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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(行ツ)28号 判決 1975年2月25日

東京都港区港南二丁目四番一〇号

上告人

株式会社小林商店

右代表者代表取締役

田中金太郎

右訴訟代理人弁護士

佐川浩

港区芝五丁目八番一号

被上告人

芝税務署長 葛間寛

右指定代理人

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四六年(行コ)第六四号法人税課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四九年一月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐川浩の上告理由第一点について。

原審の確定した事実関係のもとについて原判示の役員退職給与のうち四八〇万円を超える部分の金額が不相当に高額であるとした原審の判断は、首肯しえないものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立脚して原判決を論難するにすぎないものであって、採用することができない。

同第二点について。

本件の延払条件付譲渡につき上告人のした確定決算の経理が、翌事業年度に計上すべき賦払金を係争事業年度の収益に計上した点において、法定の延払基準の方法に従ったものといえないことは明らかであり、この場合に、右違法な部分のみを除外して延払経理による課税の特例の適用を認めることはできないとした原審の判断は、正当というべきである。また、当時の法人税法及び同法施行令の規定によれば、確定申告書に法定の明細書を添付することは右特例の適用を受けるための要件をなすものと解すべく、本件において上告人がこれを添付しなかったことにつき「やむを得ない事情」があったものと認められないとした原審の認定判断も、相当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

(昭和四九年(行ツ)第二八号 上告人 株式会社小林商店)

上告代理人佐川浩の上告理由

第一点 原判決は法人税法同法施行令等の解釈適用を誤り、又は理由に齟齬がありこれが判決に影響を及すことは明らかであるから破棄されるべきである。

第一、支給退職金額が過大であるか否かの点について

一、原判決は、上告人がその前代表取締役小林虎吉に対して支給した退職金が過大であるとする被上告人の主張を認容し、その根拠法令として法人税法第三六条及び同法施行令第七二条を挙げている。

右第三六条は「内国法人が各事業年度において、その退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理をしなかった金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない」と規定し同法施行令第七二条は「内国法人が各事業年度において、その退職した役員に対して支給した退職金の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人で、その事業規模が類似するものの役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるそのこえる部分の金額とする」と定めている。

右の規定の趣旨とすることは、要するにある法人が退職役員に退職金を支給した場合、それが不相当に高額であるときは、その不相当な部分は損金として認めないということであり具体的にある退職金が不相当であるか否かの判定にあっては、施行令第七二条に依るべきであるということにつきると考える。

二、然るに原審は、被上告人が、前記退職金額の相当性を認定するにあたり、「被控訴会社(上告人)と同一事情によって役員退職金を支給した同業種の会社のうちから被控訴会社と同程度の事業規模を有するD、F、H社を選び、右各社の退職役員の退職時における給与月額及び業務従事期間によって、従業員退職金支給算式による退職金額に対する役員功績倍率を算定し、その平均倍率をもって本件退職金額の相当性を判断する基準としたことは」前記法令の趣旨に合致するとしているのである。

三、然し乍ら前記の如く法人税法第三六条は支給退職金額が不相当に高額であるときは、損金算入を認めないとしているのであり、施行令第七二条は、相当性の認定の仕方を規定しているのであるが、原審によれば上告人と同規模の会社D、F、Hの三社と比較さえすればそれで一般的に相当であるか否かの算定基準として妥当であるとしているものである。

ある一つの事象に与えられた数値が一般的に云って相当であるか否かは、他の類似の三つの事象と比較すれば妥当な結果を得られるなどということは常識的に見ても異常と云う外はない。これを仮に科学的な立場又は数理統計的な立場から見ても、将に異常と云う外はない。

勿論法の世界は科学又は数理統計の場合と異る事は云うまでもないことであるが、前記法人税法第三六条に規定する「不相当に高額」及び施行令第七二条に云う相当性は少くとも与うる限り、数理統計現象に近い相当性を要請しているものと云わなければならない。何故なら、税務署が退職支給額を否認すると云うことは反射的に国民に新たに義務(否認の結果の納付義務)を課することになるのであるから、税務署としては与うる限り右一般性或は相当性を確保できる方法に依るべきであることは行政の根本原理であるからである。それ故被上告人が上告人と同規模のD、F、H三社との比較によって上告人の役員退職支給額の相当性を判断したことを認容した原審は将に前記法令の適用を誤ったものであると云わざるを得ず、この誤りが判決に影警を及すことも明らかであると云わざるを得ない。

第二、原判決は又上告会社と「同業種の会社のうちから被控訴会社と同程度の事業規模を有するD、F、H社を選」んで比較した被上告人の主張を認容しているのであるが右D、F、H社が上告人と同業且同規模と云い得ないものであることは第一審判決も認定しているとおりである。即ち右D、F、H社は食肉の販売業ではあるが、主たる営業内容は御売業に止るのに対し上告会社は卸売業の外に三つの小売店(支店)と更にもう一つの中間卸売支店を有するのであってこの点から云っても右D、F、H社と上告人が同業種同規模と云うことはできない。

