大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)1364号 判決 1979年7月10日

上告人

馬場正行

上告人

木内博

右両名訴訟代理人

新原一世

外二名

被上告人

株式会社 泰正

右代表者

正木烝司

右訴訟代理人

林弘

外六名

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

職権をもつて調査するのに、被上告人の本訴請求は、被上告人が訴外西日本ゴルフ株式会社(以下「訴外会社」という。)から交付を受けた同会社振出にかかる本件約束手形が満期に不渡りとなつた事実、及び、右手形は振出当時すでに満期に支払われる蓋然性が少なかつたものであつて、これが振り出されたことについて当時訴外会社の取締役であつた上告人らに悪意又は重大な過失による任務懈怠があつた事実を前提とし、右任務懈怠により被上告人は右手形金額相当の損害を被つたとして商法二六六条の三第一項の規定により上告人らに対し右賠償を求めるものである。しかしながら、原審の確定したところによれば、昭和四六年四月ごろ訴外会社と被上告人との間にゴルフ場設計図作成請負契約が締結され、本件約束手形は同年七月一八日に右契約に基づく報酬金の支払のために振り出され、被上告人に交付されたものである、というのである。これによると、訴外会社は、被上告人に対し、本件約束手形の振出によつて新たに債務を負担したわけではなく、右請負契約によつてすでに債務を負担していたものであり、したがつて、被上告人の損害というのは、請負契約に基づく報酬金の支払を受けられなかつたことにほかならないのであるから、特段の事情があるのでない限り、満期に支払われる蓋然性の少ない約束手形の振出自体によつて被つたものということはできない。そうすると、これと異なる見解のもとに、右手形振出自体につき上告人らの任務懈怠があり、これにより被上告人が損害を被つたとして上告人らに損害賠償を命じた原判決には、商法二六六条ノ三第一項の解釈適用を誤つた違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

したがつて、原判決は破棄を免れないものであるところ、記録にあらわれた本件訴訟の経過及び本件の前記事実関係に照らせば、被上告人の本訴請求の本旨とするところは、ひつきよう、被上告人が本件約束手形の手形金、ひいては、その振出の原因となつた前記請負契約の報酬金の支払を受けることができなくなつたという損害につき、上告人らの任務懈怠を理由として、商法二六六条ノ三第一項の規定に基づき、その賠償を求めることにあるものと解されるから、これらの点を考慮して被上告人の請求の当否につき更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(服部高顯 江里口清雄 高辻正己 環昌一 横井大三)

上告代理人新原一世、同田口公丈、同浜口卯一の上告理由<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例