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最高裁判所第二小法廷 平成10年(オ)414号 判決 2000年9月22日

名古屋市中区大須四丁目九番二一号

上告人

株式会社オムニツダ

右代表者代表取締役

津田英二

同港区正徳町四丁目九番地

上告人

青山光亮

愛知県日進市浅田町平子四番地の七四一

上告人

津田英二

同知多郡阿久比町大字白沢字表山五―六

上告人

池田美典

名古屋市中村区中島町三丁目六番地

上告人

安井孝安

右五名訴訟代理人弁護士

高須宏夫

水野聡

奥村哲司

名古屋市中川区宮脇町一丁目一〇九番地

被上告人

ファンシーツダ株式会社

右代表者代表取締役

津田荘太郎

右当事者間の名古屋高等裁判所平成七年(ネ)第五四六号、第五五三号損害賠償請求事件について、同裁判所が平成九年一〇月二四日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人高須宏夫、同水野聡、同奥村哲司の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯するに足り、右事実関係の下においては、上告人らが被上告人の営業秘密を開示、使用して被上告人に損害を与えたとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

(平成一〇年(オ)第四一四号 上告人 株式会社オムニツダ 外四名)

上告代理人高須宏夫、同水野聡、同奥村哲司の上告理由

原判決は、その理由において、一審判決を引用しつつ、上告人らの控訴を理由がないものとして棄却しているが、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背、審理不尽、法令解釈の違背、理由不備、理由齟齬の違法がある。

以下に、その理由を述べる。

第一、原判決には、「営業上の秘密」及びその漏洩行為の認定において、当業者における技術水準、常識、検証結果等を無視した、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背、審理不尽、法令解釈の違背があるとともに、理由不備、理由齟齬の違法が存する。

一、原判決の「営業上の秘密」の認定における、本件ロールベニヤの製造方法に関する「基本的な工夫」、「より細かい工夫」及び「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」について

1、原判決は、本件ロールベニヤの製造方法につき、被上告人の「営業上の秘密」として、一審判決を引用して「基本的な工夫」と「より細かい工夫」とを分け、さらに「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」というものを付加し、それらを被上告人の「営業上の秘密」と認定した上、「より細かい工夫」については上告人青山と被上告人とでは異なっていることを認定し、「基本的な工夫」及び「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」につき漏洩行為があったと認定している。

2、しかし、原判決の引用する一審判決が「基本的な工夫」といっているものは、後述二、で述べるとおり公知の技術であって「営業上の秘密」として保護するに値しないものである。

本件のような事案においてはその「より細かい工夫」こそが重要な部分なのであって、その部分に各企業が試験を重ねて、自社の製造方法を確立してきているのであり、もし、本件において「営業上の秘密」として保護されるものがあるとすれば、それはこれらの「より細かい工夫」なのである。

3、さらに、原判決は、一審判決に「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」というものを付加しているが、それが一体何を指しているのか全く明らかでなく、特定性を欠いている。

しかも、「より細かい工夫」については上告人青山と被上告人とでは異なっていることを認定しているにもかかわらず、「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」について漏洩行為があったと推認していること自体矛盾であって、経験則に反するものである。

4、しかも、原判決の引用する一審判決が「基本的な工夫」といっているものは、後述二で述べるとおり、上告人青山を含む当業者において公知の技術であり、さらに上告人青山におけるロールベニヤの製造は被上告人のそれとはかかわりなく独自の調査・経験に基づいて確立されたものであって、原判決が被上告人の「基本的な工夫」と認定する技術のうちにも上告人青山と被上告人とでは異なる部分がある。

それにもかかわらず、原判決は「基本的な工夫」が共通していると認定し、そのことから漏洩行為があったと推認していることは、経験則に反し、そこには理由不備、理由齟齬の違法が存する。