原審はこの点について施行令第七二条を適用したのであるが、右の如く同業同規模のものと比較すべきことを求めている同法を本件の場合に適用したのは誤りであると云わざるを得ない。

第三、さて本件は役員退職給与金の相当性の問題であるが、原審は前記D、F、H社との比較により役員の役員功績率を二・一倍とした被上告人の主張を認容している。この方式は功績率の相当性を導き出す方式としては、首肯に価せず違法なものであることは前述のとおりであるが第一審判決も喝破している様に上告会社とD、F、H社が例えその平均売上金額、所得金額及び積立金増加額に於て近似しているとは云え役員の当該会社に対する功績率は「法人の創立、再興への功績、資本金額等によって異るのはもとより、設備投資の有無及び功罪によって異る」というべきであるのに、前記D、F、H社がこれらの点に於て上告人と類似するものであることを認めるに足る証拠も、その主張もないのであるからこの点に於ても原審は前述の適用法条を誤ったものであると云わざるを得ないのである。尤もこの点について原審は「前掲D、F、H社に於ても夫々右に類似と或は匹適する事情があり得るわけである」から被上告人の認定した功績率は相当であるとしているのであるが、前述の如く「右に類似し、或は匹敵する」事情については何らの主張も立証もないのであって、原審が「あり得る」とした事は、何らの証拠に基かない独断であると云わざるを得ず、これは民事訴訟の大原則を逸脱していることは明らかであって、この点に於ても原審は違法を侵しているのである。

第四、原審は右法人税法第三六条及び同法施行令第七二条の解釈について「役員に対する退職金が従業員に対する退職金と異り、益金処分たる性質を含んでいることにかんがみ右基準に照らし一般に相当と認められる金額に限り収益を得るために必要な経費として損金算入を認め、右金額を超える部分は益金処分として損金算入を認めなかった趣旨」であるとしている。抽象的にはこの解釈は正しい様にも見られるが、深く考えると根本的な誤りがあるのである。

即ち原審の右解釈によれば役員の退職金の中には「益金処分たる性質を含んでいる」から「一般に相当と認められる金額に限り」収益を得るために必要な経費として損金算入を認め、これを超える場合は損金算入を認めないとしているのである。云い代えれば支給された退職金の額が一般に相当と認められた範囲のものであるならばそれは収益を得るための必要経費として認められるとしているのであるがこれは論理が逆である。即ち収益を得るために必要な経費内であるならばそれは一般に相当と認められ得る範囲に含まれるということでなければならない。従って右の解釈に従うと支給された額が相当なものであるならば必要経費として損金算入を認めるとされているのであるが何故にそれが損金として算入され得るかという積極的態度は全く見られないのである。

之に対し第一審判決は「法人の所得の算定にあたり、ある支出が損金として益金からの控除が許されるのは、当該支出が収益を得るために必要な経費であることによるもので」ありこれは役員退職金である場合にも全く同様であるとしているのである。従って後者に於ては支給退職金の相当性の認定にあたってそれが「収益を得るために必要な経費」であるという要素を帯有するか否かと云うことに焦点をあてるべきであると云う積極的な大前提が厳存する。

両者の解釈の相異は皮相的には変りない様に見られるが、具体的な事案にあたっては全く異る結論を導びき出す結果とならざるを得ない。この差異は前項に於て指摘したとおりであって、原審によれば施行令第七二条に従って単に比較することをもって足りるとするのに対し(この比較自体全く不当であることは前述のとおりである)必要経費性を追及する第一審判決に於ては、類似法人との比較方法も厳重となるばかりでなく、当該役員の法人に対する貢献度をも深く追及せざるを得ないのであって何れの解釈が正しいかは、もはや指摘するまでもない程である。

第五、結局に於て原審は前記各法条の解釈及び適用を誤り、従って為された判断の理由に齟齬を来しているものと云わなければならないから、破棄を免れないと思料する。

第二点 原判決は法人税法第六三条、同法施行令第一二四条乃至第一二七条の解釈適用を誤っている法令違背がありこれが原判決に影響を及すことが明らかであるから破棄されるべきである。

第一、上告人の為した営業権譲渡代金の延払経理の点について

一、上告人は東京食肉市場株式会社に対し昭和四一年一二月一三日上告人の芝浦屠場における営業権を代金一八、五一四、五〇〇円で譲渡し内金九、五一四、五〇〇円を、同年同月一六日に受領し、残額九〇〇万円は昭和四二年から昭和四四年まで毎年四月一日に三〇〇万円宛分割して受領することになったので、法人税法第六三条、同法施行令第一二四条に基き延払経理に基く確定申告をした。

然るに原審は右各法条の外同法施行令第一二六条、同第一二七条により被上告人の主張を認容したのであるがこれらの法条の趣意「企業の恣意的経理による利益操作乃至法人税の逋脱を防止し、各納税義務者による租税の公正な分担を図ることを目的とするものであるからその実体的要件はもとより手続的要件に関しても右各規定は効力規定でありみだりにこれをルーズに解することは許されない」としているのである。

