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最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)351号 判決 1984年5月29日

上告人

遠藤長之亟

右訴訟代理人

成毛由和

立見廣志

成毛昭子

被上告人

東京信用保証協会

右代表者理事

磯村光男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人成毛由和、同立見廣志の上告理由について

一原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  訴外昌和貿易株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四六年五月二二日訴外港信用金庫(以下「訴外金庫」という。)との間で当座貸越等を内容とする信用金庫取引約定を結び、訴外会社の代表取締役である訴外本多功は、昭和四九年五月二二日訴外金庫に対し、同人所有の本件建物について被担保債権の範囲を右信用金庫取引による債権等とし、極度額を六〇〇万円とする根抵当権を設定し、かつ、訴外会社の右借受金債務を連帯保証した。右根抵当権の設定登記は、同月二九日経由された。

2  訴外会社は、訴外金庫から昭和四九年五月二九日、右信用金庫取引約定に基づいて四八〇万円を、利息を年一一パーセント、遅延損害金を年18.25パーセントとし、弁済方法について同年一二月から昭和五二年五月まで毎月二五日限り一六万円宛分割して弁済する旨の約定、及び右分割金の弁済を一回でも怠つたときは期限の利益を喪失し残額を一時に弁済する旨の約定で、借り受けた。

3  被上告人は、昭和四九年五月一日訴外会社から、近く借受が予定されていた右借受金債務につき信用保証の委託申込を受けて、同日これを承諾し、同月二一日訴外金庫に対し右借受金債務を保証した。

4  被上告人は、右信用保証の委託申込を承諾するに際し、(1) 訴外会社との間で、求償権の内容について、被上告人が訴外金庫に対し代位弁済したときは、訴外会社は被上告人に対し被上告人の代位弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から支払ずみまで年18.25パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の特約をし、(2)さらに、本多との間で、民法五〇一条但書五号の定める代位の割合について、被上告人が代位弁済したときは、被上告人は本多が訴外金庫に対し設定した前記根抵当権の全部につき訴外金庫に代位し、右(1)の特約による求償権の範囲内で、訴外金庫の有していた右根抵当権の全部を行使することができる旨の特約をした。

5  訴外会社は、前記借受金につき昭和四九年一二月二五日限り支払うべき分割金の弁済を怠り、残額を一時に弁済すべきこととなり、前記根抵当権は、昭和五一年五月六日担保すべき元本が確定し、同年六月四日元本確定の附記登記が経由された。そして、被上告人は、同年七月一九日右借受元本のうち四五四万円を代位弁済し、同日右代位弁済を原因として右根抵当権の全部について移転の附記登記を経由した。

競売手続費用

四一万七一二〇円

多畑耕三

債権額

元本

一一〇〇万円

損害金

一二四万三五六四円

交付額

右各金額

被上告人

債権額

元本

四五四万円

損害金

二七万五三八五円

交付額

元本

二二七万円

損害金

一三万七六九三円

岡島商店

債権額

元本

一二〇一万七七三〇円

損害金

三五〇万八二一五円

交付額

元本

八四九万一七八五円

損害金

三五〇万八二一五円

上告人

債権額

元本

九七〇万三〇〇〇円

利息

一五七万六七三七円

損害金

三四八万九一七九円

交付額

元本

〇円

利息

〇円

損害金

一四四万一六二三円

6  原審被控訴人(一審被告)である株式会社岡島商店(以下「岡島商店」という。)は昭和四九年一二月四日に、上告人は昭和五〇年三月二八日にそれぞれ本件建物について根抵当権設定登記を経由した。

7  東京地方裁判所は、被上告人の先順位根抵当権者である訴外多畑耕三の申立により本件建物について不動産競売手続を開始し、本件建物を二八五一万円で競売し、昭和五二年七月二二日の本件配当期日において次の売却代金交付計算書を作成した。

すなわち、被上告人が元本四五四万円及びこれに対する代位弁済の日の翌日である昭和五一年七月二〇日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで年18.25パーセントの割合による損害金八三万五三六〇円の債権額を届け出たのに対し、同裁判所は、右債権額のうち、右元本の二分の一である二二七万円及びこれに対する代位弁済の日である昭和五一年七月一九日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで商事法定利率である年六分の割合による損害金一三万七六九三円に限つて交付すべきものとした。

