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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)108号 判決 1967年10月24日

上告人

平井修

上告人

平井卓

右両名訴訟代理人

小松正次郎

被上告人

楠万助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人小松正次郎の上告問由第一点について。

正当事由に基づく賃貸借の終了を原因とする建物明渡の請求訴訟において、たとえ賃貸人の解約申入当時正当事由がなくとも、賃貸人がその後引きつづき明渡を請求するうち事情が変つたため正当事由があることになり、かつ、その時から口頭弁論終結当時までに六月を経過したときは、裁判所は右請求を認容すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二七年(オ)第一二七〇号、同二九年三月九日第三小法廷判決、民集八巻三号六五七頁)。

ところで、被上告人は、自己使用の必要上、上告人修に対し、本件家屋の賃貸借の解約申入を昭年三五年八月二二日にしたのであるが、おそくとも右解約申入後である同三六年一一月頃(被上告人の妻の姉岡村政子が実家からアパートに転居した時)からは正当事由があつたものというべく、しかもその後六月の間に右の事情に変わりがなかつたことは、原審が適法に認定判断したところである。そうとすれば、被上告人が右解約申入を理由として上告人修に対し昭和三五年一一月一八日本件明渡請求訴訟を提起していることが明らかな本件においては、前記説示に照らし、本件賃貸借は、昭和三六年一一月の終より六月の経過とともに終了したというべきである。引用の判決は、本件と事案を異にし、適切でない。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同第二点について。

本件建物は、昭和二五年九月のジエーン台風により、屋根瓦はほとんど全部飛び散つて跡方もなくなり、塀はくずれて水浸しとなり、居住に耐えなくなつたので、上告人修が多額の費用を支出して大修繕をしたが、その間家主たる被上告人は右費用を全く負担しなかつたとの上告人らの主張に対し、原審は、修理費用として上告人修が若干の支出をしたことは推認できるが、本件家屋が、上告人ら主張のように破損し、そのため、多額の費用を支出したと認めるに足りる証拠はない旨認定判断した。そして、この原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

上告代理人小松正次郎の上告理由

第一点 原判決は法律の解釈を誤まり、最高裁判所判例に違反しまたは当事者の主張しない事項について判断し、審理不尽、理由不備の違法がある。

一、原判決は、その理由第四項において、「被控訴人(被上告人)が昭和三五年八月二二日控訴人(上告人)平井修に対して自己使用を理由として本件家屋の賃貸借解約の申入をなしたことは当事間に争がない」と判示し、本件賃貸借解約の申入がなされた年月日を昭和三五年八月二二日と確定した。

二、「借家法第一条の二による解約の申入に正当の事由があるか否かは、右申入の効力発生当時における事情に従つて判断すべきであつて、爾後に生じた事情の如きはこれを斟酌すべきものでないことは勿論で」あることは最高裁判所昭和二五年(オ)第一二〇号、同二八年四月九日判決の判示するところである。すなわち、正当事由の存在は解約申入の有効要件であるから、判断の標準時期は、解約申入の時又は解約申入期間満了の時でなく、解約申入の時から解約申入期間経過の時の間、いいかえれば解約申入の時に存在する正当事由は解約申入期間満了の時まで六ケ月間持続されていなければならない(綜合判例研究叢書、民法(1)第一二九頁)。これを本件についていえば、解約申入が昭和三五年八月二二日であることは原審の確定するところであるから、その後六ケ月すなわち昭和三六年二月二二日までが本件における正当事由の存否の判断の標準時期であつて、「爾後に生じた事情の如きはこれを斟酌すべきものではない」のである。

三、しかるに原判決は、「被控訴人の右解約申入はおそくとも申入後なる昭和三六年一一月頃(被控訴人の姉岡村政子が実家からアパートに転居した時)から正当事由があるものと言うべく」と説示し、昭和三六年二月二二日より後に発生した事情を根基として正当事由の存在を認定したのは法律(借家法第一条の二)の解釈を誤まり、前記最高裁判所の判例に背反し、審理不尽、理由不備の違法がある。

四、なお原判決は「昭和三六年一一月頃(中略)から正当事由があるものと言うべく(中略)昭和三六年一一月後六箇月の間に右の事情に変はりなかつたことが認められるので、本件賃貸借は昭和三六年一一月の終より六箇月の経過と共に終了した」と判示しているが、かかる事実、事情については、被上告人が原審において寸毫も主張した形跡はない(第一、二審各判決の各事実実摘示御参照)。故に原判決は、当事者の主張せざる事項について判断した違法および審理不尽、理由不備の違法がある。

五、前記第三項、第四項の違法は、いずれも判決に影響を及ぼすこと明らかなものである。<以下―省略>

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