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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)443号 判決 1963年6月25日

上告人 株式会社 千葉銀行

被上告人 京橋税務署長

訴訟代理人武藤英一 外二名

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人長野潔、同長野法夫の上告理由第一点について。

論旨は、原判決が合資会社の無限責任社員は会社の滞納国税につき旧国税徴収法(昭和三四年法第一四七号による改正前のもの、以下同じ。)三条にいう納税人にあたると判示したことは同法条の解釈適用を誤つたものであるという。

しかし、旧国税徴収法は、国税が国家財源の大宗であるところから、公益的見地に立つて国家財源を確保せんがために、その二条一項において国税徴収優先の原則を宣明し、その三条において「納税人」の財産の上に抵当権を有する者であつても、所定の要件を具備する場合に限り、国税に対してその先取権を主張し得るに過ぎない旨を規定している。そして、法二九条は国税の徴収を全からしめるため、会社の無限責任社員に対し会社の滞納国税につきいわゆる第二次納税義務を負担させたのであつて、同条に基づく無限責任社員の第二次納税義務も右の原則に服すべきことは当然であるから、無限責任社員は法三条にいう納税人に該当し、同人の固有財産の上に抵当権を有する者は、会社財産の上に抵当権を有する者と同様、同条所定の要件を具備するのでなければ、国税に対してその先取権を主張し得ないものと解するのが相当である。それ故、論旨は、理由がない。

同第二点について。

論旨は、原判決が旧国税徴収法三条にいう納期限につき会社の納期限が当然無限責任社員の納期限になると判示したことは同法条の解釈適用を誤つたものであると主張する。

おもうに、旧国税徴収法三条が、納税人の財産の上に存する抵当権であつても、特にその設定が国税の納期限より一箇年前にあるものに限り、その債権に対して国税を優先せしめないこととしているのは、抵当権を設定させて金融を行う者が債務者の資産信用状態を調査することの難易を考慮し、設定当時抵当権者の予測し難い国税の滞税によつて債権の満足が妨げられるようなことがあつては、抵当金融制度の根底を動揺せしめることとなるので、かかる結果をさけるため、右の要件を備える抵当権に対しては国税徴収優先の原則を適用することを断念し、もつて抵当金融制度を保護せんとする趣旨に出たものである。従つて、ここにいう一箇年前とは、抵当権設定者(債務者であると第三者であるとを問わない。)の納税義務を基準として決定すべく、またここにいう抵当権には本件のごとき根抵当権も含まれると解するのが相当である。

原審の所論判示は、無限責任社員の法二九条に基づくいわゆる第二次納税義務の内容が会社の国税債務と同一であるから、その納期限も会社のそれと同一に解すべきであるというのである。しかし、無限責任社員の第二次納税義務は、会社財産に対する滞納処分を執行してなお不足ある場合に、その不足額について生ずるものであつて、会社の国税債務全額について生ずるものでないことは、法二九条の明定するところであるから、会社の国税債務とはその発生原因、責任の内容を異にする別個の債務と解すべきである。従つて、無限責任社員の固有財産の上に設定された抵当権の効力と無限責任社員の第二次納税義務徴収との優劣の問題を決定するについても、法三条の一箇年の期間は、設定者である無限責任社員の納期限より起算すべきであつて、主たる納税義務者たる会社の納期限によるべきものではないというべきである。もつとも、同法施行細則には、無限責任社員に対し会社の滞納国税を納付せしめるにつき、法四条ノ六および同条ノ七のいわゆる第二次納税義務者の場合と異なり、納付通知を発すべき旨の規定を欠いているけれども、かかる一事によつて右の解釈を左右することはできず、また無限責任社員に対し法六条の命ずる納付通知なくして滞納処分を執行することも許されないのはいうまでもない。そして、無限責任社員の納期限は、無限責任社員に対する法六条所定の納付通知書に指定された納期日と解するのが相当である。

されば、原審の所論判示は法令の解釈適用を誤まり、審理不尽の違法をおかしたものというべく、論旨は理由があり、その他の上告理由についての判断をまつまでもなく、原判決を破棄すべきものとする。そして、本件無限責任社員の納期限の点につきさらに審理を尽さしめる必要があるため、本件を原裁判所に差し戻すこととする。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 五鬼上堅磐 河村又介 垂水克己 石坂修一 横田正俊)

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