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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)158号 判決 1991年10月11日

埼玉県新座市野火止一丁目九番五八号

上告人

株式会社 嶋根鋼商

右代表者代表取締役

嶋根岳雄

右訴訟代理人弁護士

武田清一

埼玉県朝霞市大字溝沼一八九〇番九

被上告人

朝霞税務署長 桜井源寿

右指定代理人

畠山和夫

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行コ)第一六六号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成三年四月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人武田清一の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 藤島昭 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第一五八号 上告人 株式会社嶋根鋼商)

上告代理人武田清一の上告理由

第一点 原判決は、租税特別措置法(以下「法」という)六二条の解釈を誤り、同条に違背し、右は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一 原判決は、上告会社が得意先、仕入先等を招待して創業二五周年記念等行事を行った際に支出した記念行事費(広告費、福利厚生費などに属するものを除き、交際費等に属するものに限る。以下同じ)につき、法六二条(交際費等の損金不算入)の規定の適用上、右記念行事費の額から招待客より受領した祝金の額を控除した残額をもって同条に規定する「支出した交際費等の額」であるとしたのに対し、同条の解釈として、祝金の額は控除すべきでなく、記念行事費全額を損金不算入として課税対象とすべきであり、加えて、右祝金の額も収益として課税対象とすべきであると判示し、これと同様の解釈に基く被上告人税務署長の課税処分を是認したものである。

しかしながら上告人は、記念行事費が、企業会計上は費用とすべきものであるにもかかわらず、交際費の支出抑制という政策から、課税所得計算上特に損金不算入とされ、課税対象とされているものであること、祝金が記念行事のために提供されたものであって、しかも提供者の側において交際費等の損金不算入の適用を経ているものであること、及び、主催者が協賛金などを集めて行う記念行事については、税務取扱上、主催者の「支出した交際費等の額」とされるものは記念行事費の額から受領した協賛金等の額を控除した残額とされているが、祝金と協賛金とで異なる取扱をすべき理由がないこと、以上の諸点に鑑み、祝金の額を記念行事費の額から控除すべきものと考える。

以下に右理由の詳細を述べることとする。

二 記念行事に招待された招待客が祝金を持参するのは、冠婚葬祭に際して祝儀、香典などの名目で金員を持参するわが国の習俗の一環である。このような習俗は、近世以前の、主として農村社会において、冠婚葬祭が部落総出で行われていた時代に、部落構成員が部落のしきたりに従って一定量の米を持参して参加し、一緒に食事をしたことに起源があるといわれる。貨幣経済になってからは、米の代わりに一定の金員を持参するようになったが、このような習俗が、冠婚葬祭が専ら個人の主催により行われ、他人は単に招待客となって参加するようになった現代においても、祝儀、香典等の名目で金員を持参する形で続いているものである。

現代においても、招待客は金員と共に、花(生花、造花)、酒類、果物、菓子などの現物を持参する例がみられるが、これら金品持参の目的は、少なくとも建前上は、その金品を当該祝祭に用立てることにある。

そして、招待客が金員を持参すべきか否か、いか程の額を持参すべきかについては、当該祝祭の内容、主催者と招待客の関係に応じ、慣習(世間相場)上ほぼ一定の基準があり、招待客は右慣習を慎重に考慮して金額を決定する。

以上のことは公知の事実といえよう。

三 本件記念行事における招待客の持参した祝金の性質も、右に述べたところと同様である。

右の歴史的、社会的事実に鑑みると、祝金は、儀礼的には、記念行事を祝って提供されるものであるが、経済的には、記念行事に用立てるために、すなわち、記念行事費の一部分担として提供されるものとみることができる。

これを会計の観点から考えると、祝金の入金は、収益の増加ではなくして、費用の節減とみるべきものと考える。この点は、祝金という現金入金の事実だけから判断すると必ずしも明瞭なものといえないかも知れないが、祝金と現物(花、酒類、菓子など)とが一緒に提供された場合を考えると、それら現物は、収益を構成するものではなくして、記念行事費を補うものであることは明瞭であり、そして、祝金とこれら現物との会計処理を異にすべき理由はないと思われるから、祝金が収益の増加ではなくして費用の節減であることは明らかになると考える。

もっとも、祝金という現金入金が収益の増加か或いは費用の節減かと区別することは、企業会計上は無用なことかもしれない。しかし、企業会計上費用とすべきものについて損金不算入の措置を規定する法六二条を解釈する上においては、右のような会計的理解に立つことによって、祝金を記念行事費から控除することの会計的根拠が得られるものと考える。

四 祝金と協賛金とを対比すると、形式的には、祝金は記念行事を祝って全く任意に提供されるものであり、協賛金は一定の協力関係(義務)に基づき記念行事費用として提供されるものという点に相違があるといえるかも知れないが、実質的にみれば、祝金は、社会慣習によって提供が義務づけられており、またその経済的機能は記念行事費の一部負担に外ならないから、右に述べた協賛金との相違は形式的なものに過ぎず、実質的、経済的にみれば両者の相違は殆どないということができる。