8  これに対し、被上告人は、元本四五四万円及び損害金八三万五三六〇円の全部について優先弁済を受けることができると主張して異議を申し立てたが、完結しなかつた。

そこで、被上告人は、後順位根抵当権者である岡島商店及び上告人を被告として本訴を提起し、前記売却代金交付計算書中、岡島商店に対する交付額の元本八四九万一七八五円のうち一五二万六〇四四円、上告人に対する交付額の損害金一四四万一六二三円の全部を取り消し、これを被上告人に対する前記交付額に加え、被上告人に対する交付額を結局元本四五四万円及び損害金八三万五三六〇円の合計五三七万五三六〇円とする旨の判決を求めた。

以上の事実関係のもとで、原審は、被上告人の岡島商店及び上告人に対する右の請求を全部認容すべきものとし、これと異なる一審判決は不当であるとしてこれを取り消す旨の判決をし、右判決は、岡島商店に関する部分については上告期間満了により確定し、上告人のみが上告した。

二そこで、まず、上告理由のうち、保証人である被上告人は、債務者である訴外会社との間で代位弁済による求償権の内容につき民法四五九条二項によつて準用される同法四四二条二項の定める法定利息と異なる特約をしても、第三者である上告人に対しては右特約の効力をもつて対抗することができないと主張する部分について、検討する。

弁済による代位の制度は、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために、法の規定により弁済によつて消滅すべきはずの債権者の債務者に対する債権(以下「原債権」という。)及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり、したがつて、代位弁済者が弁済による代位によつて取得した担保権を実行する場合において、その被担保債権として扱うべきものは、原債権であつて、保証人の債務者に対する求償権でないことはいうまでもない。債務者から委託を受けた保証人が債務者に対して取得する求償権の内容については、民法四五九条二項によつて準用される同法四四二条二項は、これを代位弁済額のほかこれに対する弁済の日以後の法定利息等とする旨を定めているが、右の規定は、任意規定であつて、保証人と債務者との間で右の法定利息に代えて法定利率と異なる約定利率による代位弁済の日の翌日以後の遅延損害金を支払う旨の特約をすることを禁ずるものではない。また、弁済による代位の制度は保証人と債務者との右のような特約の効力を制限する性質を当然に有すると解する根拠もない。けだし、単に右のような特約の効力を制限する明文がないというのみならず、当該担保権が根抵当権の場合においては、根抵当権はその極度額の範囲内で原債権を担保することに変わりはなく、保証人と債務者が約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約によつて求償権の総額を増大させても、保証人が代位によつて行使できる根抵当権の範囲は右の極度額及び原債権の残存額によつて限定されるのであり、また、原債権の遅延損害金の利率が変更されるわけでもなく、いずれにしても、右の特約は、担保不動産の物的負担を増大させることにはならず、物上保証人に対しても、後順位の抵当権者その他の利害関係人に対しても、なんら不当な影響を及ぼすものではないからである。そして、保証人と右の利害関係人とが保証人と債務者との間で求償権の内容についてされた特約の効力に関して物権変動の対抗問題を生ずるような関係に立つものでないことは、右に説示したところから明らかであり、保証人は右の特約を登記しなければこれをもつて右の利害関係人に対抗することができない関係にあるわけでもない(法がそのような特約を登記する方法を現に講じていないのも、そのゆえであると解される。)。以上のとおりであるから、保証人が代位によつて行使できる原債権の額の上限は、これらの利害関係人に対する関係において、約定利率による遅延損害金を含んだ求償権の総額によつて画されるものというべきである。

上告人の引用する判例(最高裁昭和四七年(オ)第八九七号同四九年一一月五日第三小法廷判決・裁判集民事一一三号八九頁)は、その原審の確定した事実関係及び上告理由に照らすと、本判決の以上の判断と抵触するものではない。

三つぎに、保証人である被上告人と物上保証人である本多との間でされた民法五〇一条但書五号の定める代位の割合を変更する特約の第三者に対する効力の存否に関する違法をいう部分について、検討する。

