大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)666号 判決 1967年10月31日

上告人

稲垣孝一

右訴訟代理人

森田久治郎

被上告人

太田かな

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森田久治郎の上告理由第一点および第五点について。

論旨は、加藤栄宏には全共有者を代表して本件共有地を売り渡す権限があつた旨の事実認定は、証拠によらない独断であり、かつ当事者双方の申し立てない事実であるというにあるが、被上告人が右事実を主張していることは明らかであり(他の共有者にもその権限があつたかどうかは本件に関係のないことである。)、かつ、右事実認定は、原判決の引用する一審判決が挙示する証拠関係に照らして是認できなくはない。論旨は、ひつきよう、原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用することができない。

同第二点について。

上告人は本件不動産の共有者の一人であり、加藤栄宏が全共有者を代表して被上告人に本件土地を売り渡した売買契約の当事者の一人というべきであるから、民法一七七条にいう「第三者」にあたらないものというべく、したがつて、被上告人の所有権取得を否認できないものというべきである。論旨は排斥を免れない。

同第三点について。

原判決に所論の点についての判断遺脱の違法のあることは認められない。論旨は採用することができない。

同第四点について。

本件訴訟は、被上告人が本件土地所有権に基づき、現に登記名義を有する上告人に対して移転登記を訴求するものであつて、本件売買契約に基づく義務の履行を求めるものではない。したがつて、共有者全員を被告とすべきではなく、また上告人が現に単独所有の登記名義を有する以上、かつての共有持分のいかんにかかわらず、単独所有権の移転登記をする義務があること明らかである。論旨は、いずれも理由なく、採用することができない。

同第六点について。

原判決の所論の点についての判断は正当であつて、所論の違法は認められない。論旨は排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

上告代理人森田久治郎の上告理由

<前略>

一九、仮りに加藤栄宏に売買について代理権かあつたとすれは共有者か共有物を共有して居れは所有権移転の義務あることは原審判決所論の通りてあることは言をまたないか本件には既に加藤栄宏の被上告人へ売つた不動産は加藤三樹雄や上告人へ売買され県から売買変更契約書により直接所有権移転されておる。

即ち第三者へ移転登記されておる。

仮令二重売買かあつたとしても共有者としては所有権移転は不可能てある。

損害賠償の義務かあるのみてあると考へる。

(イ) 被上告人と加藤栄宏(共有者全員の代理権かあつたものと仮定)との売買は民法一七七条によつて登記かないから第三者には対抗出来ない。

(ロ) 県や日比野京三郎等(最初県からの買受人)及ひ丙第一二号証土地売買変更契約て分譲地を買受けた七十九名は被上告人と共有者との前記(イ)の売買契約当事者とは明かに第三者てある。

(ニ) 又県と日比野京三郎外七名と県から所有権移転を受けた丙第一二号の土地売買変更契約の当事者と被上告人及ひ被上告人へ売買した共有者全員は第三者てあることも明かてある。

(ニ) 勿論丙第一二号土地売買変更契約は分譲地の共有者全員から県への申請によるものてあるか出来上つた契約は県と日比野京三郎と分譲地を共有者から譲受けた七十九人との三者契約者て共有者は契約には加はつておらない尤も共有者の内ても分譲地を譲受けたものは譲受人とし加はつておるかそれは共有者としてはない。

(ホ) 従つて被上告人と加藤栄宏との売買契約か有効と共有者に効力かあると仮定しても県や日比野京三郎等及ひ七十九名の土地売買契約変更者に対抗は出来ない。

(ヘ) 上告人は多門銀二か分譲地の共有者全員の同意を得て買受けた本件分譲地を多門銀二から譲渡を受け丙第一二号証の土地売買変更契約に基き直接県から所有権を取得し県から直接移転登記を受けたものてあるから仮令上告人か共有者から売買せられたとしてもそれは多門銀二の買受け且つ引渡后てあり登記もないから多門銀二や上告人に対抗も出来ない筈てある。