そして、法人税法は法人の所得を課税事実とするものであり、所得は形式によってではなく実質によって把握されるべきものであるところ(実質課税の原則)、所得は収益と費用の差額として把握されるから、収益・費用もまた実質的に把握されるべきである。したがって、法人税法の特別措置である法六二条の解釈においても、そこに規定されている費用(交際費等)については実質的判断がなされるべきである。

そうすると、法六二条の適用上、右に述べた祝金と協賛金の実質的類似性が重視されるべきであって、形式上の相違は重視されるべきでなく、協賛金が記念行事費の一部負担として控除されるのであれば、祝金も同様の理由で控除されるべきであると考える。

五 原判決は、法六二条には祝金を控除すべき旨の規定はないというが、そもそも同条は交際費等について、「法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用」と極めて概括的に規定しているだけで、記念行事について特に規定しているわけではないから、祝金について何ら規定していないとしても、このことをもって祝金の控除を否定する根拠とはなしえない。

祝金を控除すべきか否かは、同条の解釈に委ねられているものというべきである。

同条一項において「法人が(中略)支出する交際費等の額(中略)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金に算入しない。」と規定されているが、右「交際費」につき実質的判断をすべきことは前述したとおりであり、その観点からすれば、「支出した交際費等の額」については、実質的負担に帰した交際費等(記念行事費)の額と解すべきものと考える。

祝金は、記念行事に用立てるために提供されたものであり、その経済的機能は記念行事費の一部負担であって、これを受領した側においては費用の節減として経理処理すべきものであって収益とすべきものではない。このような理由から、上告人(記念行事主催者)の実質的負担に帰した交際費等(記念行事費)の額は、記念行事費全額ではなく、受領した祝金の総額を控除した残額である。

原判決は、祝金を控除しない方が交際費等の支出抑制の法目的にかなう解釈であるという。しかし、法六二条が設けられるに至った社会的背景は、いわゆる社用族が会社の資金を接待、供応、慰安に濫費している風潮であり、かかる濫費が益々増加の一途にある現実が同条の存続と適用範囲の拡大を促した原因である。したがって同条の主たる目的は社用族による交際費の濫費を抑制することにあると思われ、社会的儀礼の一環として行われる記念行事の費用を冗費であるとして抑制することにあるとは思われない。記念行事に際して持参される祝金は、それを支出する側において交際費等として損金不算入の扱いを受けるものであるが、その支出は古くから社会的に是認された慣習に基づくものである。かかる祝金について支出者と受領者双方に課税するという重課(法人税の実効税率は五〇%強であり、祝金は取得に要する費用が零であるから、全額課税対象になるので、支出者と受領者双方合計で、祝金の額の一〇〇%を超える税額を支払うことになる)を敢えてしてまで、記念行事費の支出の抑制を図る必要があるとは到底考えられない。

六、原判決は、祝金を控除しない主たる理由として、記念行事においては主催者の交際行為と招待客の交際行為が各別に存し、祝金は招待客の交際行為の費用であり、記念行事費は主催者の交際行為の費用であり、各々が自己の交際行為の費用を支出したという関係にあるといい、主催者は招待客と記念行事費を分担する関係にはないという。

祝金が招待客の交際行為の費用であるという点は、招待客の立場からみれば当然のことであるが、しかし、単にそのことから、祝金が記念行事費の一部負担であることを否定する根拠にはなりえない。このことは、協賛金もまた協賛者の交際行為の費用であって、なおかつ、記念行事費の一部負担とされていることをみても、明らかである。

祝金を記念行事費から控除すべきか否かは、祝金と記念行事費の関係を正面から考察しなければ正当な解答は得られないと考える。単に、招待客と主催者の交際行為が別個であるというだけでは少しも問題解決にならない。両交際行為の相互の関係の有無、関係の態様を明確にする必要があると考える。この最も肝心な点について原判決は、主催者の交際行為と招待客の交際行為とは「同一の機会になされ密接な関係にはある」というだけであるが、これでは、どのような関係なのか少しも明らかでない。

他方、原判決は、祝金は招待客が「自らの交際行為の目的に従い」支出するものであるというが、招待客の交際行為の目的というものは、招待客個々のそれではなくして招待客一般のそれをいうものと解さざるを得ないところ(さもなければ、個々の祝金ごとに取扱を異にしなければならない可能性も生ずる。)、招待客一般の交際行為の目的というのは、記念行事に参加すること以外にはあり得ないのではなかろうか。しからば、そのための費用とは、記念行事参加費用であり、その経済的機能は記念行事の一部分担に外ならない。

原判決の法六二条の解釈には到底承服できない。

以上

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