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最高裁判所第三小法廷 昭和63年(オ)1526号 判決 1993年3月30日

上告人

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

加藤和夫

外一三名

被上告人

株式会社一光

右代表者代表取締役

矢野敬子

右訴訟代理人弁護士

八谷時彦

主文

上告人の本訴請求中、上告人が福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円のうち三一万円の還付請求権の取立権を有することの確認請求を棄却した部分につき、原判決を破棄する。

右部分について被上告人の控訴を棄却する。

上告人のその余の上告を棄却する。

訴訟の総費用は、これを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩佐善巳、同鈴木芳夫、同堀嗣亜貴、同竹田博輔、同牧野広司、同安齋隆、同金子順一、同平良晶、同小林武廣、同菅野隆、同竹下雅彦、同久田稔、同繩田信二の上告理由第一点について

国税徴収法に基づく滞納処分としての債権の差押えをした者と同一債権の譲受人との間の優劣は、債権差押えの通知が第三債務者に送達された日時と確定日付のある債権譲渡の通知が当該第三債務者に到達した日時又は確定日付のある第三債務者の承諾の日時との先後によって決すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第一二三〇号同五八年一〇月四日第三小法廷判決・裁判集民事一四〇号一頁参照)。したがって、右各通知が第三債務者に到達したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互間の優劣関係を決することができない場合には、右各通知が同時に第三債務者に到達した場合と同様に、差押債権者と債権譲受人との間では、互いに相手方に対して自己が優先的地位にある債権者であると主張することが許されない関係に立つものというべきである(最高裁昭和五三年(オ)第三八三号同年七月一八日第三小法廷判決・裁判集民事一二四号四四七頁参照)。右と同旨の原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

一  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告人は、株式会社藤前ウンユーシステム(以下「債務者会社」という。)に対し、昭和六〇年九月二四日現在、二四四万五三〇四円の租税債権を有していた。

2  債務者会社は、九州運輸センター協同組合(以下「第三債務者組合」という。)に対し、昭和六〇年九月二四日現在、運送代金支払請求権六二万円(以下「本件債権」という。)を有していた。

3  香椎税務署職員は、昭和六〇年九月二四日、前記租税債権を徴収するため、国税徴収法四七条及び六二条の規定に基づいて本件債権全額を差し押さえ、右債権差押えの通知(以下「本件債権差押通知」という。)は、右同日、第三債務者組合(福岡市所在の本部)に送達された。

4  他方、被上告人は、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から本件債権を譲り受け、債務者会社は、第三債務者組合に対し、同月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもって右債権譲渡の通知(以下「本件債権譲渡通知」という。)をし、右通知は、同月二四日、第三債務者組合(北九州市所在の営業所)に到達した。

5  本件債権差押通知と本件債権譲渡通知の第三債務者組合への各到達時の先後関係は不明である。そこで、第三債務者組合は、右先後関係が不明であるために債権者を確知することができないことを理由として、昭和六一年六月一七日、本件債権額六二万円を供託(福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号)した。

6  そこで、上告人は、昭和六二年三月二三日、右供託金につき債務者会社が取得した供託金還付請求権を差し押さえた上、被上告人を相手方として、上告人が右供託金六二万円の還付請求権の取立権を有することの確認を求める本訴を提起した。

二  原審は、右事実関係の下において、本件債権差押通知と本件債権譲渡通知の第三債務者組合への各到達時の先後関係が不明である場合には、差押債権者である上告人と債権譲受人である被上告人は、互いに自己が優先的地位にある債権者であると主張することは許されず、共に、第三債務者組合に対し自己の債権の優先を主張し得る地位にはないから、上告人の本件供託金還付請求権の取立権確認請求は失当であると判断して、右請求をすべて棄却した。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1 国税徴収法に基づく滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある右債権譲渡の通知とが当該第三債務者に到達したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互間の優劣を決することができない場合には、右各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当である。

2  そして、右のように各通知の到達の先後関係が不明であるためにその相互間の優劣を決することができない場合であっても、それぞれの立場において取得した第三債務者に対する法的地位が変容を受けるわけではないから、国税の徴収職員は、国税徴収法六七条一項に基づき差し押さえた右債権の取立権を取得し、また、債権譲受人も、右債権差押えの存在にかかわらず、第三債務者に対して右債権の給付を求める訴えを提起し、勝訴判決を得ることができる(最高裁昭和五三年(オ)第一一九九号同五五年一月一一日第三小法廷判決・民集三四巻一号四二頁参照)。しかし、このような場合には、前記のとおり、差押債権者と債権譲受人との間では、互いに相手方に対して自己が優先的地位にある債権者であると主張することが許されない関係に立つ。

3  そして、滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある右債権譲渡の通知の第三債務者への到達の先後関係が不明であるために、第三債務者が債権者を確知することができないことを原因として右債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものと解するのが相当である。