5、さらに、原判決のいう「営業上の秘密」につき、本件は不法行為、債務不履行に基づく請求事案であるも、不正競争防止法の「営業秘密」の解釈が前提となっている。

そして、不正競争防止法において「営業秘密」とは、

<1>「秘密として管理されている」

<2>「生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、」

<3>「公然と知られていないもの」

をいう(同法第二条四項)。

しかし、原判決は、<3>「公然と知られていないもの」(非公知性)の要件につき、その要件自体は認めつつ(原判決二九頁)、本件ロールベニヤの製造技術に関して、ドイツ刊行物に掲載されていること(このことは原判決自身認めている。原判決二九頁)、さらに後述二、で述べるとおり公開特許公報等の刊行物にも掲載されている公知の技術であることを無視し、「営業上の秘密」と認定している。

そこには、「非公知性」の要件を認めつつその要件を無視する理由不備、理由齟齬の違法が存し、また「非公知性」の要件に関して判決に影響を及ぼすことが明らかな法令解釈の違背が存すると言わざるを得ない。

二、原判決の「営業上の秘密」の認定における、本件ロールベニヤの製造方法に関する「基本的な工夫」、「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」の内容について

原判決は、一審判決を引用し、本件ロールベニヤの製造方法における「基本的な工夫」として、

<1>機械の選定・配置

<2>テープをツキ板の表面に貼ること

<3>ブックマッチ方式のジョイント

<4>光線透過による検査

<5>接着剤の選定

<6>ツキ板に接着剤を塗布しその上にフリースを貼ること

をあげ、それらをもって被上告人の「営業上の秘密」と認定し、上告人池田らにおいてそれらの漏洩行為があったと認定する。

しかし、これらは以下に述べるとおり公知の技術であって、保護に値する「営業上の秘密」に該当するものではない。

さらに、上告人青山におけるロールベニヤの製造は、被上告人のそれとはかかわりなく、独自の調査・経験に基づいて確立されている。

1、<1>機械の選定について

a、本件ロールベニヤの製造機械は、一九八〇年頃から、ロールベニヤ製造機械として市場で販売されていた公知のものであって(乙第五二号証(株)友愛社代表者山口報告書)、これらの機械の選定が被上告人の「営業上の秘密」にあたるということ自体不合理なことである。

機械の選定について、原判決の引用する一審判決は、その理由中第三、一、1において、フィンガージョイントマシン・ラミネートマシン・サンディングマシンのメーカー名が同じであることをあげ、その機械の選定が被上告人の「基本的な工夫」であり「営業上の秘密」であるという。

しかし、これらの機械は、市場で販売されており、またドイツの木工機械はその性能において評価が高く世界的にも有名であり(特に、フィンガージョイントマシンの刃の切れ味は日本製のものより良い)、各機械メーカーは販促に努力して各製造業者に販売し、現に多くの製造業者が使用してきたものである。

また、これらの機械は、すべてベニヤの加工機械であって、クーパー社(フィンガージョイトマシンの販売会社)自身、ロールベニヤ製造工程における機械として、デュスポール社(ラミネートマシン)及びクールマイヤー社(サンディングマシン)を推薦しているのである(乙第一一号証 クーパー社からのテレックス)。

もしこれらの機械メーカー名についても被上告人の「営業上の秘密」というのであれば、上告人青山が機械を選定する過程において、どうして他の製造業者が同じものを所有し、また奨めるのであろうか。

b、のみならず、機械の選定については、上告人青山が、ロールベニヤの製造を開始するにあたり、従業員の上田を機械技術者の長屋と共に、ロールベニヤを製造しているコンタクトランバー社(検乙第四号証の一ないし三 商品サンプル)、ウッドテープ社(同社がロールベニヤを製造していることは争いがない)の工場見学に行かせ(証人上田の供述、検乙第三号証 ビデオテープ)、独自に調査を行なっている。

そして、ウッドテープ社においても、被上告人や、上告人青山が使用しているのと同じ、クーパー社(フーザー社製)のフィンガージョイントマシン(検乙第三号証 ビデオテープにも写っている)、デュスポール社のラミネートマシン、クールマイヤー社のサンディングマシンが使われていることは、被上告人代表者自身も認めているところである(原審第一二回被上告人代表者本人調書一五頁)。

