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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(オ)19号 判決 1979年7月31日

上告人

千葉うめ

右訴訟代理人

小竹耕

山根祥利

被上告人

西田八郎

外二名

右三名訴訟代理人

綿引幹男

山田揚一

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人小竹耕、同山根祥利の上告理由について

原判決及び記録によると、原審は、被上告人が訴外西田とめによる本件土地の取得時効を主張するにあたり、まず同女が大正年間に訴外広瀬吉蔵から本件土地を賃借してその占有を開始した旨を主張し、後に本件土地の取得時効の成立を争う上告人が右主張を援用するに及んでこれを撤回し、上告人がその撤回に異議を述べたのに対して、占有開始原因がどのようなものであるかは取得時効の要件ではなく、したがつて占有の開始が賃貸借による旨の被上告人の主張は自白にあたらないとの見解のもとに、その撤回を認め、訴外西田とめが大正一五年六月三〇日当時本件土地に居住していたとの事実に基づいて同日を始期とする本件土地の取得時効の成立を認めたことが明らかである。

しかしながら  占有者は所有の意思で占有するものと推定されるのであるから(民法一八六条一項)、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負うというべきであり、占有が自主占有であるかどうかは占有開始原因たる事実によつて外形的客観的に定められるものであつて、賃貸借によつて開始された占有は他主占有とみられるのであるから(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年六月一八日第一小法廷判決・裁判集民事九九号三七五頁参照)、取得時効の効果を主張する者がその取得原因となる占有が賃貸借によつて開始された旨を主張する場合において、相手方が右主張を援用したときは、取得時効の原因となる占有が他主占有であることについて自白があつたものというべきである。

してみると、本件においては、本件土地の占有が賃貸借によつて開始されたとする被上告人の供述が自由にあたることが明らかであるから、まず自白の撤回の点について右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであるかどうかを審理し、その結果、自白の撤回が許される場合には本件土地の自主占有開始の時期及び原因について、自白の撤回が許されない場合には賃貸借による占有が自主占有に変更されたことを裏付ける新権原の存否について、それぞれ審理する必要があるものというべきであるところ、これと反する見解のもとに、これらの点について何ら審理をすることなく、訴外西田とめによる本件土地の取得時効の成立を認めた原判決には、法令の解釈の誤りによる審理不備の違法があるというべきであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、叙上の点についてはさらに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(横井大三 江里口清雄 高辻正己 環昌一)

上告代理人小竹耕、同山根祥利の上告理由<省略>

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