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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)82号 判決 1991年7月19日

埼玉県川口市赤井一丁目二七番一九号

戸田第一マンション三〇二号

上告人

木村清

右訴訟代理人弁護士

難波幸一

埼玉県川口市青木二丁目二番一七号

被上告人

川口税務署長 江川治美

右指定代理人

畠山和夫

右当事者の東京高等裁判所平成元年(行コ)第一一五号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成三年一月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人難波幸一の上告理由について

本件各更正処分(昭和五五年分については裁決により一部取り消された後のもの)を適法であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、帰するところ、原判決の結論に影響のない説示部分をとらえてその違法をいうか、又は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第八二号 上告人 木村清)

上告代理人難波幸一の上告理由

原判決には、民事訴訟法第三九五条の判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背並びに同法第三九五条第一項第六号の理由不備・理由齟齬の違法があり破棄されるべきである。

一 実額反証における収入と必要経費との対応関係

1 原判決は理由第一項5において、「本件においては、控訴人(上告人)は、どの範囲の収入に対して又は収入のどの項目に対して、どの項目の必要経費が支出されたかを立証しなければ、必要経費について実額を立証したことにはならない途言うべきであるが、そのような立証はされていない。」として、上告人の実額反証を排斥している。しかし、納税者たる上告人としては、実額反証として、判決の如き、どの範囲の収入に対して又は収入のどの項目に対してどの項目の必要経費が支出されたか、すなわち収入と必要経費との対応関係を主張・立証する責任はないものであり、右のような主張・立証責任を前提とする原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背並びに理由不備・理由齟齬の違法がなる。

2 所得税更正処分取消請求訴訟においては、所得税の立証責任はあくまでも行政庁側にあることはいうまでもない。そして推計課税はこの所得の把握方法の一種として認められるのである。そしてこの推計課税に対する実額反証はあくまでも反証であり、推計課税の合理性を否定するのがその目的であり、かつその程度で足りるものである。したがって実額が存在すること自体は納税者である上告人が立証すべきであるにしても、本件のように被上告人が収入を実額で把握している場合には収入の補足漏れがあることは前提とすべきではなく、上告人には収入額の実額や経費が収入額と個別に対応することまで立証する必要はない。したがって上告人の実額主張は反証足りうる(佐藤繁「課税処分取消訴訟の審理」新実務民訴口座一〇・六二頁、中込秀樹「税務訴訟(3)-推計課税」裁判実務体系1・三四六頁)。これに反して原判決は、前記のとおり必要経費の実額を主張立証するのみでは足りず、収入と必要経費との対応関係をも具体的に主張立証しなければ必要経費についての実額立証をしたことにはならないというべきである、としている。しかし、これは先に述べたとおり、主張立証責任についての法令を誤ったものであり、不当といわなければならず、原判決は破棄を免れない。

二 加藤剛への捨場代支払について

1 原判決は、加藤剛への捨場代支払について、以下のとおり認定している。

<1> 「訴訟人(上告人)の主張によれば、捨場代は金三五一万七八五〇円であり、うち金三〇五万四八五〇円が加藤剛に対する支払である。」。「控訴人(上告人)は、右支払を証明する証拠として、甲第一六号証の二、四及び八、第二七、二八号証並びに第五〇号証の一ないし三を提出しているが、右甲号各証は、いずれも金融機関の振込一括受託書、総合振込受取書、払込金受取書ないし払込金受取証であって、右のみでは、控訴人(上告人)が加藤剛に対し前記金額を送金したことが確認できるだけで、それが捨場代であることを明らかにするものではない(甲第一六号証の四及び八、第二八号証並びに第五〇号証の二には、いずれも「捨場代」との記載があるが、その体裁からみて、後日に書き加えられたものであることは明らかであるから、右記載によって捨場代であるとは認めることはできない。)」。

<2> 「右送金額が捨場代であり、右甲号証が昭和五五年に作成されて控訴人(上告人)方に保存されていたものであれば、その支払先や金額からして、控訴人(上告人)が右送金額を捨場代以外の支払であると誤解したり、その合計額を誤ったりすることはないものと考えられる。ところが、控訴人(上告人)は、原審において、昭和六〇年六月六日付準備書面では四〇九万二七〇〇円(そのうち加藤剛へ支払ったのは三六二万九七〇〇円)、右甲号各証を提出した後の昭和六三年一一月二一日付準備書面では三五一万七八五〇円(加藤剛へ支払ったのは三〇五万四八五〇円)と主張しており、右主張変遷をみると、控訴人(上告人)は前記加藤剛への送金額を捨場代として主張するかどうかを迷っていたものと窺われ、このことは、右送金額が捨場代以外の支払である可能性を示すものである。」。

<3> 「控訴人(上告人)は、原審における本人尋問において、加藤剛について、数百万円の取引があるというのに自分から連絡を採ったことがないと述べたり、その実在を確かめようとする質問に対して(なお、控訴人(上告人)の昭和六〇年一〇月七日付準備書面で加藤剛の住所とされている「戸田市笹目南町二一」には、成立に争いのない乙第三六号証によれば、当時同人の住民登録がなされていなかった事実が認められる。)つかみどころのない対応に終始して具体性のある供述をしていないので、加藤剛が捨場関連の業者でない可能性がある。」

そして、以上に基づき、「右甲号各証に加藤剛に対する送金額が捨場代であるとする控訴人(上告人)本人の原審における供述を合わせ考慮しても、控訴人(上告人)主張の加藤剛に対する総金額が捨場代であるとする事実を認めることはできないというべきである。」と結論づけている。

しかし、右認定は証拠評価を著しく誤ったもので、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背並びに理由不備・理由齟齬の違法がある。

2 原判決の認定うち<1>はそのとおりであるとしても、<2>については証拠を一面的に評価し経験則の適用を誤ったものとして到底是認できない。原判決は、「右送金額が捨場代であり、右甲号証が昭和五五年に作成されて控訴人(上告人)方に保存されていたものであれば、その支払先や金額からして、控訴人(上告人)が右送金額を捨場代以外の支払であると誤解したり、その合計額を誤ったりすることはないものと考えられる。」とし、「ところが、控訴人(上告人)は、原審において、昭和六〇年六月六日付準備書面では四〇九万二七〇〇円(そのうち加藤剛へ支払ったのは三六二万九七〇〇円)、右甲号各証を提出した後の昭和六三年一一月二一日付準備書面では三五一万七八五〇円(加藤剛へ支払ったのは三〇五万四八五〇円)と主張しており、右主張の変遷をみると、控訴人(上告人)は前記加藤剛への送金額を捨場代として主張するかどうかを迷っていたものと窺われ、このことは、右送金額が捨場代以外の支払である可能性を示すものである。」と言う。しかし、本件においては、加藤剛に対する支払はこの甲第一六号証の二、四及び八、第二七、二八号証並びに第五〇号証の一ないし三の金融機関への振込一括受託書・総合振込受取書・払込金受取書ないし払込金受取証の現存しているもの以外にも支払があり、これら裏付けとなる書証の関係で、主張すべき数額を確定することが困難であったために、主張数字が変遷したにすぎず、これをもって原判決の如く結論づけるのは不当である。

また、<3>についても本件上告人の如き零細業者の契約ことに産業廃棄物の捨場の確保が困難であり、ブローカー的人物と身元等を確認せずに取引をせざるを得ない現状を全く無視した認定であり、著しく不当である。

三 以上により、原判決は速やかに破棄されるべきである。

以上

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