さらに、上告人青山において、クーパー社(フーザー社製)のフィンガージョイントマシン、デュスポール社のラミネートマシン、クールマイヤー社のサンディングマシンの機械の選定を行なったのは、(株)友愛社代表者山口光美(通称 光義)の奨めによったものであり(乙第五二号証 (株)友愛社代表者山口報告書)、被上告人の機械の選定とは全く無関係である。

c、また、上告人青山と被上告人の使用している機械は、メーカー名は同じでも機種が異なり(平成三年九月三〇日の検証調書及び証拠保全にかかる検証調書)、その操作方法・性能において異なっており、原判決のいう「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」(具体的に何を指すのか不明であるが)など意味がない。

原判決が、メーカー名のみをもって被上告人の「営業上の秘密」ということはあまりに短絡的に過ぎるものである。

2、<1>機械の配置について

a、原判決の引用する一審判決は、機械の配置について「基本的な工夫」があるという。この「配置」が何を意味するか必ずしも明らかでないが、それが各機械のレイアウトのことをいうのであれは、上告人青山と被上告人とは異なっていることは明らかである(平成三年九月三〇日の検証調書及び平成元年一〇月一二日証拠保全にかかる検証調書)。

b、もし、各機械を用いる順番をいうのであれは、ロールベニヤの製造において用いられる機械の順番は必然的に決まってくるものであり(乙第九号証 丸仲商事株式会社のカタログ参照)、それをもって「営業上の秘密」ということは当業者の常識から乖離している。

のみならず、ロールベニヤ製造において用いる機械及び用いる順番に関して、フィンガージョイントマシン、ラミネートマシン、サンディングマシンをその順番において使用することは、本件と同じくロールベニヤの製造方法にかかる、松下電工株式会社の昭和六〇年一一月特許出願・昭和六二年六月公開の昭六二―一二二七〇四公開特許公報から明らかなとおり、上告人青山がロールベニヤの製造を開始する以前から公知の技術である(乙第五一号 公開特許公報二頁目)。

c、さらに、上告人青山の製造ラインは、同上告人の従業員上田において、アメリカのウッドテープ社で、現実にロールベニヤの製造ラインを調査した上で作られたものであって、上告人青山における製造ラインの確立は、被上告人の機械の配置とは無関係である(検乙第三号証 ビデオテープ、乙第五三号証 上田報告書)。

3、<2>テープをツキ板の表面に貼ることについて

a、まず、フィンガージョイント工程において、補強に用いる仮止めテープは、フィンガージョイントマシンの構造上、常に表面(上面)に貼られるのであり、このことは被上告人代表者自身も認めているところであり(原審第一二回被上告人代表者本人調書一八頁、四四頁)、そのことは公知のことであって「営業上の秘密」にあたらないことは明らかである。

なお、フィンガージョイントマシン自体、補強に用いるテープを貼ってロールベニヤを造る機械として販売されており、クーパー社の販売する機械についても日本代理店が存在し、特殊な機械ではない。

b、次に、ラミネート工程において、フリースを突き板の仮止めテープが貼られている面に貼るか、その裏面に貼るかの問題が生ずるが、フリースを突き板の仮止めテープが貼られている裏面に貼ること自体を「営業上の秘密」とすることは、当業者の常識から乖離している。

なぜなら、それは二者択一の関係にあって、誰でも考えつくとともに選定できるものであるのみならず、前述したロールベニヤの製造方法にかかる松下電工株式会社の昭和六〇年一一月特許出願・昭和六二年六月公開にかかる昭六二―一二二七〇四公開特許公報(乙第五一号証)二頁目上段右欄に「通常、ジョイン強度を上げるために単板1の接合部の裏面あるいは表面にはテープが貼られるが、表面に貼った場合にはサンディング加工の段階で研磨除去される。」との記載にもあるように、上告人青山がロールベニヤの製造を開始する以前から公知の技術であることは明らかであって、テープをツキ板の表面に貼ることが「営業上の秘密」にあたらないことは明白である。