二、ところでいわゆる延払経理が認められるためには法人税法第六三条、同法施行令第一二四条による延払基準の方法による経理をすること並に同施行令第一二七条が規定する明細書を添付することの二点につきるのである。

(一) ところで前記延払基準の方法によって計画するということは要するに法人税法第二二条に云う如く「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計理することを云うにつきるのであって(被上告人は第一審以来種々の説論を試みているが)従って上告人の本件における計理上の処理が右の基準に合致するか否かにつきることになる。ところで「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は云わば貸借対照表その他の会計帳簿上に於て妥当な処理をしているかどうかであって何らの特別のことはないのであるからこの意味で通常の形に従っている上告会社の会計処理もこの基準に合致しているものと云わざるを得ない。問題は昭和四二年四月一日に収受すべき金三〇〇万円を前年度分の収入として処理したことが右基準に照らして妥当かどうかと云う点であるがこの点については上告人が第一審以来主張してきた様に右三〇〇万円を一日前の年度の計算に繰入れたことは形式上法の規定に違背すると云い得る余地もあるかも知れないが、時間的な差が僅か一日であるということに加えて上告人には所得につき隠蔽或はその操作の意思もなく又右の結果上告人は所定の日時以前に納税をすることになるのであるから納税者自ら期限の利益を放棄したにすぎず逆に云えばこの事によって被上告人の利益に奉仕しているのであるからこれを以って「延払基準の方法」によらない会計処理と云うことはできない。

(二) 仮りに前記法条を形式的に解し、前記三〇〇万円の繰上げ処理を以て「延払基準の方法」に合致しない処理であったとしても、第一審判決の指摘する如く、右三〇〇万円の繰上げ計理は、他の「適法な行為計算と分離し得べきものであるから、当該違法の行為計算のみを否認すれば足り単にそれが含まれている故をもって前記の適法な行為計算による延払経理そのものまで否認し、未収残金全額を本件係争事業年度の益金として一括課税するが如きことは許されない」ものと云うべきである。然るに原審はこの点について、前記各法条の各要件は「企業の恣意的経理による利益操作乃法人税の逋脱を防止し、租税の公正な分担を図ることを目的とするものであるから、その実体的要件はもとより手続的要件に関しても、右各規定は効力規定であってみだりにこれをルーズに解することは許されないとしているのであるが、ルーズに解すると云うことと、立法趣旨に合致するように解することとは勿論峻別されなければならない。同様に「効力規定」と解するということと形式的に解することも峻別されねばならない。必須なことは、立法趣旨に忠実でありかつ行政法規として合目的的に解することである。かかるに見地からするときは、原審の右法令の解釈は誤謬に満ちたものと云わざるを得ない。一つの瑕疵により何故他の適法な行為計算をも否認しなければならないのであろうか。何故に原審の解釈が合目的的と云い得るのであろうか、理解に苦しむと云わざるを得ない。

およそ行政行為は「自由裁量権が認められている様な外観を呈する場合に於ても、違法行為に対する制裁は、当然その違法行為に対して、或は又特定の目的に考え、必要な限度に止らねばならぬものであって、その必要の限度を超えて苛酷な処分をした場合には法の適用を誤る違法処分として、行政訴訟の原因になることを免ない。何となればこれらの場合も例え法規の明瞭な制限はなくとも、その処分がその目的の為に必要な限度に止らねばならぬことは法治主義の当然の要請である」(田中二郎・行政争訟の法理・二三八頁)と云うべきであって、行政法規の解釈適用もこの大原則を外れることは許され得べきものでない以上、原審の右各法条の解釈適用は誤りであることは明らかである。

(三) 原審は又、前記のような解釈から、本件係争年度における上告人の法人税の確定申告書に明細書を添付しなかったことをも、形式的にのみに解して被上告人の主張を認容したのであるが、この点については上告人が第一審以来主張してきたように、実情としては明細書の有無は厳格に扱われていなかったのであり、むしろこの添付は軽視され、かつ廃止される方向に進んでいたのであって事実昭和四二年度から右明細書の添付は要しないことになったのである。

而して上告人の現実の申告は昭和四二年であったことから、これが廃止されたものと誤認したのであって、かゝる状況下に於て上告人がこれを添付しなかったことは、法人税法第六三条第三項に云う「やむを得ない事情」にあった場合に該当すると云うべきである。

仮りにそうでないとしても右第六三条第三項の明細書の添付は「税務署長の延払経理に関する調査を容易ならしめんとする趣旨に出たものにすぎないのであって、明細書の添付が同法第六三条第一項適用の要件をなすものではないと解すべきである」(第一審判決)から、原審は同条の解釈適用を誤ったものと云わなければならない。

以上の如く原審は法令の解釈適用を誤り、これが判決に影響を及すことは明らかであるから破棄されるべきであると思科する次第である。

以上

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