民法五〇一条は、その本文において弁済による代位の効果を定め、その但書各号において代位者相互間の優劣ないし代位の割合などを定めている。弁済による代位の制度は、すでに説示したとおり、その効果として、債権者の有していた原債権及びその担保権をそのまま代位弁済者に移転させるのであり、決してそれ以上の権利を移転させるなどして右の原債権及びその担保権の内容に変動をもたらすものではないのであつて、代位弁済者はその求償権の範囲内で右の移転を受けた原債権及びその担保権自体を行使するにすぎないのであるから、弁済による代位が生ずることによつて、物上保証人所有の担保不動産について右の原債権を担保する根抵当権等の担保権の存在を前提として抵当権等の担保権その他の権利関係を設定した利害関係人に対し、その権利を侵害するなどの不当な影響を及ぼすことはありえず、それゆえ、代位弁済者は、代位によつて原債権を担保する根抵当権等の担保権を取得することについて、右の利害関係人との間で物権的な対抗問題を生ずる関係に立つことはないというべきである。そして、同条但書五号は、右のような代位の効果を前提として、物上保証人及び保証人相互間において、先に代位弁済した者が不当な利益を得たり、代位弁済が際限なく循環して行われたりする事態の生ずることを避けるため、右の代位者相互間における代位の割合を定めるなど一定の制限を設けているのであるが、その窮極の趣旨・目的とするところは代位者相互間の利害を公平かつ合理的に調節することにあるものというべきであるから、物上保証人及び保証人が代位の割合について同号の定める割合と異なる特約をし、これによつてみずからその間の利害を具体的に調節している場合にまで、同号の定める割合によらなければならないものと解すべき理由はなく、同号が保証人と物上保証人の代位についてその頭数ないし担保不動産の価格の割合によつて代位するものと規定しているのは、特約その他の特別な事情がない一般的な場合について規定しているにすぎず、同号はいわゆる補充規定であると解するのが相当である。したがつて、物上保証人との間で同号の定める割合と異なる特約をした保証人は、後順位抵当権者等の利害関係人に対しても右特約の効力を主張することができ、その求償権の範囲内で右特約の割合に応じ抵当権等の担保権を行使することができるものというべきである。このように解すると、物上保証人(根抵当権設定者)及び保証人間に本件のように保証人が全部代位できる旨の特約がある場合には、保証人が代位弁済したときに、保証人が同号所定の割合と異なり債権者の有していた根抵当権の全部を行使することになり、後順位抵当権者その他の利害関係人は右のような特約がない場合に比較して不利益な立場におかれることになるが、同号は、共同抵当に関する同法三九二条のように、担保不動産についての後順位抵当権者その他の第三者のためにその権利を積極的に認めたうえで、代位の割合を規定していると解することはできず、また代位弁済をした保証人が行使する根抵当権は、その存在及び極度額が登記されているのであり、特約がある場合であつても、保証人が行使しうる根抵当権は右の極度額の範囲を超えることはありえないのであつて、もともと、後順位の抵当権者その他の利害関係人は、債権者が右の根抵当権の被担保債権の全部につき極度額の範囲内で優先弁済を主張した場合には、それを承認せざるをえない立場にあり、右の特約によつて受ける不利益はみずから処分権限を有しない他人間の法律関係によつて事実上反射的にもたらされるものにすぎず、右の特約そのものについて公示の方法がとられていなくても、その効果を甘受せざるをえない立場にあるものというべきである。

上告人の引用する前記判例は本件と事案を異にし、本判決の以上の判断は、右の判例に抵触するものではない。

四叙上の見解に立つて、本件についてみるに、原審の適法に確定した前記事実関係のもとにおいては、被上告人が本件配当期日において訴外会社に対して有する原債権は、被上告人が届出をした貸金元本四五四万円及びこれに対する期限の利益を失い残額を一時に支払うべきこととなつた日ののちの日である昭和五一年七月二〇日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで貸付の際の約定利率である年18.25パーセントの割合による遅延損害金八三万五三六〇円を超えて存在することは明らかであり、右の原債権を担保する被上告人の本多に対して有する根抵当権の極度額は六〇〇万円であり、そして被上告人が本件配当期日において訴外会社に対して有する求償権は、代位弁済した四五四万円及びこれに対する信用保証の委託申込を承諾したときにおける求償権の内容についての特約に基づく遅延損害金である代位弁済の日の翌日である昭和五一年七月二〇日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで年18.25パーセントの割合による遅延損害金八三万五三六〇円となるから、被上告人は、原債権である貸金元本四五四万円(なお原判決添付第二売却代金交付計算書中順位7の債権の種類として「代位弁済元金」とあるのは右貸金元本の趣旨と解すべきである。)、遅延損害金八三万五三六〇円の交付を受けることができ、上告人は全く交付を受けることができないものというべきである。

以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木戸田久治 横井大三 伊藤正己 安岡滿彦)

上告代理人成毛由和、同立見廣志の上告理由

原判決には左の如く判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反があります。

一、原判決は、本件根抵当権により優先弁済を主張しうる被担保債権の範囲の額について検討するとして、

(一) 求償権の範囲については、甲第四号証により、昭和四九年五月一日被上告人と訴外昌和貿易株式会社(以下「訴外会社」という)との間で、被上告人が訴外港信用金庫(以下「訴外金庫」という)に対し本件借受金債務を代位弁済した場合、訴外会社は被上告人に対し、被上告人の代位弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年18.25パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨を合意した事実を認めることができるとし、民法四五九条二項が準用する同法四四二条二項は任意規定であるから、被上告人は訴外会社に対し、代位弁済額金四五四万円及びこれに対する本件代位弁済の日の翌日である昭和五一年七月二〇日から完済まで年18.25パーセントの割合による遅延損害金を求償しうるものとし、

