が販売していなかったものであり、右広告は全体としてみると、大栄製菓の営業の実態に合致しないものであり、この事実に、右広告に列挙された商品はいずれも本件各商標の指定商品に属するものであること、右広告の掲載が前記2認定の、原告(被上告人)が、昭和四一年九月頃からその社員に被告の本件各商標の使用状況を調査させ、同年一一月二九日に弁理士と社員が吉祥寺店で被告の夫に面会し、本件各商標の譲り受けを打診した直後であることを併せ考えると、右広告は、真に大栄製菓の営業の宣伝のために行われたものではなく、列挙された商品について「タイエイ」の商標を広告に使用したことを仮装するためにされたものと認められる。

したがって、右新聞広告をもって、商品に関する広告に商標を使用したものということはできない。

と右のとおり述べている。

(二) 本件広告が原審判決認定のとおりいわゆる「三行広告」に過ぎないにせよ(実際は行数はもっと多いのであるが)、この広告は大栄製菓の店舗へのアクセスを示し、かつ取扱品を列挙して、販売の提供をしている効果があることは、争うことはできない事実である。大栄製菓としては買主があれば、この広告記載のいずれの商品をも販売する意思も能力も有していたものである。しかるに原審はこの点には触れることなく、前記広告が、大栄製菓の営業の実態に合致しない点を、広告における仮装の根拠とした。

しかしながら、「仮装」とは実態がないものにつき、外形をとりつくろうことにほかならない。本件広告は、大栄製菓における前記広告の取扱品目についての存在の間接的な証拠として評価すべきであり、これを「仮装」として片付ける問題ではあり得ない。

(三) 原審は、本広告が不使用取消審判提起の可能性の大なときになされたことを問題としている。しかし、いやしくも、この広告を介しての注文に応じる努力と意思がある以上、問題とはなり得ない。

(四) 特に、原審判決は前記(一)のとおり、ケーキ、クッキー、和菓子、パン類については、これを販売したことは否定できない旨認定しているのである。

従って、少なくともこれらの商品については、本件広告は広告の機能を有していたものとみるべきであり、さすれば、本広告はこれらの商品についての商標使用となるはずである。

(五) 以上からみて、広告についての原審判決の評価は、経験則違反であり、この違反が判決に影響を与えているといわなければならない。

八、上告理由第七点

(一) 上告理由第一ないし六点にみたように、原審判決は、基本的な瑕疵として、証拠に対する法律的価値判断をなすに際して、挙証責任負担の原則を考慮することなくこれを行ったため、証拠価値判断の基準を誤り、もって証拠の有する法律的価値判断を誤った違法がある。

本件の争点は、本件各商標が各指定商品について予告登録前三年間(昭和三九年九月から同四二年九月まで)において使用されたか否かということであり、この点については、まず原審原告(被上告人)が「不使用である」ということを立証すべき責任がある。

原審判決における本件各商標の不使用の認定は、一にかかって、甲第四四号証及び甲第四五号証に基づいているのであるが、前者は証拠調調書であって、被告(上告人〕側における小金井市所在の大栄製菓株式会社の「製菓工場、事務所内売店及び旧売店」並びに武蔵野市吉祥寺所在の「吉祥寺売店及び吉祥寺工場」における本件各商標の使用状況を示す積極的なものであり(このもの自体が直接、不使用を示すための証拠ではない。)、後者は、被告(上告人)側における本件各商標の使用状況に関する証人尋問調書であって、一部不使用を容認する陳述もあるが、使用を確認する陳述も含んでいる本件各商標の使用状況を積極的に示す証拠たるものである。

従って、これら各証拠(甲第四四号証及び甲第四五号証)の評価に際しては、まず本件各商標についての「使用」を示す証拠としてこれを如何に評価するかという視点で臨むべきであって、これらを本件各商標の各指定商品についての「不使用」を示す証拠としてこれを如何に評価するかという視点のみで臨むべきではない(一部不使用を容認している部分についてはこれは該当しない。)

(二) 加えて、これら二つの証拠は、本件各商標の使用を示すものとしての証拠の一部として評価すべきものであるから、仮に、この証拠が全面否定されたとしても、それによって、直ちに、その反射的効果として、本件各商標の不使用が立証されたことになるというものではない。即ち、本件各商標の使用を示すための証拠がこれら二つの証拠以外には存在し得ないという前提がない限り、原審判決がなしたような認定はなし得ないわけであるが、そのような前提が(原告・被上告人によって)証明された事実はないのである。