さらに、被上告人のロールベニヤが、その裏面にフリースが貼られ、表面(サンディング工程においてサンディングしてきれいに仕上げた面が表面となる。当然、フリースが貼られていない面である。)仕上げに際して補強テープが削り取られていることは、市場に出回っている被上告人の商品を見れば一目瞭然であって、被上告人においてテープをツキ板の表面に貼っていることは公知のことなのである。

c、のみならず、上告人青山においては、それでもサンディング工程におけるサンディングのし易さ(仮止めテープが表面にあると削りにくいというデメリットがある)の観点から、ラミネート工程においてフリースをどちらに貼るのが良いか何度もテストを繰り返し、その結果突き板の表面に仮止めテープを貼る方法を採用したのである(一審第一八回証人上田一四頁ないし一八頁)。

さらに、上告人青山において、上告人とは異なり仮止めテープに紙テープを使用していることは原判決も認めていることであり、そのことをとっても上告人青山が、自らの調査・研究によりロールベニヤの製造方法を確立したことが明らかである。

なお、上告人青山において使っているサンディングマシンは、被上告人とメーカー名は同じでも機種は異なり、特に被上告人の機械は四連ヘッドであって(平成三年九月三〇日の検証結果)、三連ヘッドである上告人青山の機械とは異なっており、その製造方法はサンディングペーパーの番手等において全く異なっている(そもそも、上告人青山において、被上告人の製造ノウハウを不正取得し、それに従って製造を開始しようとしたのならば、三連ヘッドの別機種を購入するはずがない)。また、前述のように上告人青山は被上告人とは異なり仮止めテープに紙テープを使用しているのであって、原判決のいう「より細かな工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」(具体的に何を指すのか不明であるが)など意味がないのである。

4、<3>ブックマッチ方式のジョイント、<4>光線透過による検査について

a、木材加工におけるブックマッチはそれが短尺方向であれ長尺方向であれ木目合わせのために用いること、また薄手の製品について光にあてて透かして見ることは、当業者において公知の技術であり、これを「営業上の秘密」とすることは、当業者の常識から乖離している。

b、木材加工におけるブックマッチ自体、乙第四七号証及び乙第四八号証の文献からも分かるように、従前から行なわれていたものであり、また上告人青山においても、家具製造当時から行なってきた技術である(原審第一一回証人上田一八頁ないし二一頁)。

さらに、上告人青山の従業員上田がウッドテープ社を見学したときに、同社でも行なわれていたことである(検乙第三号証 ビデオテープ。なお、コンタクトランバー社でも同様、検乙第四号証の一ないし三商品サンプル)。

ブックマッチ方式のジョイントは、当業者において公知の技術であって「営業上の秘密」となることはあり得ず、さらに上告人がブックマッチ方式のジョイントをしていることは、被上告人とは無関係なのである。

c、また、光線透過による検査方法も、当業者において(一般人においても)、薄手のものを検査する時に使うことは常識であるとともに、上告人青山の従業員上田がウッドテープ社を見学したときに、同社でも行なわれていたことなのであって(原審第一一回証人上田二〇頁ないし二三頁)、公知の技術であり、「営業上の秘密」となることはあり得ず、上告人青山が行っていることは被上告人と無関係である。

d、<3>ブックマッチ方式のジョイント、<4>光線透過による検査に関し、原判決の引用する一審判決理由中、第二、一、3、(一)フィンガージョイント工程<3>、<4>、同(三)サンディング工程<3>及び第二二、3、(二)でいうところは、要するに日本で最初にロールベニヤを製造し始めたのは被上告人であるという被上告人の主張をいれて、「営業上の秘密」にあたるといっているようである。

しかし、原判決によれば、例え公知の技術であっても日本で最初に作る製品に関して用いれば、いかなる技術も「営業上の秘密」に該当することになってしまい、極めて不合理である。

被上告人自身、その採用について長年を要したとの主張はしておらず(もし、そうであるならば、そもそも製造開始当時における上告人青山と被上告人の技術レベルが違うというほかはない)、「営業上の秘密」として保護されるべき技術ではない。