(二) 次に、被上告人が右求償権の満足をうるため訴外金庫に代位して本件根抵当権により優先弁済を主張しうる被担保債権の額について、民法五〇一条但書五号は任意規定であり、被上告人と訴外本多功との間で、負担部分の割合につき右と異なる約定をし、代位の関係についてもその割合によるべき旨の約定をすることは何ら妨げられるものではなく、右のような約定がなされた場合には、右両者の関係はこれに従つて定まると解するのが相当であるとし、甲第四号証により、昭和四九年五月一日被上告人と訴外本多功との間で、本件(イ)の特約、すなわち被上告人が訴外金庫に対し本件借受金債務を代位弁済した場合には、訴外本多功は訴外会社と連帯して、被上告人に対し、被上告人の代位弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年18.25パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の合意並びに本件(ロ)の特約、すなわち被上告人が右代位弁済をした場合には、被上告人は訴外本多功が訴外金庫に設定した本件根抵当権の全部につき訴外金庫に代位し、被上告人の取得する求償権の範囲内で訴外金庫の有していた一切の権利を行使できる旨及び訴外本多功が訴外金庫に対し保証債務を履行し、又は訴外本多功が訴外金庫に設定した根抵当権が実行された場合でも、訴外本多功は被上告人に対し何らの求償をしない旨の合意がなされた事実を認めることができるとし、被上告人と訴外本多功とは、右各特約により、訴外会社が訴外金庫に対して負担する本件借受金債務につき、物上保証人としての訴外本多功と保証人としての被上告人の負担部分の割合につき訴外本多功のそれを全部とし、被上告人のそれを零とする旨定めると同時に、被上告人や訴外金庫に代位して訴外本多功に対し本件根抵当権を行使する場合の両者の関係について、右負担部分の割合に応じ、被上告人において訴外金庫から代位取得した貸付金債権の全部を被担保債権として主張できることとする旨の約定をしたというべきであるとし、被上告人は、本件根抵当権を代位行使するにあたり、少なくとも訴外本多功に対する関係においては、民法五〇一条但書五号の規定にかかわらず、訴外金庫から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権全部について、本件根抵当権の極度額の範囲内において優先弁済を主張しうることとなるとした。

(三) そして、上告人が昭和五〇年三月二八日本件建物につき根抵当権設定登記を経由した、訴外金庫の後順位抵当権者であることが認められるとし、このような後順位抵当権者の存在する配当手続においても、被上告人が、右(一)認定の求償権の範囲につきなされた民法四五九条二項、四四二条二項の規定と異なる遅延損害金の約定及び右(二)認定の物上保証人・保証人間の代位の関係につきなされた民法五〇一条但書五号の規定と異なる内容の約定に従つて、本件根抵当権を代位行使しうるかを検討しなければならないところ、主債務者に代わつて弁済した保証人が求償権の満足を図るべく債権者の有していた根抵当権を代位行使する場合、その被担保債権として優先弁済を主張しうるのは、債権者から代位取得した主債務者に対する債権についてであつて(求償権は右根抵当権及び債権を代位行使しうる上限を画するものである。)、弁済による代位の性質上、右被担保債権の額は、右代位取得された債権額を超えることはありえず、しかも右根抵当権の極度額の範囲内に限られるすじあいである。一方、債権者の有していた先順位の根抵当権の存在及びその極度額は登記薄上公示されているのであるから、後順位抵当権者は、右先順位の根抵当権者によつて当該根抵当権の被担保債権全部について極度額の範囲内において優先弁済を主張されることを甘受すべき立場にあり、このような立場にある後順位抵当権者との関係で前記各約定の効果を肯定し、これに従つて代位弁済者による根抵当権の代位行使を認めても、それによつてもたらされる結果は、後順位抵当権者にとつては自己の容喙することのできない他人間の法律関係によつて事実上、反射的にもたらされるものにすぎない。

よつて、本件のような事実関係のもとにおいては、被上告人は、後順位抵当権者たる上告人の存在にかかわらず、本件任意競売事件において、求償権の範囲及び代位の関係が前記各約定(本件(イ)、(ロ)の特約)に従つて定められるべきものとして、本件根抵当権を代位行使して配当をうけるものというべきであるとした。