(三) これらのことから、原審判決の如くして、これら各証拠(甲第四四号証及び甲第四五号証)によっては、本件各商標の各指定商品についての使用は推認できないとすることは、それは心証形成の一過程としての問題であればよいとしても、そこから一歩進んで、本件各商標が不使用であると認定するためには、更に、本件各商標が各指定商品について不使用であるという積極的証拠がなければならないのである。

しかるに、この点については、先に述べたように、原審は、その不使用認定の基礎を置くその他の証拠は何ら摘示しておらず(不存在のため摘示しえない)、従って、本件各商標の不使用認定の基礎を、もっぱら甲第四四号証及び甲第四五号証のみに置いてなした原審判決は、それら証拠に対する法律的価値判断を誤った違法があり、また証拠に基づかない事実認定をした重大な違法がある。

(四) 更に上告人は、被上告人からの商標登録取消審判の提起の危険のある環境下において、本件各商標の防衛のために各指定商品についての使用について、努力を尽して来た。

従って、本件の争点は、かかる商標使用のための努力が、商標法所定の商標使用に当るか否かの点の一点にかかっているはずである。

そして、前記の努力を充分とみるのか、不充分とみるのかを決定し、不充分であるとみるならば、何故に不充分とみたかの法理を、明確に述べるべきであった。しかるに、原審判決は、ある指定商品については推認を以って、ある商品については前記認定の準用を以って、商標使用の「仮装」である旨の評価を与えたのみである。

いやしくも、不使用の立証責任が原告(被上告人)にある以上、また、上告人が商標使用の努力を傾注していた事実上の関係がある以上、不使用なり仮装と認定するためには、推認ないしその準用にとどまらず、更に積極的な証拠の顕出を俟つべきであり、これがない以上、不使用の証明なしとすべきであった。

以上

別紙 本件商標一覧表

商標登録番号 構成の概略及び具体的構成 商品区分及び指定商品 商標登録出願日(上) 及び商標登録日(下) 商標権存続期間の更新登録日 本件審判事件番号 昭和 年審判第 号 本判決中における略称

(一) 403653 「タイエイ」と縦書き 別紙商標目録(一)のとおり 旧第1類 化学品、その他本類に属する商品、但し、煎剤、浸剤、乳剤(内服液)内服用水剤、丸薬、錠薬、薬始、散薬、粉末薬、生薬、薬油、黑焼類、其他之等の類似品を除く 昭和24年12月5日 昭和26年10月5日 昭和46年12月15日 昭和56年11月30日 42-6295 本件(一)商標

(二) 391249 「タイエイ」と縦書き 別紙商標目録(二)のとおり 旧第44類 茶、コーヒー、「ココア」及コーヒー入角砂糖ノ類並其ノ模造品 昭和24年12月5日 昭和25年9月11日 昭和45年10月27日 昭和56年3月31日 42-6296 本件(二)商標

(三) 395356 「タイエイ」と縦書き 別紙商標目録(三)のとおり 旧第47類 穀菜類、種子、果物、穀粉及びその製品 昭和24年12月5日 昭和26年1月6日 昭和46年5月14日 昭和56年1月29日 42-6297 本件(三)商標

(四) 393288 「大栄(タイエイ)」と縦書き 別紙商標目録(四)のとおり 旧第45類 他類に属しない食料品及び加味品 昭和24年12月5日 昭和25年10月27日 昭和47年1月10日 昭和55年12月23日 42-6298 本件(四)商標

(五) 395378 「大栄」と縦書き 別紙商標目録(五)のとおり 旧第43類 菓子及び麺ぼうの類 昭和24年11月29日 昭和26年1月6日 昭和46年5月14日 昭和56年3月31日 42-6299 本件(五)商標

(六) 424290 「タイエイ」と縦書き 別紙商標目録(六)のとおり 旧第41類 醤油、「ソース」及び酢の類 昭和24年12月5日 昭和28年4月16日 昭和48年10月30日 昭和58年4月15日 42-6300 本件(六)商標

(七) 395377 「タイエイ」と縦書き 別紙商標目録(七)のとおり 旧第43類 菓子及び麺ぼうの類 昭和24年11月29日 昭和26年1月6日 昭和46年5月14日 昭和56年3月31日42-6301 本件(七)商標

商標目録 (一)

<省略>

商標目録 (二)

<省略>

商標目録 (三)

<省略>

商標目録 (四)

<省略>

商標目録 (五)

<省略>

商標目録 (六)

<省略>

商標目録 (七)

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