さらに、被上告人のロールベニヤ製造においてブックマッチ方式のショイントが用いられていることは、市場に出回っている被上告人の商品を見れば一目瞭然であって、そのことからしても被上告人の技術は公知のことなのである。

5、<5>接着剤の選定について

a、原判決の引用する一審判決はその理由中第三、一、2、(二)で、ラミネート工程の接着剤につき、カネボウNSCの接着剤を被上告人も使用しているというが、被上告人が使用しているのは、カネボウNSCの接着剤でないことは明らかである(平成三年九月三〇日の検証調書)。

しかも、被上告人において昭和五九年当時から使用しないことを検討し始め、使わなくなったカネボウNSCの接着剤をもって(原審第一三回被上告人代表者本人調書四ないし六頁)、同接着剤の選定が被上告人の「営業上の秘密」であるとすること自体矛盾である。

b、のみならず、上告人青山の使用しているカネボウNSCやエイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドの製品は、大手接着剤メーカーの既製品であって(乙第四五号証 エイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドパンフレット、乙第四九号証の一及び二 カネボウNSCパンフレット)、そのパンフレットからも明らかなように、突き板用に製造され市販されている接着剤である。

カネボウNSCやエイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドの製品は市場に出回っているものであり、その選定自体が「営業上の秘密」に該当するというのならば、カネボウNSCやエイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドも理解することができないであろう。

c、さらに、上告人青山において、接着剤を選定するにあたっては、大手接着剤メーカーであるカネボウNSCとエイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドに対しテストを依頼して、自ら決定しているのであって(乙第一五号証「突板フリースの接着性評価」、乙第四四号証「エバーグリップ024 選定について」)、被上告人とは関係なく、独自に調査・研究して使用しているのである。

d、原判決のいう「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」(具体的に何を指すのか不明であるが)が、被上告人が使用を中止した既製品の接着剤に関することであるとして、その接着剤を上告人青山が使用している事実に基づき、何をもって「有用な技術上の情報」としているのか明らかでない。

また、右事実に基づき、何をもって「基本的な工夫」を共通にしているというのか、何ら理由が示されていない。

6、<6>ツキ板に接着剤を塗布しその上にフリースを貼ることについて

a、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼る方式(直貼方式)について、原判決が引用する一審判決は、その理由中第三、一、2、(二)ラミネート工程の<2>で、上告人青山と被上告人がともに直貼方式を用いていると認定しているが、そもそも被上告人は直貼方式を採用しておらず、右は明らかに事実を誤認するものである。

平成三年九月三〇日検証時において、被上告人がラミネート工程において、突き板の裏面に接着剤を塗布し、その塗布面に接着剤を含浸したフリースを貼ると指示説明し、現実にかかる方法で製造しているところを検証したことは、原審において被上告人代表者が自ら認めるところである(原審第一二回被上告人代表者本人調書四三頁)。

b、この点につき、被上告人代表者は、右検証の時は上告人らに真似をされないようにフリースに接着剤を含浸させ、ハイツ社と同じ製造方法をとったと弁解しているが(同本人調書四三頁)、フリースを仮止めテープと反対側に貼ることについてはハイツ社と異なる製造方法を採っているのであって、その理由も明確にされず(同本人調書四五頁以下、原審第一三回同人本人調書二四頁以下)、その供述は矛盾に満ちている。

しかし、もし被上告人代表者のいうように、検証の際、仮に実際の製造方法と異なる製造方法を採ったとすれば、裁判手続自体を愚弄するものであって、検証手続には民事訴訟法第三一六条及び第三一七条が準用されていることから(同第三三五条)、文書の不提出もしくは毀滅その他の使用妨害と同視できるものとして、被上告人はフリースに接着剤を含浸させて突き板に貼っているものと認定すべきである。

c、のみならず、仮に、被上告人代表者のいうように、検証の時にフリースを貼る工程につき、上告人らに真似をされないようにあえて違う方法をとったのが事実であるとするならば、実際に行なっている工程が上告人青山と被上告人とでは同じでないことを自認していることを示すに他ならない(平成元年一〇月一二日の上告人青山の工場の検証で、被上告人代表者は既にその製造工程を確知していた)。