二、しかしながら、

1 民法第五〇一条但書五号の規定の根拠は社会の慣行にあるのであり、また、当該担保物件の後順位担保権者、差押債権者らの第三者の利益をも考慮した規定なのである。一般に契約法の規定が任意規定と言われるのは、契約自由を前提としているものであり、これは当事者の利益は当事者の意思に委せようとするものであり、当事者間においてのみ効力があるからであり、第三者の利益は害さないことを当然の前提としているものである。

よつて、本件のように第三者の利益を害する場合には、第三者に対する関係では特約の効力は否定されるべきものなのである。民法第五〇一条但書五号の規定は、第三者に対する関係で言えば、当事者の特約によりその適用が排除されるべきものではないのである。

特に、民法五〇一条の規定は法律であるから、仮りに任意規定であつたとしても、当事者以外の第三者は、その公示がされない以上、同法条等の適用があると予期して法律行為を行うものであり、代位の可能性及び代位の範囲については、民法五〇一条等が規定しているのであるから、民法五〇一条の「予メ」の解釈により対抗しえる第三者と、同条の解釈により導き出される代位の範囲より以上の範囲を主張する場合における対抗しえる第三者とは別異であつても、何ら異とするところはないのである。むしろ、求償権による法定代位は、本来法の予定している範囲で行われるべきものであり、民法五〇一条の規定する代位の範囲を代位するときのみ、同条但書一号の規定による登記をすればよく、それより以上に代位の範囲を主張する場合には、同号の公示方法以外の後記の公示手段を要すると解釈することが正当な解釈である。

一般人が後順位担保権者になる場合といえども、常に先順位の被担保債権の範囲、弁済の有無、その可能性、時期、保証人の有無、保証人による弁済、その可能性等について注意してなるものであるから、同号の代位の範囲についての後順位担保権者の利益は固有の利益なのであつて、単なる反射的利益といつたものではないのである。

更に、一般人は、民法五〇一条等に反する特約がない場合が殆んどである為に、第三者は特約がないことを予期して法律行為を行うものであるから、その特約を第三者に対抗する為には、右公示方法以外の後記の事前の公示が必要なのである。

原判決のいう公示は、代位の対象となる債権と求償権とが全く別異の債権であることを看過・混同したものであり、事前の公示の解釈を誤つているものである。公示は後記のように、当初より抵当権者を被上告人とする方法による必要があるものである。

2 右解釈を採用しても、被上告人の経済的要求は次の方法により達成できるものである。即ち、法の予定している代位の範囲外にまで代位しようとするのであれば、被上告人主張のように、訴外金庫の次順位抵当権者とする抵当権を設定し、その旨の登記をすることも一方法であるとともに、被上告人の資産に対する信用はあるのであるから、主たる債権については担保権を設定することなく、直接原因を「……保証契約に基く求償債権の……設定」として被上告人が抵当権者となればよいものである(乙第二号証の乙区弐、乙第三号証の乙区壱参照)。

右前者の抵当権の設定によれば、登記費用はかかるとはいえ、完全に、被上告人の求償権は担保されることになるのであり、後者の方法によれば、右費用の重復さえなく、完全に担保されるのである。本件のように、公示されていない約定を契約の当事者ではなく、その約定の内容を全く知らない第三者に主張する為には、右両者の内の少くとも一つの抵当権設定方法を採用して、被上告人と訴外本多功との約定を公示すべきものであつたのである。

3 民法五〇一条・四五九条・四四二条についての上告人の右解釈は、東京高等裁判所昭和四六年(ネ)第二八二三号・昭和四七年六月一五日第一四民事部判決(判例時報六七五号五三〜五五頁)及び同裁判所昭和五二(ネ)第二二二二号・昭和五三年五月三〇日第一二民事部判決(判例時報八九六号三四〜三六頁)によつても支持されているものである。

また、前記遅延損害金についての原審の判断は、最高裁判所昭和四九年一一月五日第三小法廷判決・昭和四七年(オ)第八九七号配当異議事件(金融法務七三八号三四〜三五頁)が、「債務者及び保証人と上告人(本件被上告人に該当する。以下同じ)との間で上告人の代位弁済による求償債権の損害金について法定利息と異なる約定をしても、上告人は右約定をもつて第三者(本件上告人に該当する)に対抗することができないとした原審の判断は正当である。」に反するものであり、右最高裁判所の判決の趣旨に原審の民法五〇一条についての解釈もまた反しているものである。

4 よつて、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反があるので、上告の趣旨記載の判決を求めるものであります。

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