4  これを本件についてみるのに、前記の事実関係によれば、本件債権差押通知と本件債権譲渡通知の第三債務者組合への到達の先後関係が不明であるために、第三債務者組合が本件債権額に相当する六二万円を供託し、被差押債権額(六二万円)と譲受債権額(六二万円)の合計額(一二四万円)は右供託金額を超過するから、差押債権者である上告人と債権譲受人である被上告人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額、すなわち各三一万円の右供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものというべきである。

5  そうすると、右と異なる解釈の下に上告人の本訴請求をすべて棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。そして、前記説示に徴すれば、上告人の本訴請求は、上告人が福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円のうち三一万円の還付請求権の取立権を有することの確認を求める限度で理由があるから右の限度でこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。論旨は右の限度において理由がある。

四  以上の次第で、上告人の本訴請求中、上告人が福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円のうち三一万円の還付請求権の取立権を有することの確認請求を棄却した部分は破棄を免れず、右部分に関する上告人の本訴請求を認容した第一審判決はその限度で正当であるから、右部分について被上告人の控訴を棄却し、上告人のその余の上告を棄却することとする。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官貞家克己 裁判官坂上壽夫 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

上告代理人岩佐善巳、同鈴木芳夫、同堀嗣亜貴、同竹田博輔、同牧野広司、同安齋隆、同金子順一、同平良晶、同小林武廣、同菅野隆、同竹下雅彦、同久田稔、同繩田信二の上告理由

原判決には、以下に述べるとおり、法令の解釈、適用の誤りの違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第一点 <省略>

第二点 原判決には、民法四六七条一項、二項について法令解釈、適用の誤りの違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

一1 原判決は、前記第一点一2のとおり、「ところで、一般に、指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に第三債務者に到達した場合における各譲受人相互の優劣関係については見解が分かれ、議論の存するところであるが、右の場合、各譲受人は他の譲受人に対して互いに自己のみが唯一の優先的債権者であると主張することは許されない結果、確定日付のない通知による二重譲受人相互の関係と同様にみて、各譲受人とも第三債務者に対し自己の債権の優先を主張することはできないと解するのが相当である。」(原判決二丁目裏一一行目ないし三丁目裏六行目)旨判示している。

2 しかしながら、原判決の右法律上の判断には、民法四六七条一項、二項の法令解釈、適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

以下、その理由を述べる。

二1 指名債権が二重に譲渡され、各確定日付のある債権譲渡通知が同時に第三債務者に到達した場合における各譲受人間の優劣関係については、次のとおり学説が分かれている。

① 不可請求説

各譲受人とも対抗要件の具備において欠けるところはないが、相手方に優先する地位を主張し得ない結果、確定日付のない通知による二重譲受人相互間の関係と同様にみて、各譲受人とも債務者に対して債権を行使できず、このため、債務者はいずれの譲受人に対しても、債務の履行を拒むことができるとする学説(長谷部茂吉「確定日附ある証書による債権譲渡の通知と債権仮差押とが同一日である場合の対抗関係」金融法務事情六六六号一二ページ)

② 連帯債権説

各譲受人は、互いに自己を債権者と主張し得るから、債務者はいずれの請求をも拒むことはできないが、債務はもともと一個であるから、いずれか一方に弁済すれば他の債務も消滅するといういわば連帯債権のごときものと解する説(浅沼武「債権が二重に譲渡され同一日付の内容証明郵便による通知がなされた場合相互の対抗力」金融法務事情二七六号一八ページ、山田二郎「指名債権が二重に譲渡され確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達した場合と譲受人の一人からする弁済請求の可否」金融法務事情九二四号一四ページ)

③ 不真正連帯債権説

各譲受人は、一個の債権につき、相互に優先的地位の主張をし得ない反面、債権譲渡を他人によって否定されることもない地位をともに取得しているのであるから、一種の不真正連帯債権とでもいうべき法律関係に立ち、債権全額の弁済を請求し得るが、債務者は一方の譲受人に弁済すれば債務を免れるとする説(横山長「指名債権の二重譲渡と優劣の基準」金融法務事情七三三号一四ページ、石田喜久夫「指名債権が二重に譲渡され確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達した場合における譲受人の一人からする弁済請求」民商法雑誌八三巻三号七九ページ、孕石孟則「指名債権の二重譲渡と関係当事者の法律関係」展望判例法1[民法・民訴篇①]一一五ページ、高木多喜男・座談会「債権の二重譲渡と対抗要件(2)」NBL二〇九号二四ページ発言、本田純一「指名債権の二重譲渡、差押と各譲受人・差押債権者の対抗関係」金融商事判例六〇五号五七ページ)

④ 独立債権説

各譲受人間で優劣関係が決まらない以上、各譲受人は独立して債権を取得し、債務者がそのうちの一人に対し弁済等の債務消滅行為をすれば、その限度で全譲受人の債権が消滅する結果となり、各譲受人間に利害調整等の余地はないとする説(伊藤進・昭和五五年度重要判例解説八八ページ、石垣君雄・最高裁判所判例解説民事編昭和五五年度二四ページ)

