大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和41年(あ)1286号 決定 1966年11月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人三浦強一の上告趣意は、いずれも単なる法令違反の主張であつて(なお、所論昭和三七年六月一日付婦人新聞―第一三九号―の記事を、公職選挙法一四八条の二、三項の「報道及び評論」に当るものとした原審の判断は相当であり、また同条項の規定に違反して、新聞紙に選挙に関する報道及び評論を掲載した者が、その掲載にかかる新聞紙を頒布した場合には、同法二三五条の二、三号の罪と、同法二四三条三号の罪とが成立し、両者は、併合罪となるものと解するのが相当である。)、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(柏原語六 田中二郎 下村三郎)

弁護人三浦強一の上告趣意

第二点 非可罰行為にたいする処罰

原判決は被告人にたいし判示第一の新聞の不法利用(報道評論)の罪について、処罰し、さらに判示第二の禁止を免れる行為の罪として判示第一の判示新聞の頒布行為を処罰せられたのである。しかし被告人がすでに判示第一について処罰せられたばあいは、当然頒布せられる新聞紙上の特質上、判示報道評論は新聞の頒布性に対する不法利用にほかならないから、新聞の発行頒布の行為を、報道評論行為と分離して処罰(二重処罰)すべきものではない。報道評論における執筆または掲載の行為そのものが選挙法益を害するのではなくしたがつて執筆掲載をなしただけでは地位利用不法掲載の準備行為にすぎないのであつて現実に新聞の頒布性そのものを利用することによつて、はじめて実行々為があつたということができるのである。そうであるとすれば、法第一四八条の二③の地位を有する者が、同法所定の掲載行為をなすことは、その新聞雑誌が頒布せられることについての認識のもとに、かつ、現実に頒布せられる状態におかれることをもつて、同法条の犯罪行為がはじめて成立するものといわなければならない。したがつて、右掲載行為をなした者の刑罰責任の中には必然的に法一四二条(第一審は一四六条)および同第二四三条第三項(第一審は第五項)の刑責をすでに包括するものと解しなければならない。とくに一つ一つの掲載行為とその一つ一つの頒布行為とは事実上区別することができるが、後者が掲載責任者によつてなされるばあいたとい数部を頒布しても、発行全部数を頒布しても、結局選挙にかんする法益侵害は前者の結果であり、刑責上においては前者である掲載行為を罰することによつて足るものというべきである。原判決はこの点において判示第二の事実にかんし、罰すべからざる行為をもつて併合罪として処断せられた失当があるといわなければならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例