大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和56年(あ)561号 判決 1982年11月16日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人吉羽忠、同川村明、同山本卓雄の各上告趣意について

各所論は、違憲をいうがごとき点をも含め、その実質は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張にすぎず、適法な上告理由にあたらない。

弁護人小西武夫、同小泉征一郎の上告趣意第一、第二について

所論は、憲法七六条一項、八一条、三七条一項、三一条、二一条違反をいうが、その実質は、原判決の判断遺脱及び被告人らの行為の正当性を主張し、また、公務執行妨害罪における職務行為の適法性などを争う単なる法令違反の主張にすぎず、いずれも適法な上告理由にあたらない。

同第三について

所論は、道路交通法(以下「道交法」という。)七七条一項四号、長崎県道交法施行細則(昭和三五年長崎県公安委員会規則第一〇号。ただし、同四七年同県公安委員会規則第四号による廃止前のもの。以下同じ。)一五条三号の各規定は、道路における集団示威運動の権利を不当に制約するものであるから憲法二一条に違反するというのである。

しかし、道交法及び長崎県道交法施行細則の右各規定は、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資する」という目的(道交法一条参照)のもとに、道路を使用して集団行進をしようとする者に対しあらかじめ所轄警察署長の許可を受けさせることにしたものであるところ、同法七七条二項の規定は、道路使用の許可に関する明確かつ合理的な基準を掲げて道路における集団行進が不許可とされる場合を厳格に制限しており、これによれば、道路における集団行進に対し同条一項の規定による許可が与えられない場合は、当該集団行進の予想される規模、態様、コース、時刻などに照らし、これが行われることにより一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、しかも、同条三項の規定に基づき警察署長が条件を付与することによっても、かかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合に限られることになるのであって、右のような場合にあたらない集団行進に対し警察署長が同条一項の規定による許可を拒むことは許されないものと解される。しかして、憲法二一条は、表現の自由を無条件に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであることは、当裁判所の確立した判例(昭和三五年(あ)第一一二号同年七月二〇日大法廷判決・刑集一四巻九号一二四三頁、同四一年(あ)第五三六号同四三年一二月一八日大法廷判決・刑集二二巻一三号一五四九頁、同四二年(あ)第一六二六号同四五年六月一七日大法廷判決・刑集二四巻六号二八〇頁、同三四年(あ)第一五四〇号同三五年三月三日第一小法廷判決・刑集一四巻三号二五三頁)であって、前記のような目的のもとに、道路における集団行進に対し右の程度の規制をする道交法七七条一項四号、長崎県道交法施行細則一五条三号の各規定が、表現の自由に対する公共の福祉による必要かつ合理的な制限として憲法上是認されるべきものであることは、これらの判例の趣旨に徴し明らかなところである。所論は、理由がない。

また、所論は、道交法七七条一項、一一九条一項一二号の各規定は、その内容があいまい不明確であるから憲法二一条に違反するとも主張するが、道交法の右各規定による規制の場所、対象等は明確であって、その内容が所論のように不明確であるとはいえないから、所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

同第四、一について

所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例は、所論のように、わが国が独立国として締結したいわゆる日米新安保条約(昭和三五年条約第六号日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)がわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものではないとの判断を含むものとは認められないから、所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

同第四、二、(一)について

所論は、憲法三一条違反をいうが、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法二条が所論にいう不合理な差別法規として憲法三一条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和三四年(あ)第七一〇号同年一二月一六日判決・刑集一三巻一三号三二二五頁、同四一年(あ)第一一二九号同四四年四月二日判決・刑集二三巻五号六八五頁)の趣旨に徴し明らかなところである。所論は、理由がない。

同第四、二、(二)について

所論は、憲法三一条違反をいうが、その実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例