また、そのことは、上告人青山において、ロールベニヤを製造するにあたり、右工程そしてそれ以外の工程も、独自に調査・研究し、製造方法を確立したことを示しているのである。

d、なお、フリースを貼るにあたり、フリースに接着剤を含浸させることなく、突き板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼る方式(直貼方式)は、株式会社友愛社の出願にかかる昭和五八年一〇月特許出願・昭和六〇年五月公開の昭六〇―八七〇四九公開特許公報(乙第九号証 見解書付属資料一一、二頁目下段右欄及び三頁目上段左欄)によって、上告人青山がロールベニヤの製造を開始する以前から公知の技術であることも明らかである。

さらに、また右株式会社友愛社の公開特許公報からもわかるとおり、上告人青山がロールベニヤの製造をするにあたり、株式会社友愛社よりロールベニヤ製造の技術指導を受けたことは明らかである(乙第五二号証 (株)友愛社代表者山口報告書)。

e、また、原判決は、第二、二、3、(二)でフリースの選定方法について述べているが、そもそも上告人青山と被上告人ではその使用しているフリースの種類が異なっており、またそのフリースは既製品として市場で販売されているものであって、その選定にあたっては被上告人青山において独自に調査・研究している(乙第一五号証 突板フリースの接着性評価、第一八回上田証人調書一四頁)。

f、原判決のいう「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」(具体的に何を指すのか不明であるが)が、これらに関することであったとして、被上告人が使用していない直貼方式を上告人青山が使用し、かつ被上告人が使用していないフリースを上告人青山が使用している事実に基づき、何をもって「有用な技術上の情報」としているのか明らかでない。

また、右事実に基づき、何をもって「基本的な工夫」を共通にしているというのか、何ら理由が示されていない。

第二、原判決には、その理由中「第四 損害について」において、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背、審理不尽があるとともに、理由不備、理由齟齬の違法が存する。

一、秘密漏洩行為と損害との因果関係の不存在について

1、原判決は、被上告人の「営業上の秘密」の漏洩がなければ、上告人青山においてロールベニヤの製造ができなかったと認定する。

しかし、第一、で述べたとおり、原判決のいう本件ロールベニヤの製造方法に関する「基本的な工夫」及び「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」は「営業上の秘密」たり得ず、従ってまたその秘密漏洩行為も存しない。

2、また、仮に、原判決のいう「基本的な工夫」及び「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」が「営業上の秘密」に該当し及びその漏洩行為があったとして、第一、で述べたとおり、その「基本的な工夫」といわれる技術についても上告人青山と被上告人とで異なっており、上告人青山におけるロールベニヤの製造は、被上告人のそれとはかかわりなく、独自の調査・経験に基づいて確立されたものであって、それらの漏洩行為と被上告人の主張する損害との間に因果関係はない。

さらに、原判決は、「より細かい工夫」について被上告人と上告人青山とでは異なっていることを認定しているのであって、仮に、「より細かい工夫を修得するのに役立つ周辺の情報」があり、その漏洩行為があったとしても、上告人青山の「より細かい工夫」の習得にはかかわりなく、その漏洩行為と被上告人のいう損害との間に因果関係はないものである。

二、販売可能な商品ができるまでの製造期間の短縮について

1、仮に百歩譲って、上告人らに被上告人の「営業上の秘密」に対する漏洩行為が認められるとしても、上告人青山のロールベニヤの製造において、右秘密が寄与する割合は極めて小さく、原判決の認定するような、それによる製造期間の短縮は存しない。

即ち、その製造に関し、上告人青山において日時と労力が費やされたのは、原判決のいう「より細かい工夫」の部分であり、この「より細かい工夫」がなされなければロールベニヤは製造し得ず、この「より細かい工夫」こそ重要なのである。