⑤ 分割債権説

各譲受人間に優劣関係はなく、各譲受人は平等の割合で債権を分割取得し、自己に帰属する債権額についてのみ債務者に対し支払を求めることができ、債権が分割に適しない場合には、各譲受人は平等の割合で債権を準共有することになるとする説(石田穣「指名債権の二重譲渡・差押と各譲受人・差押債権者の法的地位」NBL二〇三号三六ページ、椿寿夫「二重の指名債権譲渡に際する通知の同時到達と一譲受人の弁済請求権」判例タイムズ四三九号六九ページ)

2 また、連帯債権説、不真正連帯債権説を採る論者の中でも、各譲受人間における配分ないし清算を認めるか否かについて学説が分かれている。すなわち、理論的にいえば、連帯債権については、本来、数個の目的が主観的牽連性ないし主観的共同関係を有するので、内部関係においては受領したものの配分をなすことを本質とするのに対し、不真正連帯債権にあっては、数個の目的の共同性は単に偶発的客観的なものにすぎないのであるから、当然には利益の配分関係を生じないこととなるが、この問題に関しては、このような債権の性質からくる結論とは別に、各譲受人間における優先的地位の有無や公平の観点、さらには執行手続及び不当利得返還請求権についての理解の仕方などから、次のように、見解が分かれている。

① 配分請求権否定説

一人の譲受人が全額の弁済を受けた場合には、これを独り占めできるとする説(浅沼武・座談会「債権の二重譲渡と対抗要件(1)」NBL二〇八号一三ページ発言、宍戸達德ほか「指名債権の二重譲渡と対抗要件」判例タイムズ四三〇号三五ページ)

② 配分請求権肯定説

各譲受人間で清算すべきものとして求償関係ないし配分請求権が生ずるとする説

さらに、その法的根拠については、

ア 不当利得返還請求権とする説(山田・前掲金融法務事情九二四号一五ページ)

イ 不当利得返還請求権を擬制的に援用できるとする説(池田真朗「指名債権が二重に譲渡され確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達した場合における譲受人の一人からする弁済請求」判例時報九七五号一五八ページ(判例評論二六一号二〇ページ))

ウ 債権を終局的に独占できる地位にないことから必然的に清算義務を負うとする説(横山・前掲金融法務事情七三三号一四ページ、石田・前掲民商法雑誌八三巻三号七九ページ)

エ 連帯債務の求償権の裏返しとして一種の配分請求権があるとする説(本田・前掲金融商事判例六〇五号五八ページ)

などがあり、その配分割合についても、

ア 平等割合とする説(山田・前掲金融法務事情九二四号一五ページ、横山・前掲金融法務事情七三三号一四ページ、石田・前掲民商法雑誌八三巻三号七九ページ)ないし頭割りとする説(高木・前掲NBL二〇九号二四ページ)

イ 譲受債権額を按分するとする説(池田・前掲判例時報九七五号一五八ページ(判例評論二六一号二〇ページ))

ウ 債権譲受の際の出捐額に比例した按分とする説(本田・前掲金融商事判例六〇五号五九ページ)

などがある。

3 ところで、前記最高裁判所昭和五五年一月一一日判決は、「指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に第三債務者に到達したときは、各譲受人は、第三債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた第三債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責めを免れることはできないもの、と解するのが相当である」旨判示している。

右判決が、先に紹介した学説のうちいずれの見解を採っているのか、必ずしも明らかではないが、少なくとも、不可請求説を採ったものでないことは明白である。

そして、右判決以後の下級審裁判例をみると、東京地方裁判所昭和五五年三月三一日判決・判例時報九七五号四八ページは、各譲受人間の関係につき連帯債権説を採った上で、その配分関係につき「互いに債権を独占できる地位にないことの必然的な帰結として、債務額(あるいは供託にかかる払渡請求権の金額)が同順位の譲受債権の合計額を下回るときには、譲受債権額の割合で清算がなされるべきものである」旨判示し、また、大阪地方裁判所昭和五六年一一月三〇日判決・判例時報一〇四八号一二八ページは、公平の見地を根拠に分割債権説を採り、「二重譲受人の一方は、他方に対し、互いに平等の割合(譲受人が二人の場合は各二分の一の割合)で、譲受債権に対する権利を主張することができる」旨判示しており、いずれも不可請求説を採っていないのである。

4 以上のとおり、この問題に関する学説、判例は区々に分かれており、いまだに定説をみない状況にある。しかしながら、少なくとも、原判決の採る不可請求説は、債務者がいずれの譲受人に対しても弁済をする必要がないという不当な結果を容認することとなる上、前記最高裁判所判決の判旨に明らかに反するものと解される。

三 以上のとおりであるから、原判決には、民法四六七条一項、二項について法令解釈、適用の誤りの違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

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