此点に関しても第一審第二審判決は民法第一七七条の解釈を誤つたものと信する。<中略>

二一、第四点は第一審及ひ原審判決は被上告人と加藤栄宏との売買契約を有効と認め共有者全員は所有権移転義務あることを前提として上告人も売買契約履行の協力義務かあるから所有権移転登記義務かあると判示して居る。

(イ) しかし共有者としては分譲地は既に全部処分し之れに基き譲受人へ所有権移転する様申請し丙第二号証土地売買変更契約によつて県と日比野京三郎と譲受人とて従来の契約を廃棄し改めて契約をしたものてあるから其の後は共有者には分譲地については所有権も持分もない。

従つて被上告人と加藤栄宏との売買か有効としても所有権移転は不可能てある。

仮令其后他の事情て共有者の一人しか所有権取得したと仮定しても共有者の一人丈けて其物の所有権移転義務はない。

(ロ) 殊に本件は加藤栄宏と被上告人との間て売買されたこと及ひ代金か支払はれたことは他の共有者は誰も知らない又代金も勿論受取つておらない。

(ハ) 仮令共有者か其売買の事実も知らす代金支払の事実も知らないとしても代理人のやつた行為に対し本人として共有者全員は売買履行の義務かあることは原審並に第一審判決所論の通りてあるかそれは共有者物件か存在する場合てある共有物件か既に処分されて共有物件てない場合は履行不能て損害賠償の問題か生するのみと考へる。

(ハ) 共有物件を共有者の全員の代理人か売買した場合に其所有権移転請求は全員に対しなさねはならぬ必要的共同訴訟てある。

(ホ) しかし共有者各人の売買協力義務は持分譲渡の範囲てあるか他人の持分まても移転する義務かあるかの問題はあるか何れにしても共有関係か存続する場合に限られ共有関係か無くなれは共有者としては所有権移転義務は無くなり仮令其后其共有者の一人か其所有権を取得しても所有権移転の義務はないものと云はなけれはならないと考へる。

蓋し共有者は持分に応して所有権を分有しておる関係上他人の分有する権利を侵し得ないのて全体の所有権を処分するには全員の同意を要するに過きない。

従つて所有権移転に同意した場合ても代理人て同意した場合ても持分に応して責任かあるものと信する。

依つて共有者各人の売買協力義務は持分の範囲内の責任てあつて他人の持分迄移転する義務はない各共有者か自己の持分を移転すれは完全な所有権移転か出来るからてある。

(ヘ) 第一審及ひ原審判決はこの点についても民法共有理論の解釈を誤つたものと考へる。

即ち被上告人と加藤栄宏との間になされた本件の土地と他の一筆の分譲地の売買契約か仮りに代理権かあつたものと仮定しても上告理由第二点て説示した如く既に其二筆の土地は売買以前に本件土地は多門銀二に売却され更に上告人か譲渡受け引渡を受けており他の一筆は原田阪次郎へ売却され更に加藤三樹雄に譲渡され引渡も済んており共有者全員の申請により県と日比野京三郎等と最終の譲受人七十九名との三者契約て丙第一二号の土地売買変更契約て県から直接本件土地は上告人へ他の一筆は加藤三樹雄へ所有権か移転し登記もされておる。

この所有権移転は第三者に対しても対抗出来るのてある。

被上告人も上告人以外の共有者も此県から直接所有権移転せられた丙第一二号の土地売買変更契約の当事者てないから第三者てあり之等の者に対抗出来るものてあることは上告論旨第二点に述へた通りてある。

(ト) 仮りに被上告人と加藤栄宏との間の売買契約について分譲地の共有者てあつた上告人は売買履行について協力義務か判示の如くあつたと仮定しても其協力義務の内容は上告論旨第三に述へた如く上告人の指分の範囲内てあり且つ而も其所有物か共有として存続する場合てある。

本件の様に第三者たる県から所有権移転を受けた土地に対しかつて其土地か共有物件てあり上告人か共有者の一員てあつたことを理由に所有権移転の義務を認め他の共有者の負担部分の責任迄も上告人に負はしめたのは民法第一七七条及ひ共有に関する法規の解釈を誤つたものと考へます。<後略>

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