然るに、この「より細かい工夫」が、上告人青山と被上告人とでは大きく異なっていることは原判決も認めているのであり、原判決にはそのことを看過した違法がある。

2、また、そもそも上告人青山において、ロールベニヤ製造に携わっている従業員は、もともと婚礼家具製造の職人であり(乙第一二号証 上田陳述書)、木材加工の技術と経験を積んだ者であるのに対し、被上告人のロールベニヤ製造に携わっている従業員は、工場の近所の主婦や若い女性が大部分であり(一審第一六回被上告人代表者本人調書四七頁、四八頁)、原判決には、上告人青山と被上告人との間で、従業員が有する技術・経験において大きな差異があることを看過した違法がある。

3、原判決は、被上告人におけるロールベニヤの製造期間について、昭和五六年九月から昭和五九年一〇月までの三年二か月と認定するが、そこにも判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背が存する。

まず、被上告人が最初に製造を考えたのは、ロールベニヤではなく突板ラッピング商品であり(甲第二三号証「ファンシーロール開発の奇跡」No.4)、上告人らとはそのスタート時点においてその製造計画を異にしていた。

甲第二三号証によれば、本件ロールベニヤの製造に関することは昭和五七年四月に始まるのであって(同号証No.11以下)、その後被上告人においてロールベニヤが本格的に生産され始めたのは昭和五八年六月であり(同号証結論No.3)、その間は、約一年三か月である。

被上告人おいて、昭和五九年一〇月から生産量が増えているのは、建材ルートでの販売を始めたからであって、それは製造技術の問題ではなく、営業上の問題に過ぎない(一審第一九回上告人池田本人調書一九頁)。

そもそも、木工技術者と機械技術者がいて、販売意欲のある機械販売会社と副資材販売会社がいれば、ロールベニヤの製造はでき、さらに、その製造に必要な期間は、当然技術者のレベルと時代の技術進歩によって大きく異なってくる。

上告人青山において、製造にあたったのは家具職人の技術者集団であって、その木工技術のレベルは極めて高く、技術者の技術レベルと技術進歩によって製造期間が短くなっていくのは当然のことであり、原判決の認定する上告人青山における製造期間一一か月は、独自の製造期間として充分な期間である。

4、原判決のいう一年一〇か月の製造期間短縮の認定は、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背があるとともに、理由不備、理由齟齬の違法が存する。

三、損害額について

1、原判決は、被上告人提出にかかる判決書添付「タイプ別販売表」に基づく昭和六三年度の売上高を基準として、平成元年度と平成二年度の売上高の減少をもって損害と認定している。

しかし、そこには判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背、審理不尽があるとともに、理由不備、理由齟齬の違法が存する。

2、まず、昭和六三年度から平成二年度にかけて、被上告人におけるロールベニヤ商品の全売上高は減少するどころか飛躍的に伸びている。

「タイプ別販売表」において、Eタイプ、Mタイプ、Xタイプ以外の「その他のタイプ」欄における売上高をみるに、上告人らがロールベニヤの販売を始めた平成元年度には昭和六三年度の約五倍になっており、さらに平成二年度には昭和六三年度の約一四倍にもなっている。

これは、被上告人らにおいて、原判決の認定するEタイプ、Mタイプ、Xタイプのロールベニヤ以外のロールベニヤへの転換期を示す数値であり、あるいは右タイプの売上高の増加を隠蔽する数値調整と疑うに値する数値である。

然るに、原判決は、その点を看過し、「タイプ別販売表」記載のEタイプ、Mタイプ、Xタイプのロールベニヤの売上高の減少のみとらえ、その減少額全額につき損害と認定しているのであって、極めて不合理である。

3、さらに、原判決は、取引先の競合の認定において、有限会社水谷産業に対する上告人池田の売込みを画していたというが(原判決四〇頁)、そこに挙げられている証拠は、平成七年六月時点でのものであって、右証拠は平成元年度、平成二年度において、上告人池田らが被上告人の取引先に売込をしていなかった証拠でありこそすれ、平成元年度、平成二年度における取引先の競合を示すものではない。上告人らは、その取引先につき独自に努力をし開拓してきたものであって、他に取引先の競合を示す証拠もなく、そこには判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、採証法則違背があるとともに、理由不備、理由齟齬の違法が存すると言わざるを得ない。

以上

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