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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)305号 判決 1969年6月24日

上告人

池田一夫

代理人

野村幸由

被上告人

不二越精機株式会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野村幸由の上告理由一について。

およそ、控訴状が民訴法三六七条二項の規定に違背するか、法定の印紙の貼用を欠くときは、裁判長は、同法三七〇条、二二八条の規定にしたがい補正を命ずべきであつて、当事者がその補正に応じた後であつても、更に控訴状の右の瑕疵があることを発見したときは、重ねてその補正を命ずることができるものと解するのを相当とする。したがつて、原審裁判長が本件控訴状につき二回にわたり印紙の追貼を命じたことについて、何らの違法も存しないものといわなければならない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。

同二および四について。

本件控訴状には、本件上告代理人が上告人(原審参加人)の訴訟代理人として、主位的に民訴法七五条の規定により、予備的に同法七三条、七一条の規定により、当事者参加の申出をする旨ならびに上告人および第一審被告の訴訟代理人として第一審判決全部を不服として控訴の提起をする旨の記載があることは、記録上明らかである。ところで、右参加の申出は従前の被上告人(第一審原告)と第一審被告との間に存する訴訟のほかに参加人たる上告人と第一審原告との間に新たな訴訟の成立を目的とするものであるから、第一審被告の控訴の提起にともなう法定の印紙を貼用するほかに、上告人の右参加の申出につき民事訴訟用印紙法五条ノ二、五条、二条の定めるところにより印紙の貼用を要するものであり、右参加の申出は、主位的申立、予備的申立を通じて上告人の受ける利益は同額にして共通であるから、上告人はいずれか一方の申立により上告人の受ける利益を基準として所定の印紙を貼用すべきものと解するのを相当とする。したがつて、原審裁判長が二回にわたる補正命令をもつて、右控訴および右参加の申出に応ずる法定の印紙額に不足する印紙の追貼を命じた措置は正当であり、原判決に所論の違法は存しない。もとより、第一審における共同被告が共同して控訴を提起した場合において、控訴人の受ける利益が共通であるときは、控訴状に貼用すべき印紙は、いずれか高額の利益を受ける一方控訴人について定める訴額を基準とすべきことは所論のとおりであるが、本件のように共同控訴人の一名が当事者として参加の申出をすると共に控訴の提起をした場合にあつては、これと同一に論ずることができないこと先に説示したところから明らかである。論旨は、独自の見解であつて、採用することができない。

同三について。

およそ、所有権に関する仮登記が実体関係を欠き無効であるとしてその抹消登記手続を請求する訴においては、右抹消登記の経由によつて原告の受ける利益をもつて訴額とすべきものであるが、右利益の具体的算定を容易とする特段の事情の存しないときには、右訴額は、所有権に基づく物の引渡(明渡)請求権を訴訟物とする場合に準じ、目的不動産の価額の二分の一を基準として定めるのを相当とする(最高裁昭和三一年一二月一二日民事甲第四一二号民事局長通知「訴訟物の価額の算定基準について」別紙七(一)、裁判所時報二二一号二頁参照)。また、原審が本件仮登記の抹消登記手続請求と所論の附記登記の抹消登記手続請求とにつき訴額を定め、あるいは別個に訴額を算出したものでないことは記録上明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づきまたは原判決を正解しないでこれを非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(下村三郎 田中二郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)

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