大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)799号 判決 1971年3月09日

上告人

岡本喜之助

代理人

木原鉄之助

被上告人

美川村農業協同組合

右代表者

坂本素行

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木原鉄之助の上告理由第一点ないし第六点について。

梅木仁三郎は、昭和四〇年五月六日上告人からその所有の山林を代金五〇〇万円で買い受けたが、右代金中二五〇万円は未済であつたので、同年九月二八日、右残代金中一五〇万円の支払のため有限会社宮田製材所振出の約束手形四通(額面五〇万円一通、同四〇万円二通、同二〇万円一通)を上告人宅へ持参したところ、上告人から右各手形を被上告人組合で現金化して上告人の被上告人組合における普通預金口座へ振込入金するよう依頼されたので、上告人の印章を預り、被上告人組合において同組合参事堀内正行に対し上告人の代理人として一五〇万円の借入れを申し込み、右印章を用いて、上告人を借主とし、梅木仙三郎および谷原元三郎を連帯保証人とする金額一五〇万円、弁済昭和四一年一月二二日、利息日歩三銭一厘とする借用金証書(乙第一号証)を作成し、これに基づいて被上告人組合より右手形を担保として一五〇万円を借り受け、同時にこれを上告人の被上告人組合における普通預金口座に振込入金し、ついで同年一〇月六日更に前記山林の残代金一〇〇万円の支払のため有限会社宮田製材所振出の額面一〇〇万円の約束手形を上告人宅へ持参したが、このときも右と全く同様に上告人から右手形の現金化を依頼され、同人の印章を預り、被上告人組合において、上告人を代理して一〇〇万円の借入れを申し込み、金額一〇〇万円、弁済期昭和四一年二月一二日、利息前同様なる借用金証書(乙第二号証)を作成して被上告人組合より一〇〇万円を借り受け、同時にこれを前同様上告人の被上告人組合における普通預金口座に振込入金したものであり、したがつて、右一五〇万円および一〇〇万円の貸付契約は被上告人組合と上告人の代理人梅木仙三郎との間に成立したものというべきである旨、また、右二口の振込金は上告人が梅木仙三郎をして有限会社宮田製材所振出の約束手形を被上告人組合で現金化させた金員であり、そして、右現金化の方法は梅木仙三郎が上告人から預つた印章を用いて上告人を借主とし右手形を担保として被上告人組合より借入れる方法によつたものであることを上告人において充分知悉していたのであるから、被上告人組合のなす本件貸付金の主張をもつて禁反言の法理ない信義誠実の原則上許されないものということはできない旨、被上告人組合が上告人に対して有する右貸付金債権と上告人組合に対して有する普通預金および定期預金債権との相殺の結果被上告人組合は上告人に対し前記貸付金一〇〇万円のうち残元本二七一、一〇七円およびこれに対する昭和四一年一二月三一日以降日歩三銭一厘の遅延損害金債権を有するものというべく、したがつて、この範囲内で上告人は被上告人組合に対し金二四九、〇四二円およびこれに対する昭和四二年二月二日以降完済に至るまで日歩三銭一厘の金員の支払をしなければならない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。所論の乙号各証の記載も、原判決におけるその点に関する理由説示に徴し、原審の右認定を妨げるものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例